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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
二章 自己の教育、認識の再構築
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閃光の戦乙女、愛羅(1)


 5月某日、莉乃は普段通り瑠奈との帰路を過ごし別れたのち、金曜日を超えた喜びを噛みしめながら如何にして二日間を有効に過ごそうか考えていた。最寄り駅から自宅までの道中、莉乃はイヤホンをするわけでもなく淡々と歩を進める。

 駅を出てすぐ、彼女の横腹に振動が走った。莉乃はブレザーからスマートフォンを取り出し、着信相手を確認する。知らない番号であるが、どうやら携帯電話であろう番号が表示されていた。彩音とはメッセージでやりとりするまでで、なんだかんだ剛介の番号も知っているわけではない。誓約書に連絡先を書いていることから、知らない番号からの電話が知人からであっても驚かないであろうことから、莉乃は電話に出た。


「おう織原! 明日ツラ貸せよ!」

「――え? あ、愛羅さん!?」


 乱暴な言葉遣いを一発目から浴びせてきたのは、莉乃に先日しっかりお灸を据えた真田 愛羅(さなだ あいら)の声であった。意外な人物からの電話に、人目もはばからず莉乃は大声を上げてしまう。


「お前うっせぇよ! そんなに俺からの電話が嬉しかったのかぁ?」

「そういうわけでは……あの、この番号は誰から――」

「じゃあ明日の昼過ぎに第一技能訓練室で集合な、遅れんなよ!」


 莉乃の言葉を聞き入れることなく、愛羅は通話を終える。莉乃は切れた電話の音を聞きながら、思わずその場で頭を抱えた。


「どいつもこいつも常識なさすぎないかな……」


 ごもっともな愚痴をこぼすが、長いため息をつくと家へと向かう足を勧めた。

 愛羅との対峙を莉乃は思い出す。激昂する莉乃に対して、彼女は様々なことを教えてくれた。その能力はまだ莉乃には理解が及ばないことばかりであるが、彼女の人間性という部分においては知っている人の中では頭一つ抜けていると勝手に評価をしていた。それも今や過去のこととなり、莉乃の中では無事に剛介と同類付近までランクが下方修正を施されていた。


 歩きながら、莉乃は先程の愛羅に押し付けられた約束を思い返す。第一技能訓練室、おそらく国立神経科学研究センターの一室であろうことは想像に難くないが、場所はわからない上に昼過ぎというのもまた曖昧である。織原莉乃は時間にルーズなタイプではない。正確には、現在の社会性を培う過程で、多くの人は遅刻という行為に過敏になる。それは社会的な制裁を受けるという程度では無く、人間性の矯正を国家単位で行われる可能性を含んでいるからだ。平たく言えば、遅刻をすることは検診を受け更生施設へと送り出される可能性を持った危険な行為である。

 莉乃とてやむを得ない理由で遅刻をしたことは片手で収まる程度にはあるし、それで何か損を被るまでに至ったことはない。ただそれでも、身についた癖のようなもので集合時間の1時間前には周辺に着いておきたくなるサガを持っている。それを「昼過ぎ」等と曖昧な、昼とは一般的に12~13時であることはわかれど、それが即ち13時に集合で良いのか、そもそも部屋には何時に入って良いのか。莉乃は悶々とした気持ちに駆られていた。


「……とりあえず最寄りに12時で良いかな、あっちに食べる場所あるよね」


 何をするかもわからないまま、明日の計画を立てていく。立てようとすればするほど、いつ終わるかもわからないし、何をするのかわからない。何を持っていけば良いのか、技能訓練室という名前からして動きやすい恰好が良いのか否か。


「……ただいま」

「おかえりなさ――なんて顔してるの、何かあったの?」


 帰宅して出迎えてくれた母に訊ねられ、莉乃は愛羅の電話にうんざりしていることが顔に出てしまっていることに気付いた。慌てて笑顔を繕うと、何事もないことを伝えて自室まで駆け上がるように向かった。

 莉乃は制服から部屋着に着替えると、まず押し入れから何かを探し始める。幾つかの箱をどかした先で、キャリーケースと大きめのリュックサックを掘り出し満足すると、また押し入れに箱を戻す。


「――いや、電話して聞けば良くない?」


 何をすることになっても問題ないように荷造りを覚悟して帰ってきた莉乃は、自身のアホらしい行動に対して思わず自らツッコんでしまった。

 荷造りを中断し、スマートフォンで先程かかってきた番号へと電話をかける。数コールなった後、愛羅が無事電話に出た。


「織原です、今お時間よろしいでしょうか?」

「なんだよ、遠足前日でウキウキってかぁ? そう焦らずとも明日――」

「その明日の話です! 何時に集合で、誰がいて、その技能なんたら室ってどこで、というか何するんですか!」


 捲し立てるように攻め立ててくる莉乃に思わず愛羅も電話越しに怯んでしまう。莉乃は軽く謝罪をすると、改めて詳細を聞く。一息挟んで、相羅がそれに答えた。


「さっきは仕事の合間にかけちまって急いでたんだ、悪かったな。明日は体術への超能力運用の訓練ってわけだ。13時から中央入りの近くにある第一技能訓練室って場所を取ってある、これで満足か?」

「あの、なんで愛羅さんからそれを?」

「俺が特殊運動学課の課長だからだろうな、あとは先生のキャスティングってぇだけだ」


 愛羅いわく、特殊運動学課は超能力運用における身体的なパフォーマンスの向上を理論値で検討し、実践にて検証する部門だとのことだった。お世辞にも莉乃には愛羅が学問に造詣が深いようには思えず、驚きの声が喉まで出かかる。


「明日はお前へのオリエンテーションって感じだ。俺とお前とあとは(ワン)ってぇいう野郎の三人だけだぜ」

「わかりました、ありがとうございます」

「まぁ楽しみにしとけ、それじゃあな」


 今度は無事に通話らしい通話を終え、愛羅が電話を切った。大荷物を持たなくて良いことに安心した莉乃は、トートバッグを用意してジャージを中に詰め込んで荷造りを終了とした。

 自室のベッドで天を仰いで横になると、明日を楽しみにしている莉乃がいた。愛羅との一戦は莉乃が一方的に振り回され、彼女の超能力の一側面を暴くまでで終わっていた。あの時、実際に生死に関わる戦闘になっていたのなら、間違いなく自分が殺されていたであろうことを莉乃はわかっている。愛羅の余裕は能力における情報戦の優位性のみならず、肉弾戦においても莉乃の動きを見た上でいなせると判断してのものであろうと莉乃は感じていた。

 その自信や技術の差がどう超能力と結びつくのか定かでないものの、闇雲に能力開発へ思いを馳せているよりかはよほど有意義であることは明らかであろう。今の莉乃にとって、これ以上ない楽しみとなるには理由として十二分であった。


 ここ数日、苦悩を抱えて寝不足であった莉乃であったが、もはや一か月ぶりとなっていた安眠を得ていた。久しぶりの深く、不透明な不安の無い眠りに莉乃は心地よさと、瑠奈に出合う前に退屈な日常をチラっと思い返しながら意識を落とした。

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