第三話
ラグビー解説 基礎編
ラグビーの反則
大まかに分けて軽い反則と重い反則がある。
軽い反則は相手ボールのスクラム。
重い反則は相手ボールのペナルティキック。あるいはスクラム。
(高校ラグビーでは1.5M以上スクラムを押せないので、ペナルティでスクラムを選ぶことはまずない)
その中間は相手ボールのフリーキック。
フリーキックはペナルティキックと違い、直接ゴールを通過しても得点にならない、タッチラインを割っても自軍ボールのラインアウトにはならないといった違いがある。
軽い反則の一例はボールを前に落とすノックオンという反則と、前方向にボールを投げるスローフォワードという反則。
重い反則の一例は相手の首などにタックルに入るハイタックルや、ラックなどで倒れこむオーバーザトップなど。もちろん殴ったり蹴ったりする行為は論外。
フリーキックでもペナルティキックでも反則をした側は反則をした地点から10M以上(ただしゴールラインが10M以内にある場合はゴールラインまで)下がることが義務付けられている。
反則をした側がそれに従わずにプレーするとノット10Mという重い反則となる。
その翌日、練習を早めに切り上げ、源田はクラブハウスに全員を集めた。
「これからはAチームもBチームも無いが、もし、それぞれ個人が不満を持っていたら正直に言ってみろ。その方がわだかまりが少ない」
と、源田は言った。
「じゃあ言うよ。俺はお前達2年生が嫌いだ。3年生に取り入って、そのうえいじめを見て見ぬ振り。ボイコットの時に、俺がボイコット破りをしたのはそういう理由からだよ」
と、大村が言い始める。
「2チームになることは、源田先生の態度を見てわかったよ。だからもしボイコットが起きたら迷わずボイコット破りするつもりだったよ。本当はあの日、体調不良を言い訳にして休もうとしたけど、あの場を1年生だけにしておくのもかわいそうだと思ったから行ったんだ」
「なるほど。じゃあ、三浦。お前はどうなんだ」
源田が次に振ったのは三浦だった。
「俺も大村先輩と同じだよ。大村先輩以外は先輩として尊敬できない。だから嫌いなんだよ。態度も悪けりゃ先輩であることを鼻にかけてばかり。それでいてあんなことまで起きたから、いつか全員のしてやろうと思ったら源田先生が1年生にだけチーム分けのことを言ってくれたんだ。だから先輩のボイコットなんか誰も指図は受けなかったし、もし、ボイコット破りで1年生が殴られたり蹴られたりするようなことでもあったら、例え俺が停学になってでも全員をボコボコにするつもりだったんだ」
と、三浦がいう。
「三浦、お前そんなこと考えてたのか」
北山が横から口を挟む。
「北山、お前はどうなんだよ」
「俺の考えもお前や他の1年と同じだよ。口には出してないけど、1年生みんなAチームのことが嫌いだから。でも、もしボイコット破りで報復を受けてたら、仕返しはもっと違うやり方でやるよ。3年生達を部にいられなくするために、他の部員に恐喝事件や盗難事件をでっち上げさせて問題にさせてやるつもりだったんだが、Aチームが隔離されたから計画だけで終わったんだ」
と、北山がいう。
「なるほど。ただ、それを万が一やってたら新聞沙汰になるだろうし、出場停止になっていたということを覚えておけ。他に不満のあるやつは正直に言え」
「俺もいいかい」
石原が言う。
「どうぞ」
「みんな表立って言わなかったけど、Aチームの奴らはみんな早く帰る。俺だってスクールの頃に全国大会に出たとはいえ、強豪校のレベルからすればまだまだだし、ましてや上杉や吉野のように努力して少しでもラグビースクール出身の奴らに追いつこうとしていた努力家もいる。みんな勉強に多少なりと不安を抱えてる中で、Aチームの選手は理由はどうあれみんなさっさと帰る。本当に強くなる気もないからあれだけ点数取られるんだよ」
「石原、そりゃねえだろ」
と、山内らが口を挟む。
「みんながみんな勉強できるわけじゃ無いんだぞ。ましてや俺や滝や吉岡のように特別進学Aクラス志望のやつもいるんだ。それがどういうことかわかってるんだよな?」
特別進学コースAクラスは、2年生の志望者の中から最大で30名のみが入れるクラスである。
1年生前期中間試験から2年生後期期末試験までの5教科各科目の平均得点率80%以上、あるいは大手予備校などが主催する全国模試で好成績を収めた生徒のみが受験を許される。
国公立大ならびに難関私立大学志望者のみが集い、部活動はできない。
他のクラスとは違う質の高い授業やここ数年の進学実績の良さ(昨年は東大合格者を8人輩出している)もあり、かなりの人気である。
(とはいえ、上記の通り平均得点率80%以上が最低条件なので、その条件に合致してない場合は模試で好成績を収めなければならない)
「山内の気持ちもわかる。確かにうちは大学の系列校だが、部活がそこまで強くないから文武両道とはいえども勉強7割部活3割くらいになる。そもそも、普通は部活やりながら難関私大や国公立大に受かろうってのが土台無理なんだ。しかし、スポーツ推薦ってのは侮れない。全国大会出場ってだけで一部の大学は自分の名前を英語で書けないアホでも受からせた挙句に卒業させちまうんだ」
「わかりました。では最後に一つだけ。今年の大会の出場メンバーの選び方で源田先生に対して不満があったやつは正直に手を上げてください」
手を上げたのは石原のほか、三浦、矢部、中島、武田、川中、板橋、宮前、奥田、北山の計10人。その中で、宮前と川中は25人の登録枠から外れていた。
「そんなに出たかったか。すまない。だが、北埼高校の試合に出してたらおそらく58対0、いや、90点くらいは取られて負けてただろう。少なくとも1年生のお前達に辛い思いなんかさせたくもなかった。こういう勝てる要素の全くない試合にはああいうラグビーを舐めてるような連中を使うことで、お前達1年生にはこういう連中になるなって教えたかったんだ」
「先生、そりゃ俺達を舐めすぎですよ」
「言ってくれるじゃないか武田。じゃあ仮にあの試合お前達が最初から出てたら何点取れた?」
「最低でも6点っすね。俺にバンバンドロップゴールを打たせてくれれば」
と、武田が言う。
「ナマ言ってくれる。石原、お前ならどうだ?」
「少なくとも3点ですね。22Mラインくらいからのショットなら外れる気がしません」
「お前までナマ言ってくれるじゃねえか。その気概は買ってやる。今日はこれでおしまい」
「山ちゃん、特進Aクラス志望って本当かよ?」
滝が山内に話かける。
「ああ。そうだよ」
「確かここ数年Aクラスって国公立理系志望が多いんだろ?」
「ったく、まだそんな話をしてたのか」
「源田先生」
「うちの学校の方針では特進Aクラス合格者は退部ってことになる。本当にいいのか?」
「どうしても国立大学に行きたいんですよ」
「だからAクラス志望か。言っとくが、去年Bクラスからでも千葉大と東京学芸大の合格者が出たぞ」
「それは知ってますけど…」
「なら話は早い。じっくりと考えるんだな。一浪しても人生のトータルだとなにも変わらん。むしろ一浪したが故の苦労が自分にとっての経験にもなるぞ」
「先生浪人してないでしょ」
「そうですよ、先生はスポーツ推薦で早稲田大学に入ったんでしょ」
「お前らいらんことばっかり覚えてるな。そんなこと覚えるなら古文や現代文の解法をモノにしてみろ。そうすりゃセンター試験で95%の得点率も夢じゃないぞ」
センターもへったくれも無かった国語の教師がなにを言っているんだと考えたが、2人は言い返すのをやめ、帰っていった。
11月下旬
後期中間試験が行われた。
特進Aクラス志望の部員は一応の点数を、そうでない部員もまずまずの成績を収めた。
1年生のほうはというと、ほとんどの部員はまずまずの成績。石原、北山はトップ5の中に入る成績だった。三浦、佐野、桑田の3人は赤点ギリギリで、3人とも源田、中村両顧問に苦い顔をされてしまう有様だった。
試験が終わると、冬季西部地区新人戦となる。
県大会は花園予選ベスト4と各地区の上位3チームを選出する。
港南埼玉高校は下馬評以上の活躍を見せ、1回戦、2回戦、準決勝と勝ち進んでいった。
つづく




