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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
二章 自己の教育、認識の再構築
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仕組まれた爆薬(1)


 悲鳴と怒号が入り混じる。この世界から取り除かれた、過去の遺産とも化している負の感情がここには渦巻いている。屋内であるはずが風通しが嫌によく、悪趣味にぶち抜かれた外壁は現代アートというには不格好な、だが綺麗に切り抜かれていた。

 第六国区、その中でもここはかつてイタリアと呼ばれた国であった。その都市部に大きくそびえ立つ一棟の建造物が、解体工事さながら大きな音を立てて形を変えていく。あたりに土埃が立ち込め、建物からは白衣をまとった人々が逃げるように出てくる。だが、その先で走る地表の亀裂が彼らを追い詰め、白衣の白が深淵へと無情にも溶けて行った。


「研究員は早く逃げろ!」

「支部長はどこにいるんですか!」

「そっちは敵の超能力者がいるぞ!」


 白衣を着ていない、数十人の超能力者がこの凄惨な現場を駆け回る。ある者は瓦礫を浮かせて被害を軽減させ、ある者は逃げる研究員の避難誘導を。そしてある者は敵と呼んだ少女達と対峙し、睨みをきかせていた。


「お前たち、何が目的だ!?」


 一人の女性が敵と言われた少女へと叫ぶ。灰色の髪を携えた少女はその周りに白衣の人だったものを散らかし、血の池の上に立っていた。少女はその問いを聞いていたか定かでは無いが、叫び憤怒する女性を一瞥する。すると、少女は足元にあった適当な亡骸を思い切り蹴る。だが次には、その亡骸は女性を目掛けて寸前の所まで飛んできていた。つい先程まで同じ場所にいた、もしかしたら言葉を交わしていたかもしれない亡骸を前に女性は思わず受け止めてしまう。

 女性は血に染まりながら絶望の表情を浮かべたままの同志を優しくおろして、目を手で覆い閉じた。


「貴方もすぐ会えるさ」


 少女の声に女性は顔を勢いよく上げるが、女性が見た景色は仲間の亡骸を抱える自分の身体だった。何が起きたかもわからない、否、わからないということを思考する間も無く、その頭部は生命活動を終えただろう。

 噴水のように血液を吹き上げる身体は筋緊張を失い、その身でおろした亡骸に身体を重ねて倒れる。そこには既に少女もおらず、血の池が広がりゆくのみになっていた。





「聖、施設内部の制圧が完了したでしょう」


 建物の屋上、軍服のようなコスチュームを着た少女が崩壊する建造物を見つめる灰色髪の少女へと語り掛ける。聖と呼ばれた彼女は業務報告を聞くと、血にまみれた衣服を掴んだかと思うと、一瞬にして違う服装へと変えた。


「お疲れプリシラ。カミラは?」

「逃げた研究員を掃討しているでしょう。呼び戻しますか?」

「そうだね、彼らがどこに行こうがこの辺りは既に僕達の仲間だ」


 聖の返答を聞くと、プリシラは無骨な無線機を取り出し、撤退命令をくだすように語り掛ける。すると、先程まで絶え間なく続いていた揺れが収まり、建造物が崩壊する音も次第になくなっていった。

 聖が土煙の立ち込める方向へ何度かライトを明滅させると、それに応えるように一点の光が返ってくる。プリシラもそれを視認して聖へと指さして伝えようとした時には、既に聖の隣にはブロンドの長髪をなびかせる少女が立っていた。


「カミラ・マイアー、ただいま帰還しました!」

「カミラ、それは作戦終了後に帰ってから言うべき台詞でしょう」

「うん、でももう制圧は完了したさ」


 聖はカミラとプリシラの絡みを軽く受け流し、二人と手を繋ぐ。すると、彼女たちは屋上から消え去り、次には崩壊が酷く進んでいた建物内部に立っていた。その中のある一室、紙媒体の物が多く散乱し、機器のコード類が破れるようにして切れている。部屋の主はその場におらず、血が飛び散っていることも無かった。


「脆すぎるね、ちょっと教授一人に力が偏り過ぎてるんじゃないかなここ」

「同意でしょう。超能力者は多くいましたが、戦闘を考えていないものだったでしょう」


 聖とプリシラは呟きながら部屋を物色する隣で、カミラはある冊子を眺めて止まっていた。彼女が見ているのはどうやらグルメ雑誌のようで、見出しには大きく「第一国区のオススメ料理店!」と大きく書いてあった。


「う~ん、第一国区に行く前にカミラ達も下調べするべきだったです……」

「それをしたら旅行になってしまうでしょう」

「でもホラ、お寿司とか食べたくないです?」


 カミラは寿司の特集のページをプリシラに突き付けると、突っ込んでおきながらもプリシラは食いついて眺めてしまう。聖はそちらを見ることなくため息をついて物色の手を止めたかと思うと、一つのファイルとUSBメモリを手に持っていた。


「あんなゲテモノ食べる人の神経が知れないよ」

「あれ、聖のご両親って第一国区が故郷じゃなかったです?」

「それはそれさ。米に酢を混ぜて生魚のせるなんて、僕は食欲が微塵もわかないね」


 聖の言葉にカミラはムッとし、同じく見ていたプリシラも物悲しい様な顔をしていた。寿司が好きらしい二人にお構いなしで、聖は目的の物を脇に挟んで二人の腕を掴む。またしても妙なことに、三人の少女達はその場から消え去った。





「緒方です。はい、任務は完遂しました」


 今にも崩れそうな建物を見つめながら、先程の屋上で聖は電話をかけていた。カミラとプリシラはグルメ雑誌を熱心に眺めてはスマホで調べ物をし、第六国区にも似たような店が無いか一心不乱に探していた。


「はい、仰っていたファイルとメモリは確保しました。敵戦力は念動力操作(サイコキネシスト)三名、発火操作(パイロキネシスト)二名、引力操作(アポーター)一名、思念追跡者(サイコメトラー)五名、他に能力を確認できなかった者が十五名でした。ファイルですか――はい、あります。三十六名となっているので、マルタン教授を除き九名が見確認です」


 聖は「ニューロサイエンスラボラトリー所属 超能力者名簿」と記されたファイルのページを開きながら、電話の向こうへと答える。その後も幾つか受け答えを交わすと電話を終えるとスマホをポケットへ放り込み、未だ雑誌を眺めるプリシラとカミラに歩み寄った。


「ほら、今度こそ帰還しようか」


 聖が語り掛け、手を差し出すもカミラが大きく横に首を振る。プリシラは少し控えめに雑誌を開きながら聖に掲げると、そこには庶民向けのイタリアンレストランのレビューが載っているページであった。

 聖はそれを見ると呆れた顔をして、再度スマホを取り出して少し触って画面を二人へと見せた。


「そこ日本のチェーン店が前身だからそんなに。それよりさ、折角なら本場なんだからまだ細々とやってるお店を――」

「聖、貴方は何もわかってないでしょう」

「どういうことだい?」

「カミラとプリシラは安っぽい、あくまで『あそこ風』なドリアを食べたいです!」


 カミラは意思を固く、聖へと豊満な胸部を突き出しながら主張した。何か言いたげではあったのだろう表情が一瞬垣間見えるも、聖は諦めたように二人へ場所を問う。


「……で、この辺だとどの辺り?」

「あそこです! 看板、緑っぽいあれです!」


 聖は視認すると、二人の手を掴み「ペペロンチーノのダブルね」とだけ呟いてテレポートした。

 少女達が消え去った後には無数の人だったものが転がるのみで、研究施設は完全に機能を失うことになっていた。ここはニューロサイエンスラボラトリーだった場所、長であるパメラ・マルタン不在の中で起こった惨事が今を作り上げている。

 ヒューマンエンパシーを名乗る彼女達によって、第六国区を支えるひとつの拠点が陥落された。世界の平穏は破られ始めたのか、あるいは取り戻され始めたのか。人の意思が紡ぎだす未来は次のステップへと移り変わる。

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