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60.謎の戦士? 黒のカレントライザー

 次いで極彩の輝きが見えた瓦礫の影から4人の人物が飛び出した。

 白、緑、青、黄。ビル上の青年と同様にさまざまな色の水晶に身を包んでいる。

 先ほどの輝きは彼らが変身したときの光だったようだ。

 魚骨どもの関心も完全に変身ヒーローたちに移ったようで、俺達にはまったく目もくれない。


「ひーっ! だからなんでわたしを狙うのーっ!?」


 訂正。

 蓮実だけは相変わらず結構な数の魚骨に追いかけられてる。

 よほど必死なのか、神としての身体能力を存分に発揮して逃げ回っていた。


「助けてー!」

「へいへい」


 適当に魔閃で数を減らしつつ、ヒーローたちの戦いを観察する。

 見れば赤い水晶スーツの男も乱戦に飛び込んでいた。


「レフトーバーめ!」

「お前らなんかに!」

「この世界を破壊させるか!」

「いくぞ!」

「おう!」


 みたいなことを叫びつつ、各人が連携しながら魚骨どもを攻撃してる。

 戦闘技術はそこそこ。 はっきり言って俺が見てきた達人クラスの使い手には遠く及ばない。

 だけど……。


「マジで特撮の変身ヒーローなのか……」


 そんな独り言が出てしまうぐらい、装備だけは超一流だった。

 白の剣、緑の斧、青の槍、黄の棍、赤のメリケンサック。使用武器はさまざまだったが、確実に魚骨にダメージを蓄積できている。

 弱体化しているとはいえ『物理無効』『魔法無効』の特性をもつ魚骨に攻撃が通っているという時点で途轍もないアーティファクトだ。

 あいつらを倒すには魂に直接ダメージを与える手段が必要なのである。


 そして何よりすごいのは連中の装備してる水晶スーツ。

 見た目通りの色物ではない。比類なきパワーとスピード、そして防御力を使い手に与えている。

 魚骨どもの牙を物ともしない時点で人智をはるかに超えた力だ。


「「「「「ファイナライズ!!」」」」」


 ヒーローたちの叫びとともに水晶スーツが輝いて武器や拳にパワーが集束していく。


「ライザー・スラッシュ!」

「ライザー・ダイナミック!」

「ライザー・ピアシング!」

「ライザー・ブラス!」

「ライザー・パンチ!」


 繰り出された必殺攻撃により魚骨たちが光の粒となって砕け散った。

 というか、必殺技名を叫ばないと使えないんだろうか、今のって……。


 連中の受け持ちは10匹ぐらいだったが、今ので5匹減った。

 蓮実を追いかけてるのが10匹ぐらいだったのを俺が魔閃で全滅させたので、残りは5匹。

 なんか俺が一番働いてる気がしないでもないが、本来あの魚骨どもは人間が太刀打ちできる相手ではない。事実、俺が魚骨を倒したことには気づいてないみたいだし、そんな余裕もないのだろう。

 そう考えればヒーローたちは充分に奮戦していると言える。


「ぜぇ……ぜぇ……」


 あ、また訂正。

 逃げ回って一番魚骨を引き付けてたMVPは蓮実だったわ。

 その代わり悪態を吐けないぐらいに疲れ切り、がっくりと両手両膝を地に預けている。


「ふーん、しかしなるほどねー……」


 さっきの必殺技と今までの戦いぶりを鑑定眼で見ててわかった。

 連中の使っている水晶スーツと武器は『魂晶』でできている。

 魂のエネルギーを蓄えて力に代える性質をもつ『魂晶』なら、理論上は魚骨にも対抗できる。

 ただ、あれほどの完成度を誇るとなると並大抵の技術では為し得ない。


 おそらく、あのスーツを作ったのはチートホルダー。

 最低でもクラフトチートとカスタマイズチートを持っているはず。

 なら、材料さえ足りれば俺にも作れるかもしれない。


「鑑定眼での構造解析もできてるし、見様見真似でやってみるか」


 クラフトチートでもって、まずはアイテムボックス内で魂晶を弄る。

 鑑定眼で他に必要だと判定された材料を代用品……もっと良質なモノで埋めていく。

 形が出来上がったら、カスタマイズチートで同じパラメータに設定するだけなのだが……。


「あー、なるほどねー」


 まんま同じものを作成しようとしてみたら、スーツの致命的欠陥がわかってしまった。

 多分、製作者は知識が足りなくて知らないか、単純に気づいてないんだろう。知っててやってるなら、ただの馬鹿だ。

 どうやら根本的な解決は不可能っぽいので、発見した致命的欠陥を別の致命的欠陥に差し替えつつ、完成品をアイテムボックスから取り出した。


 出来上がったのは手の平サイズの真っ黒なクリスタル。

 中身にモヤモヤした紫色の煙のようなモノが淀んでいて、明らかにヤバそうな一品になった。


「えーっと、確かこうだったな……」


 赤いヤツと同じように顔の前に掲げながら呟く。


「クリスタライズ」


 すると、漆黒の輝きとともに不吉な闇の奔流が俺を取り囲んでいく。

 全身を縛りつける拘束具のような窮屈さを感じながら変化に身を任せる。


「フゥゥ~~……」


 全身から力を奪われるような虚脱感にため息を漏らしつつ、アイテムボックスから全身鏡を取り出してデザインを確認する。

 禍々しい突起がところどころから生えた漆黒の水晶を身に纏った俺がそこにいた。

 頭部は蟋蟀のようなデザイン。首には何故か紺色のスカーフ。

 全体的にヒーローというより悪役然とした暗黒騎士風の格好である。


「ま、こんなもんだろう」


 声もくぐもっていたが、気にしない。

 鋭そうな鉤爪のついた指を開いたり握ったりして感覚を確かめると、俺はヒーローたちが苦戦する戦場にガシャンガシャンと足音をたてながら悠然と近づいていく。


「うわあっ!?」

「トパーズ!」


 赤色が宝石の名前を叫んだ。

 たぶん、今しがた魚骨の尻尾に吹っ飛ばされた黄色のことだろう。

 瓦礫に突っ込んだトパーズとやらのところに魚骨が突っ込んでいく。

 他の魚骨をマンツーマンで相手しているから仲間の助けは間に合うまい。


「ファイナライズ」


 装着と同時に使い方は頭に叩き込まれた。

 コマンドワードを唱えると、命と熱を丸ごと吸い取られるような寒さに思わず凍えそうになる。

 逆に右足にはマグマの沼に突っ込んだような灼熱感を覚えた。

 まあ原因はわかってるし、どっちも我慢できないほどじゃないけど。


「ライザー・キック」


 縮地でトパーズに迫る魚骨との距離を詰め、そのまま必殺の飛び蹴りを喰らわせる。

 手応えはない。それも当然、蹴りで生まれた衝撃の余波だけで魚骨は跡形もなく消滅したからだ。

 危なげなく着地してから、ゆっくりと立ち上がる。


「あ、あれは……!」

「6人目のカレントライザー!?」

「く、黒い戦士……オニキス、ってことか?」

 

 ヒーローたちが口々に叫ぶ。

 やっぱりお互いを宝石の名前で呼ぶのか。

 じゃあ、乗っかろうっと。


「ああ、俺はオニキス。義によって助太刀しよう」




 俺の助勢によって形成逆転したヒーローたちは、ほどなく魚骨を全滅させた。

 あんまり俺は働かずに適当に相手してただけなんだけど、それでも軽めに放った裏拳で魚骨があっさり倒せてしまったので「ああ、弱ってたようだな」とか言い訳しておく。


「君は一体?」


 戦闘後も変身を解かずに俺に話しかけてくるヒーローたち。

 警戒されてる気がするので、こちらから先に変身を解いた。


「さっきの?」


 屋上で変身した赤が首を傾げつつも、質問を重ねてきた。


「オニキス。まさかキミはたったひとりでレフトーバーと戦っているのか?」

残 飯(レフトーバー)?……ああ、なるほどね」


 魚骨どものことか。

 確かにあいつらの正体とそうなった経緯を考えたら言い得て妙だな。

 まあ、経緯についてはまだ推測しかできんけど。


「そんなところだ」

「そうなのか……もしよかったら、俺たちと一緒に戦わないか?」


 お前らなんかと冗談じゃない、と喉まで出かかったのをなんとか止める。

 きっとこいつらは利用されているだけか何かなんかだろうし……未来のことを考えたら、辛く当たることもないだろう。

 そう、ここは無難に……。


「お前たちこそ何者なんだ?」


 と、聞き返すべきだ。

 すると赤が変身を解いて、コートをはためかせながら暑苦しい自己紹介を披露してくれた。


「俺たちは救世旅団クリスタルゲイン。世界を食い尽くす化け物『界喰み』……レフトーバーから世界を守るために戦うカレントライザーだ!」

「くっ」


 腹の底からこみ上げてくる衝動を何とか抑える。


「どうした?」

「いや、なんでもない……」


 こいつらは悪くない。

 うん、たぶん悪くはない。

 きっと大真面目で言ってるんだ。

 だから、俺が辛抱しなくてはならん。


「だいたい、わかった。そういうことなら、お前らと共に戦おう。あと、できればアイツにも寝床と食料を用意してやってくれ」


 向こうでわんわん泣いている粗大ゴミを肩越しに親指で示すと、赤コートがニカッと笑った。


「もちろんだ。俺はルビーライザーの赤井流星。クリスタルゲインのリーダーだ。よろしくな!」

「逆萩亮二。オニキス、ライザーだ」


 他の連中も変身を解いて、口々に自己紹介してくる。 

 白がジェダイト、緑がエメラルド、青がサファイア。

 日本人じゃなくて異世界人だということだけ覚えておけば充分だろう。


「ありがとう、さっきは助かった。オレはトパーズライザーのマリオ・グランドだ」


 さっき助けたトパーズが握手を求めてきた。

 思わず払いのけたくなったけど、しぶしぶ受け入れる。

 この大柄な男の表情には純粋な感謝しかなかったし、悪し様に扱うのは躊躇われた。


「じゃあ、帰ろう。俺たちの街……ミドガルダへ!」


 赤井がニカッと笑みを浮かべて手を振り上げる。

 他の連中も呼応して、未来を信じるような足取りで歩いていく。


 そんな連中のことを、俺はどことなく冷めた目で眺めていた。

 真実を知らず、知ろうともせず、ありもしない正義と悪の虚像を求める姿にどう声をかけてやればいいのかわからない。


「まあ、未来の希望を信じることは大事だよな……」


 俺の誓約には直接関係あるわけじゃないだろうし。

 暇つぶしだ、暇つぶし。



 この異世界が、完全に滅びるまでの。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ、読み始めたばかりですが、面白くてワクワクします。 なんとなくですが、サカハギが仮面ラ〇ダーディケイドの門矢つ〇さにダブって見えるw 異なる世界を渡って、チート持ちを更なるチートで凌駕し…
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