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114.年数マウンター

 今更するような話じゃないかもしれないけど。

 俺を召喚する輩には「逆萩亮二を指名召喚する」連中が少なからず存在する。


 俺に復讐しようとする者は言うに及ばず。

 又聞きの情報で利用しようとしてくる異世界侵略者とか。

 万神殿(パンテオン)に属さず神々同士の情報共有手段を持たない、松田のようなチート転生最下位神などなど。


 動機こそバラバラだが、彼らに共通しているのは「俺のことを知ったつもりでいる」ってことだろう。

 例えばクソ神とか、その従属神からかいつまんだ程度の情報を鵜呑みにして、俺を制御……あるいは制圧可能だと思いこんでいるのだ。

 実際、俺がレベルカンストだとかステータス1万だとかで天狗になっていた頃なんかは、上位チートホルダーにいいようにやられたのも確かである。


 そういう召喚者の中で特に多いのが――


「逆萩亮二。お前は異世界を巡るようになって何年なんだ?」

「ん。まあ、3000年とちょっとだけど」

「なんだ、その程度なのか? ちなみにオレは100億年だ」


 この、年数マウンターである。

 彼らは事あるごとに俺よりも自分が長い時間を努力チートしたと年数でマウントを取ってくるのだ。

 それをやられたときの俺の返事は決まっていて。


「へえ、マジで? すごいっすね、パイセン」


 素直に称賛するよ、それはもう。

 主観時間計算とはいえ、俺の異世界巡業年数はたかだか3354年ばかし。

 今の仕事を100億年とかやらされてたら、発狂したくなるってば。

 パイセン、まじぱねぇっす。


「お前、ひょっとして馬鹿にしてるのか? たかだか人類有史ぐらいの時間を生きてる程度の分際で」


 なんで俺より年上なのにイキってんの、この人……。

 いや……精神やら魂やらが老成しなきゃ、案外そんなもんなのかもね。俺もそうだし。


「いやいや、おっしゃるっとおりっすよ。俺程度じゃパイセンにはとてもとても……」


 一応下手に出ながら、相手の出方を観察する。


 前にも言ったが、人間の脳には記憶限界なんてものは実質的にないも同然だけど、精神や魂はそうはいかない。

 永遠に生きていられないからこそ、人間や動物は自らの子孫を残すのだ。

 しかし、俺のような規格外の例外則(オーバーフロー・ワン)でなくとも、そういった狂気を乗り越えた精神的超人は存在し得る。

 彼もまた、そういった常軌を逸してしまった人間なのだろう。


 ちなみに今回俺を指名召喚したのは、どこにでもいそうな黒髪黒瞳の日本人青年だ。

 しかし、見た目に騙されてはいけない。

 偽装された魔力波動が十重二十重(とえはたえ)とその身を覆っているところから、チートホルダーとしては超上位に位置するだろう。

 じゃあ、パイセンの底は視えないのかって言われたら……そりゃあ、まあ……ねえ……?


「フン、まあいい。逆萩亮二。お前を喚んだ理由を教えてやろう」


 だいたいこの手の連中の誓約は腕試しとか、修行相手とか、おのれサカハギとか。

 あるいは生意気な後輩に一泡吹かせてやりたい願望あたりだ。

 指名召喚だからこそ誓約が確定しているので、代理を立てるかどうかは願いを聞いてからになる。

 今回のはだいぶ高慢ちきだけど、そんなのチートホルダーなら俺を含めてだいたいそんなもんだし、目くじら立てるほどのことでもない。

 ましてや年数マウンターだと異世界間コネクションも半端ない連中が多いので、下手に怒らせると今後の案件に支障をきたす。

 事あるごとに「異世界の破壊者サカハギ! お前の好きにはさせん!」とか言われたり、無駄な仇討ち召喚が増えちゃうわけだ。


 だから、ほどほどに接待するのがセオリーなわけだが……このパイセンは一味違った。


「最強スレだ」

「…………は?」

「最強スレでオレがお前に順位で負けてた。わかるか? オレはお前より弱いと思われてる」


 ゴウッっと、パイセンの纏う魔力波動が膨れ上がった。


「だから、証明する。オレはお前より強いってことを。最強スレでな!」

「おいおいマジですか!? 俺が言うのもなんだけどアンタ正気かよ!! ていうか、そんな力を解放したら世界が壊れるぞ!」

「問題ない。ここはお前と戦うために、オレが創った世界だからな」


 ですよねー!

 パイセンなら、神の真似事で創世ぐらい朝飯前ですよねー!


 とはいえ、俺はもうちょっとだけ悪あがきする。

 

「というか、異世界間の壁を好きなように超えられない俺なんて、そんな高順位になれるわけないでしょうに!」


 他のトリッパーからの聞きかじりでしかないが。

 パイセンの言う最強スレというのは、いくつかの神々の万神殿(パンテオン)間で共有される『チートホルダー最強スレッド』のことだろう。

 いわゆる「こいつらには迂闊に手を出すな」っていう注意喚起であると同時に、神々の『俺の育てたチートホルダーTUEEE』を自慢し合う場だったはずだ。

 なんでも強さランキングの基準に世界破壊の壁とか宇宙破壊の壁とかがあって、神々が好き勝手にチートホルダーのステータスを書き込んでいるらしいと聞いたのだが……。

 

「いいや、お前は全能神の壁を超えている扱いになっている。至高神ナロンのお墨付きでな!」


 クソ神ィィィィィッッ!!!


「並行世界に偏在する邪神すらも仕留めたというお前の力、見せてもらうぞ!」


 パイセンの両手に1本ずつの剣が収まる。


 こうして。

 意味のわからないまま頂上決戦が始まった。




「これは挨拶代わりだ」


 パイセンはまず、四方次元からの同時斬撃を繰り出してきた。

 いずれも空間切断且つ物理無効無視。当然のように不可視というか不可知で、不死殺し付きである。

 不老不死チートはともかく、俺は元からそんなに常時防御の類は展開しない主義だ。

 だからこちらも空間切断対応可能且つ物理無効無視を無視する剣をクラフトチートで即席で創って、斬撃を捌き切る。


「この攻撃を普通に防御するのか。やるな」

「そいつはどうも」


 パイセンの不死殺しでは残念ながらクソ神の呪いを無効化するには至らないだろうけど、あっちのスタミナが切れるまで復活スピードを上回る光を超える剣速で寸刻みにされ続けるだろうから、とてもアテにはできない。

 まあ、このランクの戦いだと同次元軸での即時再生復活能力なんて、あってなきが如しだ。

 俺を殺し切るまでパイセンが諦めないなら誓約達成にもならず俺が無駄に痛いだけなので、わざと斬られる真似はしない。


「だが、まだまだこんなものではないぞ!」


 さらに別の位相空間も含めた128の128乗(なんかいっぱい)の斬撃が繰り出されてくる。

 パイセンも時空操作チートと法則無視チートを使ってるくさいので、互いに時間無視且つ光速を超えることによる各種ペナルティはない。

 とりあえず俺も光翼疾走と剣星流歩法を駆使して、ついていけるだけついていくことにする。


 都度、同じ攻防を七度。

 お互いに無傷のまま、距離を取り合った。


「まさか……俺の斬撃をすべて受け切るとはな。剣神以外では初めてだ」

「あ、そうすか」

 

 その剣神さん、きっとすごいんですね。


「ならば、これならどうだ……『其は必殺を越えた絶殺――」


 あっ、なんか詠唱始まっちゃった。

 でもそれ要するに即死チートと不死殺しチートと、あと組み合わせたらヤバイ能力諸々のコンボっしょ。

 鑑定眼で視え視えっすよ。


「――至るに死、潰えるに終。大罪の果てには炎獄を! エターナル・フレア・ディザスター!!!』」


 まーたまた、無駄に地獄の炎なんか喚び出しちゃって。

 100億歳のくせにカッコつけたがり屋なんだから。


「えーと、じゃあバリヤー!」


 俺は手をかざすだけー。


「なっ、お前っ!?」


 とっておきっぽいエターナルなんちゃらを打ち消されて狼狽するパイセン。


「何がバリヤーだ! 俺の目は誤魔化せんぞ……今のそれ、単に効かなかっただけだろうが!」


 あ、やべ。さすがにバレた?


「えっと、もうやめません? 別に俺の負けでいいんで」


 手を振って、降参のポーズをする俺。


 この戦いは極めて無益だ。

 俺やパイセンを含め、誰一人として得をしない。


 ぶっちゃけ言うと、俺はこの人に勝てちゃう。

 だけど、勝ったところでどうせ代行分体か何かだろう。

 偏在消滅仕掛けてまで本体殺したいようなタイプの相手じゃないし、仮に殺したとしても彼と同ランクのチートホルダーであろう仲間や家族との間に遺恨が残る。

 そして本体を殺さなかったら殺さなかったで「あのときは本気じゃなかった」とか言ってリベンジマッチを仕掛けてくるに決まってるのだ。


 つまり定石で言うと俺は負けるしかないわけだが、負けたら負けたで復活し続ける俺を永遠に殺し続けようとしてきそうなわけで。

 とはいえ100億年だろ……この人は下手すると俺よりも苦労してるかもしれないんだ。

 そんな相手をむざむざ殺すとか封印するなんて真似はさすがに……。


「そういうわけにはいかんな。お前は異世界の破壊者。オレは異世界の守護者。どっちみち戦う運命にある!」


 うーん、このままだと和解は無理か。

 しょうがない。恥をかかせたくはなかったけど……はい、麻痺魔法。


「うっ……!?」


 各種耐性と防御系チートを同時併用し、無限の魔法抵抗力を持っていたはずのパイセンはいともあっけなく俺の魔法にかかって倒れた。


「ほら、チェックメイトっすよ」


 即席剣の切っ先を倒れたパイセンに突きつける。

 ついでに次元楔で次元転移での逃走を、自己領域結界で代行分体トカゲのしっぽ切りを封じた。


(馬鹿な。何故、オレがこんな低レベルのパラライズなんかに……! 麻痺無効スキルもあるんだぞ! 何故はたらかない!?)


 念話が飛んでくる。

 思念と同時にいくつかのヤバめ呪詛も一緒に届いたけど、もちろん俺は呪詛同化チートでもって自らの栄養に変えてしまえる。


「そりゃあ、俺がパイセンの耐性を攻略する手段を持ってて、ついでに防御系チートを無効化して、無限の魔法抵抗力を普通に突破したからですよ。他に何か理由が要ります?」


 というか、残念ながら限界突破リリィちゃんや本気アディ……特にアルトの足元にも及ばないんだよね、パイセン。

 だって、さっきの攻防だって俺が封印を解かなくてもそれなりに真似して、適当なところでカウンター入れればいつでも勝てたし。


 宇宙破壊に宇宙創世。

 常時全能に任意全能。

 権能無効に法則改変。

 精神破壊に魂魄破壊。

 再生無効に不死殺し。

 無限偏在に無限復活。


 大いに結構。

 神々はもちろんのこと、超上位チートホルダーならその程度のことは平気でやってのけるからな。


 でも、()()はえっと……最強スレ?

 そういった背伸びする舞台からはとっくに降りてるし、勝負はしてない。

 でも、そんなことを馬鹿正直に伝えたところでパイセンの行動原理は変わらないだろう。


「言い忘れてましたけど、パイセン」


 だから俺は、年数マウンター相手に一定の実績のある、ちょっとした泣き落とし作戦を敢行する。


「俺の嫁にものっそい怖いのがいましてね……そいつを心配させてしまったときに、永劫ループする結界に監禁されちゃいまして。スローライフを強制されたような記憶は何百年分か残ってるんですが、その結界の中に『正確に何年いたか』は俺にもわからないんです。何故かっていうと俺、自分に何度となく忘却魔法かけたみたいなんですよね。だから曖昧で。今もたぶん忘れたほうがいいんだろうと思って、記憶は封印したままでいます。だから、ひょっとしたら結界にいた時間は1兆年とか2兆年とか、あるいは単位は京とか、もっといくと阿僧祇(あそうぎ)とかかもしれないっすね。あ、でも、その結界を『破って』から俺が何段階も『シフト』したのは間違いないんですよ。ゲーム的に言うとレベル1兆でステータス那由多どまりだったのが、結界内でスローライフを数百年過ごしたらレベル無限でステータスを任意に決められるようになっていたような、なんかそんな感じのパワーアップです。まあ、忘却魔法のおかげで急成長した気になったってだけなんですけどね。でも、そこにいるだけで世界を滅ぼしちゃうような力を普段から行使するわけにはいかないじゃないですか。いや、もちろん最初はすべての異世界を破壊すれば帰れるみたいな夢見ちゃったのは確かなんですけどね? でもでも滅ぼした異世界の数倍の異世界が復活しちゃったりなんかして。おかげで俺が彷徨う年数は馬鹿みたいに増えるし『サカハギ君! 再生っていうのは破壊からしか生まれないんだよ! 自分で借金の利子と利率増やしちゃってどうすんの!』ってクソ神にも大笑いされましたよ。ハハ、ハハハ、ハハハハ、ハハハハハ!」

(そ、そうか。お前も、苦労したんだな……)


 お、好感触。

 案の定、俺と同じで自分と似た境遇の話には弱いみたいだな。

 俺もこれ以上続けたらトラウマを思い出しそうだから助かる。


「いやあ、生意気な口きいてすいませんでした、パイセン。それで……まだやります?」

(いや、よそう。というか……丁寧語よして。そっちが先輩かもしれないんだし)


 あ、やっぱり根はいい人だった。

 そうだよね、あんな殺す気しかない攻撃でも、俺に対する個人的な悪意はまるで感じ取れなかったし。

 100億年をこじらせた負けず嫌いってだけだった。


(認めよう。俺の負けだ)


 パイセンの宣言と同時に、俺の足元に召喚魔法陣が浮かぶ。

 どうやら、誓約を破棄してくれたようだ。


(しかし、なるほど。宇宙は広いな……オレよりも長い年月を幽閉されてた奴がいたかもしれないとは……)


 ああ、わかるよ、パイセン。

 この苦しみは定命の連中や、最初から永遠の存在である神々には絶対に理解できないんだよね……。


「そうさ。俺やパイセン以外にも、たくさんいる。運命に弄ばれた被害者たちは大勢いるんだ。そんな俺達が戦うなんて間違ってる。俺達みたいなベテラン同士はもっと助け合っていくべきだと思うんだ」


 俺がシリアスめいてそう言うと、麻痺したまま倒れているパイセンがフッと笑った。


(ところで……オレの麻痺はいつ解いてくれるんだ?)

「ああ、ちょっと待――」





「――って。今解くから……あれ?」

「おお、召喚成功だ!」

「やったぞ!」


 いつもの勇者召喚であった。

 ちなみに麻痺魔法の持続時間は俺のレベルに依存し、限界上限は取っ払われている。

 さらに次元楔と結界については永続するわけだが……。

 

「えーと……まあ、パイセンなら自力で何とかできる。うん、きっと!」


 そうとも、俺は信じてる!

 パイセンなら、何億年かかってもやり遂げられるって!





(……というわけで、逆萩亮二。オレは麻痺してぶっ倒れたまま……お前を再召喚するのに主観時間にして1000億年以上かかった。何か言うことは?)

「サーセンでした。ところでパイセン。忘却魔法、要りませんか?」

(是非お願いします!!!)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話が毎回上手く纏まってて面白い! [一言] パイセンまた忘れて呼び出したりしないよね?
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