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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
二章 自己の教育、認識の再構築
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閃光の戦乙女、愛羅(5)


「手を抜いてはいなかったはずなのだがな、完敗だ。特殊武術も、彼女の能力を考えれば既に身についているように思える」

「てぇか、そうじゃねぇと王がぶっ倒されるのに理由がつかねぇ。お前ホントに学生か? 反乱分子の工作員って言われても俺は驚かねぇぞ?」


 王と愛羅に称賛されているはずの莉乃だったが、愛羅の言葉に関しては反応に困ったように愛想笑いをするしかできないでいた。組手前に話に出ていた「特殊武術」というものも既に身についているとお墨付きを頂くも、莉乃の頭の中は疑問符で溢れかえっていた。


「その、『特殊武術』って結局どういうことなんですか?」

「座学になっちまうが――まぁ良いか、座れ」


 三人は話し声が差し支えなく通る距離感で固まると、愛羅は再度スライドショーの画面をスマホで開き、それを何も無い宙へと映し出す。その画面は奥行があるわけでも無く、近くに出された莉乃は思わず横に回り込んで覗くも完全な二次元の画面といった様子だった。


「愛羅の超能力だ。『波動操作』と呼ばれる超能力者の中でも、愛羅は光源を巧みに操る」

「ちょろちょろすんな、影んなんだろ……おら、俺の能力は後にして授業すんぞ」


 莉乃は愛羅の言葉を聞いていないかのように浮かぶ画面を四方八方から見るも、当然理屈がわかるわけも無かったので大人しくスライドを眺めることにした。スライドは国立神経科学研究センター特殊運動部によって作成されたらしく、「特殊武術について」というシンプルな題名と作成者の名前ではなく部署の名前のみが冒頭のページに記されていた。


 特殊武術とは、超能力者が自身の能力を活用して行う戦闘技術とされている。彩音京也の理論上、超能力は不可思議な能力者体内の無尽蔵に近いリソースによって外界に物理的な刺激を与える事である、という前提がある。それは即ち、どのような超能力であれど、自身の身体的な機能を高めることが可能であるはずで、それを実現するために指導法として確立されようとしているものである。

 具体的な現象として、神経伝達速度を上昇させ、五感の閾値を意識的に操作することで非能力者が数十年かけて掴める努力の到達点を幾つも成し遂げることを可能とする。彩音の研究では、どんな超能力者であろうともこれらの現象は確認できている。その方向性は未だ能力特性との関連性を判明させるまでには至っていないものの、超能力者は能力発現時には非発現時及び非能力者の同条件個体と比較して顕著な変化を示していた。

 指導案として、一番能力人口が高いとされる「念動力」を例に挙げられていた。彼らの多くは能力発現時、触覚の閾値が非常に拡張されているとの結果が一部の論文では言われている。また、それは彩音の研究において協力をしてくれた超能力者達でも同じであり、十人中八人が該当していた。

 触覚による刺激の受容閾値――変化を感じる力と言い換えても良いだろう――が超能力との結び付きを持つ念動力保有者において、能力発現によって浮遊させた物の質感を感じるところから始まる。これは一見して能力の精度を高める練習に思われるが、発現時における身体的な変化を意図して操作することを特殊武術のスタート地点として獲得することを目指す方法だ。

 これにより、超能力者は干渉する対象や手段に左右されることなく、自身に機能向上を果たすことが実現できる。


「――っつう、まぁ机上の空論だ」

「そうなんですか!?」

「理屈はわかるがよぉ、なぁ?」


 長い説明を真面目に聞いていた莉乃は愛羅の台無しにしてくれる一言に声をあげないわけが無かった。愛羅は同意を求めるように王を見ると、彼も賛同の意を込めて首を縦に振る。


「五感の機能向上は確かに出来ている。しかし、それを『武術』等と呼べる程度で鍛えようとすれば能力の向き不向きは自明だ」

「そういうこった。先生の言うことが普遍的っつうなら、阿古副所長はとっくにバケモンになってるはずだし、戦略級――は言い過ぎだが、ただの回復おじさんにはなってねぇよ」


 愛羅の反論として、剛介の「超回復」は反射的に発動されいる。これは即ち、目で見えない範囲の細胞の破壊レベルでも常時発現していると考えられるわけで、常に特殊武術的な機能向上を行っているはずだという。息を吸うように、あるいは比喩ではなく息を吸うたびに能力を使っているならば、指導案の例から類推するに、阿古剛介という超能力者は人類史上最強と言われても何ら差し支えないものとして出来上がっているはずなのだ。


「それが、実際のところどうよってぇな」

「なるほど、凄い納得しました!」

「そんなに清々しい笑顔をされると副所長が不憫になるぞ」


 王は困ったように笑うが、莉乃は今の愛羅の説明で心底納得がいったらしい。全てを呑み込めたわけではないものの、「向き不向きがある」という事実をぼんやり理解できたことで莉乃はかなり満足していた。

 超能力それ自体の真相がわかったわけでは無いものの、関連した情報をすっきりと自分の中に落とし込めたことは収穫である。ものの考え方の及ばない点があるものの、莉乃は初めて「学校の勉強」ではない「学び」の楽しさや奥深さを垣間見る機会を得ていた。

 ニコニコとする莉乃を見て、愛羅は少し唸ると「おい」と声をかける。


「だから、『特殊武術』っつう点ではお前はもう合格も合格だ。だけどな、さっきの一本はちぃと芸術点が高すぎる」


 愛羅の若干キツいトーンに莉乃は少し怯えながらも、いまいち真意を汲み取れないように首を傾げる。愛羅は坐したまま腕を組むと、察したように言い改める。


「要は動きに無駄が多いっつう話だぁな。凄かったぞ? 凄かったがな、戦いってぇのは敵を魅了する競技じゃあねぇわけだ。お前はやたら飛び蹴りに拘るが、もっと選択肢を増やさねぇといけねぇなぁ」

「私も同意見だ、織原はどこか自分の技に縛りを設けているように見える。そうだな、もっと泥臭く――」


 王は言い終えることもなく愛羅をチラリと見て、行けと言わんばかりに顎で指示する。愛羅はあからさまに嫌そうな顔をするが、王を長く睨むこともなく莉乃へと目線を移した。


「現場仕込みっつうのを体感させてやるのは悪くねぇだろうな。そういうわけだ織原、俺は王より弱ぇから安心して組みな」


 愛羅がバッと立ち上がり、莉乃も立てと言わんばかりに手で誘う。困惑しながらも莉乃は立ち上がり、

愛羅と適度な距離を取り、王は先程の愛羅と同じように壁際まで移動し、腰をおろして二人を見守っている。


「模擬戦と思わず殺しに来いや。なんでもアリだ、そうじゃねぇと滾らねぇだろ」


 ぎらつく紅い瞳は莉乃を捉え、明確な殺意を彼女へ浴びせていた。澪との対峙を思い起こすように莉乃は震えあがったかと思うと、曇った表情は一瞬にして恐ろしい程に落ち着きを払ったそれになる。

 そこにいた莉乃には、もはや愛羅は仲間ではなく危害を加えてくる敵としての認識に変わり、その変化は無慈悲な莉乃の一面を持って相手することを意味していた。


「愛羅さん、トラウマになっても知りませんからね」

「ほざけ三下、遠慮なく先輩の胸を借りやがれ」


 莉乃は殺意にあてられ何かが切り換えられたように、愛羅を完全に壊す対象として捉えていた。それを承知の上で愛羅は対面し、悠然と構え、そして彼女も莉乃を五体満足で返す気など毛頭ないようであった。

 王は静止することなく、スマートフォンでどこかへ連絡をすると後は見守ることに徹していた。真田愛羅の戦闘狂としての血の騒ぎは、もはや誰にも止められないものになっていた。

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