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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
一章 真実と代償、偽りの相貌
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毒と薬は表裏一体(1)


「――まぁこんな所かな。急だったけどみんな今日はありがとう、じゃあ解散!」


 しばらくして、彩音による対襲撃者に関するミーティングは終わりを告げられ、解散となった。スクリーンは幾度となく切り替わり、併せて彩音や剛介が説明をしていたのも、気持ちを切り替えられずにいた莉乃の耳に入ることは無く通り過ぎていくだけであった。

 また、歓迎会はその日の襲撃があった事実と事態の深刻さ、何より彩音が事務手続きが増えたという理由で後日改めようと提案され、それをみんなは呑んだ。その背景事情としては今の莉乃の状態が良くは無いことも勿論あるが、結局この場に姿を現していないもう一人の主役である澪のこともあるのだろう。


 彩音の合図で解散を告げられたものの、愛羅が軽く挨拶をしてすぐさま会議室を出たのみだった。他の人達はその場に残り、それぞれが思うままに談笑をしている。

 悠美は未だ唇を噛み締め苦渋の表情を浮かべる莉乃の手を握り、初対面の相手とは思えないほどに心配そうに見つめていた。剛介が彩音と話し終えると莉乃達三人の元へとやってくる。


「悪い、待たせたな。近い医務室を適当に使って良いってよ」

「ありがとう剛介くん……あんまりここに長居しない方が良さそうだし、行きましょうか」


 悠美は莉乃越しに瑠奈にもアイコンタクトを飛ばし、了承の頷きを確認して立ち上がった。まだ会議室に残る超能力者達は、あまり露骨にはならないようにしながらもその意識は莉乃へと集中していた。今日初めて顔を見た新メンバーが前線に出るほどの愛羅と対峙し、剛介を心配じゃないのかと怒鳴った。挙句、自分の能力と澪の容体を知らされて黙り込んでしまったのだ。注目を浴びるにはやり過ぎなくらいであろう。


「ごめんなさい……私、こんなんじゃ――」

「あーもう! 織原ちゃんはちょっと黙っときな! 何話してもネガティブになるだけだよ!」


 またしても右肩下がりに気落ちする莉乃に、遂に瑠奈が痺れを切らした。ビクッと莉乃は驚くも、コクリと頷きその言葉に従ったがその表情は一層暗く落ちていくようにも映った。


「おい野比、もうちょい言葉を選んで――」

「剛ちゃんも甘々なんだよ! 女たらし、年の差考えたらロリコンじゃん、ロリコン!」

「飛躍し過ぎだろ……」


 根も葉もない罵倒じみた瑠奈の言葉に剛介はため息を漏らすが、三人に早く行けと言わんばかり手を払う。彼は見送ること無く、莉乃に良くも悪くも視線を飛ばしている超能力者達の方へと歩みより、適当な話題を振って関心の的を反らすように話しかけに行った。



 剛介の心遣いを受け、莉乃達は会議室を後にする。会議室からゆっくりと歩くこと数分、悠美の案内のもと無事に医務室へと到着した。

 白を基調とした部屋のデザインは学校の保険室を思わせるものだった。だが、部屋は横長に広く、デスクと丸テーブルのある一角を除いてはずらりとベッドが並び、仕切りとしてのカーテンレールが天井にもびっしりと打ちつけられている。実質の国営もとい世界の意思の元で設置されている機関なだけあって、壁も机も何もかもが新品のように綺麗で汚れの無い空間が広がっていた。


「織原さんと瑠奈ちゃんは座って待ってて、お茶淹れるわね」

「いやいや悠美さんこそ座って、お茶係は後輩にお任せあれ!」


 丸テーブルに重ねられた丸椅子を並べながら悠美は座るように促すも、先に瑠奈が簡易の給湯室のような場所へと向かった。莉乃は言われるままに座り、続いて悠美も近すぎず遠すぎない距離感を測りながら腰をおろした。


「織原さん、ゆっくりで良いから気持ちを整理しましょうか。でもその前に――」


 そう言うと悠美は莉乃へと向き直し、顔に両手を添えると額を重ねた。剛介の回復時のように、そこには淡く優しい光が表れ、目に見えて莉乃の表情も安らかなものになっていく。

 程なくして額を離し、悠美はニコッと笑うと添えた片手で莉乃の頭を撫でてやった。


「どうかな? これくらいなら気持ちにも余裕を持ちながら、織原さんの想いに整理をつけられそう?」

「はい――でも凄い、なんで急にこんな気持ちが楽になるなんて。私まだ坂上さんのこと後悔してるのに、さっきと考えてることは変わって無いのに」

「私は精神操作って能力の扱いだけど、脳内物質の分泌の作用させてるだけなの。今は落ち込み過ぎる状態から、少し楽しくなれる気持ちを増やしてあげるようにしたの」


 莉乃の顔に生気が戻り、表情豊かに驚きを露わにするのを見た悠美は軽く説明をしてあげた。複雑なものでなく、女子高生であり且つ超能力に対する理論的な理解の乏しい莉乃にもわかりやすく伝えたのは悠美の優しさだろう。


「これもやり過ぎちゃうと洗脳と変わらない怖い力だけど、ちゃんと扱えればこうやって適切に救える人がたくさんいるの。だから織原さんがやってしまった事も、今からでも自分の能力で挽回できたりするんじゃないかなって私は思うな」


 悠美の言葉に莉乃もハッとさせられた。彩音も言っていた事と重なるが、これからの莉乃の能力開発は無限の可能性を秘めていると言っても過言では無い。それは出来ることの幅広さという抽象的なものではなく、より具体的には「人を救う力にもなり得る」という可能性に莉乃は震えた。

 これまでの超能力者としての自覚を得た莉乃は、能力をより暴力的にしか使っていなかった。自身の身体能力を爆発的に高め、知覚を鋭敏にし、接触した相手の神経へと干渉して「壊す」ことしかしなかった。だが、それだけでは無いと、悠美は自身の能力を示しながらも莉乃に語りかけてくれたのだ。


「さっきの先生の話だって、坂上さんの運動神経って言って良いのかな? それは目に見えて上げられたってことでしょ? それって凄いことじゃない、もしかしたら目が見えない人を見えるようにしてあげられたり、そういう事が出来る素敵な能力じゃないかなって!」

「お、悠美さん早速やってくれたんですね! 落ち込みまくる織原ちゃんもまた魅力的だったから惜しい気も――」

「アンタのその神経の図太さ、そのうち私にも欲しいものだわ」


 お盆に三つ湯呑を立てて戻ってきた瑠奈に、莉乃はようやくと言えるだろうか、普段通りの返しをしてくる。


「確かに悠美さんの言う通り、私が一度動かなくした手足をまた私が治せたんですよね。これをもっと、優しい使い方が出来たら――坂上さんの能力も戻せるかな?」

「綺麗に元通りはわからないけど、身体の調子から考えたら能力の練度も上げてお返しできちゃうかもよ?」


 いたずらに笑う瑠奈に、莉乃も「確かに」と軽いノリで指差して同意を示す。莉乃の気の移り変わり様に、悠美も思わず困ったように笑う。


「あれ、ちょっと副交感神経優位にし過ぎたかなぁ……」

「悠美さん、織原ちゃんは自家製で切り替えちゃったりもするので考え損ですぜ」


 瑠奈はいたずらな笑みを悠美にも向け、それを聞いて一層悠美は唸ってしまう。悠美にとって、自身の与える能力の影響は相手の諸々の要素を込みにした上で、彼女の思う範囲内の結果に収めたいひとつの拘りがあるのだろう。莉乃を見つめながら首をかしげて悩んでいた。


「なんか悠美さんまでちょっと先生みたい……」

「悠美さんも剛ちゃんばりに先生とは長い付き合いだしね~、でも全然違うよ! 悠美さんのは優しさに溢れてるもん!」

「じゃあ先生は?」

「愛羅さんも言ってたけど『狂喜』に満ちてるでしょ! ちゃんと聞いてたかわかんないけど、坂上ちゃんと比較するためにわざわざ自分の顔削いだって言ってたからね?」


 莉乃は動揺に動揺を重ねて聞き洩らしていたのかあるいは忘れていたのか、それを聞いて声をあげて引いてしまう。瑠奈も賛同の意を込めて身を震わせるようにふざけてみせた。


「ん? 先生と私がなんだって?」

「いえ、なんでも無いです。悠美さんは綺麗で優しいなって話ですよ~」


 少し遅れて反応する悠美をはぐらかす様に瑠奈は応え、莉乃もそれに合わせて過剰な程に頷く。照れるように笑う悠美に、二人は若干の罪悪感を覚えながらも温かい空間が医務室に広がっていた。

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