反撃
「困ったことになっちまいましたね。会長」
「333号室は後回しにして、まずは地下のホールへ」
「暗渠のさらに地下って…深すぎて嫌だー!」
「まあまあそう言わずに、頼りにしてますよ」
「か、会長…ヒナに任せてくだせえ!」
カオルのコールを受け取り、オリエントホテルにたどり着いた二人だったが、そこにコールの主はいなかった。代わりに二人を待ち構えるようにホテルのロビーに集まっていた大勢と、二人でお話しをしていたのだった。
「こいつらが言うには、今頃地下でお楽しみだってことです。早く行かなきゃです。それにしても…、ゲスが」
「ヒナヒナ、カオルはのらりくらりとかわしてるでしょうし、のんびり行きましょう」
「意外と余裕ですね?こんなこと言ったらいけないかもですけど、もっと取り乱してわーってなるかと思ってました」
「…目に見えるものは、心配してしまうんです」
「え?」
独り言のように呟かれたそれは、ヒナには届かなかった。
扉が勢いよく開け放たれ、闖入者とゴロツキたちの目が一斉に合う。ゴロツキの一人が闖入者、フタバとヒナに近づき、何者かと問おうとしたところで、天井に人間が刺さった。
「この方が目に入らぬか!この方こそ、赤城会会長その人、赤城双葉であるぞお!?」
「知らんわきさんら!おい!このガキども簀巻きにしてエルラックに沈めたれや!」
謎の勢いのまま、地下のホールでエセ世直し一行とマフィアの戦いが始まる。
「オウごらあ舐めんなあガキだとか抜かしやがってよお!」
「間延びしてあまり決まってませんよ、ヒナヒナ…」
腰が引けた姿勢で、銃を滅茶苦茶に撃ちまくるヒナは、これでもかと言うほどに格好悪い。しかもその弾丸は、不思議と誰にも当たらなかった。
「乱射魔のガキは…仕方ねえ!お前らは隠れてろ!俺が二人とも絞める、まずは馬鹿力のガキだ!」
ホール中のゴロツキたちが息を合わせて「おす」と叫ぶ。その気迫に一瞬怯んだフタバの隙を見逃す程、ゴロツキのリーダーは甘くなかった。
「どたまかち割ったんぞゴラァ!」
「っク、させません!」
リーダーの渾身の踵落としをなんとか両腕をクロスさせてガードするも、その両腕にはかつてない負荷がかかった。
「これだから、魔力ってやつはあ…!好きになれないんですよ!」
「あア!?なんつったよガキ!」
防戦一方に追い込まれ、壁際に追い込まれていく。尋常ならざる力のぶつかり合いの中で、フタバは直感で、自身の敗北を知った。最初の踵落としを、全く勢いを殺せず両腕で受けたうえに、その後も暴力にさらされ続けたフタバの体は、実際のところ限界に近かった。
「これで終いじゃ死ねや!」
両腕が、骨をなくしたかのように垂れ下がり、フタバの体が大きな的となる。トドメとなる一撃が、無防備な体に放たれた、まさにその時、誰かが笑い、誰かが悲鳴を上げた。
「どうですか、ボクの、石頭は。あなたの敗因は、頭を使わせる隙を与えたことです」
その少し前、地下では玉虫色のボールから光が撒き散らされ、妖しく少女が踊っていた。
「ブハハハっ!いいぞいいぞ!見たことねえダンスだ!もっとだ!」
妖しい踊り、ではなく不審者のような怪しい動きだった。カオルが地下に力づくで連れてこられてから、その実、痛い目には遭わされていなかった。しかし、多少痛い目に遭わされた方がマシだったのではないかと思う程に、恥の上塗りをさせられていた。ことの始まりは、カオルが時間稼ぎに自身の特技を紹介したことだった。
「そうそう自分、ダンス得意なんですよね。皆さんもダンスはやったりしますか?」
「あ?まあそうだな。やってみろよカオル」
すっかり気を許してしまったチンピラは、カオルにダンスを始めさせてしまった。それがカオルの悪夢の始まりだった。
「なんだよヒトデみたいにグニャウニャと動きやがってよ!打ち上げられたクラゲみたいにのたうちまわってんじゃねーぞガハハハハ!」
カオルのダンスは酷かった。まるで特技とは思えないものだった。それを、初めて知ることになったカオルだが、プライドのために、ダンスをやめられなかった。何とかダンスを1セット終わらせ、スタッフルームからホールに入ったカオルの目に映ったのは、ゴロツキの頭に頭突きして地面に打ち込む恐怖のパイルドライバー女と、無限マガジン遮二無二乱射魔シーンだった。
「どうなってんの…?これ…?」
「どういう状況だこりゃ?」