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35.異世界最弱のコック

今章の執筆が間に合いました!

しばらくまだ毎日更新できーる、いやっほーい!


注:今回のお話にはステータスが出ます。今のところこういう表現をするのは35話だけの予定です。

「……は?」

「え、なによ、ここ」


 背後から男と女の声が聞こえる。


「む、ひとり多いようだのう」

「おかしいですな。召喚される勇者は3人のはずですが」


 目を開けると推定、王と大臣が一段高い場所にいた。

 魔法陣には俺とイツナだけでなく、高校生ぐらいのガキがふたり、男と女。

 さっき寝ぼけたセリフを言ってたのはこのふたりだろう。


 ふぅん、このケースか……。

 となると、しばらく様子見だ。

 シアンヌを寝かせておいて正解だったな。


「ええっと……」


 何かしゃべろうとしたイツナに、唇に人差し指を当てて何も言うなと合図する。

 イツナがコクコクと頷くのを確認して、肩越しに勇者候補たちを観察した。


「オイオイ、マジか! これって異世界召喚ってやつじゃねーのか!?」

「ちょっと信じられない、嘘でしょ!?」


 異世界召喚に浮かれる男子高校生は、ツラがいいけど残念そう。

 如何にもチートで無双したいですってオーラが出てる坊やだ。


 女の方はちょいイケの色黒JK。

 こっちは完全に巻き込まれちゃった系かね。見た目に反して意外と気弱そう。


「ウオッホン! 勇者たちよ」


 咳払いした王の呼びかけに、JKちゃんが身を乗り出した。


「ち、ちょっと待ってよ! アタシは……」

「王の御前である! 控えられたし」

「ヒッ!」


 すかさず近衛兵が槍をクロスさせて、王への進路を塞ぐ。

 へなへなと崩れるJKちゃんが涙声になった。


「なんで……こんなの有り得ないしー」


 ぱんつーまるみえー。 

 まあ、残念ながら俺の角度からは見えないけど。


「余はザパーン三世。諸君ら異世界の勇者を召喚せし者じゃ」


 人の良さそうな初老の王がふんぞり返った。

 恰幅が良く、ちょっとコミカルに見えるので俺の中での印象も不思議と悪くない。

 イツナが初シチュエーションにおっかなびっくりしているが、俺の指示を守ってくれている。

 一方、この時点でチート坊やが「キタキタキタ!」とテンションを上げまくっていた。


「困惑しているだろうが、諸君らを害そうというのではない。むしろ助けてほしいのじゃ」

「助けてって……アタシ、勇者じゃなくてただのジェイケェなんだけど」

「任せておけって!」


 本当に困っていそうな王の言葉に、天と地ほどのテンション差を見せつけてくれるJKちゃんとチート坊や。


「言いたいことはあるじゃろうが、まずは話を聞いてもらいたい。実を言うと、我が国は謎の軍勢に侵略を受けておってのう」


 ふーん……。

 まあ、嘘か本当かはともかく勇者複数召喚の時点で魔王の線はやや薄めだろうな。


「占星術師の占いに従い、この苦難を救うという三天星の勇者を召喚したのじゃ」

「3? 4人いるじゃん」


 どうやらチート坊や――いやチー坊でいいか――は王と大臣の会話を聞き逃していたようだ。


「うむ……それについては、余も困惑しておってのう」


 見たところ、本当に困惑していそう。

 まあ、俺とイツナがセットだったせいで、3人のはずが4人になっただけだろうしな。


「占星術師をこれへ!」

「はっ!」


 王の号令で、すぐさま占星術師というのが呼び出された。

 星マークつきのローブなので、すごくわかりやすい。

 王のザパーンだかジャボーンだかといい、こういう気の利いた視覚処理があるってことは……。


「勇者が3人というのは確かなのじゃな?」

「はい。勇者の数は三天星に一致するはずでございます……4人のはずはございません」

「ならば、この中の一人は勇者ではないということかのう」


 なんかややこしいことになってる。

 イツナを封印珠に入れておけば、無駄な手間を省けたんだが。


「あのー」


 おや、チー坊。

 そんなドヤ顔をして、いったい何を提案する気なんだい?

 

「ステータス確認とかって、できないっすかねー」


 軽薄な笑みを浮かべつつ、何故か俺たちの方を盗み見る。


「ふむ、そうじゃな。鑑定をさせようかのう」


 ジャボーン三世――うん、確かこの名前で合ってたはず――がステータス確認を当たり前のように応対するということは。


 間違いない!

 待ちに待ったゲーム模倣型の異世界だ!

 あの日以来、どれだけ待ち望んだことか……!


 ……いや、待て。

 冷静になろう。

 迂闊に動いて万が一にも誓約を達成したりするようなことがあってはならん。


 まず優先すべきは《自己ステータス確認》だ。




●名前:逆萩 亮二

●レベル:99+

●クラス:ゴッドスローター

●属性:混沌・悪


●HP:∞/∞

●MP:∞/∞


●基礎能力

体力:9999+

敏捷力:9999+

知力:9999+

知覚力:9999+

精神力:9999+

幸運:1


●戦闘力

攻撃力:9999+

回避力:9999+

防御力:9999+

魔法攻撃力:9999+

魔法回避力:9999+

魔法防御力:9999+

行動速度:9999+


●魔法

信仰魔法を除くすべての魔法


●特殊能力

格闘資質:9999+

白兵武器資質:9999+

射撃武器資質:9999+

魔法資質:9999+

特殊能力資質:9999+

努力家:9999+

建築:9999+

加工:9999+

鍛冶:9999+

武器製造:9999+

魔法武器製造:9999+

神造武器製造:9999+


>>次へ




 ふーん、レベルは2ケタ、ステータスは4ケタでカンスト扱いか。

 まあ、中の中ぐらいの典型的なゲーム模倣型異世界だな。

 チート能力の表記なし。ここでもシステムスキル外の扱いだな。

 魔力波動が関わってそうな記述もなしっと。

 クラスがゴッドスローターで属性が混沌・悪ね……まあ、そんなとこだろう。


 一応、鑑識眼……じゃない。《ステータス鑑定》でイツナも見ておく。




●名前:鳴神 佚菜

●レベル:63

●クラス:ブレイブウォーリア

●属性:中立・善


●HP:622/622

●MP:231/231


●基礎能力

体力:76

敏捷力:88

知力:45

知覚力:285

精神力:63

幸運:987


●戦闘力

攻撃力:367

回避力:464

防御力:146

魔法攻撃力:153

魔法回避力:321

魔法防御力:531

行動速度:531


●魔法

なし


●特殊能力

格闘資質:63

白兵武器資質:92

射撃武器資質:501

魔法資質:123

特殊能力資質:5470

努力家:120




 知覚力がやけに高いのはワンコ嗅覚の補正かな?

 幸運がすごい高いじゃねーか……俺なんてどんな異世界でも不動の1だぞ1。

 まあ、これまでの経験なんかから逆計算されるから、仕方ないんだけどさ。


 しかし見る限り幸運のおかげで魔法回避力と魔法防御力も跳ね上がってるっぽいな。

 特殊能力資質っていうのが異様に高いところを見ると、チート能力の才能なんかもここで試算されてるんだろう。


 うん、このくらいなら《解析》にそう時間はかからんかね。

 というか、自動で走らせてる分が半分以上終わっとる。ちょろすぎ。


 ……って、よく見るとクラスのブレイブウォーリアって、勇者のことじゃないのか?

 イツナ、異世界に勇者認定されてんぞ。


「では、その玉を両手で持って念じてみるがいい」


 っと、兵士が水晶玉を持ってきた。

 これがこの異世界のステータス鑑定アイテムのようだ。

 一応、鑑定眼の方で見てみたけど、怪しい仕掛けはないっぽい。


「オレが一番乗りだ!」


 水晶玉は貴重らしく1個しか運ばれてこなかったので、チー坊が真っ先にやりたがった。

 さて、チー坊のステータス判定結果や如何に!


「イヤッホウ! クラスがブレイブウォーリア……これって勇者のことだよな!」


 どうやら、両手で持った水晶玉の中に自分のステータスが見えるらしい。

 チー坊の隣で兵士が覗き込んで確認し、間違いないと頷いている。


「勇者……オレが勇者!! はははははははッ!!」


 ああ、チー坊……お前さんの脳内では、一体どんな英雄物語が展開されているんだい?

 こういう若者はいつ見ても微笑ましいなぁ、おじさん癒されちゃう。

 いやマジで俺には到底わからない感覚だから、こういう馬鹿が心底うらやましくなるのよ。

 こういう召喚願望のあるヤツだけ喚んでくれれば、俺だって苦労しないで済むのに。


「しかもオレ、レベル1で魔法資質が16あるぞ!」


 ん?

 16しかないのに喜んでる?

 他の数字がよっぽど低いのか?


「16だと! そなたは勇者でありながら、魔術師を凌ぐ才能を持っておるのか!」


 と、思ったらジャボーン三世が驚いてるぞ。

 よく見たら周囲もざわめいていた。

 おお、チー坊、その顔は絶頂でもしたか!? マイナスイオンも出てそうだぞ!

 な、なんて幸せそうな奴なんだ……。


 一応、《ステータス鑑定》で見ておくか。



●名前:半田 洋一

●レベル:1

●クラス:ブレイブウォーリア

●属性:完全中立


●HP:23/23

●MP:19/19


●基礎能力

体力:9

敏捷力:9

知力:10

知覚力:7

精神力:6

幸運:6


●戦闘力

攻撃力:29

回避力:10

防御力:14

魔法攻撃力:53

魔法回避力:13

魔法防御力:20

行動速度:11


●魔法

なし


●特殊能力

魔法資質:16




 と、特殊能力が魔法資質しかないじゃねーか。

 他の能力と比べようがなかったわけか。

 どうなんだろう、レベル1としてはこの世界じゃ充分に立派ってことなんだろうか?

 まぁ、イツナも充分に規格外ということなんだろう、うん。


 次に鑑定されたJKちゃんのステータスは、こんな感じだった。




●名前:片瀬 つむじ

●レベル:1

●クラス:ブレイブウォーリア

●属性:完全中立


●HP:20/20

●MP:16/16


●基礎能力

体力:3

敏捷力:6

知力:5

知覚力:12

精神力:9

幸運:12


●戦闘力

攻撃力:29

回避力:9

防御力:12

魔法攻撃力:25

魔法回避力:18

魔法防御力:17

行動速度:9


●魔法

なし


●特殊能力

白兵武器資質:9




 あ、これ確かにチー坊優秀だわ。

 JKちゃんより全般的にステータス高い。

 よかったな、チー坊。


 そのJKちゃんだけど白兵武器資質があるのに、前衛に必要そうな基礎能力が低すぎてかなり残念になってる。

 まあ、水晶見てる本人はよくわかってないみたいだけど。大器晩成だといいねー。


「では、次の勇者殿」


 兵士がイツナの前に水晶玉を運んできた。

 「いいのかな?」って視線が送られてきたんで、無言で頷いておく。

 その結果。


「な、なんだこのステータス……鑑定玉が壊れたんじゃないのか!?」


 イツナのステータスを横で見ていた兵士が青ざめ始める。


「どうしたというのじゃ?」


 何事かと首をひねるジャボーン三世に、兵士が唾を飛ばす勢いで叫んだ。


「レ、レベル63! 前人未踏の3ケタがいくつも羅列されています! しかも特殊能力資質に至っては前人未踏の5000代です!」

「はぁ!?」


 無論、その数字にいちゃもんをつけたのはチー坊である。


「そんなの有り得ない! チートだ! ズルだ!!」


 どうやら自分が一番でないことが受け入れられないらしい。

 短い夢だったな、チー坊。

 個人的にだけど、俺はお前を応援しているぞ。

 いやあ、もうさっきからお前のおかげで腹筋が本当ヤバくて……!


「チート? チート能力のこと?」


 鑑定された当のイツナの方が状況にぜんぜん追いついてないみたい。

 小首を傾げながら、やはり俺に視線を送ってくる。


「能力は確かに凄まじいようだが、これが異世界の勇者というものなのかのう。間違いないのじゃな?」

「は、はい」


 俺以外の3人はブレイブウォーリアと判定された。

 つまるところ、占星術師が正しければ俺が勇者ではないということになる。

 実際クラスはゴッドスローターと判定されているので、勇者じゃないわけだけど。

 自然と俺に注目が集まる。


「お前もそんな離れたところにいないで、早くやってみろ!」

「お、おう」


 というかチー坊、必死になりすぎじゃね?

 俺を見る目が尋常じゃないんだが……。


 まあ、安心しろって。

 俺がお前の望む存在になってやるからさ。


「さーて、いい具合に場があったまったところで、真打といきましょか」


 わざとらしく咳払いして、水晶玉を掴んだ。

 結果はというと。


「こ、これは!?」

「なんじゃ、また高レベルか!」


 兵士の驚愕っぷりに王が喜びと期待の混じった声で問う。


「いえ……1です」


 兵士の答えに落胆してか、玉座に深く座り直すジャボーン三世。


「ふむ、レベル1。やはり、そちらの少女が規格外ということかのう」

「違うんです!」


 この世の終わりのような表情のまま、兵士が首をブンブン振った。




「すべて1です、陛下! 基礎能力、戦闘力が全部1なのです! しかもクラスはただのコック、特殊能力はひとつもありません!」




 イツナのときとはまったく違うざわめきが謁見の間に巻き起こった。


「1? すべてが1だと……そんなことがあり得るのか」

「ひ、HPヒットポイントですら1です! 赤ん坊と同じぐらいに虚弱ですよ!」


 憐れみすら混じった視線が、次々と俺に突き刺さる。


 いや、ふたりほど違うな。

 イツナだけは「何かやったね?」という目をしてる。

 もうひとりはチー坊で、優越感に満ちたドヤ顔だ。


 いや、お前、本当に最高だわー。

 今までもいろんな勇者候補を見てきたけど、お前ほどわかりやすいキャラは久しぶりだよ。

 ひょっとしたら前の世界のヒュラムも最初はこういう愉快なヤツだったのかな。

 まあ、アイツは転生者だし周りに比較できる対象が異世界人しかいなかったから、増長し続けちゃったんだね。


「そんなー、俺は勇者じゃなかったのかー」


 我ながら超棒読みだ。

 そのまま、そそくさとジャボーン三世に取り入るような仕草をみせる。


「それで、俺はどういう扱いになるんでしょうか? HP1なんて、すぐに死んでしまいますよね?」

「う、うむ。そうじゃな。道で転んだだけでも即死じゃのう」


 俺の涙ながらの訴えに、王が扱いに困ったように唸る。


「さすがに戦いに赴かせるわけにはいかんな。帰還の儀が整うまで、そなたは城内に留まるがよい」

「仰せのままに、王様」


 大仰に一礼して見せる俺。

 誰にも見えない角度で、思わずほくそ笑む。


 すべてが思い通りになった。

 いやあ、本当にありがとうよ、チー坊。

 お前がいろいろ騒いでくれたおかげで、もう終わったよ。


 異世界ソースコードの《解析》がな!

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コックって主人公の事なんかーい!
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