表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織原莉乃は出る杭だから打たれる前に打ち返す  作者: 20時18分
一章 真実と代償、偽りの相貌
11/65

無情なヒロイン(3)


「それはなんとも、いやはや狂ってる! 本当にただの女子高生してたのかい? 織原くん、勿体なさ過ぎる! 君は私の予想を平然と超えるね!」


 まるで無邪気な少年のように彩音ははしゃいでみせると、元いた彼の大きな椅子へと戻ってどっしりと座った。机の脇に置いていた薄い鞄からノートパソコンを取り出すと起動するが、立ち上がりの数秒も堪え切れないように指で机を叩いて見せる


「色々試したくて滾るねぇ! ……ただ、ちょっとその前に片付けないと、だね」


 パソコンが立ち上がったのか、止まることを知らぬが如くキーボードを弾き出し、同時に貧乏ゆすりを始める。彩音の身体は落ち着きを知らないが、その口と目線は部屋の片隅で震えて吠える澪へと向けられていた。

 歓喜の声を上げる彩音とは対照的に、無事に身体の自由を取り戻したはずの澪は四肢を折り畳むように縮こまり、莉乃を真っ直ぐ見て言葉にならぬ声を上げている。その眼は恐怖の一色で染まっており、莉乃は何の感情も抱いていないかのような、表情筋の活躍の無い顔で見降ろす。


「先生、俺には心の病も治せる自信はもう無くなったぞ。目の前の化け物女子高生のおかげでな」


 剛介もまた澪を見つめていた。彼の苦々しい顔と自信の消失を招いた原因は、斜め前に立つ織原莉乃という女子高生にあった。彩音へ遠まわしに無理だと言いつつも、剛介は澪へ近づいて彼女の頭に手を添えるてはみているが、怯えきった女性があり続けることが答えとして無慈悲に突き付けられる。

 彩音は剛介にヒラヒラと手を振り、やめるように促して澪から離れさせる。


「阿古くんは散々データを取ってるからね、駄目もとだから大丈夫。これは野比くんでも試してみて、駄目なら瀬良くんか」


 彩音はクルクルと椅子で回りながら上を見上げ、幾つか案を出した。剛介は一言謝るが、彩音は笑っており全く気に留めていないようだった。


「瀬良さん……は何をする人、ですか?」


 2人の間へ若干控えめに莉乃が質問を挟んだ。初めて聞く名前、瑠奈と並ぶということは超能力者であることを察するのは容易であろう。


「悠美……瀬良悠美(せら ゆみ)は精神操作の類いの能力者だ。ほとんどセラピストみたいな事しか出来ないけどな」

「瀬良くんはとても優しい子だからね。この研究所内で救われている者は多いんだ、戦う力だけが超能力じゃあないんだよ」


 彩音は剛介の言ったことに付け加え、瀬良悠美という女性について説明した。剛介はばつが悪い顔をするが、彩音はにこやかに「拗ねないでよ阿古くん」と茶化す。


「だからね、野比くんに精神的な成長も出来るか試したうえで、無理なら瀬良くんへポイッとね。十中八九、坂上くんの精神状態は回復するさ」


 剛介を茶化した表情のまま彩音は莉乃へ視線を送る。莉乃が澪を心配しているかどうかはわからない。正確には、心配ないしは不安げな瞬間と興味が微塵もない瞬間のどちらも存在した。今の莉乃がどう思っているかは不確かだが、それでも彩音は彼女へ気を遣ったのだろう。


「やっぱり今日は一先ず解散だね。アナウンスは無かったが警報は止んでたし、長話をしているうちに襲われる事もなかったということは澪くんだけだったようだね。」


 パソコンを叩き終えると、彩音は施設内の警戒解除を伝えるメールを開いてパソコンを莉乃達に向けた。


「いやぁ、君達の身の安全を第一に考えるべきだった。好奇心が勝ってしまってつい忘れてたよ……」


 またも笑って誤魔化そうとする彩音に、莉乃と剛介は顔を見合わせて呆れたように肩をすくめる。そんな2人を相変わらず気にせず、彩音は電話をかける。


「――あぁもしもし、(おき)くん元気? そっちどう? 火災? 大変だぁねぇ……うん、そうね――」


 話を聞いている限り、同施設内の研究員と話しているようだった。世間話のように被害状況を軽く確認し終えると、襲撃の犯人たる澪の確保と状態を伝え、人手を寄越すように伝える。


「あぁ、阿古くんは織原くん送ってあげて。エスコートは男性の嗜み――ん?そうそう、例の女子高生の子ね、いやぁ凄くてさぁ――」


 電話をしながら片手間で指示された剛介は生返事をし、莉乃に一声かけ部屋を出ていく。莉乃は彩音へ一礼し、彼が手をひらりとして返したのを見て剛介の後に続いた。

 彩音京也の研究室は一転人口密度が減るも、彼の賑やかな話し声と澪の現実逃避するようにあげる声とが広がり続けた。





 莉乃と剛介は歪んだ廊下を歩く。澪の能力がどれほど強力であったか示すように、窓のない研究室内の壁や扉がひび割れを起こしていた。建物内だというのに、2人は微妙な勾配を成す道を進み続けた。


「アイツ、どうなっちまうんだろうな」


 いびつな廊下をじっと見つめて歩きながら、剛介が独り言のように呟く。


「どうって、お姉さんは敵なんじゃないの?」

「お前先生の話し本当に聞いてたのか?あの人はアイツも救うつもりだ、つまりは俺達と同じように迎えようとしてるんだよ。でもあのザマじゃな……」


 莉乃は「あぁ」と抜けた返事をするが、そのあとに続く言葉は無かった。莉乃は何を考えるのだろうか。澪を狂わせた直接の引き金を引いたのは彼女なのだ。人一人の人生をめちゃくちゃにしたと言っても差し支えない、誰が見ても明白にわかる状況だ。それならば、狂わせてしまった一介の女子高生はどう思い、考え込んでしまうだろうか。

 だが、その莉乃は一介の女子高生ではなかった。何も負の感情を思わせるような表情を見せない。


「瑠奈もその瀬良さんって人も無理だったら、多分私がどうにか出来るし大丈夫でしょ」


 真顔で非常識なことを言う莉乃を、剛介は若干引き気味で見つめる。だが、発言した当人は至って真面目であるかのように、剛介に対して疑問符の浮かんだかのように首をかしげる。


「いや……お前、自分の能力のこと何かわかったのか?」

「うん、大体。とりあえず人なら自分でも他人でも思い通りになるんだと思う」

「は?」


 剛介は思わず立ち止り、若干声のボリュームが上がる。


「阿古さんも頭に爪グイッとさせてくれれば、運動神経抜群にしちゃうよ」


 いたずらに莉乃は笑うが、全力で首を横にふって剛介は距離を取る。莉乃の言う事に信憑性が無いとは言い切れないが、先程の澪の様子を見せられて同じように能力を味わう人――それが超能力者となれば尚更だが――は決していないだろう。自身のアイデンティティを奪われでもすれば、誰しも澪のように発狂しても不思議ではない。

 それが、ただの女子高生に、一瞬で行われでもすれば無理もないだろう。


「これ先生が最初に提案したんだから、やっぱあの人おかしいわね」


 クスクスと莉乃は笑うが、剛介は血の気が引いたような顔色と化していた。つまりは、もし何か能力の勘違いでもおこしていて、莉乃が彩音の提案通りに動いていたら剛介の能力が崩壊していた可能性もあったのだ。勘弁してくれと言った矢先、その危険がついさっき訪れていた真実に気付けば顔も青ざめるだろう。

 莉乃は「やんないから」と剛介の背中をバンッと叩き、上機嫌で廊下を進む。

 

 日差しの差し込む所まで戻り、一件の出来ごとが一瞬であったことを再認識させられる。日が少し傾いた頃、2人は数時間ぶりに澄んだ空気を全身に浴びた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ