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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
一章 真実と代償、偽りの相貌
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秘匿すべき(2)


 彩音京也の研究室、書類記入に尽力したい莉乃を挟んで彩音と瑠奈が口論する。


「――先生は織原ちゃんの女の子たる部分をどうして理解しないのかな! こんなにトチ狂った能力を持っておきながらパンケーキに感激する姿、ギャップの塊でしょ!」

「それは織原くんが純然たる16歳女子だからに過ぎないよ。もっと広い視野を持ちたまえ野比くん、そのギャップを発生させる要因は検討違いだよ。織原くんの『ギャップ』で言えば、どちらかと言うと感情の急激な切り替えに焦点を当てるべきだろう」

「それは何も可愛くないの! 先生は超能力よりもっともっと知るべきこと多いんじゃない?」

「『愛』という感情の操作を出来る子も一応診たことあるんだけどなぁ……野比くんの方こそ、織原くんに対する見解を再度検討すべきでは?」


 無論、二人の話は平行線であった。そもそもとして、瑠奈は「莉乃の可愛いという魅力」という軸で話し、彩音は「莉乃の能力的な魅力」について話していたのだから。かれこれ30分ほど、当事者同士も平行線と思いながらも、瑠奈の維持と彩音の研究分野においては説き伏せたい欲求とがぶつかる事で争いは長期化していた

 挟まれる莉乃はというと、残念ながら淡々と書類へ筆を走らせることは叶わず、苦悶の表情を浮かべて頭を抱える他なかった。


「あの……そろそろ書かせて欲しいんだけど……」

「そんなのいつ出しても変わんないでしょ! 織原ちゃんは事態の重さを知るべきだよ! 自分の魅力をわかろうともしない男に身を委ねるわけ!?」

「それは心外だと何度言えばわかってくれるかなぁ、織原くんの魅力を一番理解していると言っても過言では無いよ。逆にだよ野比くん、君は今の感性のままで織原君と向き合うこと、それは彼女に失礼であることを理解するべきじゃないかな?」


 彩音のまくしたてるような言論に瑠奈は思わず声を荒げて反論する。これがかれこれ30分なのだ、莉乃は今日どれほどのストレスに晒されれば良いのか、気の毒にも感じるほどだ。


「先生……女子高生相手にどんだけマジになってんすか……」

「そう言うなや剛介、『真摯に向きあっとる』ってやつやろ。ワイには到底真似できんことやで」


 不毛な論争に終止符を打ったのは、回復魔人のヤンキーとエセ関西弁のテレキネシストだった。部屋の入り口に立つカールはしっかりおめかしを剥がし、白過ぎない肌に茶髪のソフトモヒカンで清潔感のある印象を与える彼の姿は莉乃からしたら異様以外の何物でも無かっただろう。


「カールさん――アンタ、誰?」

「いや、わかっとるやないかい!」

「第一印象は3分で固着化し、3年続くんだよ。諦めろカール」


 どこか、何かと重ねるように剛介は思い浮かべながらカールの肩を叩く。悔しそうに大袈裟なリアクションをするカールに、まず笑い声をあげたのは彩音だった。


「メラビアンの法則なんて、阿古くんも渋いね~! カールくんと一緒だなんて、二人してどうしたんだい?」

「はい、さっき取ったデータについて――」

「ちょっと野暮用で。それより、織原は大丈夫なのか? 調子はどうだ?」


 カールの言葉を遮るように、剛介は莉乃へと不意に問いかける。完全に気を抜いていた莉乃は少し反応が遅れながらも生返事をし、それを見た剛介は安堵するように目を伏せた。


「なら何よりだ。まぁ、本来ならこいつが早いこと駆けつけて捕虜を増やせた予定だったんだがな」


 剛介は顔を上げると、ジロッとカールへと目を向ける。カールは思わず目を反らしながらも、何か弁明をしたいようで唸るも、それも言葉になる前に剛介が「まぁいい」と言うと安堵するように深く息を吐いた。

 再度、剛介は莉乃へと向き直ると、彼女が書いている書類に目がいった。プログラム参加の手続き書類を見て、失念していたことに剛介もやってしまったと言わんばかりに苦々しい表情を浮かべる。


「しまった忘れてた……先生が当たり前のように話を進めるもんだから……」

「おや~副所長様ぁ、そらぁ責任転嫁ってやつやないかのぉ?」

「いやいや、これは私が全面的に悪いさ。阿古くんには坂上くんの件でも色々押しつけちゃったしね、主に雑務!」


 彩音の元気の良い擁護に、庇われた剛介も責めたカールも乾いた笑いを返す他なかった。実際、剛介の負担が大きいことも事実ではあるが、彼が莉乃の能力開発もとい研究に対して重要事項を失念する程に気を向けていることもまたひとつ事実として言えるのだろう。


「悪かったな織原、それで進捗はどうだ?」

「おかげさまで、全く進んでないわ……」


 莉乃は目の前の彩音と瑠奈を見ながら剛介へ返した。察したのだろう、剛介はため息をひとつ挟み、部屋の中へと入る。


「とりあえず先生、お邪魔なようなので俺らと他所いきましょうか」

「えー、ここ私の研究室なんだよ? 主人なき部屋に人を置いていくのはなぁ」


 拗ねるようにに彩音は口を尖らせるが、40歳手前のおじさんのそんな姿を望むものは誰もいないだろう。

 

「場所の提供と思ってですね――織原もそれくらいならすぐ書けるだろ、わかんない所あるか?」

「この『自己PR』って何書けば良いの? あと『志望動機』とか」

「あぁ、それは自推のやつ用だ。一応、お前は先生の推薦あっての参加だし書かなくても大丈夫だ」


 莉乃はなんとなく剛介の言わんとしていることを理解し、その書類を脇にどけてその他の書類を片付け始めた。それを確認すると、剛介は彩音を手招きして部屋の外へと連れ出す。瑠奈も剛介を見つめ、自分を指さして無言で問うも剛介は首を横に振った。

 瑠奈はそれを確認すると、莉乃のそばへ再度近寄って書類について説明しながら他愛のない話を始める。


 研究室を出ていく剛介とカール、そして彩音の表情がどこか真剣であったのは、気のせいでは無かっただろう。三人は莉乃と瑠奈を残して彩音の研究室を出ると、どこか別の部屋を目指して歩いて行った。

 先程までの騒がしさと一転、静かに部屋を去る男性陣に、莉乃は特に気にすることも無く目の前の事務処理に従事するまでだった。

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