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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
一章 真実と代償、偽りの相貌
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屈折した邂逅(2)


 先に動いたのは莉乃だった。彼女が先手を打てることは当然とも思えるが、愛羅は一歩踏み出すこともなく悠然と立ちかまえ、余裕からかスマホを取り出し手に握っていた。

 長机の間を駆け抜ける莉乃は、一層不機嫌さを露わにしながら飛び跳ね、宙で身を捻りながらお得意の回し蹴りを披露しにかかる。彼女のスラッと伸びた足はしなやかにムチの如く力を伝達させ、その先の足の甲は愛羅の顔側面へ目掛けて吸い込まれていく。


「すげぇ体術だな、こりゃただの女子高生にしとくにゃ勿体ねぇわな」


 状況を理解しているのかいないのか、愛羅は依然としてスマホを立ち上げながら飛びかかってくる莉乃へ称賛の言葉を送る。その言葉を吐いているうちに、莉乃の蹴りは見事の愛羅の頭をめがけて綺麗に振り切った。


 そう、綺麗に繰り出された莉乃の足は愛羅の頭を通り過ぎ、芸術的なまでの空振りとして振り切られ、空を切るように振りぬかれた。


「えっ――」


 莉乃は目を丸くして驚くも、頭へ着地する予定であった足の遠心力に振り回されないよう折りたたみ、体幹をしっかり保ち愛羅の数歩後ろへ着地する。

 莉乃が愛羅を見上げる。確かに彼女はそこを、それを蹴りぬいたはずであった。しかし、愛羅は平然と立って莉乃を見下ろし、それなのに莉乃が今まさに飛びぬけた場所に在った。


「手応えは無かった――じゃあ何が――」

「おっと、そいつは悪手だ」


 莉乃が呟いた次の瞬間、彼女の左肩から血が、細く細く(ほとばし)る。何が起きたか理解出来ていないようで、痛みと出血に困惑する莉乃。その後ろ、ちょうど莉乃の傷の位置を通るように、愛羅から直線上にあたる床に細い穴があいて煙を噴き上げていた。


「その迷いはお前を殺すぞ、今ので一回。お前はあと何度、俺の前で死ぬかな?」


 不敵に笑う愛羅に、莉乃は歯を噛み締め再度走り距離を詰める。愚直な莉乃を愛羅は鼻で笑うと、やれやれと言わんばかりに両手を広げた。


「こういう所は女子高生……っていうか普通なんだな」


 愛羅がご丁寧に莉乃まで聞こえるようにぼやくと、莉乃は固まってしまった。愛羅のセリフに対してではない、現実とは思えない光景が彼女の眼前に広がっていたからだ。


 目の前で、真田愛羅は二人、四人、更には八人と横にまるで滑るように現れ、全員が莉乃を嘲笑いながら見つめていたのだ。


「ひとつファンサービスだ、お前が相手している奴をしっかり見ろよ」


 意地悪そうに笑い、愛羅は莉乃へと投げかける。莉乃の後ろではギャラリーと化した一部の仮装した超能力者達――主には莉乃より幼いだろう子供たち――が興奮するように声を上げ、黄色い声援に愛羅はヒラヒラと手で応えて返す。


 アウェイでの知らない能力との単独での戦闘。これは莉乃にとって初めての体験となっていた。今まではご丁寧に超能力者自身が暴露するか、あるいは傍らにいた彩音や剛介が助言するように相手の分析を勝手にしてくれていた。知らず知らずのうちに、これらの情報は莉乃にとって十分なアドバンテージとなっていたのだろう、莉乃は十分にポテンシャルを発揮できていた。

 だが、今この状況ではそれが圧倒的に欠如しているのだ。眼前の相手へ敵意をむき出しにし、感情的に繰り出す莉乃の蹴りや拳が届くことは難しいだろう。これを、興奮する莉乃は考えることが出来ないでいた。彼女に対して声をかける者がいないのだから。

 

 だが、それは意外な人物によって解消されるのであった。


「――織原、お前は一人だと随分直情型だが、俺は嫌いじゃあない。でもな、俺達が放り込まれる戦場では、ただ闇雲に突っ込むだけじゃ犬死だ」


 怒りと困惑の混じり合った表情を浮かべ、立ち竦む莉乃に対して、愛羅は続けて話す。


「お前はまだど素人だ、だから副所長の足を引っ張って今がある。でもしょうがねぇだろ? 最初は誰だってぇ初心者様だ。だがな、それを良しとしちゃあ悪だ。自分で考え、仲間と相手を理解し、状況に応じて立ち回る必要がある。これは最低限だ、俺達は独力で出来ることが偏ってるからなぁ」


 数人の愛羅は一糸乱れぬ動きをしながら、莉乃に対して説くように語った。莉乃としても耳が痛い話であったことは事実だろう、彼女は目を伏せ愛羅から視線を反らしてしまう。

 目の前の女性、愛羅は莉乃へ「独りよがりであるな」と説いているのだから、今までの莉乃の行動を考えれば思い当たる所が無いと言うには無理があった。「敵である」という理由から非情なまでの仕打ちをした事実、無力化をするために仲間を人柱のように能力を観察した事実。結果論ではあるが、莉乃は自己矛盾に棚に上げたような主張をしていたことになる。


 ここで、誰かの一言でもあれば莉乃は愛羅の言葉を無視して殴り出せたのだろう。しかし、そのスイッチを自分で入れるにもこの事実は重く、一介の女子高生である莉乃にとってこの場ですぐに気持ちを切り替えることは困難であろう。


「柄にも無くお説教垂れてやったんだ。で、お前は今なにを見せてくれる?」


 容赦なく莉乃へと言論の追撃をかける愛羅。これを傍観する人はどう思うのか、止めに入っていた看護服の女性も瑠奈も、何も言わず静観を決め込んでいた。それは何か、これから仲間となる織原莉乃という少女へ期待か、あるいは値踏みのための情報を求めていたのだろうか。


 莉乃は下を向いたまま立ち上がり、ゆっくりと愛羅へと歩み寄る。


「ご高説どうも、悔しいけど反論の余地がないくらい……私自身に腹が立って仕方無い……」

「そりゃ結構。それで、今お前がすべきことはなんだと考えるよ?」


 莉乃の返答へ、それに対して決して満足はしていないように愛羅は莉乃をじっとりと見つめた。


「まず――力の証明っ!」


 目を伏せたまま莉乃が叫んだ瞬間、緩急激しく地を蹴り跳ねるように走ると、彼女は愛羅へと突っ込んでいく。愛羅「達」はどこか残念そうな表情をし、変わらず立ち尽くしていた。


 だが、莉乃は見事に愛羅を通りぬけ、彼女を蹴りぬいた時のようにすり抜ける。すると、少し進んだ先、愛羅「達」が立っている二列後ろの机の間に跳ねるように入ると、腕を振りかざして何かを掴んだ。


「掴まえたよ、おばさん」


 傍目にも、莉乃は何も無いところへ話しかけているようだった。しかし、その莉乃に背を向けている愛羅「達」は驚きの表情を見せ、まるで莉乃の何かを掴んでいるらしい腕とリンクするように右手が挙がっていた。


「話には聞いてたが、どうにも勘が良すぎねぇか。こりゃチートだぜ」

「喋り過ぎ――それに、一回死んだあと、でしょ?」


 愛羅「達」はため息を吐きながら笑いを吹き出すと、それぞれが歪んで収束を始める。気付けば莉乃の前には、腕を掴まれている愛羅の虚像が重なり実体をあらわしていた。


「おばさんはやめろよ、良き人生の先輩じゃあねぇかよ」


 愛羅は掴まれた右腕を軽く揺すって離すように促し、莉乃もそれに従う。スマホをポケットにしまいなおした愛羅は、その右手で莉乃へと手を差し伸べる。


「改めてだ織原、真田愛羅だ。残念ながら、粛正ってのはどっちがしたと思うよ?」

「……身の程を弁えます、愛羅さん」


 莉乃は少しの沈黙の後に渋々だが愛羅に応えて握手を交わした。何か「勝ち」を確信した愛羅はニッと笑うと、看護服の女性へと向き直る。


「ほれ見ろ悠美、丸く治まったじゃねぇか!」

「結果論……というか、床に穴開けておいてよくそんなことを――」

「まぁ直せるやついるだろ。あと織原の肩とついでにわき腹も誰かやってやれ」


 悠美と呼ばれた看護服の女性が頭を抱えるも、それを無視するように愛羅は自分のしたいこと言いたいことしか興味がないように振る舞っていた。


「でも愛羅さん、私はみんなが阿古さんの事を何も思ってないのは――」

「いや、その証明ももう出来たみてぇだ」


 愛羅は莉乃の言葉を遮ると、莉乃の肩越しに会議室の入り口を見つめて言い放った。


「良いね~織原くん、真田くんとももう仲良しみたいで! やっぱり、神経を操れるとコミュニケーションも思うがままだったり?」

「先生、アンタの目は節穴ですか。しっかりやり合った後でしょありゃ」

「そういう阿古くんは人のこと言えるのかな? じゃあ本題に入る前に、ちょちょっと治してあげたまえ」


 そこにはいつも通り上機嫌の彩音とつられて笑うカール、これまたいつも通りに立ち振る舞う剛介の姿があった。莉乃はすぐさま剛介へと駆け寄り、肩を強く揺すりながら叫び散らかした。


「アンタ何をいけしゃあしゃあと現れてんのよ! な~にが『超再生』よ! 倒れちゃうんなら今すぐその名前を返上しろ!」

「お、織原――傷に、お前の傷に障るから! ちょっと黙れ! おい! 治さねぇぞおい!」


 莉乃と剛介の漫才じみたやり取りに、会議室に集まる異常者達の笑う声が響いた。昼下がりの国立神経科学研究センターは、敵襲が目前まで迫っていたことを忘れさせるほどに平常運行であった。

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