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20.先代魔王の正体

 誓約。

 この言葉だけを聞いたなら、厳密そうなイメージを抱くんじゃないかと思う。

 でも俺を縛る誓約に関して言うなら、ぜんぜん違う。

 かーなーりー、テキトーだ。


 クソ神の言い分である『仕様』とやらで初期誓約の詳細が不明ということももちろんあるが、代理誓約の条件である逆の意味というのも『だいたい』である。


 さて、そういうモンだと理解した上で、見飽きて吐き気すらもよおす以下の誓約文を見てみよう。


『魔界を再び盛り立てるため、すべてを統率する魔王の復活を我ら此処にこいねがう』


 大きな問題があることが、おわかりいただけるだろうか。


「あの誓約文、解釈によって意味が変わるんだよ」

「か、解釈ですか。確かに……仰せの通りですね。我らは魔王の君臨していた時代を復活させたいという意味で書きましたが、この内容なら先代魔王様が復活することを願っているとも取れます」


 美丈夫だけでなく、何人かの魔界貴族も頷いている。

 ちなみに魔界貴族どもには俺の行方不明の理由を説明するために、誓約などに関しては通達済みである。

 そこを理解してもらわないと説明できないしな。


 『魔界を統率する魔王となってほしい』というのがコイツらの本来の願いだ。

 しかし格好つけて勿体ぶったこの文面だと美丈夫の言う通り『かつて魔界すべてを統率していた先代魔王を復活させてほしい』と解釈できてしまう。


 こういう場合、どちらを満たしても誓約達成が可能である。

 うまく利用すれば誓約を破棄することなく召喚者を出し抜いたりできるので、本来なら俺に有利なルールだ。


 まあ、よく読んだら別解釈のせいだなっていうのはわかった。

 でも、パッと思いつかなかったんだよねー。

 だって普段だと終わった異世界のこととか気にしたりしないじゃん。

 偶然誓約が達成できてもラッキーとしか思わんわ。


 あと魔界貴族達が血判状を作ったのも実にまずかった。

 集団が誓約者の場合、誓約内容も全員の願いに共通する部分で平均を取れる。

 だけど血判状のせいで文章がはっきり明文化されたせいでそのまま適用されちゃったと、そういうわけね。


 あと、コイツら魔界貴族にとって「自分たちを導いてくれる魔王がいる」のだけが重要って事も関係してるかも。

 魔王が俺であろうが先代であろうが構わない。

 シュレザッドが含まれないのは、牛頭ことセクメトが指摘したように俺の知らない魔界の政治事情というのが関係してるんだろう。


「で、ですが。シュレザッドを倒すことが先代復活とどう関係するのですか!?」


 美丈夫だけではなく、他の魔界貴族たちからも声が上がる。

 よろしい、次の本題がまさしくそれだ。


「順番に話すぞ。まず、魔王という存在は特定の条件を満たすことで復活する個体がいる」


 コイツらは先代魔王がパターン3……復活するタイプの魔王だったことを知らなかった。

 つまり、誓約文を作ったヤツに悪気はない。

 おそらく、七魔将ですら魔王が復活できると知らなかったはずだ。

 復活条件を知っていたなら、少しは違った展開になっただろうし。


「先代の復活方法はズバリ『ソウルイーター』だ」

「『ソウルイーター』ですか……?」

「死者の魂を喰うことで復活のためのエネルギーを蓄える……つまり、死者が出れば出るほど復活が早まるのさ」


 魂は不滅である、なんて言葉があるが。

 俺の巡る異世界において、これは正しいと同時に間違っている。

 死者の霊魂はガフの部屋っつー場所に送られて、宇宙を巡る純然なエネルギーに変換されるらしい。

 その際に生前の記憶なんかは漂白されてなくなるし、他の魂のエネルギーと混ざり合うから特定の誰かの魂とは言えなくなる。


 俺の無銘魔剣なんかを見ればわかりやすい。

 アレも魂のエネルギーを回収して、俺の即席パワーにしちゃってるわけだから。

 まあ、不死殺しの効かない相手対策に霊体ごと喰い殺すようにしてあるんだけど、どうせガフの部屋に行ったらなくなっちゃうんだし別にいいよね。


 さて脱線したんで話を戻すと、復活する魔王にはいろいろなパターンがあるわけよ。

 ほとんどの魔王は魂だけきっちりガフの部屋に回収され、生前の記憶を持つ力のない霊体の部分だけを異世界に担保するパターンが多い。

 『ソウルイーター』なんかは、まさしくそれだ。


「先代魔王は死霊になって、失った魂のエネルギーを集めていた。誰かが死んだら魂を喰って、自分が復活するための力を蓄えていたわけだ」

「それなら先の魔界戦争は……」

「格好の餌場だわな」


 七魔将を含め、結構喰ったんじゃないかな。

 俺が魔剣で倒したモンスターなんてほんの一部だし。


「さて、ここで問題です。魔界において最も大きな魂を持っていた存在はいったい誰でしょーか?」

「ま、まさか……先代の霊がシュレザッドの魂を喰ったというのですか!」

「いえーす! ざっつらーい!」


 驚愕する美丈夫にビシッとサムズアップする。

 まあ、さすがに子供でもわかるよな!


「あとは簡単だ。俺がシュレザッドを殺したことで、先代はもともと自らの魔界将だったエンシェントドラゴンの魂を喰らい、完全復活を果たした。その結果……俺は意図せず誓約を果たしてしまい、召喚されてしまったってわけだ。

 俺にとって幸運だったのは、人界の占い師とやらが先代魔王の復活を察知してくれたことだな。そのおかげで俺は先代魔王を倒す勇者として、この世界に帰還することができましたとさ。めでたしめでたし、ちゃんちゃん。さて、ここまでで何か質問は?」


 静まり返る魔界貴族たち。

 聞きたいことはあるけど、聞くのが怖いって雰囲気だな。


「恐れながら……」


 美丈夫が代表して勇気を振り絞った。


「もし魔王様のおっしゃることが真実ならば、先代魔王様は既に魔界にいるはず。まったく姿を見せてくださらないのは何故なのですか!」

「さあ?」


 俺が肩をすくめると、美丈夫の目が点になる。


「さあ……って、理由をご存じなのではないのですか?」

「知るか」


 想像はできるけどさー。

 まず、シュレザッドが倒されたことは先代にとって計算外だったに違いない。

 この魔界の弱小さを見る限り、シュレザッドが討伐されるなんてこと、まずありえないし。

 先代が復活するのはずっと先、いろんなほとぼりが冷めてからの予定だったんじゃないかと。

 それこそシュレザッドの寿命が尽きる何千年か後だったんじゃないかな。


 残念ながらというべきか『ソウルイーター』は魂を選り好みしてスルーとかできない……っていうか純エネルギーだからする必要がない。

 だから、先代にしてみれば「ムニャムニャ、あと1,000年〜」とか寝ぼけてるところを無理やり叩き起こされたようなもんだろう。

 でも、実際どうだかはわからん。


「そんなに知りたければ本人に聞けよ」


 その方が早いしな。


「お戯れを! 御本人がどこにいるかわからないから、こうして――」

「わかるさ」


 今度こそ、美丈夫の動きが完全に固まった。

 

「……今、なんと?」

「先代がどこにいるかなら、わかる。先代魔王は俺たちのすぐ近くにいるんだよ」


 俺の宣言に有象無象が色めき立った。


「そんなバカな……」

「嘘だ、そのようなことがあるはずが!」

「ああ、先代魔王様、いったいどちらに!」


 無秩序にざわめき始める魔界貴族どもだが。

 

「黙れ」


 俺が一喝するだけで、シーンと静まり返る。

 うんうん、いい感じに調教成功しているな。


「ビフロス」

「は、はい!」


 あ。

 試しに呼んだら、やっぱり美丈夫だった。


「これから、お前にも見せてやるよ」


 俺が指をパチンと鳴らすと、謁見の間の扉が重々しく開いていく。


「し、失礼します! 魔王様の命令どおり、お持ちしました!」


 注目が集まる中、羊角ちゃんが緊張した様子で入ってきた。

 事前に指示したとおりに、とあるモノを配膳して来てくれている。

 ここでこっそり、あるチートを使用。準備完了だ。


「あ、あれは確か」

「前に食っただろう?」


 そう。ビフロスにも食わせたことのある至高のジャンクフード、フェアリーチキンだ。

 今回のは例の鳥頭の肉でできた傑作で、正直言って自分で食べたい。


「さあ、ビフロス。それを食え。命令だ」

「か、かしこまりました」


 明らかに動揺していたが、俺の命令とあらば是非もなし。

 羊角ちゃんのお盆の上からフェアリーチキンをとり、ビフロスが口に含んだ。


「ふぉはぁぁ……」


 ……ああ、わかるよ。

 本当にうまいものを食ったとき、言葉なんて出ないよな。

 ただただ、自然と吐息が漏れるんだよ。


 これによって俺はビフロスの食欲を無事に満たした。


「よし。次は俺の言う通りにしてみろ」


 ビフロスがこくこくと無言で頷く。

 まだちょっと放心してるみたい。


「鑑定眼、起動……と念じるんだ」

「わかりました」


 さっきのフェアリーチキンには、鑑定眼チートを付与してある。

 ビフロスにも使えるようになったはずだ。


「い、いったいこれは……」


 ビフロスが瞬きを繰り返している。

 情報溢れる新たな世界に戸惑っているのだろう。


「こっちを見ろ」


 だがしかし、言われるままに玉座の俺を見上げたビフロスの驚きはより顕著だった。


「見えるだろう? 俺の魔力波動が」

「は、はい。黄金の……まるで炎のようなものがモノが、魔王様の全身から立ち昇っています!」


 予想通りの反応に俺は気を良くしながら、()のセリフを読み上げる。


「いいか、これが()って奴だ。隣のシアンヌはどう見える?」


 本来、付与された対象指定型チートは、俺自身に通じない。

 今回だけは特別にわざと見えるようにしてやったのだ。


「はい。黒い闇のような細い煙が無数の輪を作って全身を覆っています……なるほど、これが魔界将。こうも違うのですね」


 そこまで言って、ビフロスが息を呑んだ。


「魔王様。まさか、これは……」

「気づいたか。ゆっくりと、後ろを振り向いてみろ」


 ビフロスの動きに合わせて、小声でささやく。


「シアンヌ」

「わかっている」


 俺たちも同時に鑑定眼を使用した。

 そこで何が見えても、シアンヌには動くなと伝えてある。


「……え?」


 ビフロスが俺と全く同じ反応をしたので、ちょっと吹き出しそうになった。

 ぐっとこらえて先を促す。


「どうだ?」

「魔界貴族たちはいずれも紫色の揺らぎが見える程度で……非常に小さいです。ですが……いえ、そんなまさか」

「いいやビフロス。お前が見ているモノが真実だ。見たままを全員に伝えろ」


 魔界貴族たちが固唾を呑んでビフロスの言葉を待つ。


 ただ一人、恐怖に俯くある人物を除いて。


「同じです! 魔王様と()()波動を持つ者がおります!!」


 魔界貴族どもの騒めきはいよいよ頂点に達した。

 だけど、今度は鎮めない。これでいいからだ。

 俺の言葉だけじゃ簡単に信じない連中でも、案の定ビフロスの反応はあっさり信用した。

 これなら鳥頭の希少部位を使った甲斐があるというもの。


「サカハギ、これは!」

「ま、そういうわけだ」


 シアンヌもビフロスと同じものを見て、驚愕に打ち震えている。

 そうだろうとも。

 俺だってたまたま血判状を鑑定眼で見ているときに顔を上げなかったら、ずっと気づかなかったかもしれないしな。


()を持っている……これ以上の証拠はない。そうだろう?」


 俺が玉座から立ち上がると同時、は目にも止まらぬスピードで扉に駆けた。

 もちろん、目にも止まらぬっていうのは俺を除いてのことだが。


「言っておくが、謁見の間はさっき結界で閉じた。逃げ場はないぜ」


 そう、()が入ってきたときにね。

 扉を破壊する勢いで体当たりしたものの、は壁にぶつかったボールみたく弾かれた。


「あ、ああああ……っ!!」


 いよいよ望みが絶たれたか。

 ガクガクと震えながら、俺に向かって涙目を向ける。


「その反応で完全に決まりだな。要するにお前がかつて勇者に倒された先代魔王であり、俺がこの魔界に召喚されることになった間接的原因であり、シュレザッドの魂を喰って復活することで……そうとは知らないながらも俺を魔界から追放した張本人」


 ドラマに出てくる名探偵みたいに長セリフを吐きながら、先代魔王にゆっくりと歩み寄る。

 真っ二つに割れた大海みたいに道を譲る魔界貴族ども。


 観念したのか、それとも金縛りにあってでもいるのか。

 微動だにしない先代。


「そして、現時点における俺のターゲット。チェックメイトだぜ……なぁ?」


 を優しく撫でると、少女がビクリと肩を震わせた。


「羊角のかわいいメイドちゃん」

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