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「おら! 気持ち悪いんだよ!」


 そう言われ俺はとつぜん殴られ、地に這いつくばることになった。起き上がろうとするもなかなか起き上がれず、あっという間に囲まれてしまう。


 俺を殴ったのは俺の兄である、ルーグ・ウェルステインだ。


 そして俺を囲んでいるのは取り巻きのケール・ビーグレンとナールグ・デーリブ。


 やつらは俺を見つけては一方的に暴力を奮ってくる。それを見ているはずの周りの奴らは、見てみぬふりをするか俺のことを言葉で罵ってくるかのどちらかだ。


「まだくたばるんじゃねぇぞ!」


「グフッ!!??」


 俺の反応が弱くなったのが面白くなかったのか更に強く蹴られる。


「チッ、つまんねぇの。帰るぞ」


 暫くすると飽きたのか帰っていった。俺はフラフラしながらも立ち上がり歩く。家に帰るわけではない。森に入り薬草を探すのである。


 薬草を取ってお気に入りの場所へ向かいそこで薬草を傷口に当てる。幸い大きな怪我はなく、痣や擦り傷などが体中にある。今日できた傷以外にも身体には、治りかけの傷や傷跡が無数にある。


 この場所は俺にとって唯一の安らぎの場なのだ。湖の畔にあるこの場所はルーグとその取り巻きにも見つかったことはない。この場所は俺だけの場所だ。


 そのはず……だった。


「――い。――おい!」


「!?」


 突然声をかけられた俺は他の奴らにバレたのかと思い、手を出されないようにバックステップして下がろうとする。


「――ぎぅっ。痛っ」


 しかし、傷口が痛み途中で転んでしまう。


「お、おい。ど、どうした?」


「くるなっ」


 声の主が近寄ってこようとしたので俺は声で牽制してなんとか体勢をととのえる。


 声の主がルーグたちでないことはその声からしてわかったのだが、どんなやつか気になり声がした方向を向く。


「――ッ」


 そこにいたのは燃えているかのような赤い髪を腰の少し上のあたりまで伸ばしていて、凛としている輪郭にスッとした鼻に、キリッとした赤い目をしている――少女。


 まだ幼さを持っていながらどこか大人の雰囲気を持ち合わせている、少女。


 思わずその容姿に見とれてしまったが、そいつが暴力を奮ってこないとは限らないので警戒する。


「お、おい、怪我してるじゃないか!? 早く治療を――」


「近づくなっ。近づくんじゃ、ない」


 そう言ってるにも関わらず近寄ってくるのでこちらは後ろに下がる。しばらくそうしていると後ろにあった木まで追い込まれてしまった。俺がチラッと後ろを確認した僅かな隙にその少女は、目の前まで来ていた。


「うお!?」


 そこで俺は運悪く後ろにあった木に後頭部をぶつけて気を失ってしまった。




 ーーーーー




「ぅ、ぅうん」


 目を覚ますと先程の少女が何やら焦った様子でいたが、薬草を見つけると傷口に薬草を押し付けている。それが逆に痛いのだが。


「おい」


「よ、よかったぁ…生きて――」


「俺から離れろ」


 なるべく低い声で俺はそう告げる。それが効いたのか少女は固まった。その隙に俺は少し離れて薬草を取って右手で傷口に当てて、空いてる左手で薬草を口に入れて食べる。薬草は食べても効くのだ。暫くそうしていると傷は治った。


「傷は大丈夫か?」


「見てわからないのか。その目は飾りか」


 そう返すと少女の眉はピクッと動くがなんとか堪えたのかそのまま続ける。


「どこか痛いところはないか?」


「どうやら本当に飾り物の目だったらしい」


 二度目はギリギリ我慢できたのであろう。だがその目は三度目はないぞと言わんばかりだ。


「な、名前はなんというのだ?」


「人に名前を聞くときは自分から名乗れと教わらなかったのか」


 少女は顔を真っ赤にするがまだ耐えているようで顔を真っ赤にしたまま会話を続けた。


「わ、私の名はエリスティア・オルステンだっ! さぁ私は名乗ったぞ。次はお前の番だ!」


 驚いた。どこかのお嬢様だとはわかったがまさか公爵令嬢だったとは……。


「俺は名乗るなんて一言もいっていない」


 だがしかし俺も実は公爵家のお坊っちゃんなのだよ。言わないけど。


 しかし少女はその態度が気に入らないのか堪忍袋の緒が切れたのか、おそらく後者だろうが、怒鳴り散らす。


「むきぃいい!! その態度は何なのだ!? こちらが名乗ったのになぜ名乗らんのだ!? 私は公爵令嬢なのだぞ!? 私、偉いんだぞ!?」


「別にお前が偉いわけじゃないだろう。あんたの親父が公爵であり偉いのであって、お前は爵位で言えば準男爵なんだぞ。ちなみに一つ言わせてもらうと俺の親父も公爵でその息子である俺はお前と対等の立場だ」


 勢いで親父が公爵だと言ってしまった。幸いウェルステイン公爵とはいってないが公爵家の子息で俺の髪と目の色が分かれば貴族であるならば俺の名前は必然と思い浮かぶだろう。


「それで、お前の名前は何なのだ?」


「―――は? わかんないのか?」


「いんや、わかるぞ。公爵家のご子息で黒目黒髪のものと言えばわからないものは貴族内ではいないだろう。

 しかし、友となるには名乗り合わない訳には行かないだろう? 私は名乗ったぞ、次はお前の番だ」


 こいつ、面白いな。俺の髪と目の色を知っても友人になろうとするなんて。こいつとなら友になれそうだ。


「――俺の、俺の名前は、アルマゲスト・ウェルステイン」


「アルマゲストというのだな。よろしくな、アルマっ!」


 とてつもなく眩しい笑顔で彼女は言った。そんな彼女に俺は素直に言ってしまった


「あぁ。よろしく、エリス」




 ーーーーー



「あぁ。よろしく、エリス」


「おっ! ようやく素直に答えてくれたなっ。そっちのほうがいいぞ!」


 エリスは何を言っているんだろうか。俺がいつ素直になったんだ。


「何をいっているんだ。そんなことより俺の髪や目が気持ち悪くないのか?」


「黒い髪と黒い目か? 全然気持ち悪くなんかないぞ。むしろ、羨ましい! 澄んだ黒い目にきれいな黒い髪。いいじゃないか! 好きだぞっ。私は」


 どこへ行っても気味悪がられるこの髪と目がきれい? 嬉しいことを言ってくれるな。


「そ、そうか。ところでエリス。お前はこんなところにいて大丈夫なのか? 俺は屋敷でも嫌われ者だからいいけど、お前はちがうだろう」


「そ、そうだった! 屋敷を抜け出してきたんだ! そろそろ戻らなければ!」


 やはり。嫌われ者の俺と違って忙しいんだな。ていうか抜け出しちゃだめだろうに。警備員は何をやってるんだ。


「ア、アルマ! 明日もここへ来れるか?」


「なにか事件がない限りこれるさ」


「そうかっ。じゃあ明日! 明日もここへ来るんだぞ! 約束だぞ!?」


「あ、あぁ。わかったから早くいけ。じゃあな」


 俺がそう言うとエリスは走って帰っていった。俺はここで一眠りするとしよう。目を閉じてすぐに俺は眠りについた。



 ーーーーー



 目を覚ますと日が落ちかけていた。俺はそろそろ帰ろうと思い、帰途につく。暫く歩いているとルーグたちがこちらを見てニヤニヤしているのが見えた。運が悪い。


「よぉアルマ。ちょっとツラ貸せや」


「ついてくるんだなっ」


「ついてくるのですよ、ニヒヒ」


 はぁめんどくさ。一応抵抗しとこうかね、どうせ無意味だろうけど。


「打たれるのがわかっていてついていくとでもおもってんのか」


 おもってなきゃこんなこといわんだろうがな。


「うるせぇ! てめぇはだまってついてくれゃいいんだよ!」


 そこで俺は殴られてよろけたところを取り巻きの二人に腕を捕まれ引きづられていく。


 連れてこられたのは街の外にあるちょっとした崖。


「わざわざ門兵に賄賂まで渡してご苦労なこった」


 そういうと俺は腹パンされた。


「てめぇにはききてぇことがあるんだ。聞かれたことだけ喋っとけ!」


「聞きたいことねぇ。何が聞きたいんだ?」


「お前さぁ、今日エリスティア・オルステンと会ってたよなぁ?」


 なぜ。なぜこいつがそんなことを知ってんだよ。ここであったなんて答えたらエリスに迷惑かかるかもしれない。ここはあってないと答えるのが無難だな。


「さ、さぁ。今日はお前たち以外とあってないなぁ」


「てめぇがエリスティアと会ったのは知ってんだよ!」


「グフッ」


 知ってるなら聞くなよ。だがここで認めるわけにはいかない。


「エリスティアはお前には相応しくねぇ。俺にこそ相応しい! 次期公爵のこの俺にな!」


 こいつ何言ってんだ。

 ふさわしい? 

 何がふさわしいんだ。

 友として? 

 違う、こいつが言う相応しいの意味は恋人。または女。


 この男は、エリスは俺にこそ相応しいって言ってんだ。

 俺が頭をフル回転させてることなど関係ないとばかりに続ける。


「さっき挨拶しに言ったんだけどよ、俺なんか眼中にないって感じだったんだ。俺がお前は俺に相応しいって言ったのに、他を当たれ、私には心に決めた者がいる、の一言だったよ。それは誰だと思う? どんな男にも興味を示さなかった女帝がだぞ? 俺の考えでは間違いなくお前だと思うんだよなぁ」


 あいつが女帝? 面白い呼び名だな。明日からそうよんでやろう。しかも心に決めたものは俺? 今日あったばかりの俺が? ありえない。


「だからぁ、お前には死んでもらうことにしたんだ! そおうすれば女帝も俺を見るだろう!」


 死ぬ? 

 誰が。

 俺が。

 なぜ。

 一方的な考えによって。


 死ねない。絶対に死ねない!


「死ねるわけないだろうがっ。約束したんだ!」


 俺がそう叫ぶが取り巻き二人によって引きづられ崖は足元に合った。そして腹パンをされ痛む腹を抱えていると


「じゃあな」


 俺は蹴られた。

 俺の身体は崖へと落ちていく。

 重力に従って落ちていく。


 なぜだろう。

 なぜ髪と目の色が黒いだけで暴力を受けなければならないんだ。

 なぜ罵られなければならないんだ。

 なぜ死ななければならないんだ。

 なぜ俺は何もできないんだ。


 答えを見つける前に俺は大地へと叩きつけられた。




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