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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
二章 自己の教育、認識の再構築
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好奇心の嵐(2)


 広げたお菓子を食べ終えると、莉乃たちはコンビニを後にした。あまり長居するのも気が引けたため、チェーン店のカフェへと移動する。


「そういえば織原ちゃん、こんなに場所移しちゃってるけどお金は大丈夫なの?」

「うん、昨日ついでに交通費のことも聞いてみたら貰えたからね」


 莉乃はにこやかに笑うと、足取り軽く瑠奈の前を歩く。先日の訓練後、莉乃は帰る前に受付を通して交通費の支給を確認していたのだ。瑠奈が言っていた通り、給与に補填という形で支給されるはずの所を前払いが利くとのことで遠慮なく回収してきていた。電車賃は往復でも三桁で収まる程度ではあるものの、無駄足を含めると片手では数えきれないほど行っていれば十分な出費になっていた。それが返ってくるだけでも、今現在の特に給与を貰っていない学生にとってはありがたい額だろう。

 駅ビルの中にあるカフェへと辿りつくと、二人は先に席を取って各々注文をする。いつになろうとも、女の子はお洒落なものに惹かれるものだろう。まるで詠唱のようなオーダーを莉乃も瑠奈も平然とこなし、洒落っ気と正比例するようなカロリーの高さを感じるプラペチーノを受け取り、テーブル席へと座った。


「でさ、話は戻るけど、また愛羅さんに喧嘩売ったの?」

「またってねぇ――喧嘩じゃなくて稽古つけて貰ったって感じ、形式上は」


 莉乃は愛羅から受けた純然たる暴力を想起すると、思わず身震いした。今でも思い出せる、確固たる敵という認識を植え付けさせられる程の殺気。気配を感じるなどという芸当が莉乃に出来るはずも無かったのだが、その「出来ない」を覆される程の気迫が愛羅から放たれていた。莉乃は今でも愛羅への恐怖心っを抱くことにはならずに終わっているが、彼女の底知れなさ、得体の知れなさに引っかかりを覚えていた。それは情報管理室で見た資料も手伝ってのことだろう。

 複雑な気持ちを顔に露呈させる莉乃を前に、瑠奈は必要性を感じたのか愛羅についての話を切り出す。


「織原ちゃんは知らないと思うけど、愛羅さんは最近こっちに戻ってくるまで第二区にいたんだよね。生まれも育ちもここ第一区だと想像もつかないと思うんだけど、まだ紛争も多いらしくて、それをやめさせるような仕事をしてたみたいなんだよね」

「あぁ、そうなんだ。まぁそりゃ通りで強いわけだ……」


 莉乃の素っ気ない返事に瑠奈は少し驚くが、特に言及することなく続けた。


「織原ちゃんに敵なしって私も思うけど、世の中広いってことよ~」

「ちょっと自信なくすわよアレは……これからまた襲ってくる人もあんなに強いのかなぁ」

「わかんないけど、愛羅さんのそういう話で負けたって聞いたことないからさ。あの人が別格なんじゃない?」


 瑠奈の言葉に莉乃は少し安心する。これが実際の敵と相対した時に起こっていたらと思うと、流石の莉乃でも気分が沈む。王とはまさに組手という感じであり、その後に愛羅と命の奪い合いをさせられただけに嫌ほど落差は思い知らされていた。

 理由はわかっていなかったが、莉乃は自分でも身柄を狙われているであろうことを自覚していた。それはパメラとの出会い、続いて三人の襲撃者と現れては莉乃を引き込もうとした事実がその自覚を生んでいる。あれだけ露骨にさらわれそうにもなれば気付かない方が難しいだろう。

 それが幸いして、どうにか莉乃の能力を存分に発揮出来てはいる。しかし、これから命を狙われるとなった時、どうなるだろうか。あの空間転移は果たして五体満足で自分を移動させてくれるのか。あの液体操作は剛介のみに向けられていただろうか。もう一人の少女は、目標が傷つかないよう意図して能力を見せなかっただけでは無いか。莉乃の不安は膨れ上がるばかりではあった。

 それでも、鬼神の如き戦いのできる愛羅が仲間であり、彼女が特別頭一つ抜けているのならば、彼女に師事を請えば莉乃の未来は幾分か明るいのかもしれない。


「なんか凄い二つ名つけられてたよ! 確か『閃光の戦乙女』って!」

「名付けた人のセンスを疑って笑っちゃいそうになるけど、一回やった身としては頷いちゃうわね……」

「うへぇ、そんな凄いんだ。私は戦うの専門外だから、愛羅さんの訓練やってないだよね」

「やっといて言うのもだけど、あれ生身で戦うものじゃない気がしてる」


 「違いない」と瑠奈もからかうように言うと、二人してくすりと笑った。

 ふと、莉乃は話題を切り替える。


「そういえば、二つ名もそうだけどみんな技名とかつけたりしないのかな? 超能力だし、いないもんなの?」

「気持ちはわかるけど――織原ちゃん、もしかして名前つけて叫びたい派なの?」


 瑠奈はニヤニヤと莉乃を見つめると、ささやかな疑問を口にしただけのつもりだった莉乃は赤面してしまう。


「良いんじゃな~い? 敵の頭をわしづかみにして心臓停止! 神経ぶっ壊してエターナルフォースブリザ――」

「そんなんじゃないから! 私は違う、そうじゃなくて! 先生は命名したがるみたいだけど、自分でそうしてる人もいないのかなぁってさ」


 必死に、かつてない程に必死に莉乃は瑠奈の言葉を遮る。瑠奈は相変わらずいやらしい笑みを浮かべながら自分より大きい莉乃を撫でようと手を伸ばすが、当たり前のように莉乃の鋭い手払いによって叶うことは無かった。


「まぁ小さい子とかはやってるよ、怪我もしない規模の能力だから恰好ついてないけどね。逆に能力が凄い人ってよく勉強してたりするから、変に技名とかつけて規模に差別化とかしてないイメージ」

「そりゃそうか。漫画とかじゃないんだし、一気に強くなるとか無いもんね」

「経験値でレベルアップとかならわかりやすくて良いけど、現実は非情だねぇ」


 瑠奈は音をたてて最後までカロリーの暴力を飲み尽くしながら、超能力上達のもどかしさを憂うように呟く。莉乃も完全同意のようで「それね」とだけ言うと、同じようにプラペチーノを飲み干した。

 瑠奈とて、現状に甘んじているままのつもりは毛頭ないということだろう。あるいは、彼女もまた見えないだけで努力をしているのだろうか。そのどこか、ここで無い場所を見つめるような瞳は何を映したがっているのだろうか。今の莉乃に知る術などあるはずも無かった。

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