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78.正義の味方

(オノレ、サカハギィィィッ!! ユルサンゾオオオオオオッッ!!)


 結界を解くと同時に、神体の中心部の線のような部分がパックリと開かれた。

 巨大な眼だ。血管の浮き出た怒りに燃える眼が、俺を睨んでいる。


 刹那、不可視の攻撃が飛んできた。

 不可視なのに俺が認識できるのは、それが神の権能を用いた概念攻撃だからである。

 俺が勝手に権能コンボと呼んでいる神の概念攻撃は人の身で防ぐことは叶わず、本来なら認識することすらできない。


 今回ハザード=ディストリウスが使用した権能コンボは「全能+絶対+死」のようだ。


 「全能」というとなんでもアリな雰囲気だが、ぶっちゃけ「そう思ったらできる」という権能なので、あながち間違いではない。

 ただし、全能が及ぶのは神が管理できる範囲内だけなので完全な全能とはちょっと違う。条件付き全能とでも呼ぶべきだろう。ハザード=ディストリウスの場合、自身が滅ぼしたという六つの世界のある宇宙、そしてこの宇宙というごくごく狭い範囲にしか及ばないと思われる。


 一方「絶対」は「全能」と混同されがちだが別物で、概念の強化に使用される傲慢な神々御用達の権能だ。単体では何の意味もないが、他の権能と組み合わせることで相手が同位格の全能持ちだったりする場合に優位に立てる。

 だから神同士の戦い以外では使う意味のない権能なのだが、何故か神々は好んで「この攻撃を食らえば絶対死ぬ」とか「絶対に効かないし、効いても絶対復活する」とか「絶対にお前の存在を巻き戻してなかったことにできる」とか、子供の喧嘩みたいな勢いで使用してくる。


 下位神とか絶対の権能がなくても言い張るんだよな。

 本当になんでだろうね?


 「死」の権能は非常にわかりやすい。死に関するあらゆる概念を司る権能だ。

 この権能を持つ神にとって死とは願った相手に無条件で訪れるものである。

 神以下の存在に対する文字通りの生殺与奪権だ。


 さて、これらの権能をコンボすると「全能+絶対+死」となる。

 ただの人間相手なら「死」だけで充分なのに「全能」と「絶対」まで使ってくるあたり、ハザード=ディストリウスの俺に対する怒りが半端なものではないことが窺い知れよう。


 では俺がこの概念攻撃に対してどう対処するのかというと。

 

(バ、バカナ!?)


 ハザード=ディストリウスの巨大な瞳孔が驚愕に縮まった。

 ノーライフキングを打倒したとはいえ、俺を人間風情だと侮っていたことがありありと見て取れる反応である。


 もちろん驚愕の理由はハザード=ディストリウスの概念攻撃が何の効果も現さなかったからだが、何よりアイツが驚いたのは、俺が何ひとつリアクションしなかったことだろう。

 

 そう、俺は概念攻撃に対して何一つ対処してない。

 する必要がないのだ。


 神々の戦いにおいて、もっとも重要とされるのは権能ではない。

 位格だ。

 すなわち、上位神だとか中位神だとかいう格付けが絶対的な力関係を現すのだ。


 まず自分より位格が高い神には権能が通用しない。

 だから神になっただけで調子に乗った転生者が下位神にシメられるなんて話は珍しい話じゃない。

 チートを使わずこれらを覆すには使徒を率いるとか、自分の創造した種族に代理戦争させるとか、神殺しの逸話から生まれた伝説のアーティファクトの使い手を信者にして敵対する神に仕向けるとか、コソコソと迂遠な方法を取らなきゃならない。

 なにしろ自分より上の位格の神からの権能を防御する手段はないから、まともにやり合えば格下に勝ち目はない。


 ちなみに俺は神じゃないけど、位格に相当するステータス自体は至高神ナロンを超えるだろうとエヴァにお墨付きを頂いている。

 説明が長くなったけど、要するに無数の並行宇宙を統べる至高神であっても俺や花嫁源理ハーレムルールの庇護下にある嫁を権能だけで殺すことはできない、ということだ。

 あくまで権能が効かないってだけで、神に対する無敵を保証されてるわけじゃない。事実、俺を一番苦戦させた神は最初から権能なんか使わずハンマーをブン投げてきた中位雷神トールだったりする。


(ウソダ! ソンナコトガアリエルカ!! シネシネシネ!! ハカイハカイハカイ!!)


 しかし、大抵の神は今のハザード=ディストリウスのように権能の無駄撃ちを続けるのだ。

 神にとって、たかが人間如きに自分の権能が効かないなんてことは有り得ないことだし、あってはならない。

 自分より位格の高い人間の存在を認めることは、神としての存在意義に関わる。認めた瞬間に自身の滅びが確定するような一大事だ。だから俺に権能を使った瞬間、神の負けが確定するのだ。


 さて、とはいえハザード=ディストリウスが雑魚かというとそんなことはない。敗北を認めるのに年単位の時間を要するだろうし、さっき言ったように太陽に放り込んだところで即死とはいかないだろう。そして正直、今の肉体のまま上位邪神を完殺するのは骨が折れる。

 普段の俺は魂の総量が大きすぎて降り立っただけで世界を滅ぼしてしまいかねないので、いろいろリミッターをかけている。外すのは簡単なんだけど、再封印には結構手間と時間がかかるし、できれば今のまま打倒したい。

 そこで俺はあらかじめ秘策を用意していた。


(ステラちゃん、出番だ! キミの力を貸してくれ!)

(うん! にぃちゃ好き! ちからあげる!)


 ステラちゃんの姿が光の玉となって、俺の胸に吸い込まれた。

 みるみる力が湧いてきて、俺の体があっという間に全長200mは越そうかという光の巨人に変化する。

 そう、俺はステラちゃんの加護を受けて一時的に星の使徒となったのだ。


 質量についてはもっと増やせそうだけどハザード=ディストリウスの神体が同じぐらいのサイズだからこれでいい。リミッターを外さなくても上位神と渡り合えそうだ。

 しかし自分の体験としては初めてなんだけど、すげーんだな……星の意思の加護って。

 星の使徒になると、こんな凄まじい全能感を味わえるもんなのか。


(さあ。一撃で終わらせてやる)


 アイテムボックスから同じく巨大化した神滅刀を取り出す。

 オリジナルは田中さんに譲ってしまったが、《増殖》コマンドでコピーしたやつだったらまだまだある。


(剣星流奥義・神薙(かんなぎ)!)


 今の形態でできる最強攻撃に攻撃力を増大させるチートを重複させながら、神を滅する刀を一閃した。

 宇宙開闢に相当する莫大なエネルギーに指向性を与えて、ハザード=ディストリウスだけにぶつける。

 かの神体は一瞬で溶け消えたが、最期の最期にこんな念話が。


(グフ、ハハハハ! ムダダ! ワレハ、アラユル、ヘイコウウチュウニ、ヘンザイシテイル! ドウジニホロボサレナイカギリ、ワレハフメツナノダ! ゲヒ、ゴハハハハ!!!)

 

 死にながら、まさに負け惜しみの捨て台詞。

 滅びが確定した後に残された呪詛の排泄に、思わず鼻をつまむ。

 

「並行世界に遍在するお前らを同時に殺すぐらい簡単なんだよ。そういうわけでご愁傷」


 邪神が光に包まれ、同時に宇宙空間が歪み、崩れていく。

 

(ああ、やっぱりこうなるかー……)


 災厄の邪神ハザード=ディストリウスは並行宇宙遍在型の上位神だった。

 かつては六つの世界を滅ぼしたというが、おそらく以前から他の次元にも同時に存在し、すべて滅ぼされない限り何度でも復活するという概念防御によって自身を守っていたのだろう。

 しかし、俺は過去現在未来どころか全次元のハザード=ディストリウスを滅ぼしてしまった。だからヤツの関わっていた全ての時空で「ハザード=ディストリウスがいない世界」が再編されることになる。

 邪神によって滅ぼされたという異世界が復活するのはもちろん、ゾンビ塗れになっていたあの街の災厄もなかったことになるだろうし、シーラとエリクも死なないで済む。

 俺のツケも増える形になるけど……まあ、遍在型は正攻法ではまず滅ぼせないから、これぐらいのリスクは事前に折り込み済みだ。


(お兄ちゃん、きっと大丈夫)


 魔法陣の中に消えていく俺の中で、どこか大人びたようなステラちゃんの声が響いた。


(だから安心して――)


 輝きの中、不思議なあたたかさに包まれていく。

 胸中に何の不安を抱くこともなく、俺は次なる世界へと旅立った。




 光がおさまると同時に激しい熱気が頬に伝わってくる。


「またホットスタートかよ!」


 どこか見覚えのある建物が燃え盛り、崩れていくのが見える。

 そしてやはりどこか見覚えのある服装の人々が見覚えのない兵士たちに追われて逃げ惑っていた。


 ちなみに俺の体は元通りの大きさに戻っている。

 当のステラちゃんが俺の中で眠ってしまったからだろう。

 巨人のまま転移してしまったら面倒なので、それはそれでよかったか。


 どうやら邪神が存在しなくてもザなんとか帝国は興こり、あの街を侵略したということらしい。

 つまり、ここは前回の30年前……正確には邪神がいなくなったあの世界の30年前か。ややこしい。


 そして、どうも悠長な事を考えている暇はないらしかった。

 俺の目の前で5~6歳の子供を抱きしめるように庇う母親の背中に、帝国兵が今まさに剣を振り下ろそうとしていたからだ。


 光翼疾走で瞬時に割り込み、凶刃を聖剣で受け止める。

 返す刀で兵士を切り伏せ、親子に手を差し伸べた。


「大丈夫か?」


 振り返った母親が呆然と俺を見上げる。

 ほんの数分前に別れたときと違って、そのふたりは健康的な人間の色をしていた。


「おにーちゃん、ありがと!」

「あ、ありがとうございます!」


 自分たちが助けられたと真っ先に理解した男の子が俺にお礼を言う。

 母親も遅れて立ち上がり、頭を下げようとして……。


「あの、どこかでお会いしたことがありましたか?」


 俺の目を見て、そんなことを言ってきた。

 しばし目を丸くしてしまったが思い直して首を横に振る。

 

「まさか。俺はただの通りすがりの……正義の味方っすわ」


 親子を守るように背に庇いつつ、迫る帝国兵どもと対峙しながら……俺は不敵に笑うのだった。

これにてゾンビのいる異世界完結です!

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