費用
「え…なんでいるの海部ちゃん。いたらなあとは思ったけど、ここにいるはずが」
「あの外道いるところあたしちゃんあり…てこと、カオル。そんなことより、会長、ご無事のようで何よりです」
「はい。ヒナヒナもご無事のようで安心しました。うりうり」
「会長って…、ああ、そういえば」
無事を確かめ、じゃれあう二人を見て、カオルは元の世界のことを思い出す。フタバはあちらの世界で、何らかのグループのトップとして扱われていたのだった。その関係で、海部との繋がりができたのだろう、そうカオルは考えた。
「会長がいるってんなら、ヒナは全面的に協力しますァ。探偵、ささっと解決して会長の手を煩わさないようにしてね」
「わかったよ…海部ちゃん…」
陽気に歩き始めた二人の後を、逆に俯きながらカオルはついて行った。
「この街は何と言うのですか?ヒナヒナ」
「ピュイサンス、そう言われてます」
「…エルクレス…エル、クレス?てことは、もしかして力かな」
「ご名答だねカオル!まあこれくらいは探偵なら当然。力が物を言う場所ってこと。というわけで、会長、アイツらお願いしますわ」
「カオル、さすがです。力仕事は任せてください」
フタバは二人の前に出て、目の前のゴロツキたちと対峙する。ゴロツキたちはそれぞれエモノを持っており、バールのようなもの、ナイフ、拳銃といった凶器を構えていた。
「カオルと、ヒナヒナがいますし…迅速に片付けて差し上げますよ」
乾いた音が響き、しかし、何も起こらなかった。銃口から放たれた鉛は、フタバの手の中に収められていた。次いで握り込まれた拳は、ゴロツキどもに向けられ、一人一人ドミノのように地に倒れていった。
「会長、失礼ながら、弱くなっちまってませんか?こっちに来てからどうしてたのかはわかりませんが、キレがなくなっちまってましたよ」
「そうかもしれませんね…、鍛え直さなくては」
「…ええ?弱くなってるの?これで?」
衝撃の事実が発覚したフタバに、カオルが異世界の能力や魔力について考えをめぐらせる。そうしている間に、今度は痩せ細った老人が現れた。
「どうも、ダール老人。こちらお話ししていた会長と、探偵です。例の件、調べはどうなってます?」
「ヌフッフッフッ、ナー子。まあそう急くでない。代金代わりに仕事をしてもらうぞよ」
「探偵です。その仕事というのは?」
ダール老人は穏やかな視線をカオルに向け、じっと目を合わせた。やがて、視線を外し、海部に向き直り話し始める。
「実は、つい最近壊滅したマフィアの残党がピュイサンスを荒らし回っておっての、お主らにはその掃討を頼みたい。できるか?」
「ウィ、もちろん。会長がおられるんで」