表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/161

3.異世界奴隷の反乱

「……あん? なんじゃこら」


 眼を開けた直後、俺は大の字になっていた。

 しかも、手足がバッチリ拘束されている。


「うまくいきました」

「よし、装置を」


 ローブ姿の男どもが何やら怪しげな輪っかを持ってきた。

 うん、これはあれだな。


「てい」


 俺が手足を動かすと、拘束具がポキっと折れた。


「「「えッ!?」」」

「何つけようとしてくれとんじゃワレ」


 ゆらーりと、手術台みたいなとこから起き上がり、手近な男の胸倉を掴んだ。


「い、いやこれは精神安定用の」

「はいダウト」


 罰ゲームは目潰し。


「ぎゃあああッ!? 目がッ、目があああああ!!」

「どう見ても洗脳装置です。本当にありがとうございました」


 暴れだした男をぽいっと捨てて、新たな獲物を定めるべく笑顔で首を巡らす。

 男どもが一斉に入り口に殺到していた。

 おおう、逃げ足だけは早いこって。


「自己領域展開♪」


 結界を構築、部屋の中を外から隔絶する。


「ひとりも逃がさねーよ?」


 何人かが開かない扉を叩き続け、別の何人かが絶望的な表情で振り返る。

 いやあ、こいつは結構楽しい異世界になりそうだ。




「ふむふむ、つまり制御用の指輪とセットで運用するわけだねー」

「はい、そうです」


 男どもを適当に転がした後、リーダーっぽい奴を起こして尋問中。

 怯えすぎて受け答えができなかったので例の首輪を嵌めてやったところ、効果てきめんだった。

 俺が指輪をつけていると、なんでもスラスラ答えてくれる。


「何のためにこんなものを作ってる?」

「異世界から召喚した者を奴隷として活用するためです」


 うん、知ってた。


「異世界から召喚した者は時々、特殊な力を持っています。その力を利用して、我が国は大きく豊かになったのです」

「あ、そ」


 ほんと、異世界の権力者の考えることはびっくりするぐらい同じなんだなぁ。


「力を持たない者も奴隷として利用できます。特に女は性奴隷に――」

「てめーらの風俗事情なんて聞いてねーよ、クソが」


 その口を握りつぶしてやろうと構える。

 しかし、俺が何かするまでもなく男がしゃべるのをやめていた。

 ため息をついて、やり場のなくなった腕を下ろす。


「こんなもんかな」


 その後もいくつか質問をぶつけ、知りたいことは全部わかった。

 これ以上聞いても召喚した人間を奴隷にするようになった経緯とか、それで助かってる人もいるだとか、そういう自己正当化の話しか聞けないだろうし。

 そういうのはいらない。

 敵の事情は基本無視するに限る。


 それに誓約を有効にするには、これで十分だ。


「誓約。逆萩亮二は、この世界の異世界奴隷制度を破壊する」


 ――召喚者の要請を破棄。代理の誓約を受け付けました。


 いつもみたくゲームみたいなメッセージが頭の中に流れる。

 面倒くさいが、これをやらずに召喚者を皆殺しとかしてしまうと同じ異世界に留まり続ける羽目になるからな。


 とりあえず、この胸糞悪い施設を破壊するところから始めようと思うんだけど、どーしよっかなー♪

 大破壊魔法一発で消すのは味気ないだろうし、なんか面白い方法はないもんか。


 インスピレーションを求めて、俺は結界の外へ出る。


「侵入者発見、排除」


 速攻で取り囲まれた。

 結界を展開する前にちょっと暴れちゃったから、外にも異常は知らされてるみたい。

 まあ、その方が楽しめるから別にいいや。


 ちなみに俺を包囲してるのは若い子たちばっかりだった。

 右からイケメン、角刈り、三つ編みの3人。

 やっぱり警備も奴隷使ってんのな。

 炎に包まれた剣、氷でできた槍、電気を放つ警棒をそれぞれ構えてる。


「おおっと、待て。俺は侵入者じゃない。お前たちのマスターだ」

「マスター……了解です」


 俺が指輪を見せると、あっさり静まった。

 この子らと戦うつもりは毛頭ない。


「マスター権限により、キミたちを奴隷から解放する」


 さっきの男から教わった通りのコマンドワードを唱えると、奴隷たちの目に光が戻った。


「え、あ、僕は……」

「ん、俺、一体何を?」

「きゃっ、ヤダ、なにこれ!」


 正気に戻った奴隷たちは自分たちでロックの外れた首輪を投げ捨て始める。

 なるほど。洗脳時の記憶は残らないとはいえ、本能的に忌避すんのな。


 んー、どうしよう。

 そうだな。

 よし、こっからは演技タイムだ!


「みんな、慌てずに俺の話を聞いてくれ! 君たちは洗脳されていたんだ!!」

「「「な、なんだってー!?」」」


 掴みはオッケー。

 そのまま自分も洗脳されそうになったけど脱出したと、ありのまま起こったことを話す。


「この異世界は俺たちのことを人間だと思ってない! 道具としてしか見てないんだ!」

「許せない!」


 イケメンが義憤に燃える。


「復讐してやる!」


 角刈りの目に憎悪の炎が灯った。


「ヒドい……」


 三つ編みちゃんが泣きそうになった。


「みんなにもこの指輪を渡しておく。いいか、奴隷解放以外に使ったりするなよ。そんなことをすれば、俺たちもヤツらと同じになっちまうからな!」

「もちろんだ!」

「わかってるぜ!」

「みんなを助けないと!」


 元奴隷たちは俺に言われるまでもなく、自発的に散っていく。


「いってらっしゃーい」


 にこやかに見送りつつ、俺も散策を開始するのだった。




 奴隷施設は広かった。

 広いってのは、異世界の奴隷を集め洗脳する施設が国内でここしかないという証言の裏付けでもある。


 窓がなく換気口しか見当たらないので、たぶん地下。

 どうやら奴隷解放は順調みたいで、俺が介入する必要はないみたい。

 奴隷化されたモンスターとかも投入されたみたいだけど、さすがは召喚されし者たち。持ち前のチート能力であっさり屠っていく。

 記憶を失ってもチート能力の使い方は本能的にわかるようで、その点、俺がいちいち指導しなくていいのは手間が省けて助かるね。


「いいねー、やっぱり祭りはこうでなくっちゃ」


 いずれ異世界側も奴隷解放が広がってることに気づいて、何かしら対応をしてくるだろう。


「あっ!」


 声のした方を振り向くと、三つ編みの女の子がこちらを指差していた。

 ああ、最初に解放したときにいた娘だな。


「どこ行ってたの、探したんだよ」

「ああ、すまない。俺もいろいろ動いてたんだ」


 これは本当。

 施設には奴隷が万が一反乱を起こしたときに隔離するための装置とか、最悪外側から自爆させ施設ごと生き埋めにできる装置とかがあった。

 その辺を無効化するために、水面下で活動してたのだ。

 こういう裏方作業というのも、後の楽しみがあると知ってれば実に楽しいものである。


「奴隷にされてた子はみんな解放できたよ!」

「おお、そうか」

「でも何人か酷いことされてて……だからちょっと君にも来てほしいの」


 うげ。

 あーあーあーあー。


「……わかった」


 見たくないからみんなで決めてくれればなーって思ってたんだけど、呼ばれたなら仕方ない。

 三つ編みちゃんに連れてこられたのは、予想通りの場所だった。

 

 男子が一か所に固まってて、何やら気まずそうにブツブツ言ってる。

 そこから離れた扉の前に女子が集まって話し合っていた。

 総勢20名ってところか。ここの奴隷総数は余裕で百人単位だから、ほんの一部だ。


「みんな、連れてきたよ」


 三つ編みの子がみんなに手を振ると、おおっと歓声が上がった。

 分かれていた男女が三つ編みちゃんを中心に一か所に集まる。


「さ、リーダー!」

「へ?」


 って思ったら、三つ編みちゃんが俺を前に押し出した。


「なんで俺がリーダー扱いされてんの?」

「君がいなかったら、みんなまだ奴隷だったんだから。キミがリーダーなら文句も出ないから仕切ってほしいってことに決まったの!」

「なんだそりゃ!」


 突っ込んで話を聞いてみたところ、既に解放奴隷の中にリーダーシップを発揮した何人かを中心に、互いを縛ることなく動いているらしい。

 奴隷解放の音頭を取っているのが、俺が最初に解放した男女。

 つまりイケメン、角刈り、三つ編みちゃんの3人らしい。


 召喚部屋という一番重要な箇所の警備にされてただけあって、この3人はめちゃくちゃ強く、他を圧倒するチート能力を持っていた。

 炎のイケメン、氷の角刈り、雷の三つ編みという三連星。

 この3人、どう見ても主人公、カマセ、サブヒロインにしか見えないな。


「解放しよう」


 イケメンが力強く言った。


「楽にしてやろう」


 角刈りが歯噛みして呟く。


「助けたいけど、どうすればいいのかわからないよ……」


 三つ編みちゃんが迷いを帯びた涙目になる。

 

 3人とも誰を、とは言わない。

 ここにいる全員がわかっていた。

 俺を含めて。


「今の意見が、グループの中の主要意見ってことか」

「ああ、アンタがどうするか決めてくれ。俺たちはそれに従う」


 角刈りが理性的に言った。

 ここにいるのは、ある程度意見を言える代表たちってことだな。


 頷き、俺は迷いなく断言する。


「全員解放だ」


 イケメンの表情が明るくなった。

 だけど、次の言葉で一気に曇る。


「その上で、死にたいってやつは殺してやれ」


 今度は角刈りが神妙に頷いた。


「でも殺したくないっていうヤツがいるなら、説得してみろ。どうしても駄目なら諦めろ」


 三つ編みちゃんがついに泣き出した。

 周囲の女子が慰める。


「俺たちは自由と解放のために戦ってる。だから束縛からは絶対に解放する。だけど、解放されたことで苦しむ人も必ずいる」


 冷静に、静かに言葉を続ける俺に、誰もが注目した。


「生きたいと願う者、死を望む者……どっちもいると思う。死にたいやつは死ぬ自由がある、とまでは言わない。そいつに生きてほしいっていうなら、そいつを納得させろ。真実も正しいこともない。納得だ。納得だけが、俺たちを照らす道だ」


 連中が俺の言葉に何を思ったのかはわからない。


 イケメンが頷いて、指輪を持つ女子たちを部屋の中に入れた。

 角刈りが三つ編みの肩を叩く。

 ビクっと震えた三つ編みが、泣きながら静かに頷いた。


 ……あー、萎えちまった。

 いけねえなぁ、ガラにもないことするとジンマシンが出る。


 その後、イケメンに呼び出された。


「ありがとう」

「あー……」


 そんだけ。

 そんだけだった。


 クッソ、こいつセリフから笑顔まで全部イケメンじゃん。

 絶対コイツが主人公だって。

 炎属性だしさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ