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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
三章 荒んだ倫理、歪んだ矜持
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偏執狂の博覧会(3)


 剛介は首筋を伸ばすように回し、飲みかけのココアに角砂糖を三つ沈めてスプーンでかき混ぜる。彼はデスクトップを立ちあげつつ、手元に置いてある数枚のレポートを手に取った。

 今日の下準備で剛介が書き上げた織原莉乃についての超能力概要だ。さながら論文じみたそれには、幾つかのメモ書きが施されていた。発表というほど大袈裟では無いものの、数人の前で話した際に出た指摘や考察の走り書きである。


 剛介は莉乃について、瑠奈から上がった報告と坂上澪との遭遇を含めた一日で観測した範囲でしか述べてはいない。


 織原莉乃は現代社会で生活していた高校二年生の女性であり、家族関係を見るに超能力に携わるような血縁は見受けられなかった。幼い頃より、優れた学習能力を有していた記述を中学一年生程度まで見受けており、相応の学校にも通っていた。しかし、中学二年生より著しく成績に乱れが生じ始める。原因は不明、度々カウンセリングを施されたりはしたものの、結果としては中学三年生の時に下方修正とも言える転入をしている。その後、現在通っている国立第四都区中央高校に合格した。転入した中学校の偏差を見れば、第四中央高校への進学は決して不自然では無いものの、その前後にはあからさまな意図を感じさせる。

 この点に関して、莉乃に限らず一定数の学生は意図して成績を偽ることが各所で見られる。こういった子供に対して、カウンセリングを施し、且つ精神衛生上の異常が国営の機関により確認されなかった場合には超能力開発の対象としてリストアップされる。これは後述する、坂上澪についても同様であった。

 続けて、剛介が観察した莉乃の能力についての考察が列挙されていく。身体操作の異常性、精神状態の異常性の二点が主に挙げられていた。

 莉乃の身のこなしは一学生のそれを優に超えており、然るべき訓練が成され洗練された動きにすら思われていた。剛介は運動の専門家ではないため、幾分か素人の意見は混ざっている。それでも、相手した者の攻撃を紙一重で躱す動体視力。筋力ではなく、身体構造上の理論値を叩き出すような威力を成し遂げる自在性は超能力による補助を疑わない方がおかしい程であった。また、それに伴って起こる自身の身体的負荷に対する痛覚の鈍化も見られていた。

 精神の移り変わりにおいても、双極性障害を思わせる――あるいはそれ以上の――感情の移り変わりが観測された。平素の精神状態から、敵意を感じ取ると冷酷無慈悲に切り替わる。それは自身の超能力を把握していない中でも利用法を見出し、実行に移す直感的なセンスすらも引き起こしていた。なお、普段の穏やかな性格の際には若干鈍感なくらいであることも、この差を強く感じさせていた。


「――まぁでも、感情的にもなるんだな」


 読み返しながら、剛介は独り言つ。駅のホームで涙を見せた莉乃の表情が過った。人の気持ちに鈍感であるようなのに、剛介の身の上話を引き出したことへの罪悪感を露わにしていた。それだけなら彼も「可愛い奴め」とでも思って終わりだったろうが、すぐさま涙を止めて平常心を取り戻された。

 「超再生」と称される再生能、状態回帰の超能力を有する剛介としては、感情のコントロールがそこまで機敏に出来ていることは驚く他ない。もちろん、これが意図して行われていれば、であるが。意図できず、他者の投げかけに依存しているような印象に留まっている現状の莉乃は、十二分に能力開発の余地を感じさせていたことだろう。


「いや、同類か」


 剛介は誰に話しかけるでもなく、部屋でひとり呟きながら思考を巡らせ続ける。

 剛介は自身と莉乃との共通項として「状態回帰」を仮説として提示しようと考えていた。心情の移り変わりに置いて、今の莉乃は剛介の自動回復に近い状態であろうことを印象として抱く。これは生きている中で染みついた状態に固着することで起こるもので、開発においては誰しも壁となることが多い。

 身体性についても同様である側面を考えていたが、これは敢えてスペックを落とす必要性を感じさせないのなら手を付ける意義は薄いだろう。超能力の幅を広げるという観点で言えば要るのだろうが、剛介にとってはどうにも価値を感じられるものでなかったのだろう。運動において優劣は明白であるからだ。


 二杯目のココアを飲もうと剛介が立った時、彼はどうにも行き詰まりを感じた。正確には、幾らかの考えは既にまとまっているものの、終着点をどうすべきか決めかねていた。

 彩音は何を剛介に求めているのか。単に事実を連ねるだけで問題のない報告書ではある。これまで何度も、剛介に限らず多くの研究者が多くの超能力者について書き上げている。今回、たまたま莉乃が彩音に目をかけられている、どうにも「特別な超能力者」らしい事が彼を悩ませていた。


「……餅屋に餅を頼まれたんじゃ、こっちもたまんねぇわ」


 間を置き、深くため息を吐いてココアを作り出す。デスクに置いてある小瓶から角砂糖を鷲掴んで幾つも放りこみ、ココアパウダーより砂糖の方が溶けた牛乳を飲み干した。

 自作の報告書を含め、幾つかの資料を手元に見繕うと剛介は自室を後にして再度廊下を歩き出す。

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