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飛翔の楕円球  作者: 西武球場亭内野指定席
11/11

第十話


9月1日

夏休み最後の日をいいことに秘密試合がナイターで行われていた。

アップストーンゴッドウェルというクラブチームを自称した早稲田大学ラグビー部の1年生チームと、港南学園埼玉高校との試合。

なお、この試合においては3年生と夏休みの宿題が終わっていない連中は参加できない。

この試合のスタメンは

1番 矢部

2番 井藤

3番 宇野

4番 小池(兄)

5番 宮前

6番 奥田

7番 武田

8番 北山

9番 板橋

10番 石原

11番 吉野

12番 中島

13番 川中

14番 上杉

15番 中尾

控えは

16番 小池(弟)

17番 波留

18番 坊西

19番 瀬川

20番 大西(賢)

21番 白井

22番 大西(洋)

23番 武藤

24番 今村

25番 金田


佐野、桑田、三浦は宿題が終わっていないため出場停止、酒井は負傷のため不出場、飯田は実家のお寺での法要の手伝いのためお休みとなった。


前半終わって7対25

昨年の花園出場経験者や優勝メンバーまで紛れている早稲田大学の1年生チーム相手にここまでの試合ができただけでも上出来である。


「武田、お前フランカーも上手いな」

と、北山。

「そんなことねえよ。タックルやるだけで精一杯だよ」

と、武田。


「いいか。後半もガツガツ行け、いいな?」

と、源田。

『はい!!』


後半は早稲田大学の1年生チームがほぼメンバーチェンジ。

フルボッコにする構えで臨んだ。


試合終了

ア 53-21 港


流石に実力差こそ否めなかったものの、ウィング吉野とフルバック中尾が合わせて3トライ取る活躍を見せた。


この試合は秘密試合であり部外者には公開されないし、誰にも話されない。

しかし、これで課題の見えた2年生達は、一生懸命に練習を重ねていった。


9月14日

熊谷ラグビー場

この日は全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選の開会式。

参加チームは連合4チームを含めた52チーム。

港南埼玉高校はその中のAシードとして2番目に入場行進を行った。

(ちなみに1番目は前年度優勝の北埼高校)

港南埼玉の入場行進のユニフォームは黒色だった。

つい先日の菅平合宿まではビリジアンのファーストジャージだったにもかかわらず、それを使わなかったことから、ラグビーファンや新聞記者は驚きを隠せなかった。

選手宣誓が終わると、だいたいどこのチームも記念撮影を行う。

港南埼玉は真っ先に写真撮影を行い、熊谷ラグビー場を後にした。


それから時は流れて…

全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選決勝戦

港南埼玉高校(狭山市) 対 北埼高校(加須市)


決勝までの勝ち上がり

港南埼玉

3回戦 105ー0 不動岡商工

準々決勝 35ー3 セントポール学園

準決勝 21ー0 熊谷商工


北埼

3回戦 96ー0 所沢第一

準々決勝 26ー3 忍実業(おしじつぎょう)

準決勝 42ー12 聖橋(ひじりばし)


港南埼玉高校はAシード。

3回戦は105対0で圧勝。

準々決勝は統率の取れたディフェンスに苦しむも、フォワードのパワープレイでトライを重ね、守っては後半25分まで一切点を与えなかった。

準決勝では、熊谷商工のディフェンスに苦戦するも、後半は右ウイングの中尾の活躍もあり、21対0で勝利。

この試合でロックの大村が左脚を負傷。さらに、チームは猛練習もあってか怪我人続出。ほぼ満身創痍の状態で決勝戦を迎える。


一方の北埼高校もAシード。

しかしながら、北埼高校の監督が3回戦の終了後に体調を崩して入院。その後末期の肺がんで余命いくばくもないことが発覚。準決勝の終了後、容態が急変し危険な状態が続いていたが、決勝戦の前日、監督はこの世を去った。

この試合は弔い合戦だ。

誰かがそう言ったことでチームの士気は高まった。

しかし、ショックから立ち直れない選手もいる。そういった不安を抱えながら、北埼高校は決勝戦に挑む。


〜〜〜〜〜〜

13年前

当時61歳の柳川武(やながわ たけし)はこの年の4月から北埼高校に名前が変わる北埼玉学園高校に監督として就任することとなった。

この当時は熊谷商工高校が埼玉県大会8連覇中。しかも、8年連続で北埼玉学園高校は花園予選の決勝戦で熊谷商工高校に敗れていた。

それに加え、関東大会埼玉予選、春の選抜、練習試合、1年生対抗でも熊谷商工に敗れていた。

柳川はこの敗北を「北埼玉学園にあと少しのしぶとさと策略と部員のやる気があれば、少なくとも1回は花園に行けていた。北埼玉学園は得られるはずの勝利をずっととりこぼしてきた学校だ」と評した。

できるのにやらないやつは許せないという姿勢で監督を務めた高校を花園出場に導く指導力を発揮した。

とことんまで負け犬根性の染み付いた腐ったチームの連中を厳しい規律と統率のとれたチームプレーを仕込んで猛練習で叩き直し、そのディフェンスは鉄壁、オフェンスは流れるように正確なパス、スクラムは圧倒的とまで言わしめた。

しかし、代償も大きく、質、量ともに過酷な練習は、経験者も揃う名門チームにもかかわらず、1週間で1年生の半分、1ヶ月でそのさらに半分がやめていった。

OB会や部員の保護者からの苦情も相次いだが、それでも理解ある保護者らの助けもあり、就任2年目の花園予選でついに熊谷商工を破った。

以後、埼玉大会の決勝戦で敗れたことはない。

〜〜〜〜〜〜


試合当日

大村はベンチスタートとなった。

左脚に不安を抱える大村はテーピングを強めに巻き、さらには痛み止めを服用。

左ロックのゴメスはスタメンだが、足を痛めていたため、どこまでいけるかはわからない。

藤岡、大河内の両プロップもどこまで使えるかわからない。

準々決勝と準決勝でスタメンを任されていたスクラムハーフの川本はスタメンを外れていた。川本の代わりにスクラムハーフを任された板橋も蓄積疲労で身体はボロボロに近かった。


試合前、源田は記者に囲まれながらコメントをしていたが、記者からの質問で、北埼高校の柳川監督が亡くなったことを知り、北埼高校の監督代行を務める萩原のもとに挨拶に向かった。

「この度はご愁傷様でした」

「わざわざ出向いてくださってありがとうございます」

「港南学園高校で指揮を取っていた頃には、たびたびお世話になりました。あの頃は今のように統率の取れたチームではありませんでしたので、北埼さんには随分と貴重なことを学びました」

「そう言ってくださって何よりです」

「今日はお互い、悔いのないように戦いましょう」

そう言って、源田は港南埼玉の控え室へと向かった。


控え室でのミーティングで、源田は部員に対しこういった。

「みんな、よく聞け。今日は決勝戦だ。勝ったやつが花園に行ける。だからこそ思いっきり力一杯戦って楽しんでこい。いいな?」


「「はい!!」」


スターティングメンバーは

1番 藤岡

2番 矢部

3番 大河内

4番 ゴメス

5番 奥田

6番 桑田

7番 三浦

8番 北山

9番 板橋

10番 石原

11番 吉野

12番 中島

13番 山内

14番 中尾

15番 武田

控えは

16番 宇野

17番 井藤

18番 大村

19番 岩橋

20番 宮前

21番 上杉

22番 川中

23番 川本

24番 岡島

25番 武藤


今日のユニフォームは青。

この青いユニフォームにはビリジアンのラインが入っていた。

新ユニフォームが入場行進の日に間に合わず、仕方なくセカンドジャージ(黒)で入場行進を行い、準々決勝までは対戦校が黒系統のユニフォーム(不動岡商工はファーストジャージが黒。セントポール学園はファーストジャージが紺色)だったため、サードジャージ(オレンジ)で戦い、準決勝ではユニフォームが届いたものの相手が青系統のユニフォームだったため、セカンドジャージで戦ったのであった。


「中尾、今日のユニフォームは真っ青な色だ。この試合のために頼んでおいたものだ。お前のその青いヘッドキャップが一段と目立つぞ。あの頃を思い出して力一杯戦ってこい」

中尾のトレードマークたる青いヘッドキャップは、中尾が初めてラグビースクールの練習に参加した時、亡き祖父が買ってくれたヘッドキャップの色であり、福山東ラグビースクールのチームカラーと同じ色でもあった。


一方の北埼高校は伝統の緑のユニフォーム。

このユニフォームでの港南埼玉との対戦は今年が初めて。

(5月の関東予選では港南が黒、北埼が白だったため)



13:05

キックオフ

港南陣内に飛び込んだボールは直接タッチを割ったためダイレクトタッチ。

港南ボールのセンタースクラムとなる。


その後、互いに決定的な場面を掴めず、試合は膠着状態となった。



前半26分

北埼高校はスクラムからナンバーエイトがインサイドアタックを敢行。

ここでナンバーエイトが力任せにディフェンスラインを突破。

港南埼玉の武田が残りあと5Mのところでなんとか止めるもピンチは継続。

5分ほどピンチが続くも、北埼の7番がノックオン。

我慢我慢の末に前半が終わった。


後半戦

ここで港南はメンバーチェンジ

IN

16 宇野

20 宮前

25 川中

OUT

3 大河内

4 ゴメス

13 山内


ここで宮前が右ロックに入ったため、奥田が左ロックに入る。

川中は左センターに入る。


後半もシーソーゲーム。

笛は鳴らないがボールは進んだり進まなかったり。

ボール支配率は圧倒的に港南だが、北埼高校の気迫のディフェンスもあり、残り5Mよりも前に進ませない。


後半15分

ここで港南は選手交代。


IN

17 井藤

OUT

1 藤岡


スクラムは左プロップに矢部、フッカーに井藤が入る。


後半ロスタイム

ここで北埼高校がオフサイドの反則。

位置は悪いが、キッカーの石原は迷わずショットを狙う。

しかし、ここで6番の桑田が倒れたまま動けなくなっていた。

幸いにも意識はあったが、自力歩行は難しく、ベンチに下がった大河内とゴメスに肩を抱えられながら退場。

代わりに大村が出場。


「大村先輩、いけるんですか?」

三浦が聞く。

「問題無い。お前たちよくここまで耐えてくれたな。先輩の意地を見せてやるよ。みんな集まれ」

と、大村が全員を集めて指示を出す。


指示が終わり、石原がボールをプレースするとともに、全員が展開。

石原がキックモーションに入った瞬間、全員が走り出す。

蹴ったボールは、クロスバーに当たった。

相手に取られてマークを宣言されれば、引き分けに持ち込まれる。

もし引き分けならルール上抽選となる。

誰もが抽選を恐れた。

しかしここでルーズボールを三浦がキャッチ。

倒されながらも、三浦が北山にパスを出す。

ここでモールを形成。


「アドバンテージ!」

レフェリーが大きな声で叫ぶ。

北埼高校に反則があったことを示す。

残り2mほどの位置でボールが止まり、バックスに回す。

しかしこれを北埼高校の15番がインターセプト。

ここで長い笛が鳴る。

オフサイドの反則だった。

モールを形成した際に北埼高校の選手が横から入ってしまったのであった。

残り5mの地点だがスクラムを選択。

時間はもう無かった。

足を痛めていた大村は左フランカーのポジションに入る。

しかしここで北埼高校がスクラムを崩したためコラプシングの反則を取られる。

ここでレフェリーがキャプテンを呼び注意を与える。

「もし、港南が次のペナルティでスクラム選んで北埼が同じ反則したら、ペナルティトライ※1にして即試合終了にするからね」


ここで港南埼玉はタップキックを選択。

作戦は全員モールと見せかけての三段攻撃。

矢部→武田→大村の順に攻撃しトライを狙う。

矢部には宇野、武田には奥田、大村には三浦と北山がそれぞれフォローに入る。

一発目、矢部が止められ、走り込んできた武田にオフロードパスを出す。

二発目、武田のアタックを相手が懸命に止める。

そして大村にオフロードパスが渡り、大村が決死のダイブ。

長い笛が鳴り、トライが決まった。


観客席からは地鳴りのような大歓声が上がった。

泣きじゃくる北埼高校のメンバーの横で、大村は、天を仰いだまま動けなくなっていた。

「先輩、大丈夫ですか」

三浦や矢部、奥田などの2年生が駆け寄る。

「…ハハッ…ちょっと動けなくなっちまった…」

「ほら、立ちますよ」

大村は、矢部と三浦に抱えられながら、センターラインに戻る。

そして、その10秒後、石原のコンバージョンキックが決まる。


長い笛が鳴り、試合が終わった。


試合終了

港南埼玉 7 - 0 北埼


昨年北埼高校に106対0で負けたチームが起こした奇跡だった。


表彰式の後、北埼高校のキャプテンは準優勝の賞状を片手にうずくまりながら泣いていた。

一方、港南埼玉高校はというと、みな実感がわかなかった。いや、わいてはいたのだが、どう喜ぶのかわからないといったところであった。

「お疲れ様。みんな、今日はよくがんばった。疲れているだろうから、今日は終わった後の反省会は軽めな」

と、源田は言ったものの、10分ほど反省すべき点をあげつらね、終了。

「以上だ。みんなバスに乗れ。明日と明後日は休み。明後日は各自自主練。ただし、メニューは走り込みだけ。違和感あるやつは病院に行っておけ」



翌々日

港南埼玉高校は大騒ぎになっていた。

何しろ、12連覇中のチームを破ったのだから。

しかし…

「俺、浪人確定だわ」

山内が落ち込みながらいう。

それもそのはず、全国高校ラグビー大会は年末年始の開催である。

そのため、さる県立高校のラグビー部員は4年制と揶揄されるほどである。

(3年間は高校、1年間は大学受験予備校で勉強するため)

「全国大会出場が決まったのに何言ってんだよ。素直に喜べ」

「素直に喜べねえよ。部活やって、深夜2時まで勉強してたら睡眠時間が全然足りねえよ。おまけに花園なんか行ったらそれこそ勉強合宿同然だ。早々と負けてとっととセンター試験に備えておきたいのに…」

山内の苦悩はつづく。


ペナルティトライ

ディフェンス側の重大な反則がなければ明らかにトライだった場合に与えられるトライ。

このトライではコンバージョンキックは省略され、自動的に7点入る。


諸事情により休載させていただきます。

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