一番良いのを頼む_前半
100話目になるので、ちょっとショートストーリー書きます。そういうことなんで、よろしく。
「ンなじゃじゃ馬で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
そこは、世界有数の銃の作り手であるセルト・ショットの工房だった。殺風景なその場には、ただ2人。一方は、もちろんセルト・ショット。
「聖女様がンなもん持っだあ穏やかじゃないなあ」
「聖女だろうとなんだろうと、大事なものを守るためには、武器がいる。盾には、限界があるんですよ。それに、私は聖女であるつもりなんか毛頭ないですから」
男は沈黙し、海部と名乗った対面の少女をじっと見つめた。とても武器を振るうような体つきではない。魔力による身体強化があるが、それにも限界がある。この少女がこの銃を使えば、いや、一発でも撃てば、対象だけでなく、自分の腕も壊れてしまうだろう。ショットはそれを、この銃を作るよう注文された時には既に、職人として見抜いていた。
「へえへえ。ンなら問題なあぜ。ただ…あそこにある10個の的、ブち抜かあ。…こっだあテストだあ。俺には、あーだ様と違ってつまらんプライドがある。俺の本気の銃は、使いこなせる奴にしか渡さんだよ」
「…いえ、それは誇りです。つまらないなんてことはない、尊き在り方を誇ってください。では、私は…たまには聖女らしく、人の誇りに応えましょうか」
「んだ…」
しばらくして、2人はお腹を抱えて笑い合い、話に花を咲かせていた。ショットの表情はまさに、信じられないものを見た、というものだ。実際、その場の様子を見たものが他にも複数いたなら、皆口を揃えて言っただろう。ありえない、と。
海部が去るときになってなお、ショットは笑い続けていた。ただ、去り際の彼女に一言だけかけた。
「なあにが聖女だあ!あんだは、御伽噺の悪魔そんもんだあーはっはっはっはっ!!また、いつかな」
「くはふふふ!それでは、またいつか」
海部が消えた後も、血と肉の散らばった、工房というよりは、屠殺場のようなその場所で、男は笑い続けた。