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日替わり転移 ~俺はあらゆる世界で無双する~  作者: epina
フェアチキになる異世界
122/161

121.もうひとつの目的


「いやあ、フェアチキは最高だったなぁ!!」


 余剰エネルギーをフェアチキとして喰らいつくした俺は、無事に次の異世界へと召喚された。


「母さんが恐れた……あれが、フェアチキ……」


 アディが口からエクトプラズムを出しながら、ぐったりしている。

 守護者モードは疲れるからな、無理もない。

 ステラちゃんも俺の中で眠ってるし。


「しかし、我ながら完璧な計画だったな……」


 すべての精霊王を倒して、星の余剰エネルギーを堰き止めていたダムを決壊させる。

 星の意思がウェーイして、世界中にエネルギーが満ち溢れる。

 可能性を蘇らせて、余剰エネルギーをフェアチキにして全部たいらげる。


 やり直した時間軸ではいい感じにうまくいったが、世界のすべてがフェアチキになったときは俺も自意識がヤバかった。

 イツナが暴れてくれなかったら、俺は新たな界喰みになっていたかもしれない。


「うー……最初からアテにしてたんですか。ひょっとしてわたし、担がれたんじゃあ……」

「いやいや、そんなことはないぞ。本当なら全部、俺が食うつもりだったからな!」


 大好物のフェアチキを分け合う。

 それは俺にとって精一杯の愛情表現だ。

 何故か嫁のみんなには不評だが……。

 

「あ、ひょっとして足りなかったか?」

「いいえ! もう結構です!!」


 そんなに力強く遠慮しなくてもいいのに……。

 イツナ似だとばかり思っていたが、どうやらアディは慎み深いところもあるようだ。


「ひょっとして母さんが父さんから離れた理由ってフェアチキ――」

「何か言ったか?」

「あはは……なんでもないです」


 などと、親子でわいわい騒いでいると。


「あー……勇者達よ。そろそろ余の話を聞いてほしいのだが?」


 横合いから困り果てたように声がする。

 振り向くと、俺たちを召喚した異世界の王が所在なげに挙手をしていたのだった。





「じゃあ、わたしそろそろ帰りますね」

「お、そうか。気をつけてな」


 魔王退治への道すがら、アディが気楽な調子で切り出した。

 だから俺も軽く返したのだが。


「むー……そこはもうちょっと何かあっていいと思います!」


 どうやら俺の対応は不合格だったらしく、かわいらしく口を尖らせてくる。


「んー、あー……そうだな」


 何か気の利いたことでも言ってやろうと思ったのだが、なんも出てこないな。

 あ、そういえば。

 

「今回のこと、日記にして提出するのか?」

「えっ、まさか。こんなこと日記に書いても信じてもらえませんし、さすがに父さんにプロポーズしたなんて学内に知れ渡ったら、恥ずかし過ぎて死にますって」


 顔を真っ赤にするアディ。

 俺に対しては積極的だったが、別に周りにファザコンを吹聴する性癖はないらしい。

 ちょっと安心した。


「そりゃそうか。じゃあ、どうするんだ?」

「えへへ。そこはまあ、大丈夫です!」


 何やら「予定どおり実物はじっくり観察しましたし」などと小声で呟いているが、なんのことやら。

 共通の話題が尽きてしまうと、お互いの間に沈黙が流れる。


「アディさん。正式に嫁をやめる、ということでよろしいですね?」


 静寂を破ったのは、いつの間にか現れたエヴァだった。

 アディの最終的な意思確認に来たのだろう。


「……はい。今からわたしは逆萩亮二の娘、ただのアディーナ・ローズです」


 そのときのアディが何を思っていたのか、俺には正直言ってわからない。

 悲しそうな瞳だったけれど、口元はわずかに綻んでいて。

 まっすぐに俺の方を見つめていた。


「アディ、俺は――」

「あ、父さんの心変わりは大歓迎ですからね。いつでも喚んでください!」

「い、いや、お前なぁ……」


 珍しく真面目な話をしようとしようとしたというのに。


「ね? お願いです……」

 

 いや、そうか。

 そうだよな。


「わかったよ」


 伏し目がちなアディにできるだけ優しく応えて、了承の意を伝える。


「ありがとう、父さん。それじゃあ」

「ああ、またな」


 お互いに手を振り合って、それが合図。

 帰還魔法陣がアディの足元に出現したかと思うと、彼女の笑顔は光の中に消えていった。

 しばらく魔力の残滓が蛍の光みたいにふわふわと広がっていくのを見ながら、俺は……。


「いやぁ……父親やるのって、難しいもんだなぁ」


 大きく伸びをして、同意を得ようとエヴァの方を振り向くと。


「フフッ……」


 なにやらエヴァが口元を抑えていた。


「なんだ? 何かおかしいことでもあったのか?」

「いえいえ。今回ばかりは、マスターの負けですねぇ……と」

「あぁん? 俺が負けたぁ? どっからどう考えても完全勝利だったと思うんだが……」

「マスターがそう思うんなら、そうなんでしょう。マスターの中ではね」


 エヴァがくすくすと笑っている。

 ぐぬぬ……ここまで言うからには、俺は何かを見落としたってことなのか?

 うーん、わからん。


「まあいいや。エヴァだって、せっかく久々の娑婆なんだし。付き合えよ」

「ええ、もちろん。どこまでもご一緒しますよ、マスター」


 こうして、アディとのひと騒動は幕を閉じ。

 俺は俺で、いつも通りの異世界行脚へと戻るのだった。





 そのときのエヴァの笑みの意味を俺が知るのは、数日後。

 たまたま異世界侵略中だったアンス=バアル軍から、異世界で購入したという一級資料書籍とやらを分捕った。


 その本のタイトルは『実録・破壊者サカハギ ~その生態のすべて~』といい。

 著者のところにはしっかり『アディーナ・ローズ』と書かれていた。


「アァァァァディィィィィーーーーーーーッッ!!」


 その後すぐ、ちょっとした家族会議が催されることになったのは言うまでもない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 現地のアンス=バアル軍からしたら突然追いはぎに部隊全員身ぐるみはがされるようなもの
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