幕間 その一
壮一は第一王子を失脚させるというアナたちに協力すると決めた後、凛と街に来ていた。準備と娯楽のためだ。
「準備は終わったな。凛、何かしたいことはあるか?」
「じゃあ、あそこになんかいっぱい集まってるから行ってみない?」
広場に何かを囲むように人が集まっており、それが凛には気になった。人が多く、壮一の背でも見えなかったため、壮一は凛を肩車して何を囲んでいるか見させる。
「腕相撲やってるみたい。でも1人は指一本でやってるよ!折れないのかな?!」
指一本で腕相撲とはどんな力自慢かと壮一も気になり、背伸びして腕相撲を見た。
「思ったほどではないな。見かけによらず力自慢みたいだが」
指一本で腕相撲に連勝を続ける男は周りにいる人たちと筋肉量は変わらない。むしろ細身のように思われる。
「おい、あんた。そう言うなら俺と勝負しようじゃねえか、自信あんだろ?」
壮一の言葉を聞いて、男の闘争心が湧き上がる。
「フッ…やってやるぜ」
壮一の闘争心にも火がついた。
「ルールは…俺は指一本でするが、それ以外は基本的な腕相撲と全く同じだ、いいな?」
それを聞いて壮一は首を振る。
「ダメだ、お前も指一本じゃなくて全力でやれよ。フェアにいきたい」
男は笑った。
両者とも真剣な顔で対峙する。先程まで騒がしく観ていた観衆も鬼気迫る2人の雰囲気に呑まれ、今は静かだ。審判は息を呑んだあと、試合開始の合図をした。
「始め!」
両者の力は拮抗し、その場で腕が震え続け、その振動を受けた机が音を鳴らすほど揺れている。
試合は動かないように見えたが、その実は違った。
ーなんだコイツ…今までの奴らの比じゃねえ…。腕がへし折られそうだ…。
男は心の中で弱音を吐く。
ーまずい…、なんて奴だ。力を抜けば腕がどうにかなりそうな力だ…。
壮一もまた心の中で弱音を吐いた。
そして、両者とも同じことを考えた。
体力が先に切れた方が負けだ、ついでに腕おられる、と。
腕相撲でまさかこんなことになるとは2人とも思っていなかった。ここにきて、さらに真剣さを増した2人。腕がかかっているのだから当たり前だ。
全く動かぬまま数分が経過して、2人ともに限界がきた。
悲鳴をあげて、2人とも倒れ込んだ。
疲労骨折である。
凄まじい力による負荷を与え続けられた腕が体力よりも先に限界を迎えたのだ。
かくして腕相撲は引き分けで終わったのだった。この後、2人がこの机に立つことはなかった。
腕相撲で骨折することはなかなかありませんが、あるにはあるのでムキになって腕相撲をしないほうがいいです。