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73.迷子の幽霊

大変長らくお待たせしました!

更新再開します!

 光がおさまると同時に激しい熱気が頬に伝わってきた。


「おうおう、文字通りのホットスタートってやつかよ」


 見渡す限りのあらゆるものが火花を散らしながら燃え盛る炎に包まれている。

 軒を連ねた長屋も、貴族の屋敷も、街のシンボルだったと思しき崩れたオブジェも燃えていた。

 その中には明らかに人間だったと思しきモノまで含まれている。


 だけど空を覆いつくす悪夢のような光景に比べれば、まだ生易しい。


「オオオオオオオォォォッ」

「イギギギギギギギギィィィ」


 まさに地獄。

 おびただしい数の苦悶に満ちた顔のようなものが不気味な光を放つ尾を引いて、街の上を埋め尽くしている。

 亡霊ゴーストの群れだ。


「にぃちゃぁ……」


 ステラちゃんが不安そうに俺の足にすがりついてくるが、泣き喚いたりはしない。

 それもそのはず、この子はひとつの星の始まりから終わりまでを見守ってきた永遠の幼女。成長もしないが変容もしない星の意思なのだ。

 男にとっての永遠の夢を体現するステラちゃんはキュッと唇をきつく締めて、ひとつの街の終焉を小さな胸に刻み込もうとしていた。


「さて、と」


 胸糞悪い光景だが、吹き飛ばす前に誓約者はどこかなっと。

 

「うえぇぇぇん……」


 探すまでもなく見つかった。

 俺たちの背後で青白い輝きを放つ半透明の5~6歳ぐらいの男の子が泣き喚いている。

 近くの瓦礫の下に小さな手が下敷きになっているのが見えた。

 おそらく逃げ遅れて家屋に潰されてしまった子供のゴーストだろう。


「よう、坊主。大丈夫か……って大丈夫なわけねぇか」


 死霊接触魔法を自分にかけてから、男の子の頭を撫でてやる。

 ふと視線を横にやると、近くの壁に街のシンボルと思しきマークの描かれた横断幕があった。

 魔法陣の役目を果たすモノとしては充分。俺を召喚したのはこの子で間違いなさそうだ。


「ウッ、グスッ……」


 まあ、わかっちゃいたけど会話が成り立たない。

 見た目こそ泣き喚く子供に見えるが、このゴーストも死ぬ直前の未練や記憶を自動的に再生し続ける壊れたラジオのようなものだ。とはいえ死ぬ直前に抱いた強い想いは、俺を呼ぶに足る願いとなる。

 こういうふうにゴーストが誓約者である場合は記憶を直接読み取らせてもらって願い……つまり誓約を知るのがセオリーである。


「泣かないでー」


 しかし、俺が記憶の読み取りをするより先にステラちゃんが男の子の手を握った。

 エヴァの召喚で顕現しているステラちゃんはゴーストに触れることができる。

 しばらく様子を見ていると、ステラちゃんから男の子へ何かが光を伴って流れ始めた。


「……ってそれはマズイ!」

「にぃちゃ?」


 慌ててステラちゃんを男の子から引きはがすと、ステラちゃんが「なんで?」と小首を傾げた。

 いや、よかれと思ってやったんだろうけど……。


「無理に正の魂を与えたりしたら負の魂と相殺して、この子が消えちゃうんだよ」

「あう……ごめんなさい」


 優しく諭すとステラちゃんが素直に頭を下げる。

 変容しなくても反省はできるんだな、いい子だ。


「知らなかったんだからしょうがない。次から気を付けるんだよ」


 よしよし、と頭を撫でてあげるとステラちゃんがむずがる。

 まだステラちゃんは完全回復とは言えない状態だし、無理をさせるわけにはいかない。ここはひとつ睡眠魔法で眠ってもらって……って、よく考えたら星の意思に異世界魔法は効かないんだった。


 前は弱ってたからそのまま封印珠に入れられたけど、今だとちょっと無理かもしれない。

 チート能力なら星の意思だろうがクソ神だろうが問答無用で無力化できるけど、だからといってザドーみたく魔眼チートで無理矢理石化して持ち運ぶのは可哀想だし、なんか穏当な能力はなかったかな。

 

「よしよし、いいこいいこー」


 とか考え込んでたらステラちゃんが男の子の頭を撫でてあげていた。

 ちゃんと言いつけ通りエネルギーは与えてないみたいだけど。


「うう、ママ。どこ? ママー!」


 お? 

 ステラちゃんに抱き着いた男の子の口から新情報が。


「にぃちゃ、ママだって!」

「おお! ステラちゃん、お手柄だ」

「えへへー」


 ちょっと自慢気に笑いながら、ステラちゃんが男の子をぎゅっと抱きしめる。


「ってことは、母親探しか」


 まず間違いなく生きてないだろうけど、最悪死体かゴーストとご対面で誓約を達成するしかない。

 となると原型を留めているとは限らないし、母親の顔を男の子の記憶から読み取るよりは……。


「ステラちゃん、その子と手を繋いで連れて来れるか?」

「うん!」


 地縛霊ってわけでもなさそうだし、男の子の幽霊ひとりぐらいなら連れていけるだろう。逆にここで放置すると、フラフラと彷徨い始めるかもしれない。

 それに何故か男の子もステラちゃんが傍にいると落ち着いてくれるようだし、無理に封印する方法を考えるより役目を与えてあげることにしよう。エヴァにも表に出した嫁を邪険にしないよう言い含められてるし。


 そんなわけで街を探索すべく邪魔な瓦礫を適当に吹っ飛ばしながら進み始めると。


「まだ太陽神殿の外を彷徨う生者が残っていたか……」


 地の底から響いてくるような、それでいてしわがれた声がどこからともなく聞こえてきた。

 聞こえてくる方向を特定できない。魔法だな。


「誰だ?」

「我は不死王ネウリード。王都に封印されし墳墓の亡者を蘇らせ、死者の王国を築かんとする者なり。さあ、お前たちも我が死の軍勢に加わるがよい!」


 姿の見えないネウにゃんたらの宣告とともに周囲の瓦礫や建物の窓、裏路地から動く死体が這いずり出てきた。


「なるほど。つまり、この光景はお前が元凶ってわけか」


 死者の霊魂はガフの部屋へ運ばれて宇宙を循環するエネルギーになる。

 一方で、霊魂の入っていた肉体には魂が入っていた部分に鋳型が残る。

 この鋳型に死霊魔法などで負の魂エネルギーを注がれた存在……それがこいつら動く死体(リビングデッド)。俗にゾンビ、スケルトンなどと呼ばれる死体モンスターだ。

 リビングデッドやゴーストは異世界の連中にアンデッドと総称されているし、俺もそう呼んでいる。


「いいぜ、相手になってやるよ。ちょうど無双したい気分だしな」


 殺戮の宴の予感に興奮を覚えつつ、ホラー映画さながらのゾンビどもに手招きした。

 のそのそと起き上がり、俺を自分たちの仲間に加えようと無数のゾンビが不快な叫び声をあげて襲い掛かってくる。


「さーて。相手がアンデッドなら……こいつの出番だな!」


 叫ぶと同時、俺の手には白銀で装飾された銃身の長いオートマチックハンドガンがおさまった。

 ハンドガンの形をしてはいるが、いわゆる現代兵器チートで創り出した武器でも、クラフトチートで自作したアイテムでもない。

 名を聖銀銃。とあるVRMMOのアンチ・アンデッド・ギルド……以下AUGと敵対した時にギルドマスターから分捕ったアイテムである。

 実を言うと正式な使い手でない者が持つと引き金が途轍もなく重くなって引けなくなるので、自前の膂力でもって強引に使用しなければならない。

 何故そんな不便なアイテムをわざわざ使うのかというと。


「アビャッ!」

「シャギィー!」


 俺が無造作に撃ったゾンビどもが煙のように消えていく。

 これが理由その1。聖銀銃はエンチャントなしでアンデッドに特効を持つ聖銀弾を発射できるのだ。


「そらそら、どーした?」


 もう1丁コピーした聖銀銃を追加しつつ、2丁拳銃スタイルで迫りくる死体を次々に片づける。

 本来なら途中でリロードが必要になるので2丁同時に扱う場合は特殊な装填技術を必要とする。

 だが、俺の聖銀銃は聖銀弾を無限に生成するようにカスタマイズ済みなので給弾の手間がない。故に多数のアンデッド掃除に適している。

 これが理由その2。


「アベェ!」

「タワバ!?」


 接近してきたゾンビを銃身と銃把で殴りつけて頭を吹き飛ばす。

 俺の乱用にも壊れることのない頑丈さ、これが理由3だ。

 どんなに乱暴に扱っても決して破壊されないので、蹴りと組み合わせれば近接戦でも存分に戦える。

 たとえ無制限に湧いてくるアンデッドが相手でも、疲れ知らずの俺は事実上無限に戦い続けることができるのだ。


 さらに空から襲ってきたゴーストどもを問答無用で撃ち抜いていくと、どこからともなく拍手が鳴り響いた。


「クハハハ! なるほど、少しはやるようだな。だが、我が結界に囚われた死の都より生きて脱出することは叶わぬぞ」


 ネウにゃんと思しきローブ姿の黒い影が、はるか上空の死霊どもに守られた遠い位置で高笑いしている。

 くぼんだ眼窩の奥に生者を妬むような光を爛々と輝かせており、しわくちゃの皮が骸骨にくっついただけの顔には歪んだ笑みが刻まれていた。


 あの魔力波動の禍々しさはリッチ……いや、ノーライフキングかな?

 ちなみにリッチは不老不死を求めて死霊系魔法を極めた魔術師が自分自身に儀式魔法をかけて成れる強大な力を持つアンデッドのこと。

 ノーライフキングはリッチがさらに時間と探究を経てレベルアップした存在である。

 とりあえず、とてつもなく強いアンデッドモンスターと思ってもらえればいい。

 

 俺の見立てだとネウにゃんはノーライフキングだ。

 俺が勝手に決めている異世界モンスターランクでも最上位に位置するし、この街に惨劇を引き起こした張本人と見てまず間違いないだろう。

 黒幕自らの顔見せは迂闊でしかないが、おそらくこれも世界の星の意思が用意した運命の舞台……つまり、いつものお約束だ。

 異世界でこの程度のご都合展開を気にしていたら負けである。


「王城の玉座の間にて待つ。もっとも我の配した不死将どもを退けることができたらの話だがな」


 だけど、そんな運命だとかご都合展開だとか俺の知ったことじゃない。

 これまでも、これからも。


「では、さらば――」

「次元楔」


 転移魔法――次元転移チートではなく、異世界魔法の転移――で逃げようとするネウにゃんに問答無用で次元楔チートを打ち込む。


「な、に?」


 転移できずに狼狽するネウにゃん。


「知らなかったのか? 大魔王と、通りすがりの異世界トリッパーからは逃げられないぜ!」


 さらに聖十字の鎖をアイテムボックスから直接射出し、隙だらけのネウにゃんの胸を十字の切っ先で貫く。

 苦し気に呻くノーライフキングに構うことなく鎖を指で軽くつまんでクイッと引っ張った。すると鎖がジャラジャラと凄まじい勢いでネウにゃんを地上に引き寄せて石畳の地面に叩き落とす。

 落下の物理ダメージなんてノーライフキングには効かないけど、もちろんそれで倒すつもりじゃない。

 舞い上がる土煙の方に鎖の反対側についた分銅をアイテムボックスから取り出して放り投げると、聖十字の鎖が意志を持っているかのように倒れ伏したノーライフキングを地面に縫い付けた。


「捕縛完了」


 身動きできないネウにゃんに近づいて、見るに耐えない醜い顔を踏みつける。


「別にお前に恨みはないけど、ガキの仇だ。ついでに殺しておいてやる」

「お、愚かな……我を捕らえたところで、邪神バザデと契約した我を殺すことなどできぬ!」

「だったら存在ごと消えろ。今度はお前の未練も恨みも全部、こいつで浄化してやるから」


 アイテムボックスから無銘聖剣を取り出して逆手に持つと、ネウにゃんがそれまでの余裕をかなぐり捨てて狼狽し始めた。


「な、なんだその剣は! い、いやだ、やめろぉー!」


 なまじ強いせいで、これがどういう性質を持つ剣なのかわかったみたいだな。

 同時に理解しただろう。これから自分がどういう運命を辿るのかも。


「剣星流奥義・聖釘せいてい!」


 対アンデッド用の魔力波動を練り上げ負のエネルギーを駆逐する光で刀身を覆い、ネウにゃんの喉奥めがけて貫き通す。


「カァァァァァァァッ!!!」


 耳障りな絶叫とともに最上級アンデッドモンスター、ノーライフキングはあっけなく消滅した。

 それと同時に結界と思しき薄暗がりが晴れ、空にひしめく死霊どもも降り注ぐようになった太陽の光によって形を失っていく。

 何体かゾンビが動いてるけど、動きにまとまりがなくなった。制御者がいなくなって野生化してしまったようだ。

 ゴーストと違ってリビングデッドは陽の光を浴びても動きが鈍くなるだけだし、浄化というわけにはいかんね。


「しかし、ノーライフキングともなると結構大物のはずだけどなぁ」


 いつもどおり簡単に倒してしまったが、ノーライフキングは下手な魔王よりもよっぽど強大な存在だ。

 しかも魔術師から進化するノーライフキングがわざわざ邪神の名を口にしたのが気にかかる。

 魔術師にとっての邪神は力を借りたり利用することはあっても、崇拝する対象ではないはず。

 王都すべてを生贄として邪神を降臨させようとしてたとか、そんな感じ? あんまり魔術師らしい行動とは思えないが、この異世界が例外なのかもしれない。


 まーでも、よく考えたらコイツの目的が何だったのかなんてどうでもいいか。

 あの男の子の母親探しの方が真相究明なんかより、よっぽど大事だしね。


「とか言ってたら、ドロップアイテム発見」


 ネウにゃんが消えたあたりに、ヤバそうな人皮装丁の本が落ちてる。

 何か知らんが強烈な魔力波動を放っており、まともな人間ならひと目見ただけで「愛おしい人」と錯覚するであろう魅了効果を垂れ流してやがった。


「ワレヲアガメヨ、ワレヲタタエヨ……」


 しかも喋るときたもんだ。

 魅了された者が聞けば愛しい人のささやきに思えるだろうが、俺からすればただの騒音である。


「サイヤクヲモテ、ヒカリニテッツイヲ……!」

「うるさい」

「ナ、ナニヲスル、ウワーッ」


 とりあえずアイテムボックスに放り込んでおこう。

 壊してもいいけど、なんか重要アイテムっぽいしね!

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