第二話
ラグビーの基礎知識
得点
トライ 5点
トライ後のゴール(コンバージョンキック)成功 2点
ペナルティゴール成功 3点
ドロップゴール成功 3点
8月
菅平キャンプは不参加。
長野県の菅平では高校同士が集まって合同合宿を行うのだが、参加校にも限りがあり抽選に漏れると参加できない。ただ、港南埼玉高校は応募すらしていなかった。
そのかわり、4泊5日の校内合宿が行われた。
練習が終わると風呂に入って食事をして勉強会。
食事は過酷な練習の後なので、強靭な胃袋の持ち主以外はことごとくリバース。
1年生では、矢部、宇野、中島、三浦、北山以外がダウン。
ラグビースクール出身の選手でさえダウンしてしまう中、宇野は相撲部屋からスカウトが来たほどの巨漢(身長176cm、体重約120kg)ということもあり、他の1年生が倒れたりリバースする中で平気な顔してがつがつ食べていた。
勉強会は一部の部員には好評だが、大半の部員には「練習で体が疲れているのに脳みそまで疲れさせるのかよ」と不評。
仕方なく2日目からは源田自ら教壇に立ち古文の原典を使った授業。内容は難関私大の過去問から初歩的問題の応用なども詰め込まれていた。
源田作成の古文テキスト(男子向け)には1つくらいは下ネタが混ぜ込まれているのがお約束。
女子向けにはボーイズラブネタを入れるとか入れないとか。
内容に気づいた北山と石原は終始笑いを漏らす始末で、途中からは部員が気付き始め笑いが起こる始末。最後の解説時には大半の部員が大爆笑。
「今のラグビー部に女子がいないからこういうことできるんだぞ。こういうのは女子がいたらセクハラになるんだからな」
校内合宿の最終日、AチームとBチームの練習試合が行われた。
Aチームは緑のジャージ、Bチームは黒のジャージを着ての試合となった。
(港南埼玉の黒のジャージはセカンドジャージ。これは港南学園の付属校全てで共通。サードジャージはオレンジ)
試合が始まってというもの、Bチームのバックス陣の前にAチームは歯が立たなかった。特に、ウイングの吉野のスピード、フルバック武田のパワーとスピードを兼ね備えた動きの前に、Aチームは翻弄された。
Aチームのウィークポイントはバックス。
そして、Aチームにとって致命的だったのは何度もチャージを受けてしまったこと。
フランカーの三浦、ナンバーエイトの北山といったスピードのあるフォワードや、195cmもの長身の奥田と188cmの宮前の計4人に何度もチャージを許し、Aチームはせっかくのフォワード陣の強みを無駄にしてしまう。
そこを巧みについた試合運びもあり、1年生主体のBチームは28対10で快勝した。
試合後、源田はAチーム全員に対しこう言った。
「練習終了後の個人練習をおざなりにするからこういうことになるんだ。今後は自分で考えて行動しろ。俺は1年生相手にも負けるお前らのような負け犬などもう知らん」
その言葉にAチームは燃えた。
眼を見張るような猛練習で、練習終了後には積極的に個人練習に取り組むようになった。
そして、花園予選
1回戦の合同Cチーム相手には54対0で快勝。2回戦の若葉ヶ丘戦は17対14で危なげなく勝ったが、3回戦の北埼高校は優勝候補の最右翼。
ここまで、Aチームしか使わなかったことで、源田に対してBチームの選手が口々に不満を言ったが、北山など察した選手は何も言わなかった。
試合前日、源田はクラブハウスでこう言った。
「明日の試合、Bチームからは大村だけを後半から出す予定だ。今のこのチームはどう逆立ちしても北埼高校には勝てん。それが証拠に夏の菅平キャンプでは俺が元いた港南学園高校との練習試合で21対19で勝っている」
その言葉に、Bチームは静まり返った。
港南学園高校は今や日本中にその名が知られた名門校で、ここ5年の東日本勢の2回の優勝は全て港南学園高校。さらにここ4年は必ず決勝戦に進出している。
「俺は3ヶ年計画で花園を目指している。お前達1年が3年になる時に花園に行くって計画だ。大村の時には難しいだろうが、今のAチームの2年生に骨のある奴がいれば、埼玉予選決勝くらいは行けると信じている。明日の試合はいわばふるい落としだ」
その言葉に、Bチーム全員が納得した。
試合当日
熊谷ラグビー場Cグランド
「よし、じゃあメンバーを発表する。フォワードは1番藤岡、2番栗林、3番町村、4番ゴメス、5番大河内、6番村野、7番温水、8番本橋。バックスは9番川本、10番山内、11番岡島、12番岩橋、13番林、14番吉岡、15番笹川。以上」
(ラグビーのポジションは1番が左プロップ、2番がフッカー、3番が右プロップ、4番が左ロック、5番が右ロック、6番が左フランカー、7番が右フランカー、8番がナンバーエイト、9番がスクラムハーフ、10番がスタンドオフ、11番が左ウイング、12番と13番がセンター、14番が右ウイング、15番がフルバック)
そして試合が始まる。
序盤から北埼は攻め立てた。
重戦車のようなスクラム、流れるように正確なパス、そして、圧倒的なスピードの差。
港南埼玉はまったく相手にならなかった。
45対0で前半が終わり、源田が疲れている部員に対してかけた言葉は
「選手交代。大河内に変わり大村」
それだけだった。
一方、大村に対しては
「大村、お前には耳にタコができるくらいは言ってあるが、どんなに苦しくても、相手を追うのを諦めるなよ」
こう耳打ちした。
後半開始。
後半になっても、北埼の勢いは止まらなかった。
ついに北埼との差は80点を超えた。
そんな中でも諦めの悪い奴がいた。
大村だった。
大村は今のAチームが大嫌いだった。
そんな奴らと一緒にプレーすることも許せなかった。
なら、Bチームの選手達にAチームとは違うところを見せつける。
その一心だけで例え追いつかなくても最後まで相手チームの選手を追った。
気がつけば、試合が終わった。
106対0
圧倒的大敗だった。
試合後、港南埼玉高校にて
源田はAチームの選手に対し説教をしていた。
「お前達はそんなにラグビー部から除名されたいのか?お前達は後半、抜かれたからといって、ボールを持った選手を追わなかったな。言っとくが、今日に関しては試合の内容については問うつもりはなかった。だから3年生を帰らせたんだ。ところが、お前達はなんだ?来年があるにもかかわらず、来年につなげようともしない。そんなことでラグビーをやるなら、それはラグビーを舐めてるってことだ。もし、お前達に少しでも悔しいって気持ちがあるなら、明日の放課後グランドに来い。ただ、Bチームのメンバーには休みだと伝えてるから、本格的な練習とはいかんがな」
翌日
源田はグランドで待っていた。
もしAチームの選手が誰も来ないなら、その段階でAチームは見捨てよう。
Aチームの選手が1人でも来たら、そいつはBチームと練習をさせる資格がある。
そして、グランドにはAチームのメンバー全員が来ていた。
「先生、強くなるにはどうしたらいいですか」
山内が言った。
「意識を変えることからかな。そして、人一倍努力して練習する。Bチームはみんながみんな努力してる。チーム分けしてから8月までお前達より先に帰ったやつなんかほとんどいないぞ。バックス陣は個々に足りないものをそれぞれの練習に付き合うことで伸ばそうとしているし、フォワード陣はみんな筋トレかキックキャッチの練習をしてる。大村なんかは3年生やお前達が嫌いだから、少しでもお前達と差をつけるために努力してたんだ。三浦や北山なんかは、ラグビーを4月から始めたにもかかわらず7月くらいにはお前達なんかよりは上だとまでぬかしたし、そもそも後練習は経験者達が全体練習が軽いだなんて言うから始めさせたんだぞ」
そして、曇り空の中、3時間にわたっての練習が行われた。
源田は新チームの手ごたえをつかもうとしていた。
つづく
ポジション解説
フォワード(FW)編
人数は8人
フロントロー
スクラム最前線でぶつかりあうため、重量級の選手が多い。
1.左プロップ(PR)
1番。左プロップは、スクラムの最前線の左側に位置する。わりと簡単そうに見えるポジション。
2.フッカー(HO)
2番。フッカーは、スクラムの最前線の中央に位置する。スクラムに入ったボールを後ろに蹴りだすのでhooking(フッキング)する人という意味でフッカーと呼ばれる。また、チームにもよるが、ラインアウトの時のスローワーを行うことも多い。
3.右プロップ(PR)
3番。右プロップは、スクラムの最前線の右側に位置する。スクラム最前列のフロントローの中でも、最も体重が重い選手が多い。こちらも割と簡単に見えるポジション。
セカンドロー
ラインアウトの要(もちろんチームによって異なります)。背が高く、仕事量の多さが要求されるポジション。近年のラグビーではバックス並みの走力を求められることもある。
4.左ロック(LO)
4番。ロックはスクラム時には2列目から押し込む役割、ラインアウト時には、ジャンパーとしてボールを受け取る役割がある(例外あり)。そのため、高身長の選手が多いのも特徴。また、接点に圧力をかけ続けたり、そこからボールをもらって突進したりなどきつい場面での仕事量も求められる。なので体幹の強さも求められる。
5.右ロック(LO)
5番。スクラム時に体重の重いプロップを支えるので右腕や右肩をよく痛めやすい。パワーが要求される。ロックで左右の違いでいえば、左の方がどちらかと言えば跳躍力や機動力が優れた選手、右ロックがガッシリしたパワーのある選手という違いがある。パワーとある程度のスピードが求められるが、フォワードの中ではラインアウトさえ求められなければプロップほどではないが簡単なポジション。
サードロー
攻守に体力を必要とし、FWとしてのパワーとバックス並の走力も求められるポジション。試合ではとにかく走り回る。
6.左フランカー(FL)
6番。スクラムでは3番目の位置にいて、スクラムが終わってから素早くサポートしたり、相手にタックルにいったりする必要がある。FWとしてのパワーはもちろん必要で、それに加え、攻撃時のサポートやボールを貰って自ら突破するなど攻守においてパワーとスピード、さらに体力が必要とされるポジション。
7.右フランカー(FL)
7番。役割としては左フランカーと同じ。なお近年は左右で分けるのではなくスクラム時に広いスペースを任される方をオープンサイドフランカー、狭いスペースを任される方をブラインドサイドフランカーとする分け方もある。オープンサイドにはよりスピードがある選手、ブラインドサイドはパワーのある選手とすることが一般的。左右のいずれにせよ相手のキックをチャージしにいったり、積極的にタックルにいったりするのでチームで一番勇気と負けん気が必要とされる。
8.ナンバーエイト(NO.8)
8番。スクラムからサイドをついてアタックしたり、自ら突破する力強さと機動力の両方が求められる。また、ラインアウトでジャンパーやテール(最後尾)を任されることもある。ハーフバックスとも近いのでゲームを組み立てる力も要求され、総合力はもちろんとっさの判断も必要とされる。
バックス(BK)編
人数は7人。近年ではスタンドオフ、センター、フルバックがフォワード(サードロー)並みの体格を求められることもある。
ハーフバックス
(ハーフ団)
チームの攻撃の要。SHからボールを出し、SOがゲームを組み立てる。
9.スクラムハーフ(SH)
9番。SHはスクラムへのボールを投げ入れたり、ラックからボールを出したりするのが主な役目。地面にあるボールを拾って投げることが多いので、ラグビーの中では背の小さな選手がすることが多いポジション。素早い動きと、どこにボールを投げるかなど判断力はもちろん、いざとなった時のスクランブル突撃も必要とされるポジション。
10.スタンドオフ(SO)
10番。SHから貰ったパスを受けてパスを出す、自ら仕掛けていく、キックを蹴るなど攻撃を組み立てていくのがSO。ラグビーの司令塔のポジション。こちらも判断力が求められると同時にキック力や瞬発力など幅広い能力が求められる。
スリークォーターバックス
チームの得点源。ウイングは足の速い選手が多い花形ポジション。センターは、攻守ともにキープレイヤーとなる選手が多い。また、近年ではセンターもフォワード並みの体格の選手が増えている。
11.左ウイング(WTB)
11番。攻撃時には一番左端にいることが多く、味方がつないだパスを受けてトライにつなげる瞬発力やステップなど華麗なステップワークも求められる。ディフェンス時にはフルバックと連携しながら抜かれた後ろをカバーする力も必要で攻守に重要な役割を持っている。また、近年では蹴りこまれたボールを相手陣の奥まで蹴り返すキック力も左右問わず必要とされる。
12.左センターバック(CTB)
12番。インサイドセンターバックとも呼ばれ、SOと同様にパスやキックの力や判断力が必要とされる。また、ディフェンス時にも相手アタック陣がパスを受けて突破しようとするところにタックルに行くなど、攻守に存在感を見せるポジション。
13.右センターバック(CTB)
13番。アウトサイドセンターバックとも呼ばれ、12番と比べると、より力強さが必要とされる。簡単に言うならパスとキックがうまいフランカー。
14.右ウイング(WTB)
14番。左ウイングと同様、スピード、瞬発力、ステップワークが必要。
15.フルバック(FB)
15番。チームの最後の砦。ディフェンス時はラインの後ろでカバーを行い、相手キックに備えたり、味方ディフェンスが抜かれた際のフォローをしたり、カウンターを狙う。キック力も重要。攻撃時には他のバックス同様に自ら突破することが求められ、スピードやパワーも要求される。