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飛翔の楕円球  作者: 西武球場亭内野指定席
9/11

第八話

7月中旬

夏休み前日

終業式が終わった後、源田は全部員を集めた。

「今日集まってもらったのは、夏休みの合宿のことだ。明日からの合同合宿は3泊4日だが、U-17日本代表に選ばれた三浦、北山、石原は終了後すぐに代表合宿、さらにその後に菅平合宿がある。全員気を引き締めて行け。と、言いたいところだが、予算や部屋の都合により菅平合宿に連れて行くのは25人。まあ、1年生の参加は任意だがさほど期待はしないように。それから山内、お前は菅平合宿への参加禁止。菅平合宿の期間中に特進クラスの集中講義があるから、全員出ろということだ」

特進クラスの夏の集中講義は座学8割、テスト2割の内容。朝9時から夜9時半まで勉強漬けとなり、これが4日も続くのである。

「菅平に行けなかった残りの部員は期間中も練習を行ってもらう。もちろん合同練習だが、20分試合を何度もやってもらう。以上で話は終わり。今日の練習はちょっと早めに切り上げるから、早めに帰って合宿の支度をするように」



翌日

全国大会を目指す強豪校並みの過酷な合宿が始まった。

今回は4校合同合宿。所沢第一、川越総合科学、そして港南千葉の3校が遠征してきた。

初日は3校に加え、若葉ヶ丘高校と川越城西高校が練習試合に訪れた。

港南千葉高校のメンバーを見たとき、ワトソンコーチは桑田に対し港南千葉の部員に混じって練習に参加しろと言った。

どういう意図かは誰にもわからない。

この合宿は午前中は実践練習やサーキットトレーニング、午後は人工芝のグランドと土のグランドの2面を使っての練習試合を行うこととなっていたが、3日目と4日目以外は土のグランドをサッカー部が使用するため、初日と2日目は1試合あたりの試合時間を短縮して多くの試合をすることとした。


PM 2:50

所沢第一高校との練習試合。


この練習試合は2年生と1年生だけの試合。3年生はというと…

「おい、さっき試合が終わったばかりなのに外で筋トレとかふざけてるだろ…」

「まったくだ…暑い…クラブハウスに行かせてくれ…」

3年生は気温35度を超える猛暑で体力を消耗していた。

2年生の出場メンバーは連戦にならないように調整していたが、それでも疲れは否めない。


この試合は30分で行われた。

10分過ぎ、左センターの中尾がハーフウェイラインから独走を決めトライを奪う。

コンバージョンキックも成功。

所沢 0 - 7 港南


そして試合終了間際。

所沢一高のモールの前に苦戦するも、懸命なディフェンスで食い止め、得点を与えず。

最後は所沢一高フッカーの原口のノックオンで試合終了。


7対0で辛くも港南埼玉1,2年チームが勝った。


そこからさらに4試合行われ、ほとんどの選手が疲労困憊。

チームごとに試合が終わる時間がバラバラなので、最終試合が終わると順次風呂に入っていく。

風呂といってもほとんどはカラスの行水もいいところ。のんびり浸かると後がつかえるから早くしろと怒られる始末。


こうして全員が疲れ果てての夕食。

夕食は小池の実家の中華料理店『かどや』の親父さんと小池兄弟が作った中華料理。

学食のブースは管理栄養士の資格を持つ平林先生が管理者であるため、平林先生も料理を手伝ってくれた。

協力してくれた『かどや』の親父さんは「余った食材無駄にするのはもったいないからな。次もこうした機会があったら呼んでくれよ。中華料理から綺麗なスイーツまで作ってやっから」と言った。

ノルマは1人ご飯山盛り2杯以上。

消化しきれないのではないかという勢いでお米が多数持ち込まれていたため、必然的にそうなっていた。


おかずは回鍋肉、八宝菜、四川風激辛麻婆豆腐、焼き餃子、かに玉など。

デザートにはかき氷。

しかし、過酷な練習の後の食事のため、ほとんどの部員が倒れたりリバースする始末。


「わー」

声をあげて誰かが倒れるも…

「さあさあ起きて起きて」

と、無理矢理起こす始末。



港南埼玉は昨年に比べ倒れる人間こそ減ったが、1年生はことごとくリバースしダウン。シャバ僧トリオもチャラいこと言うくせに口ほどにもなく、あっさりとダウン。中尾、今村だけが耐えた。

2年生は吉野、上杉がリバースしダウン。井藤、小池、佐野も食事が進まなくなる中、宇野と矢部は完全にフードファイト状態。石原、中島、北山、三浦の4人もすました顔で食べ続ける。

3年生は山内、岡島が倒れるも、その他の部員は辛くも耐え抜いた。


2日目

合宿はさらに苛酷になっていった。

午後からの練習試合では東京の学校3校が訪れていた。

この日の夕食はやっぱり中華料理。今日のメニューは『かどや』の人気メニューの四川風激辛麻婆豆腐と青椒肉絲など。

しかし、これでは終わらない。

もちろんごはん山盛り三杯。

前日におかずが底をついて白ごはんのまま食べきるのは無理だという苦情を受け、ふりかけと食べるラー油、お徳用海苔佃煮が置かれる始末。

しかし、それでも倒れたりギブアップをするものが続発。リバース者は減ったが、合宿所のトイレの個室が埋まり、学校の校舎まで行くものが続発。


「ご飯をたくさん食べて大きくなろうとは言いましたが、学校の校舎のトイレにまで生徒が駆け込むような事態となるとね…私も流石にかばいきれませんよ」

「平林先生、申し訳ありません」


その夜

中尾は夢を見ていた。

中尾が中学3年の頃、中尾のいた福山東ラグビースクールは2年連続で全国大会優勝を果たした。

中尾は地元広島の高校どころか、大阪や名古屋の私立高校、さらには横浜の港南学園高校からも誘いが来ていたが、その全ての誘いを断り、地元福山の福山市立草戸高校に入学した。


〜〜〜〜〜〜

「親父、どういうことだよ急に転校って。入ってからまだ1ヶ月も経ってないんだぞ」

「会社の都合で部長代理って形で、本社に行くことになった。だが、会社の方は新たに埼玉県の狭山市って所に社宅を用意したから今すぐ今の社宅を引き払って家族全員で引っ越せって言ったんだ」

「高校はどうするんだよ」

「それなら問題ない。うちの会社が経営に参画してる港南学園埼玉高校に転校することが認められた。もう書類も揃ってるそうだ」

〜〜〜〜〜〜


その数時間前。

校長先生と源田は職員室で話していた。

「今の今まで源田先生には教えていなかったが、中尾くんの転校の件はやはり強引だったかね?」

「いくらなんでも強引ですよ。たまたま中尾くんの父親がうちの学校の系列の大学と関係がある企業の広島支店で働いていたからっていって、無理やり本社勤務にさせて、社宅を用意して家族共々埼玉に引っ越しさせるのは」

「本当は嬉しいんじゃないのか?人数不足にあえぐ状態だったんだから」

「実を言うと、そうですね。ただ、フォワードがまったく足りません。食べさせても食べさせても前一列を任せられるのがまだ1人しかいません」

「焦りは禁物だよ。一歩一歩進むしかないんだから」


3日目

「源田先生、学校のポストにこんなものがありました」

源田がひったくるように手紙を取る。

手紙の内容は挑戦状だった。

内容を要約すると「石川県の中学ラグビー大会決勝戦では随分と生意気なことを言ったな。明日の朝8時に練習試合をやりにここにくるから逃げるなよ」といったもの。

対戦校は石川県の加越学園高校。


挑戦状のことを港南千葉高の先生に教えると、港南千葉高の豊岡監督が源田を呼びつけた。

豊岡監督に手紙を見せると、豊岡監督は激怒した。

「このボケ!ゴルァ!うちのシマ荒らすどころか相手校のシマまで荒らすだなんてどういう領分だ!」

港南千葉高の豊岡監督が源田をはたき続ける。

豊岡監督と源田は早稲田大学の先輩後輩の間柄である。

「いてててて!だから選手は獲ってないって言ってるじゃないですか」

「だったらなんで加越学園高からこんな挑戦状が届くんじゃ!ボケ!ゴルァ!お前何か不手際でもやったか!?」

「違うんです」

「何が違うんじゃゴルァ!」

「出てる選手には獲得する価値がないと言っただけです」

「その発言はまずかったな」

と、港南千葉高の島岡コーチ。

「とにかく、こんな遺恨試合はまずい。私がお断りを入れ…」

「源田、受けて立て。大丈夫だ。お前のところは強い。今ならあの北埼高校と互角だ」

「ですが…」

「それとも、自分の教え子を信用できないとでも?」

「平たく言うならそうです。相手はあの北埼高校並みで、うちより格上です」

「そうか。ならこうしよう。練習試合にあたっては、我ら港南千葉高校も戦おう。こんな機会なかなかないからな」

と、島岡コーチがいう。

「賛成だ。島岡、いいアイデアじゃねえか」

「わかりました。貴方達がそこまで言うなら受けて立ちます。そのかわり、港南埼玉の前に戦ってください」

「おう。わかったよ」



昼食後、源田は部員全員をクラブハウスに集めた。

「みんな、よく聞いてくれ。明日の練習試合は突然ながら石川の加越学園高校が来ることになった」

その言葉を聞き、部員の半分は驚いた。

加越学園高校といえば、昨年の石川県大会では全試合完封で花園出場という実績通りの高いディフェンス力に定評のあるチームである。

花園では港南学園に14-0で敗れたもののベスト8。さらに、今年の選抜では3年前に選抜で準優勝した東京の文政高校に12-0で勝つなど全国にその名を知らしめた強豪校である。


「みんな、やってみたいか?」

「俺はやるよ」

と、三浦。

「ここで後輩に言われちゃ先輩の名目は立たないけど、俺は花園に出たいと本気で思うよ。だからやる」

と、大村。

この2人が声を上げたことから、全員が全員、練習試合を受けて立つことになった。


試合は明日。相手は強豪校。

しかし、花園と選抜に出場していてデータが揃っていたこともあり、マネージャーの中尾美菜子とたまたま学校に来ていた情報処理研究会のメンバーを呼びつけ、選手のデータをまとめろという無茶振りを強行する。

情報処理研究会の顧問の先生はすぐに源田のもとにすっ飛んで来たが、源田はそれをいいことにデータのまとめ作業を手伝わせる始末。

データは、選手の個人プロフィール、癖、チームの主戦法、トライ率、タックルの失敗率など多岐にわたることもあり、結局源田もデータまとめを手伝うこととなった。


最終的に全部のデータがまとまったのは18時。

プリントアウト後、このデータをベンチ入り予定の25人に配布。

明日の試合までに覚えろという無茶振りをして源田は立ち去った。


「相手校のデータか」

「これ全員分覚えろってか」

「バックスはバックスだけ、フォワードはフォワードだけってのはダメだよな」

「もちろんダメだ。バックスがフォワード止めなきゃいけないこともあるし、その逆もあるからな」

「覚えきれねえよ」

「相手も同じだよ。しかし、相手の場合はU-17日本代表の選考会に出てたメンバーしか把握できない。俺たちはこのメンバー全員を把握することができる。優位に立てるのは俺たちのほうさ」


こうして、練習と30分試合の数々が終わり、所沢一高と川越総合科学の部員はここで合宿終了。



夕食の時間

3泊4日なので今日で合宿の夕食は終わり。

3連休ということもあり『かどや』の主人も腕によりをかけた食事を作ってくれた。


この日もやはりたくさんの中華料理とご飯に満ち溢れていた。

そしてやっぱり倒れたりリバースする者続発。


「俺これ以上食ったら中華料理嫌いになっちゃうよ…」

と、吉野がつい弱音を吐く。

他の余裕で食えない部員も気持ちでは同じだが、それを尻目に食うフードファイターどもの前に、なんとか自分のノルマだけは消化しようと頑張っていた。


そして、就寝時間。

「うーん…」

「吉野、眠れないのか?」

「石原さん」

「あまり考えてもどうにもならないよ」

「緊張しないのか」

「明日負けてどうって話でもないよ。俺らにとって大切な目標は花園出場だろ?で、夢は大きく日本一」

「そういうところ見習いたいよ」

「俺だってお前に負けるところはあるよ。スピードだ。もっと自信を持て」

「でも…」

「お前の最高速なら並の選手ならまず止められない。それは俺が保証する。何しろ代表選考会でお前より足の速い奴はいなかったからな」

「…」

「明日の試合のキーパーソンはお前かもしれないよ」

「…」

「わかったらさっさと寝ることだな。明日も早いことだし。おやすみ」



つづく

更新がだいぶ遅れてしまったことお詫びいたします。


さて、前回のあとがきに書いた昌平高校でしたが、やはり東福岡には勝てませんでした。

それでも1回戦で勝ち、全国制覇を狙える強豪校から1トライを上げるだけでも大きな一歩だと思います。

今後の活躍に期待してます。


次回以降の更新は未定です。


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