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飛翔の楕円球  作者: 西武球場亭内野指定席
4/11

第四話

ラグビー解説

スクラム

ノックオンやスローフォワード等の反則があった場合、スクラムとなる。双方8人ずつのプレイヤーが組み合い、90度以上回転した場合は逆チームボールのスクラムで組みなおしとなる。

崩れた場合はボールを所持していた側のボールで組みなおしとなる。故意に崩すとコラプシングの反則となり、相手にペナルティキックの権利が与えられる。

インゴールおよびゴールラインから5m以内・タッチラインから5mラインの間では形成されない。


ラインアウト

ボールまたはボールを持ったプレイヤーがタッチラインを越える、または触れた場合にラインアウトとなる。ボールを投入する側はボールを投入するプレイヤー(スローワー)を除き、最低2人以上参加する必要がある。通常はフォワードの選手7名が並び、6名以下で形成されるラインアウトはショートラインアウトと呼ばれる。

ペナルティからのタッチキックの場合は、ボールがタッチラインを越えたところでキックをした側のボールでラインアウトとなるが、それ以外の場合は相手チームボールのラインアウトとなる。

スクラム同様インゴールおよびゴールラインから5m以内では形成されない。


アドバンテージ

ラグビーユニオンの定義では

『アドバンテージの規則は、他の大部分の規則に優先し、その目的は、反則による競技停止を少なくしプレーの継続を一層計ることにある。プレーヤーは相手に反則があっても、レフリーの笛に従ってプレーすることが求められる。レフリーは、競技中に反則があっても、その結果相手側が利益アドバンテージを得る可能性のある場合には、その反則に対して直ちには笛を吹かない』

とある。

要は反則が起きたからといって必ずしもプレーが止まるわけではなく、反則をされた側が有利な状況下(例えば、ノックオン(前にボールを落とす反則)をした時にボールを相手のプレーヤーが取るなど)であれば審判は笛を吹かずにそのままプレーさせる。


グラバーキック

ゴロパントのこと。このキックの一番の使い道は22Mラインの前からタッチを割るキックをする時にある。

ペナルティキック以外で22Mラインの前(相手陣寄り)から蹴ったボールが直接タッチラインを割ったり、22Mラインの前から22Mラインの内側にいる選手にパスを出してその選手が蹴ったボールが直接タッチラインを割るとダイレクトタッチとなり、蹴った地点の延長線上のタッチラインから相手ボールのラインアウトとなるが、バウンドしてタッチラインを割るとその地点で相手ボールのラインアウトとなる。

要するところ、ダイレクトタッチを防ぐためのキックである。このキックはワンバウンドタッチを狙うよりは確実だが、相手にキャッチされるリスクもある。ただ、蹴り方によっては相手のノックオンを誘うことも可能。

1月1日未明 0:04

茨城県鹿嶋市宮中 鹿島神宮

源田と中村は初詣の列に並んでいた。

この鹿島神宮は全国の鹿島神社の総本山。主祭神は武甕雷(タケミカヅチ)

雷神、刀剣の神、弓術の神、武神、軍神として信仰されており、必勝祈願で参る者数知れず。


「源田先生。長くなりそうですね」

「まあいいじゃないか。こういうのが初詣のあるべき姿だと思うよ。生徒たちは今頃何を考えているかね?」

「決勝戦で勝つことでしょう」

「それを考えてくれるような部員ばかりだったら俺もたくさんいろんなことを教えてやりたいね」


同時刻

北山邸

晋吾はトレーニングをしていた。


「99…100…101…」

「精が出るな」

「爺さん」

「そろそろ初詣に行かなくていいのか?お前のところのラグビー部の必勝祈願に」

「もうこんな時間か。初詣行ってくるわ」

「気をつけなよ」


北山弥一

かつてのフィクサーも孫の前ではただの好々爺。

孫のためなら自らの人脈を使って情報収集も行う。


正月三が日は休みのため、みな思い思いに過ごしていた。ある者は勉強に励み、ある者は寝正月ながらも高校ラグビーの全国大会をテレビやインターネット中継で見て奮起したり、またある者はランニングをしたりなど、形はどうあれみなラグビーのことを考えていた。



1月4日

正月も明け、港南埼玉ラグビー部は決勝戦に向けて最後の追込みの練習を行っていた。

特訓は過酷さを極めていた。

「吐きそうだぜ。ここまでの実戦形式の練習は。なあ、上杉」

板橋がいう。

「ああ。逆を言えばそれだけみんなも辛いってことだよな」

このころになると、口を開く選手も少なくなり、みな疲労困憊でクタクタになっていった。


練習終了後

クラブハウスにて

大村と藤岡が会話をしている。

「藤岡さん、今日も一段としんどいなぁ…」

「先生が勝手に花園だなんて言うからだもんな。5月あたりまでのことを繰り返したら元も子もねえのに」

「しかし、先生は実力わかってるのかな。北埼(ほくさい)高校は今日ベスト4進出が決定したけど、こんな相手と戦わないと行けないってことだからね。花園に行くってのは」

「先輩、三浦と北山見ませんでしたか?」

佐野が声をかける。

「トレーニングルームにいるんじゃないか?」

「わかりました。探してみます」

というと、佐野は2階へ向かった。


「佐野は入った頃に比べたらだいぶ体重落ちたよな」

「むしろ落ちすぎ。あれじゃプロップもフッカーもできねえよ」

「けが人多発したらどうするんだろうか」

「おめえとゴメスがやるんじゃねえの?フロントローを」

「勘弁してくれよな」


そんな他愛もない会話の中であろうと、ウォーターダンベルを使った運動をしているあたり、チームに強くなろうという意識が芽生えているという証拠である。



1月6日

冬季西部地区新人戦決勝戦

セントポール学園高等部(新座市) 対 港南学園埼玉高校(狭山市)



「いいか、この試合は北埼(ほくさい)高校に勝つための第一関門だ。相手は中等部からの経験者も多く、決して楽な試合ではないだろう。だから言う。負けても県大会出場だが、どうせなら西部地区1位で県大会に出場しよう」


その言葉に、部員達が燃えた。

この日のスターティングメンバーは

1番 藤岡

2番 矢部

3番 大河内

4番 ゴメス

5番 大村

6番 奥田

7番 三浦

8番 北山

9番 川本

10番 山内

11番 吉野

12番 石原

13番 岩橋

14番 岡島

15番 武田

控えは

16番 吉岡

17番 滝

18番 宇野

19番 井藤

20番 宮前

21番 桑田

22番 川中

23番 中島

24番 上杉

25番 板橋


かくして、曇り空の中、港南埼玉のキックオフで試合が始まった。

緑のユニフォームの港南埼玉は一気に攻め込んだ。

対する紺色のユニフォームのセントポール学園も、持ち前のディフェンスの強さで隙を見せない。


前半14分

セントポール学園は港南のノットリリースザボール(1)の反則からペナルティキックで一気に港南陣内22Mライン付近まで陣地を挽回。

ラインアウト後、波状攻撃に波状攻撃を重ね、16フェイズ目でラインの穴を突かれ、三浦、大村、山内、武田の4人が追うも、サイドライン際でトライを奪われた。

しかしサイドライン際のトライということもあり、コンバージョンキックは失敗。

0対5となる。


前半終了間際

一瞬の隙を突き、12番石原が11番吉野に対し大きな飛ばしパスを出す。

これを吉野が取り、一気にインゴールライン付近まで攻め込むも、外に出され、セントポール学園ボール。

5Mラインからのラインアウトは少し逸れ、ノットストレート(2)。スクラムに変わる。

時間はほとんど無かった。

そこから一気に攻め込むも、持ち前のディフェンスの前に、なかなかボールは進んでいかない。

ペナルティ以外でプレーが止まれば前半終了の中、ここでフルバックのライン参加からの中央突破という大胆な作戦に出る。この突撃を相手はインゴールゾーン前でなんとか食い止めるも、最後はフッカーの矢部がトライを決める。

2分半にもわたる猛攻であった。

コンバージョンキックも成功し、7対5で前半終了。


「お前達もっと気合いを入れんか!お前達の力はこんなもんじゃないだろうが!統率あるプレーはどうした!たとえ県大会出場が確定したからといって、負けるのは許さんぞ!気合い入れて闘え!」


セントポール学園の監督が怒鳴り声をあげる。

彼の名は大沢健二。浪速の闘将と呼ばれたころの闘志と威圧感は68歳となった今もなお健在であった。


「ふっ、相変わらずこの爺さん容赦ないな」

「源田先生、知ってるんですか?」

と、中村が聞く。

「ああ。俺が現役のころからああいう感じなんだよ。とにかく怒鳴り声がでかいんだ。つい数年前に大阪の高校の監督を辞めたかと思えば、あんなところに流れ着いているとは恐れ入るぜ」



後半

互いに決め手を欠き、なかなかボールが進んでいかない有様であった。

港南は相手の統率のとれたディフェンスの前に攻めあぐね、なかなか相手陣内の奥まで攻め込めず、後半途中から矢部、大河内の重量級フォワードで攻めても少しずつしか進まない有様。

一方のセントポール学園もフォワードの攻撃が上手くいかず、肝心なバックスの攻めも中途半端なミスで攻めあぐねる始末。


後半7分

セントポール学園7番の村田が危険なプレーを繰り返した挙句、審判や相手の選手を睨みつけて凄んだためシンビン(3)を取られる。


後半15分

お返しと言わんばかりに港南埼玉7番の三浦が村田に対して激しいタックルを浴びせる。

あと数秒遅ければノーボールタックル(4)を取られかねないようなタックルであった。

その時、村田の左脚に激痛が走った。

なんと村田の左脚の靭帯が切れてしまった。

村田は悶絶して倒れ込んでしまった。

セントポール学園の大沢監督、急ぎ救急車を呼ぶ。


「三浦、鋭いタックルだな」

「やられたから倍以上にして返したまでさ。あの野郎をぶっ倒すにはそうするしかなかったんだよ。北山」

「やりすぎだな」

この時、北山は三浦の実力にわずかながら寒気を感じたのであった。



後半ロスタイム

港南埼玉はセントポール学園に攻め込まれ、焦りからかラックで横から入りオフサイド(5)の反則を取られる。ペナルティを得たセントポール学園はペナルティゴールを狙う。

直線距離でおよそ35M。少し角度がある。

蹴るのはスタンドオフの前田。

蹴ったボールはゴールを逸れ、デッドボールラインを越えた。


試合終了。

7対5で港南埼玉高校の優勝。

地区3位までが県大会出場権を得ていたため、もはや関係ないと開き直ろうとするセントポール学園の面々はうっすらと悔し涙を浮かべていた。


冬休みが終わると、部員たちは期末試験に向けてみな忙しくなる。

このころになると、後練習もほとんど行われず、みな勉強に励む。

特進コースAクラス志望の3人に至っては、部活もそこそこに早々と切り上げて勉強する。

期末試験が終わると、県大会となる。

期末試験ではみな好成績を収めた。


期末試験終了後の練習開始時、源田はこう言った。

「みんな期末試験お疲れ様。ここからは選抜に向けての県大会だ。優勝しろとまでは言わん。だが、このチームは花園予選の頃よりは絶対に強い。それは確信できる。これからももっと努力するんだぞ」



つづく


注釈

(1)ノットリリースザボール

タックルされた選手は速やかに、パスするか地面に置くなど、ボールを放さなければならない。タックルされた選手が速やかにボールを放さないと科せられる反則。相手ボールのペナルティキックかスクラムで再開。

(2)ノットストレート

ラインアウトのボールがまっすぐ投げ入れられなかったときの反則。相手ボールのスクラムで再開。

(3)シンビン

一時的退出。危険なプレーをした選手に対して審判がイエローカードを掲げて命じる。高校では7分。

(4)ノーボールタックル

ボールを持っていない選手に対するタックル。相手ボールのペナルティキックかスクラムで再開。

(5)オフサイド

ラックやモールなどの密集で横から入る反則。相手ボールのペナルティキックかスクラムで再開。

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