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織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
一章 真実と代償、偽りの相貌
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野比瑠奈はできる子だけど気持ちがどうも先走る(4)


「ここは……隠れ家的愛の巣……?」

「おい、やっぱ脳に異常があんじゃねぇのかこれ」

「大丈夫、このおかしさは平常運行よ」


 瑠奈が目覚めると、そこにはつい先日訪れたばかりの喫茶店の景色が広がっていた。丸テーブルの対になるように莉乃と剛介が腰を掛けており、それぞれ紅茶とコーヒーを啜りながら二人で瑠奈を見て話していた。


「織原ちゃんと剛ちゃん……あれ、私どうして――」

「帰り道に瑠奈が貧血で倒れちゃって、たまたま通りかかった阿古さんに手を借りて一休みがてら、ね?」


 まくし立てるように瑠奈へ説明すると、莉乃は剛介へ睨みとしか思えないようなアイコンタクトを飛ばす。剛介は全力で同意を示すように、首を縦に振り続ける。

 一連の会話に際して、目が覚めたての瑠奈は落ち着いたトーンで話していたが、莉乃は若干声を張ってしまったためか店主からの視線を感じた。苦い顔をすると、声の明瞭さをそのままに、綺麗にボリュームのみ抑えて話続けた。


「それで阿古さん、本題に移りたいのだけど」


 莉乃は澄ました顔で阿古が来た本来の目的へと話題を転換しようとする。その裏には、最悪の場合には死に至ると言われる手刀での意識喪失をやってしまった事実の隠蔽が見え隠れしていた。剛介は莉乃をジトッと見るも、彼女の澄まし顔の完璧さに呆れたのか、はたまた本来の目的を果たせれば良いと切り替えたのか莉乃の流れに乗った。


「あぁ、まず俺達全体への共通連絡からだ」


 阿古はクラッチバッグからレジュメのようなものを取りだし、二人へと配った。そこには顔写真と詳細な個人情報、一見わけのわからない数値の羅列があった。


「この前の襲撃者についての情報。それと、こいつが所属していたと考えられる敵さんについての概要だ。俺もだが、お前らも敵が何者なのかを理解すべきだろ」

「じゃあもう織原ちゃんも正式に私達の仲間ってことね!」

「あ……そうか、色々あってちゃんと答えは貰ってなかったか。先生からは織原にも伝えてくれとも言われたし、ひとつ参考材料にしてくれや」


 少し戸惑う莉乃だったが、本人の参加の意思はある程度固まっているのだろう。剛介から貰ったレジュメを食い入るように見つめる。だが、そう間を置かずして、莉乃が思わず声を上げた。


「あのお姉さん16歳なの!?  同い年に見えなかったでしょ!? というかお姉さんじゃないじゃん!」


 またしても大声を上げてしまいそうになるが、何か頭によぎったのか比較的抑え目で驚くことに莉乃は成功していた。

 坂上澪。先日、彩音を襲った襲撃者である。歳は16で莉乃と同い年にあたる。資料に再び目を落とすと、純日本人というわけではなく、母方が旧ドイツ人であるとの記載があった。ハーフやクオーターが珍しいわけでは決して無いはずだが、莉乃は同年代におけるそれを初めて目の当たりにした事となった。

 出生は日本となっているが、中学校卒業までの記録しか存在せず、その後は行方不明とされていた。能力については幼少から体温が不安定で通院を余儀無くされていた事から、発現が早かったのではないかという推測の文が添えられており、その隣には数値データらしき表があった。


「驚く所はそこじゃねぇんだな。あの女、ヒューマンエンパシー……っても織原はわかんねぇな。先生の元教え子が亡命した結社の所属だった」

「マンパシーってあれでしょ? 過激派になりたいけど能力開発が貧弱で、リア充になり損ねたキョロ充みたいな」

「随分辛辣だな……まぁそれなんだが、どうやったらマンパシーであんな化け物を育てられたんだって話でな」


 剛介の回答に瑠奈は目を見開いて驚いた。「化け物」という評価が誰によって下されたのか所在は定かで無いが、ヒューマンエンパシーに対する瑠奈の印象の通り、それは想定外のものだったからであろう。


 ヒューマンエンパシーは超能力研究をする結社のひとつであり、旧ヨーロッパで確立したものとされている。活動内容としてはインフラ整備のための能力研究と、穏健派である。その背景には、かつての世界統一において反抗した時、最も非力さを晒してしまったことがある。ヨーロッパに属する研究者達が優れていないわけではなく、単に攻撃的な能力開発よりも産業的能力開発に長けていたのだ。彼らのポリシーとして、今後の超能力の公開及び生活への投入が掲げられており、比較的堂々と研究を出来ていた。


 そんな彼らが何かしらのアクションを起こしてまで坂上澪という少女を確保し、彩音へ襲撃を仕掛けるに至ったというのは大いに謎となっているのだ。


「そのマンパシー? ってのがどうして攻撃してきたの?」

「それがわかりゃ苦労しねぇんだが、先生は一種の宣戦布告じゃねぇかってな」


 莉乃の質問に対し、剛介は緊迫感を籠らせた声で彩音の導き出した結論を答えた。


「今回の襲撃はあまりにも雑なんだよ、一人で突っ込んでくるなんて上も下もバカだ。こちとら世界最高峰の施設と能力者を保有しているってうたってんだ。あっちのお偉いさんは坂上澪がまだ生きてるとも思ってねぇかもな」

「なんでそんな! それじゃまるで――」

「兵器、だよね。具体的には爆弾投下って気分なのかな。色んな所に喧嘩売ってくるじゃん」


 理解に苦しんでいるのか、怯える莉乃。その両隣には静かに憤怒する瑠奈と剛介が在った。彼らは彩音の「全てを救う」という理想に同意し、尚且つ救われた側の人間である。かつて兵器としてのみ存在理由を有した超能力者にも、束縛のない人並みの未来を見せたいと行動する彼らが激昂するには十二分であった。


「無意味に歴史を繰り返して何の意味が――」

「そこまでだ野比。本題に戻るぞ」


 瑠奈は興奮のあまり瞳孔が開いていたように見えたが、剛介が手を掲げ静止すると大人しくしたがった。


「悪いね剛ちゃん……」


 落ち着いた、いつもの表情で瑠奈は剛介へと謝罪する。束の間、莉乃には剛介が瑠奈の感情をもコントロールしたようにすら感じられたが、いつものように発光するような素振りは見えなかった。

 何もかもを能力と思い込んでしまう傾向が出ており質問が喉まで来ているようだったが、それは控えて剛介を見つめる。


「いつもの事だろ。それでだ、来週の土曜にミーティングを開くことが決まった。ひとつは敵への対処の検討。ひとつは坂上澪を迎え入れるため。願わくばもうひとつ、織原を迎え入れる――って所か」

「……お姉さん無事なの?」


 しっかりトラウマを受け付けた莉乃としては、大丈夫と言われても気になって仕方がなかっただろう。しかも、これから同じ組織のメンバーとして現れるとなると、回復を越えて最早洗脳とも思える。


「問題ない。どうやら別の能力も関わっていたようで別人みてぇになったらしい」

「私は初めましてだけど、織原ちゃんと剛ちゃんは複雑そーだ……」


 剛介は鼻で笑うと、荷物をまとめて立ち上がる。


「まぁそんなわけだ。レジュメにも書いといたが来週土曜、午後一時に先生の研究室な」


 万札を一枚机に添えると、店を後にした。莉乃と瑠奈はどうにか引き留めようとするが、金髪ヤンキーはどこか満足げな顔で颯爽と歩みを止めなかった。


「おまたせしました~、特性パンケーキ三つね~」

「あ、ありがとうございます」


 剛介が離席して間もなく、二人の前にはパンケーキが三人前運ばれてくる。計九枚もの分厚いそれらは、提供時に置かれた衝撃からか未だに揺れ動いていた。


「……勿体ないし食べようか」

「織原ちゃんが二人分食べてよ、満腹中枢とかもいじれそうだし頑張って」

「いや、瑠奈は育ち盛りじゃない。遠慮いらないわ、後輩は存分に甘えなさい」


 デザートは別腹であろうが、カロリーは乙女の天敵でもある。二人の女子高生はそれぞれパンケーキを食べながらも、余剰の一枚を丁寧に押し付けあうハメになってしまっていた。

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