135.グリードシード・オンライン
お待たせしました!
箱庭世界編、完結まで毎日更新していきます!
「T・ファインダーズ……何もかも懐かしい」
完全に忘れていたはずなのに、一度思い出すと記憶の波が止まらない。
目を瞑れば、あいつらとの思い出が蘇ってくる。
おおよそ2950年前。
そう……始まりは、今と同じような箱庭世界。
そこで俺たちは無限に続く殺し合いを強要されていた。
それもこんな小さな遊戯とは比較にならない大規模な……参加総数1億人という壮大なVRMMO『グリードシード・オンライン』をインストールした神の遊戯場でだ。
VRMMOとは(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)の略称で、日本語に直すと仮想現実大規模多人数オンラインとなる。
VR技術がめっちゃ進んだ地球においてプレイされるオンラインゲームってことだけ覚えておけばいい。
とにかく、グリードシード・オンライン……GSOの開発者にしてチート転生者の圃馬英治は、数多の並行世界からログインしたプレイヤー達を罠にかけ、ログアウト不可のデスゲームに招いた。
そのとき、俺もなんだかよくわからんまま召喚されてしまったというわけである。
いろいろあって俺をボスとするギルド……『T・ファインダーズ』は他のギルドとも協力して主催者サイドを壊滅させることに成功。
ゲームクリアによってログアウト不可状態は解除され、俺はみんなとの誓約を果たした。
普通なら、それで全員お別れのはずだったんだけど……プレイヤーのひとりが『バックパッカーチート』持ちだったことで運命が大きく変わる。
『バックパッカーチート』……すなわち、他人の召喚に巻き込まれる能力だ。
そいつ曰く大元となる召喚……起点召喚の範囲を拡大させる能力なんだとか。
しかもそいつは異世界バックパッカーを自称するぐらいに巻き込まれ召喚を極めており、起点召喚に自分以外も巻き込ませることができた。
起点召喚にできるのは『召喚と誓約』すら例外ではなく、俺はしばらくギルドメンバーと行動を共にすることになったのだ。
命のやりとりすらも超えた絆で結ばれていた俺たちは、多くの異世界を旅した。
ゲームの中で手に入れたスキルのいくつかは他の異世界でも通用するチート能力だったため、ゲームの中と全く同じとはいかなかったものの……それでも当時のレベルで見れば、みんな強かった。
起点召喚の要である俺の事情も、みんなに話した。
とはいえ当時の俺は誓約そっちのけでティナのいた世界に帰還する事だけを目標にしており、それはギルドにつけた名前……『ティナ・ファインダーズ』からして一目瞭然だ。
あるとき、みんなが一堂に会する酒の席でギルド名の由来を聞いた結成メンバーのひとりが言った。
「俺たちでボスの奥さん……ティナさんのいる異世界を探さないか?」
ひょっとすると、みんなの前で泣いたのは……あれが初めてだったかもしれない。
こうして孤独だった俺の旅に、たくさんの道連れができた。
あいつらは自分たちが帰れる目途が立つまで俺を手伝ってくれると言ってくれた。
後にも先にも俺を能動的に手伝ってくれたのは、嫁を除けばあいつらだけだったなぁ……。
古い思い出だから俺の中で美化されている気もするが、いい話ばかりじゃなかったはずだ。
ギルド内の不和もあったし、ついてこれなくて抜けたのもいる。
帰還手段を見つけて元の世界に帰った奴もいたし、死者もたくさん出た。
それでも数十人のチートホルダー集団に過ぎなかったT・ファインダーズは、旅を続けるにつれて規模を拡大していった。
とある異世界では海賊稼業がてら、どんな願いでも叶うという『たったひとつのお宝』を求めて世界を一周し。
どこかの火星の海ではやはり万能の願望器であるという『八神竜玉』の探索がてら無形のラスボス……『戦争経済』を打倒して、太陽系に100年以上の平和をもたらし。
自力の次元渡航手段を手に入れたことで、異世界傭兵団として仕事を受注したりするようにもなった。
俺自身、運営にはあんまり携わってなかったけど、俺のいる世界で受けた依頼に関してはかなり暴れさせてもらったりもした。
そんな時代が150年近く続いただろうか。
当時の結成メンバーも不老ステータス付きだったエルフアバター以外はほとんどいなくなってしまった。
その頃になると、俺はひどく焦っていた。
確かに組織力のおかげで俺のいない異世界の情報も多く手に入るようになったけど。
それでも、それでも……ティナのいる異世界は見つからなくて。
しかも、俺とメンバーとの力の差が如実に現れ始めた。
召喚による転移転生を経ると異世界間にたゆたう源理……チート能力を手に入れることができる。
なのに『バックパッカー』で俺と一緒に召喚される結成メンバーは平等な条件のはずなのに、俺ばかりがチート能力を手に入れて強くなっていた。
今思えば、俺が規格外の例外則だったからなんだろうが、当時は知る由もなく……。
やがて俺の焦りは怒りへと変化し、それは満足に結果を出せないT・ファインダーズそのものに向けられるようになった。
そして、ひどく増長していった俺は感謝の気持ちを忘れ、彼らを足手まといにしか感じなくなっていった。
「今まで世話になった。ここから先は一人で行く。もう、ついてこなくて大丈夫だ……」
止めようとしてくるみんなを差し置いて、俺は再び一人旅を再開した。
そう……その日を境に、俺は『T・ファインダーズ』を解散したつもりでいたのだ。
おそらく、俺が言い出さなくても……あの頃の俺は今にも増してクズ野郎だったし、解散は時間の問題だったろうけどな。
終わり方が円満だっただけ、ベターだったとも思う。
あいつら元気にやってるだろうか?
最初のうちは自分のしたことを棚に上げて、そんなふうに思い出すこともあった。
しかし、それ以降彼らと再会することはなく。
長い年月を過ごすうちに、思い出も風化していき。
やがて俺は、ティナの探索そのものを完全に諦めていったのだ――。
「よしよしよし! お仕事頑張ってるなぁ、マスちゃんは!」
「……褒められるの、うれしいの。えへへ……」
仮面を外したマスちゃんはとってもいい子だった。
大人しく俺に頭を撫でられている。
俺の中に湧き上がってくる気持ちとしては、マスちゃんは子供というより、もはや孫って感じだった。
とにかくかわいい。ただひたすら甘やかしたい!
「いや、しかし。まさかなぁ……本当に俺の旅は何が起こるかわからんわ」
いやだって……俺がティナを発見しちゃったのに、その後で偶然出会うとかマジですごくない?
こんな良縁、マスちゃんが俺の誓約者で間違いないっしょ。
しかもマスちゃんが請けた仕事って、俺とも利害が完璧に一致してるし。
箱庭世界をぶっ壊して誰だかわからない誓約者の地球に再召喚されるって手も考えてたけど没だね、こりゃ。
マスちゃん手伝うもんね。手伝っちゃうもんね~。
とはいえ、俺がかつてのギルドボスだったなどという無粋な話をするつもりはない。
今更、みんなとどんな顔して会ったらいいかわかんないし。
そもそも結成メンバーが残っているとも限らない。
彼女も俺がボスとは気づいてないだろうし、俺みたいな害悪ロートルが首を突っ込んじゃ迷惑だろうしな。
しかし……なんだろう?
思い出した記憶の中に、どうにも看過できないものがあったような気が――
「むぅ~……ちょっとぉ! なんでマント君と仲良くなってんのさ!!」
拗ねたような声に思考を中断された。
仲むつまじい俺たちを何故かむくれた顔で睨んでくるのは、アイテムボックスから出して石化まで解いてやった三崎だ。
「いやあ、ちょっといろいろあってな。意気投合したんだよ」
「敵同士だったじゃん! いや、今でも敵でしょ!」
「いや、どう考えても敵はお前だろ」
「なんでさーっ! 僕、最後まで裏切らずに超頑張ってたじゃん! ちょっとぐらい認めてくれてもいいんじゃないっ!?」
凄んできた三崎にビビったマスちゃんが慌てて俺の影に隠れる。
「おいコラ、俺のマスちゃん怖がらせたらブッ殺すぞ」
「俺の!?」
ズガビーン! と何故かショックを受けて項垂れる三崎。
「さー、怖い殺人鬼は放っておいて、あっちに行こうか~」
「はい……!」
ステラちゃんのような無垢な笑顔でうなずくマスちゃん。
うんうん、こんな殺伐とした仕事なんかして……きっと心細かったんだろうなぁ。
まったく、あいつらったら何考えてんだか。
つーか、こんな酷い場所に子供を送り込む鬼畜の所業……きっとあいつの采配に違いない。
今度再会したら、文句の一つも言ってやらないとな。




