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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
二章 自己の教育、認識の再構築
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仕組まれた爆薬(2)


 明るい店内、バジルの匂いが心地よく立ち込める庶民派の飲食店で聖達は遅い昼食を取っていた。帰還命令は出ているものの、空間転移者である緒方聖の能力都合と言えば帰路での寄り道に融通は利いてしまうらしい。今回の強襲では苦戦を強いられなかったものの、能力の発動は何かとエネルギーを要するのか、ゆったりとした服の上からでもわかる程に細身の彼女であるが、二人前のパスタにグリルのプレートを目の前に怖気づくことなくフォークを進める。

 他方、カミラとプリシラはジュースを片手にドリアを頬張っていた。一見すると本場のドリアに見えるものの、かつてミラノの呼ばれた都市に伝わるそれとは似て非なる、だが確固たる人気を誇る定番メニューのそれは二人の少女の食欲を順調に満たす。

 特に会話を交えることもなく食べ進める三人に、現地民らしい人々が片言の日本語で称賛の言葉を贈ることがしばしばあった。それは彼女達がヒューマンエンパシーという革命軍とも言える結社の超能力者であることが周知となっており、先程その絶大なる力を誇示したためだろう。

 群衆の声援に聖は手を振り応えながらプレートをたいらげると、お冷を一口含んで喉を潤す。


「ふむ、この感じは久しぶりだね。健康的な活気を感じるよ」


 聖は窓から街を一瞥すると、かつての日本国旗を燃やす人々が声を高らかに上げながら闊歩している。無法地帯と化しているようにも見えるが、街の人々は互いに笑顔を絶やさずに手を取りながらアルコールを仰いでいる。過剰な抑制の反動であろうことが三人の少女にはよくわかっていた。

 ここイタリアは二十二世紀に入った途端、「第六国区」等という不本意な名称を与えられ、平和を押し付けられていた。街を歩く人達の多くはどうして今自分たちがこれほどに抑制を受けているのか詳細を知らない。未だ息のある偉い人間達が勝手に取り決め、日本と呼ばれていた国の提案を呑んだ結果だと思い込んでいる。

 祖国の指導者に大きな失望の念を抱いていることは変わりないが、誘惑したと見える日本を叩く方が彼らの精神衛生上は適しており、自国の外へ諸悪の根源を置くことでわかりやすい形で思想が波及していた。

 真の史実を示すより、既に抱いている不満を利用する方が都合が良い。そういった理由で、暗躍する人間達は敢えて歴史を伏せて行動することが多い。それは聖達が所属するヒューマンエンパシーも同じであり、民衆にとっての彼女達は言わば「革命軍」としてしか認識されていなかった。

 もちろん、それは超能力についても無知であることを示しており、目撃者は絶えなかったが「どうかしちまったんだろう」と取り合ってもらえない立場においやられていた。


「カミラ、今日もやり過ぎだったかと思うでしょう」


 先にドリアを食べ終えたプリシラがぽつりと呟く。今回の作戦でプリシラ・ディアスも多くの対象を葬ってはいたものの、彼女の能力は物理的被害が少なく、生命を奪うことにおいて非常に効率が良いものだった。

 他方、カミラ・マイアーの超能力は大胆で非情に規模が大きい。しかし、それは意図して操作を出来るわけでは無いようで、街には多くの陥没孔を残しており天災の後だと言われても驚かない程だ。奇妙にも、襲撃を受けた施設ばかりに被害が集中していることを除けば、であるが。


「大丈夫です、スポンサーがいるからってボスが言ってたです!」

「ボスはカミラに甘すぎるでしょう」

「そうかな? 単にカミラの不器用さには目を瞑ってるだけさ。これで成果も無ければ、今頃はカミラが誰かのディナーになってるよ」

「そ、そういう実験は戦前で成果無しと見解が出てるです……」


 聖が脅すようにフォークを向けると、カミラは思わず座ったままで後ずさる。人間による共食い等に可能性を見出そうとした学者が幾人かいたことは彼女達も把握しており、それが実を結ばなかったことも良く知っている。彼女達の超能力研究史は様々な歪曲された情報から汲み取ってはいるものの、ある程度の整合性と情報を裏付けとして教育されたものである。その中の狂った研究がどこによるものかは言うまでもなく、二十一世紀における研究は全て日本という島国によって実施されたものだった。

 ヒューマンエンパシーに限らず、真実史を知る旧日本国民ではない人間からすれば日本人は狂人としか見れないでいる。自分達の倫理観や道理は通じず、成果のみを求めて禁忌をも犯す。一言で言えば「人の皮を被った化け物」であろう。行きすぎると、人間というカテゴリーから日本人を別の枠組みで考える学派もあるほどだ。

 かつて日本であった第一国区からは想像がつかない程に、世界の裏側は復讐の念で満ち溢れていた。時間は感情を希釈する。それを防ぐための結社なのであろう。和やかに昼食を摂る少女達には重すぎる程の役割が彼女達には与えられている。それは今や牙が折られたとも見られている坂上澪とて同じだったのかもしれない。


「二人はなんか頼む?」


 聖はチラリと卓上のメニューを視界に入れ、未だデザートという雰囲気では無くがっつり行く気で吟味する。ドリアで満足したプリシラはグランドメニューのデザートを眺め、カミラは首を横に振っていた。


「遅くなり過ぎてボスに怒られないです?」

「マルタン教授のラボを落としたんだ。主が不在の隙とは言え、この戦果は文句を言わせないのに十分じゃない?」

「それはごもっともでしょう。聖、私はティラミスを所望するでしょう」


 プリシラのオーダーに聖は生返事をして呼びベルを鳴らした。店員がにこやかにやってくると、聖はティラミスとたらこスパゲッティのダブルを注文する。


「まだ食べるんです!?」

「新記録、今日は狙えそうなんだ」

「良いですけど、ボスに怒られても知らないです……」


 カミラはオレンジジュースをストローで吸い上げながら、目の前で繰り広げられる暴食の権化を見守る他なかった。数十分の寄り道のつもりで提案したカミラだったが、唯一苦言を呈していた聖によって時間を引き延ばされることになり疲れが顔に出る。

 外では未だ煙が立ち込め、群衆の行進が続く。真に求められる平和とは何か。少なくとも、今ここに彼女達が追い求める平和の片鱗が垣間見えていた。

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