第七話
4月
今年も新入生が入った。
目を引いたのはシャバ僧3人とスキンヘッド。
スキンヘッドの一年生は飯田嘉平。彼は実家がお寺で、将来は僧侶になるため仏教学部のある大学に進みたいとのこと。
シャバ僧3人は
金田敦夫
坊西聡
瀬川宣浩
彼らはいわゆる明るいシャバ僧。
見た目と違って礼儀正しい。
今年の新入生は他にも
武藤茂
大西洋
大西賢治
白井慎二
今村裕二
酒井幸太郎
小池勉
波留裕太郎
ラグビースクール出身者は今村と武藤だけ。
大西は双子で、いずれも身の丈185cmはあるノッポ。
小池勉は2年の小池和弘の弟である。
そして、新しいコーチが入ってきた。
名前はワトソン。イングランド出身の英語教師。
そして、源田の大学の2つ上の先輩。
現役時代のポジションはバックスほぼ全般で、メインはセンター。
知日派なうえ、高校の3年間は東大阪、大学の4年間は上石神井に住んでいたので日本語も話せる。
新生ラグビー部37名(3年生8名、2年生17名、1年生12名)は花園を目指し動き出した。
そして、4月中旬からは関東大会埼玉予選が始まった。
シードがないため、1回戦は強豪校によるフルボッコゲームが続発した。
(以下、港南埼玉高校の試合を準決勝までダイジェスト版でお楽しみください)
関東大会埼玉予選1回戦
相手は県立豊岡台高校。
実力差は歴然としており、145対0で圧勝。
関東大会埼玉予選2回戦
相手は県立不動岡商工高校。
前半は重量フォワードの前に苦戦を強いられるも、後半はバックスやフォワードのうちフランカーとナンバーエイトが持ち前の運動量を見せ、70対0で勝利。
関東大会埼玉予選準々決勝
相手は県立所沢第一高校。
一筋縄ではいかない相手の下馬評通り、スタンドオフ前田のステップとハンドリングの前に苦戦を強いられるも、2回戦同様要所要所でのディフェンス力が光り、相手に得点を与えず、港南埼玉は後半以降はフォワードを使った攻めでコツコツと得点を重ね、42対0で勝利。
関東大会埼玉予選準決勝
相手は県立熊谷商工高校。
かつて全国制覇を成し遂げた古豪であるが、バックスに問題があり、この試合では前半の5点リードをバックスのミスで簡単に失う。
さらに、カウンターアタックからのディフェンスがザルだったこともあり、結局、35対19で勝利した。
4月30日
広島から転校生がやってきた。
家庭の事情で急遽福山市立草戸高校から転校してきたとのこと。
草戸高校は過去5回全国大会に出ている古豪であるが、ここ数年はさっぱりであった。
転校生はラグビー部に入部。
名前は中尾裕樹。
福山のラグビースクールに所属していた。
ポジションはセンター。
50M走では1年生トップ。
転校生には1つ上の姉もおり、姉も転校してきた。
名前は中尾美菜子。
彼女もマネージャーとしてラグビー部に入った。
マネージャー不在のラグビー部にとっては心強い存在となった。
5月6日
関東大会埼玉県予選決勝
相手は北埼高校。
新人戦のリベンジを果たせるかどうかがかかった試合であった。
強風な上、やや小雨がぱらつく中で試合は始まった。
この日は互いに攻めあぐね、点が取れなかった。
北埼高校はペナルティーゴールのチャンスを3度もフイにし、港南埼玉高校は敵陣でのラインアウトでのミスが目立ち、山場がほとんどない中で前半終了。
後半も互いにディフェンスのキレは良いものの攻めはまったくダメ。特にペナルティー後に陣地を稼ぐためのキックがタッチラインを割らないなど、天候に振り回される有様。
試合は0対0のままロスタイムを迎えた。
ロスタイム直後、グラウンドを篠突く雨が叩きつける。
港南の12番石原、相手のハンドリングエラーからターンオーバーを見せ、一気に攻め込むも、残りわずか数メートルのところでノックオンを取られて試合終了。
結局両校優勝。完全な不完全燃焼で終わった。
5月中旬
国体予選が始まる。
ただし、港南埼玉は関東大会出場のため、予選免除。
この頃になると、1年生もポジションが決まってくる。
FWは小池(弟)、双子の大西、金田、坊西、瀬川、酒井。
FWは小池を除いては線が細いうえ、スクラムを組ませるにしても、前二列目を組ませることすら難しい者が多く、とてもではないが即戦力とは言いがたい。
BKは今村、中尾、武藤、波留、飯田、白井。
BKはFWと違い、経験者が3人いることもあり、信頼は高いものの、一方で馴れ合いが全くなく、ちょっとのミスで常に喧嘩する始末。
「今のパスは何だよ!高いじゃねえか!」
「何言ってんだこの野郎!あの程度のパスが捕れねえのかよ!」
「やめえやワレ、シゴウしたろか」
こんなもんだからタチが悪い。しかも中尾に至っては東部とはいえ広島育ちだから広島方言でキレると怖く聞こえる。
6月
関東大会が始まる。
港南埼玉は初戦の私立栃木第三高校に69対10で勝利するも、2回戦で優勝候補の私立水戸学園(茨城)に17対14で敗れ、あっさりと終わってしまった。
同時期に行われた高校日本代表選考合宿は2年生の武田、板橋、矢部、宇野、奥田、三浦、北山、石原の8人が参加。U-17枠で三浦、北山、石原の3人が選ばれた。
もっとも、武田と板橋はU-17枠に選出されなかったことに相当ご不満だったが。
正式決定は7月になるとのこと。
3年生は選出に値しないという理由で除外した。
それでも県選抜の選考会には出したが、3年生で県選抜の正規メンバーに残ったのはゴメスと大村だけ。それ以外の3年生は全員選考から外れた。
なお、日本代表選考合宿に参加した2年生は全員が正規メンバーとなった。
県選抜は実質的には北埼高校と港南埼玉の連合チームだが、誰も指摘すらしなかった。
それどころか
「今年の2強は北埼と港南埼玉だ」(新聞記者)
「県選抜は北埼と港南埼玉の連合だが、致し方ない。それだけ他チームに付け入る隙が無いということだ。特に港南埼玉は監督が変わってからメキメキ強くなった」(新聞記者社説)
などの論調が目立つ。
「源田先生」
「教頭先生、どうされました?」
「来月の合宿なんだが、あれで本当にいいのかね?」
「はい。あれだけのことをしないと花園には行けませんから」
「前半はそこまで強くないチームに戦わせて、途中で花園常連校が集う菅平に選抜メンバーを行かせ、帰ってきたらまた練習試合だらけ。選手が疲れるだろう」
「サモアやトンガから留学生が呼べればもう少しは楽なんですけどね」
「少しは考えたまえ。それに、サモアやトンガから留学生を呼べると本当に思っているのかね?」
「やはり楽観的ですか」
「そうだ。しかし反対はせん。私も彼らを見てたらこの学校にも少しは明るい話題ができるのではと考えているよ」
「教頭先生」
「だが、文武両道は学生の務めだ。昨年のラグビー部員の進学実績の酷さは忘れてはいないだろうね?」
「もちろんです」
「よろしい。ところで、合宿の時に君が国語の特別講義をしているようだが、私も付き合おう」
「教頭先生がですか?」
教頭の提案に源田が驚く。
「なに、私も教員の端くれ。いつでも英文法程度なら指導できるよ」
教頭先生は元々英語の教師。今は第一線から外れたものの、特別進学コースでの英語の作問は彼が行なっている。
「ありがとうございます」
「礼なら花園に行ってからな。これでも君らを信じてるんだから期待を裏切るなよ」
そういうと、教頭先生は去ってしまった。
花園予選まであと3か月と少し。
チーム強化のため、源田らはさらに策を練る。
つづく
だいぶ更新が遅れてしまいました。
楽しみにしている方には深くおわびをさせていただきます。申し訳ございません。
さて、今年は12月27日から第97回全国高校ラグビー大会が始まります。
我が地元埼玉県代表の昌平高校はおそらく正月の前に花園を去る可能性が大となりました。
1回戦の八幡工(滋賀)ですらちょっと危ないのに2回戦の東福岡相手にどう勝てと言うんですか。
勝ったら超ジャイアントキリングですよ。
少なくとも向こう10年間は語り継がれるレベルです。
埼玉勢の初戦敗退なら、第93回大会の県立浦和以来。埼玉勢の私立高校の初戦敗退なら第82回大会の埼工大深谷(現・正智深谷)以来。
埼玉高校ラグビーの公立天下にひとまず区切りをつけた昌平が初戦から無様な戦いをしないことを切に願う。
次回の更新は未定です。