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ツリーの元にメガネとCD

作者: 八瀬北瑠
掲載日:2016/12/24




ある、クリスマスも近くなった昼下がり

クラシックの音色を奏でて着信を知らせる固定電話があった


当然、我が家の電話である。


「はい、三井です」

『こちらのお電話は、三井智明さんのお宅でお間違いないでしょうか。』

受話器からは聞いたことのない男性の声

「智明はちょっと今席を外しておりまして。」

智明とは、僕の父である

『では、貴方はどなた様でしょうか』

「智明の長男で、光昭と申します」

『三井光明様ですね。残念なお知らせです』

残念なお知らせ、この平坦な言葉がいやに耳にこびりついたのを覚えている

『三井一昭様が、交通事故でお亡くなりになりました』

「ぇ、、、

僕はその後、言葉を紡げなかった

「、、、どういうことですか?」

『申し遅れました、ただいまお電話させていただいておりますわたくしは、内川充希と申します』

その次に紡いだ言葉は聞いたことのないものだった

『お爺様の、秘書をさせて頂いております者です』

「ひ、しょ、ですか」

『先ほど、お爺様の携帯からお電話がありまして、お出でしますと。お爺様のご友人のかたで、お爺様が、一昭さまが交通事故でお亡くなりになったとのことでした』

「それは、何時ごろでしたか?」

人はここまで強い衝撃を受けるとかえって冷静になるらしい

『つい数分前です、御自宅にも一度掛けられたそうなのですがお話し中だったとか』

数分前まで、自分は友人と明日の予定に関して相談をしていた、それで話し中だったのだろう

「なるほど、わかりました、家族には僕の方から伝えておきます」

『畏まりました、では私はこれで。なにかご相談等ありましたら何なりとお電話、もしくは会社の秘書部までお越しください』

プッ、、、ツーーー


無機質な電子音が耳の中でこだまして



僕は膝から崩れ落ちた







夕時、父と母が帰ってきた


それに合わせてガレージに入ってきた父の車に乗り込んで祖父が亡くなったことを伝える


父は無言で虚空を仰ぎ


母は嗚咽を漏らしながら蹲っていた





日ごと、日ごとにとんとん拍子で物事が決まっていく


葬式の場所

葬式の日程など


説明に関しては、ほぼすべて右から左


なにも聞こえちゃいない



葬式は、クリスマス終わってすぐの12月30日に行われた


僕は祖父が生前最後に僕へ残してくれたもの


買ってくれたものを身に着けて参列する


シルバークロムのメガネだ


棺を閉じるときに、一枚の白いCDと、一房の紅葉の枝を入れる


このCDは祖父の好きなクラシックが入ったものだ


この紅葉の枝は、祖父が庭で毎日愛でていた、僕の誕生木の枝だ


18にもなった僕の眼には大きく映ったこの紅葉も


この棺の中ではなりを潜める


一枚だけ、取れずに残った紅葉の葉も





静かに運ばれていく棺


火葬場に着き、棺がオーブンのような機械の中に入れられる


遺体が燃えるのを待つ間


遺族は近くの別の部屋で待つ



言葉はない


僕は遺族がいる和室ではなく、縁側に座ってさんさんとふる雪を眺めていた




今年5歳になる弟が近寄ってきて黒い風呂敷を渡した



重い



中には黒いもの



黒いスピーカーだ



無線でつながるこのスピーカーは僕が愛用しているもの



それの電源を入れて、つなげる



スマホを操作して、音楽プレーヤーを開く


僕が流していた音楽の中で、祖父が気に入ってくれた曲を流す



流すと、何処からともなく声が聞こえる


歌う声が


弟達だ


五人乗りの祖父の愛車


運転席には祖父


助手席には僕


後部座席にはそれぞれ15歳、12歳、そして5歳になる弟達が座っている


兄弟四人でこれを車の中でよく歌っていた


恋人二人の別れをつづったこの曲は


堪らないものがあった



僕もそれに合わせる


弟たちのそれに


「「「「Left alone on the table,,,,


二回目に合わせて僕らも歌う


父も歌う


母も歌う


二人とも歌詞を調べてくれたようだ



みんな歌う



祖父の遺族友人みんな


何処からか嗚咽の混じった歌声もある


鼻声の声もある


「おじいちゃん、みんな、泣いてるね」


優しい声だった、それが自分の声だということに気づいたその瞬間


『お前が結婚するまでは生きとるよ』


という祖父の声


幼いころ、クシャリと頭をなでてくれた祖父はもうここにはいない


気持ちの良い笑顔で二カッと笑う祖父の顔が浮かんだ






僕は思い出した



祖父が亡くなったすぐ後のクリスマス


僕は寝る前に


祖父のノンフレームのメガネと祖父の好きなクラシックを入れた白いCD、これを置いた




天国の祖父へ届け





二つの音色




アコースティックギターの揺れる波と



撫でらかなピアノの滴よ






















―冬の空に届け―













クリスマス用に一筆書きおろしてみました



完全に個人的な短編です


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