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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
一章 真実と代償、偽りの相貌
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倫理を超えて(1)


「じゃあ諸君、早速本日のメインディッシュから行こうか!」


 会議室の中、教壇の上に一人立つ彩音は席に座る数十人の若者たちへと声高く宣言をする。その中には怪我もすっかり治して着替えたスクラブ姿の莉乃と、剛介や瑠奈、先ほど一戦交えた愛羅にどこからか戻ってきてカールの姿もあった。


「ヒューマンエンパシーが――の前に、一部の者以外は今の我々の状況から説明しないといけなかったね。瀬良くん、プロジェクター使うから準備してくれるかな?」

「あ、はい! わかりました!」


 彩音が指示を出すと、看護服を着た瀬良悠美が席を立ちあがる。少し申し訳なさそうに机中央の席から通路へ出ると、部屋の照明を落として部屋前面に備え付けられたスクリーンをおろす。彩音もノートパソコンとプロジェクターを部屋の隅から中央へと持ってくると、適当な位置へ置いてパソコンの画面を映し出した。

 スクリーンには世界地図と、それぞれの研究施設と規模を表すように大小様々な円が浮かぶ。もちろん、日本列島と呼ばれた島国を中心とする円が一番大きく「国立神経科学研究センター」の文字が入っていた。


「今、私たちがいるのがこのでっかい円の所だね。私の管轄であり、この世界で一番の規模と資金力を持つ、つまり私は偉いんだ!」

「先生、そういう反応に困るのはやめてやってください」


 彩音が胸を張って主張するも、すかさず剛介が水を差した。彩音は「すまんすまん」と軽くあしらうと、改めて続けた。


「それで、この世界には各地に似たような研究施設がある。第二国区はそこのカールくんが所長をしてくれているね。超能力者でありながら支部長をしていることは珍しいが、とにかく似たような日本の後ろ盾がある施設が世界に幾つもあるわけだね」


 彩音は黒人に扮したカールを指示し、そのカールは自慢げにその場に立って主張した。が、彩音はそれにあまり触れずに遠慮なく説明を進めていった。


 彩音が説明したこととして、まず「国区」と呼ばれる区分に関して改めて説明をした。「国区」は、かつての世界統一戦争において侵略をされた順に大まかな地域から決定付けられている。東アジアと呼ばれた地域から第一国区とし、それぞれ振り分けられ、最後に南北のアメリカがまとめられて第九国区としてナンバリングがされている。日本に比べて敷地面積は広大すぎるほどであるが、それぞれの国区における研究施設の規模は日本の半分以下でしかなく、歪さを抱かせる。


「それで、公的な研究機関以外にも幾つか認可で行われている施設もある。今回、襲撃を仕掛けてきたヒューマンエンパシーは主に第六国区の認可機関と結託している結社にあたるね。結社は――まぁ研究所単位ではなく、そこの個人同士が仲良しでコミュニティを作っているってイメージかな」


 彩音が「次押して~」と言うと、誰が何をするわけでもなく無人のパソコンが反応し、スクリーンは「第六国区」と書かれた円にズームアップし、幾つかの研究施設名がリストアップされて出てくる。

 そこには、莉乃が出会ったパメラが局長を務めるニューロサイエンスラボラトリーの名前もあった。


「どうも第六区の人らは前の母国語に執着があるようでね……カタカナでこうあってもパッとしないのにねぇ。まぁ、そう、これが第六区にある認可機関の一覧になるよ」


 これらの組織は、軍事的運用としての超能力研究を厳しく制限され、また監視のもとでのみ活動が認められていると彩音は話す。それ故に、今回の襲撃者であった坂上澪及びつい先ほどの三人の超能力者の明らかに攻撃的で且つ戦力として有効な水準に能力開発が至っていることが不審であると言った。


「で、こうなると正直思い当たる人間は限られてしまうわけで。例えば――野比くん、君が超能力の原理を聞くなら、この場だと誰に聞くかな?」

「それはもちろん、先生しかいなくないですか?」

「だろうね。でもさ、超能力の実践的応用法を聞くとしたら、どうかな?」

「そうなると……剛ちゃんに聞くのは癪だから、カールさんかな!」


 瑠奈の返答に剛介の突っ込みとカールの歓喜の声が上がり、どっと笑い声が起こる。


「そう、そういうわけだ。私達研究家では能力開発には悔しいことに限度がある。餅は餅屋という諺があってね、その通り超能力は優秀な超能力者に聞くのが一番だ」


 そう言うと彩音は再度「次~」と声をかけ、スクリーンを進めた。すると、数人の人物と所属が併せて表示される。そして、そこにはニューロサイエンスラボラトリーのパメラの顔も並び、能力概要として「重力操作」の文字が莉乃の目に焼きついた。一瞬で察したのだろう、莉乃は思わず声を漏らしかけるも、どうにか呑み込んだ。


「彼らは認可機関での研究をしつつ且つ超能力者でもある人物にあたる、言うなれば犯人候補だね。もちろん、彼ら全員がヒューマンエンパシーで且つ今回の襲撃に関わっているかもしれないし、逆に違うかもしれない。でも、疑うには十分過ぎる条件が整ってる。特にこのマルタンって女はなぁ……」


 彩音にしては珍しく、目を細めあからさまに嫌そうな顔をして見せる。彼とパメラの間に何があったか語らないものの、何か因縁を感じさせる行動であることは間違いなかった。


「そいつぁ――マルタンってあのマルタンかよ先生!?」


 意外と感じる人は多かったのだろう、愛羅が問うたという事実に対して回りの人達は思わず彼女のほうを向く。その視線に、愛羅は手で払うようにする。


「そうだよ、あのマルタン家の娘だ。あーとね、彼女の両親は色々あって日本で能力開発を受け、父が最前線で活躍したって経緯があるんだ。超能力の開花は血筋に寄らないって研究結果も出てるのにずるい女なんだよ――しかもその研究、アイツのだしね! もう腹立たしい!」


 普段は超能力関係には変態的好奇心を発揮していた彩音だったが、ことパメラの事となると何故か全身から嫌悪感を露わにしていた。質問をした愛羅ですら、その勢いに引き気味になり、適当な返事をして改めて静観の姿勢を取り直す。


「失礼したね、どうもあの女のことになると悪く取り乱す……ともかく、他の超能力者兼研究者と比べて彼女は能力水準も地位も頭抜けているのは客観的事実だ。今度のプレゼン会で言及の場を設けて貰っている、精神系の超能力者も呼んでね」


 彩音は落ち着きを取り戻すと、一応は淡々と説明を続けた。そこに、ゆっくりと悠美が挙手をすると彩音の許可を得てから発言する。


「やっぱり、坂上さんから何か情報を得ることは出来ないでしょうか? まだ治療のみしかしてないですし、織原さんによる能力の返還をチラつかせれば……」

「おや、瀬良くんにしては珍しく物騒だね。確かにそれも選択肢だが、正直そんなヒントをくれる相手ならもっと早くボロが出ているとも思うんだよね。あの後で、織原くんの能力を調べるために脳も調べたんだけど、神経回路が異常で側頭連合野の活動が著しく弱かった。坂上くんのパーソナルの問題かもしれないし、織原くんの能力による問題かもしれない。とにかく、今の彼女に何かを期待してあげるのは難しいと私は思うよ」


 悠美は少し残念そうな、だがどこか安堵したような表情をすると一礼して彩音に話の筋を戻すよう促した。


「それで、早速二度目の襲撃もあったわけだ。これをどうにか迎え撃てるようにはしておきたいんだよね。無論、戦えるような能力でなかったりする子たちは安心して守られて欲しい。だからこそ助っ人を呼んでいるしね」


 彩音は数人にアイコンタクトを飛ばすと、最後に莉乃の方へあからさまにウィンクをしてアピールしてくる。莉乃は困りながらも笑って返すが、ついでと言わんばかりに挙手をして質問の機会を貰う。


「すいません――あっ、みなさん先程は失礼しました、織原莉乃って言います。それで先生、私の能力ってなんだったんですか? 全然メッセージ返してくれなかったし気になって」


 莉乃は最後の言葉を比較的強めに、どれだけ待ち望んでいたかという期待と返事をしないことへの若干の憤りを込めて彩音へと訴える。彩音はそんな莉乃の視線を笑い飛ばすと、溜めることなく応えた。


「坂上くんに色々夢中でね、浮気者な私を許してくれたまえ! 織原くんは神経操作だね、初めて――うん、初めて見たね! 坂上くんの脳波の歪さがそれを証明してくれたよ」

「神経操作……って、なんかよくわかんないんですけど」


 莉乃は彩音の回答に期待していたような明瞭さを欠いたのか、難しそうな顔をして聞き返した。彩音はそれを笑うことなく、ひとつため息を軽く挟む。


「織原くん、今の君は既に能力開発という面では施設でも屈指だ」


 彩音の言葉に、超能力者一同は驚きの声を上げる――阿古剛介を除いて、ではあったが。


「そして、その能力はとても強力で、とても危険だ」

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