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日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~  作者: epina
ハーレムパーティのいる異世界
42/161

42.復讐者

今日からまた5話くらい更新していきます!

この章で第2部もおしまいです!

 その異世界に召喚されたのは、たまたまひとりのときだった。

 不死身の耐久力が自慢という魔王に何本剣を刺したら死ぬか試したかったので、イツナ達には引っ込んでもらっていたのである。


「おお……!」


 魔法陣の周りには無数の蝋燭が灯っており、薄暗い地下室の唯一の照明となっていた。

 そんな中、目の前で男が感動に打ち震えている。


 身なりの汚い男だった。

 といっても、貧乏というより誰かにボロ負けしたばかりという風情だったが。


 右手には禍々しい意匠を凝らした杖。

 左手には、ぶ厚い本。ドクロマークと獣の牙で装丁された表紙は人の皮でできている。


 おそらくコイツが呼ぼうとしていたのは邪神の眷属だ。

 俺が来ている時点で失敗しているわけだけど……まあ、夢を壊すこともあるまい。

 むしろ、やること似てるし。


「――我が名は魔人サカハギ。誓約に従い召喚に応じた」


 魔力波動で軽くプレッシャーを与えると、男が小さく悲鳴をあげる。


「さあ、願いを言え。どんな願いも叶えてやろう……お前の支払う代償はたったひとつ」


 しかし俺がお決まりの文句を真似ると、男がギリッと歯噛みして瞳に昏い炎を灯す。


「俺の望みは……」


 男の口から這い出たのは、地獄の底から響いてくるかのような怨嗟の声だった。


「復讐だ!」


 ……ほう?


「誰に復讐したいのだ?」


 俄然やる気になった俺は邪神の眷属のフリを続けることにした。


「あいつだ! あの男! 俺の妹を手込めにしやがったクソ野郎だ!!」


 妹を寝取られて復讐ねぇ?

 本人たちが納得してるならお兄ちゃんとして見守ってやれよと思わんでもないが。


「しかも他にも女を自宅に連れ込んでる……」


 ああ、ハーレムか。

 そりゃお兄ちゃん許しませんよね。


「絶対に殺してやる……」


 ふーん。


「その者の死がお前の望みか?」

 

 それならすっげぇ楽でいいけども。


「もちろんだ。だが、ただ殺すだけでは足りない!」


 男が狂気染みた笑みを浮かべ、エキサイトし始めた。 


「絶望を! 嘆きを! 生まれてきたことを後悔するぐらいの苦痛を魂に与えてから尊厳なき死を与えるのだ!」


 だろうねー。

 その気持ち、よくわかるよ。

 ならトコトン付き合ってやるか。


「よかろう。汝の願いは聞き届けた。詳しい話を聞かせよ」




 復讐者はザドーと名乗った。

 この異世界では妖術師と呼ばれる魔法使いの一種でエリートらしいが、その辺は適当に流しちまったい。

 俺が知りたいのは復讐対象の情報だしな。


 そんなわけで恨みつらみから酷く主観的になった情報をたっぷり入手した。

 ただ殺すだけでは飽き足らないというザドーを満足させるために、今からヤツの計画に従って復讐対象に会いに行く。


 ちなみに俺が召喚された地下室は街の郊外にあった。

 どうやらザドーは復讐対象によって社会的に抹殺されたらしく、指名手配までされてるらしい。あっちこっちに人相書きが貼ってあった。

 邪神の眷属なんてモノを召喚しようとするぐらいだし、間違いなく自業自得なんだろうけど、それはそれ。

 復讐代行なら例えどんなクズ野郎が誓約者であっても、俺はそいつに味方する。危なくなった時に助けてやったりもしないけど。


「そういうわけで今回のパートナーはシアンヌ、お前だ!」

「何がそういうわけでだ!」


 事情を聞かされたシアンヌは酷く不機嫌そうに抗議してきた。


「よりによって、他人の復讐の手伝いだと!? 私を馬鹿にしているのか!」

「いや、とんでもない。至って大真面目さ」


 シリアスモードの声音で囁くとシアンヌも聞く姿勢になった。


「実はな。ここ最近、お前から向けられる殺意が鈍ってる気がするんだよ」

「ほう」


 その瞳に鋭い光が差す。

 なるほど、この反応。

 本人に自覚はないということか……?


「今回のことを通して、自分のことを見つめ直してほしくてな。だいたい今でも本気で父親の仇を取ろうっていうつもりはあるのか?」

「当たり前だ!」


 怒気に声を荒げるシアンヌに嘘を吐いている気配はない。


「まさかこのままなんとなく仲良く付き合っていけるかも……なんて思ってねぇだろーな」

「そのようなこと、思っていない! なんなら今ここで試してやろうか!」


 シアンヌがシャキーンと鉤爪を伸ばした。 

 別にやってもかまわんけど、ここは天下の往来。

 ただならぬ雰囲気に好奇の視線が雨あられと突き刺さる。


 そんな中、俺はシアンヌの怒りを受け流して冷静に課題を出した。


「俺が誓約を果たすまでに、一度でいい。本気の殺意をぶつけてきてみろ。できないようならお前のリリースも考えなきゃならん」

「なっ……ふざけるな!」


 シアンヌが勢い任せに鉤爪を振り下ろしてきたので、両手首を絡め取って引き寄せ空気投げの要領でシアンヌの体を一回転させつつ浮かせた。


「かはっ!?」


 重力で地面に叩きつけられる格好となったシアンヌに、俺は改めて手を差し伸べる。


「正面からとびかかって俺に勝てるとでも?」

「クッ……!」


 当然シアンヌは俺の手を振り払い、自力で立ち上がった。

 

「このぐらいでいちいち短気を起こすな。お前の悪い癖だぞ、頭を冷やせ」


 何事かと集まり始めたギャラリーを適当にあしらい、歩みを再開する。

 渋々といった風情でついてくるものの、シアンヌ自身は納得していない様子だ。


「うーん、どうなんだろ」


 前々から恐れていた事態が現実になった気がする。

 ここ最近、深夜プロレスでもあんまり寝首を掻こうとして来ないのでおかしいとは思っていたんだが。

 シアンヌのやつ……魔戦大会でイツナと仲良くなると同時に、牙まで抜かれやがったようだ。


 さっきの攻撃にも自分の殺気が乗ってないと、マジで気づいてないらしい。

 そもそも正面攻撃が通るわけないのはシアンヌだってきちんと理解しているはず。

 つまりさっきのは俺に反撃されることを見越した茶番だ。

 「仇討ちを目指している魔王の娘」という自分を確認するための自傷行為でしかない。


 しかも無意識。

 本人の自覚、まったくなし。

 順調にシアンヌがデレてきているというわけだ。


 今のところ仇討ちをする気がなくなったわけじゃないみたいだけど……自分の気持ちに気づいたとき、シアンヌは己の目的に矛盾する感情に葛藤することになるだろう。

 そのときシアンヌがどういう決断を下すのか、実に興味深い。


 ああは言ったけど、俺自身にシアンヌを本気でリリースする気はまったくない。

 別にデレるならデレるで、俺の方はもうぜんぜん構わん。

 復讐者を連れ歩く刺激より、何かと筋の良いシアンヌを鍛える楽しみの方に関心が移ってきてるし。


 だけど、茶番で命を狙われるポーズだけを取り続けられるのは、なんというか……心がうすら寒くなる。

 父親を殺した男に対して、お前はそんな中途半端なことでいいのかと言いたくなってしまう。


 復讐って……そういうふうに割り切れるものじゃないと思うんだけどなあ。




「なんだここは?」


 街の中では比較的大きめの建物の前で立ち止まると、シアンヌが怪訝そうに眉をひそめた。


「冒険者ギルドだよ。お前の異世界にもあったはずだけどな」

「ふん、人間どもの組織などいちいち覚えておらん」


 冒険者ギルドについて詳しい説明は必要だろうか?

 要するに荒事ありの何でも屋……冒険者の集まる場所だ。

 浪漫を求める者もいれば、金に汚い者もいる。

 ダンジョンに潜るパーティもあれば、フィールドワーク専門の連中もいる。

 エルフもいればドワーフだっているし、チンピラ崩れもいれば伝説級の人物も所属している。


 だいたいどの異世界でも冒険者ギルドというのはそういうヤツらを抱える互助組織だ。

 この異世界の場合は酒場併設のテンプレ型だったけど、世界によっては神殿だったりする。

 大きい街のギルドにはガセも含めて様々な情報が集まるので、俺も必要なときに足を運ぶのだ。


 そういうわけでギルドに入るなり、まず受付に話しかけた。


「いらっしゃいませ。ギルドにどのようなご用件でしょうか?」

「『暁の絆』っていう冒険者パーティに仕事を頼みたいんだけど」


 復讐対象が所属しているパーティの名前を出すと、受付のお姉さんが営業スマイルを浮かべる。


「ああ、御指名ですね! では、こちらにお名前と……」


 言われたとおりに書類に必要事項を書き込んでいく。

 翻訳チートのおかげで日本語で書いても、異世界人には現地語で見える不思議。

 必須事項である依頼内容までびっしりと埋めた。


 いつもどおりなら、おそらくこの書類を元に俺が信用できるかどうか調査するのだろうが……。


「早速だが、この書類を元に契約書を作ってくれ」

「え、ですが仲介料と調査がありまして……」


 四の五の言う受付嬢に目を合わせ、軽めの催眠魔法をかける。


「すぐにだ」

「……はい。では、奥の個室でお待ちください」


 言われるがままに個室へ移動。

 中には木製テーブル1つと椅子が4つ用意されている。

 俺とシアンヌは奥の壁側の席に座って、暁の絆がやってくるのを無言で待つ。

 まあ、声をかけても今のシアンヌには無視されるだろうが。


 ほどなくしてコンコンと扉がノックされたので「どうぞ」と入室を促した。


「失礼します」


 聞き心地のいいアルトボイスとともに入ってきたのは、軽装鎧を着た黒髪黒瞳の青年。

 それに続いたのは魔術師ローブを羽織った絶世の美少女だった。


「本日はご指名ありがとうございます! 僕は石動祐也いするぎゆうや……って、え!?」


 青年が俺の顔を見るなり自己紹介を中断して驚きの声をあげる。

 にっこりと笑い返すと、俺はその日本人……ザドーの復讐対象に挨拶した。


「どーも、石動祐也さん。逆萩亮二です」

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