九話
壮一たちはこの事件の犯人だという魔物使いの話を聞くため、領主の館に来ていた。凛は疲れているため、客室で休んでいる。壮一、アナ、ルーシーの3人は領主と共に応接間にいた。既に尋問は済ませているということで、領主とルーシーが話し始めた。
「話を聞くと、奴は第二王子派の組織の一員のようです」
「しかも過激な組織みたいでね…、第一王女の失脚と暗殺を企てているみたいよ」
「バカ王子めが…」
ため息を吐いたあと、アナが第一王女と第二王子について説明し始めた。
第一王女は既に王の代理として政治に関わっており、次代の賢君として有名であり、現王からの覚えが良い。また、貴族の不正や平民への横暴を片っ端から検挙して賠償金により国庫を潤し、税を軽減したことで、国王と平民からの支持を買ったのだ。
ここルメシュ王国では古くから全ての身分にある者が投票する選挙により、元老院議員が貴族のみから選出されている。そうした背景から奴隷制度は選挙に都合が悪いと考えられて禁止されている。しかし、彼女は平民から選出するべきであるという考えであり、多くの貴族の反感を買っていた。その貴族たちを後ろ盾とするのが第二王子である。
この王子はある種時代にふさわしいと言える人間であり、平民を政治に関わらせるなど以ての外だと考えているため、そうした貴族たちとの合流は必然であった。
「まさしく、民主主義と封建主義の対立か…。泥沼になりそうな対立構造だが、まあ…、既になっているんだろうな…」
壮一はつぶやくように前置きし、続けた。
「第二王子派の連中は…第一王女の失脚と暗殺が目的だと言っていたが、もしかしたら今の王が次の王を指名する前に黙らせるかもな…」
その言葉で場の空気が重くなる。全員が沈黙するなか、アナが言葉を発した。
「壮一よ、わしらに協力してくれんかの?実はわしはこういうものでな」
そう言ってアナはエンブレムを取り出した。
「ちょ、ちょっと待ってよ、姉さん。ばらしていいの?」
ルーシーが慌てた様子で問いかけるが、アナがためらう様子はない。
「これは…、ルメシュ王国の王家の家紋…か?てことはあんたまさか?」
「ご明察。わしはルメシュ王国王家の第一王女ことアナトリア・ルメシュ、その人じゃ」
壮一は予想はしていたが、驚かずにはいられなかった。しかし、なぜアナがここにいるのかがわからない。それを察したのか、アナが続ける。
「影武者じゃよ、こうなることを予想していたから用意したんじゃがの。わしが戦闘面で信頼する者じゃ、暗殺しに来た者を逆に捕まえて情報を聞きだしてくれるじゃろう」
「影武者用意するなら隠れておいた方がいいんじゃないか?領主もここにいるが、そんなこと言っていいのか?」
そう言った壮一にアナは笑って返す。
「ファーハハハハッ!わしが一番使い勝手の良いわし自身という駒を遊ばせておくわけがないじゃろ!」
領主が続けて言った。領主はアナに個人的に恩があり、その返しとして協力しているためアナの素性は既に知っているということだった。
「あんたができる奴だってのはわかるが…。じゃあ、ルーシーが最初偽名を使ってたのはお忍びだったからってことか。ルーシー・ルメシュさん?」
「…そうよ、私も王家に連なる者…と言っても妾の娘だからいない者扱いされてる。まあ、今となっては都合が良いわ。ここには姉さんに報告に来たの、バレないようにね。それとあなたに声をかけたのは勧誘するため」
そこで壮一に他全員の視線が集まる。この視線の意味は明白だった。
「あんたらの絵…、条件付きで手伝おう」