序章
お目汚しとなるかもしれませんが、よろしくお願いします。
東京都、某所。そこは、『掃き溜め』と呼ばれていた。警察、行政の管理の行き届かない、司法無用の場所。そこに、一人の幼女の姿があった。
彼女は息を切らせながら必死に走り、追っ手から逃げていた。
「おい、待てって。ここはガキが来る所じゃねえぞ!」
追っ手とはいうものの、実際は彼女の姿を見た男が不審に思い、「表」に連れ出そうとしているだけだった。
しかし、幼女はいつの間にか知らない場所に居たことで混乱していた。冷静な判断を下せる状態であるはずもない。なにより、彼女を追いかける男が、いかにも一般の方とは言いがたい身なりをしているのだ。
逃走劇は終わりを告げた。彼女にとっては運悪く、男にとっては安堵することに、「表」に近い行き止まりに来たからだ。追い詰められた彼女の悲鳴は、しかし、声にならず、誰にも届かなかった。
そこに現れたのは彼らを見かけ、ついてきたチンピラ達。男に追いかけられた末にチンピラ達を見て、もはや彼女の体は恐怖で動かない。
「おいおっさ〜ん。金出せよ、そのガキ連れてかれたくなかったらなァ?」
先頭の男がそう言って、他のチンピラたちと退路を塞ぐようにして男と彼女を囲む。
「うるせぇ、俺は今、助けようとした嬢ちゃんに必死で逃げられてショックなんだよ。わかったら失せろ…」
チンピラ達は挑発ともとれるこの言葉に激怒し、一人のチンピラが男に殴りかかる。
「なめてんじゃねえぞ、ハゲッ!」
鈍い音がした後、その場にいた誰もが驚愕する。倒れたのはチンピラであったからだ。
「へ…へへっ…、全員で囲んでこのハゲ砂にしちまうぞ!」
チンピラたちは同時に男を攻撃しようとした、はずだった。
男はチンピラ達の攻撃を簡単に避けてしまい、逆に全員を地に倒れ伏させた。
「全く、俺はハゲてねえよ…。なあ、嬢ちゃん。「表」はすぐそこだ。ついてこい」
さすがに彼女も従った。なにはともあれ助けてくれたのは間違いなかったからだ。数分後、「表」に着き、男は彼女を家へ送るため、名前と住所を尋ねようとした。
「お前の名前はーーー」
瞬間、なにかが2人を跳ね飛ばした。