おくりもの
「おじさん…。クロエのお父さんとお母さん見つかるかな?」
「どうだろうな。…もしかすると、見つからない方があいつにはいいかもしれん」
急遽、クロエのルーツという謎を解き明かすため、役所に来た壮一たち。凛の視線の先では、クロエがシャトラから話を聞きながら、戸籍を確認するための申請書を書いている。
「見つからない方がいいってどういうこと?」
先程、壮一が彼らしくない発言をしたことが気になっていた。加えて、見つからない方がいいとは、どういった事情によるものだろうか。
「そうだな…。いつだったか、クロエはルメシュの南方の言葉を使っていた。だったら、ルメシュの南方で生まれ育ったってのが自然だ」
「そっか、ここは、ルメシュのすっごく西の方だ!」
「なんか匂うぜ。まあ、クロエの両親が2人で駆け落ちするほど良い仲だったってこともあるかもしれんが、それならむしろおかしい。結局あいつは親の顔を知らねえんだ。親が妙な事に巻き込まれた…そう考える方が自然な気がする」
凛が俯いて、じっと自分の手をみた。思い出すのは、父と母の手の温もり。もう会えないことを意識してしまい、彼女の目に涙が滲む。しかし、クロエは、この温もりすら味わったことがないのだ。二度と会えないのと、知らないのは、どちらのほうがいいのだろうか。そんな疑問が凛の頭の中で、右往左往する。
「…でも、知ってるほうが、私はいいと思う。クロエに悩み続けて欲しくない」
それでも、答えは出た。
「そうか…だったら、手伝ってやらないとな。凛」
「うん。おじさん」
2人が話しているうちに、クロエとシャトラが戻ってきた。しかし、2人の顔は暗い。
「お亡くなりになっているそうですわ…。クロエさんのご両親」
「…これから、クロエの両親と知り合いだったってエルフと、応接室で話すことになった、です…」
「そうか…一人で行くか?それとも…」
「壮一と、凛、応接室の前まで、一緒にいて欲しい、です」
3人は、応接室に向かった。クロエのまとう空気がどこか、暗く、重い。凛はクロエの手を握り、ただ温もりを与える。
クロエが応接室の扉を開けると、そこには、老エルフがいた。その老エルフはクロエの姿を目に映すと、途端に涙を流し始めた。
「そこにおかけになってください。君があの2人の子、クロエか…、やっぱりクロエと言う名前なんだね。私が、2人と友であったゼフ。今日は、君に会えて本当に嬉しい」
クロエがソファに座ると、早速、ゼフが話し始めた。待ちきれないと言わんばかりだ。
「どうして、クロエがその2人の子供だってわかる、です?」
「魔力ですよ。君の、魔力。…ああ!そうか、君が2人の子ということは、魔力が見えたりはしないんだね?」
「魔力が見える?シャトラがそんなことを言ってた、ですが。どういうことです?」
「純粋なエルフ以外に話すのは難しいんだけどね、我々エルフは魔力の色や、流れといったものが見える。魔力には、個性があるんだ。クロエ…君の魔力から、2人の個性を感じる。間違いなく、2人の子だ…」
クロエはゼフの目をじっと見つめた。うっすらと輝くその目に、ゼフは何かを感じ取った。
「ふむ…ご両親のこと、聞きたいかな?」
「本当のことのようだ、ですし。そっちも聞きたい、です」
「君の母がエルフのアデーレ、父が、ドワーフのドクだ。私は2人のことを幼い頃から知っていてね。昔、魔法使いの中じゃ、ちょっと有名だったから、2人が弟子入りしに来たんだ。魔法を教えてくれってね。…伸びがよかったよ。アデーレは鏑矢による詠唱魔法を12歳の頃には身につけたし、ドクもその頃に魔力付与を身につけたんだ」
「エンチャント…もしかして…。これを見てほしい、です。ゼフ」
クロエはそう言って、懐から銃と弾丸を取り出して、机に置いた。ゼフはそれらを手に取り、メガネをかけて隅々まで見た。
「…おお、なるほど。銃には、エンチャント。ドクの魔力を感じるな…。それに、何か、魔力的な仕掛けがあるようだが…これは、どこで?」
「村の人たちが、クロエにとって大事な人が君にって誕生日に渡してきた、です。誰だと、思ってたですが、その様子だと2人の物だった、ですね…」
「…そのようだ。クロエ、君の名は2人がつけたのかい?それとも、その村の人たちかい?」
「この銃と弾丸をもらったときに、名前は自分たちがつけたんじゃないと、悲しそうな表情で、言ってた、です。だから、多分…」
クロエの誕生日は、親代わりだった者たちが、クロエを慈しむ目で見ると同時に、哀しい目をする日でもあった。きっと、2人はクロエの両親を名前は知らなかったようだが、ある程度は知っていたのかもしれないとクロエは思った。クロエは一度、能力で2人の記憶を垣間見たことがあった。自身の親代わりをしているから、本当の親を知っているのではないかと考えたからだ。しかし、2人の記憶を見ても、悲しみと荒い息遣いしか出てこなかったのだ。
「それなら、その銃の名は、きっと、"魔銃クロエ"だ。クロエくん、それが2人からの贈り物を起動する鍵だ。声に出してみて」
クロエは魔銃クロエを手に取り、そのまま抱きしめた。冷たい鉄の感触を返してくるそれに、なぜか2人の温もりを感じる。その温もりを信じて、クロエは、銃に真の姿を取り戻させる。
「お母さん…お父さん…。ありがとう。魔銃クロエ…!!!」
クロエの声に応えるように、銃が光を放ち、応接室を照らした。光が収まると、クロエが愛用していたリボルバーの片方のグリップに「A&D」という文字が浮かび上がった。
「2人の…イニシャルだ…そうか…。2人は、ついに…作り上げたんだな…『2人の考えたサイキョーの銃』を。娘のために…。その銃、大切にするんだよ。クロエ」
「うん…うん…。大事に、する!です!!」
「ゼフ先生、俺たち諦めねえ。この森を出て、いろんなこと勉強するよ。今まで本当に世話になった。感謝しきれねえ」
「ウチ、ドクと行きます。色々あると思うけど…それでも行きます。今までありがとうございました」
「…そうだ、その『サイキョーの銃』の名前、決まったのかい?」
「「それは…魔銃………!!」」
彼女の、宝物




