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109.捜査フェイズ

 その後、全員が別行動を取ることになった。

 まあ、最初に解散した連中もだけど、それぞれでやりたいことがあるだろうし。

 俺とロリババアはティーネに頼んで新しい客室をあてがってもらい、そこで今後の相談をしようと思っていたのだが。


 部屋に入った途端、ロリババアが口を開いた。


「思うのだが……あのアンナという少女がルアフォイスを殺害した真犯人ではないのか?」

「ん? どうしてそう思うんだ?」

「だって彼女の証言がすべて嘘っぱちであれば、簡単な話だろう。部屋を調べていたルアフォイスと鉢合わせをしたアンナが、咄嗟に魔術を行使したと考えるのが妥当ではないか?」


 その推理、わからんでもないが。


「そうなると、犯行はどうやったことになる? 血痕は扉の内側にもついてたんだぜ?」

「そんなのは簡単だ。こう、扉を開けてから真空刃の魔術を部屋に中に放った後、扉を閉めてだな」


 身振り手振りをまじえつつのロリババアに、俺も頷き返す。


「まあ、そうだな。犯人が普通の魔術師だったら手口としてはたぶん、そんなところなんだと思うよ」

「や、やはりか!」


 ロリババアが目を輝かせる。

 魔術には疎いからなのか、あるいはまだ仮説の段階だからなのか英国ダンディはそんな単純な手口の可能性に触れていなかったが……当然、旦那なら気づいていたはずだ。

 部屋の外側から魔術行使をして、直後に扉を閉めた。

 血痕の謎もクソもない、面白味のない結論。


「でもな、あの子が犯人って可能性は今のところ、ほとんどゼロに等しいぞ」

「むう、それは何故だ?」


 このロリババア、なんだろうなぁ。

 気付きとか閃きについては、結構いい線行ってる気がするんだけど。

 どこか抜けてるというか。まあ、そこが憎めないところでもあるんだけど。

 

「彼女の目的が賢者に会うことだったからさ」

「むぅ?」


 俺の回答にもピンと来てない様子のロリババアに、俺はわかりやすく説明してあげることにした。


「そうだなぁ。まず、仮にあの子がデブと鉢合わせしたとき、どうすると思う?」

「それは当然、あのように明らかに邪悪そうな魔術師が現れたなら、自衛のために攻撃魔術を行使したとしても正当防衛は認められるであろう!」


 おおいにロリババアの主観というか私怨の籠もった解釈に苦笑しつつ、例え話を続ける。


「あの子は賢者に会うために部屋をいくつも回っていたんだ。そんなときに部屋から初対面の魔術師が応対に出てきたら、相手が賢者かどうか確認するだろ?」

「いや、まさか……考えたくもないが、ルアフォイスを賢者と間違えるとでも!?」

「そゆこと。んでもって、ようやく出会えたかもしれない賢者を、あの子が出会い頭に殺したりすると思うか? もっとも、話せば誤解はすぐ解けるだろうけどな。でも、デブに攻撃されたとかならともかく殺す動機はないんじゃないかなぁ。それに肉片や血液の飛び散り方からして、デブは部屋の中央あたりにいたはずだ。応対に出た瞬間に殺されたのなら、一番血液が多いのは入口付近になって……部屋の奥にまでは血液は届かないと思うぞ」


 他にも説明できないことがある。

 アンナちゃんが犯人ならば余計なことをし過ぎているのだ。

 悲鳴をあげて事件を発覚させたり、鍵がどうのこうのと嘘を吐いたり。

 何か特殊な事情でもない限り、すべてリスクを上げるだけの行為だ。

 自分が犯人ですと主張しているようなモンである。


「もちろん彼女の話が最初っから全部ウソで、本当の目的が賢者の暗殺だったりしたら話は別かもしれないけどさ。さらにさらに『あなたが賢者だったんですか?』と聞かれたデブが気を良くして『如何にも!』と応えて。これならまあ不幸な事故ってことになるけど。現時点では何の証拠もないし、想像に想像を重ねた話だろ?」


 その場合、事件の真相はこんなところだろう。

 王国は賢者のことを邪魔に思い、知恵を借りるという名目で手紙をよこし、護符を手に入れた。

 そして護符をもたせた暗殺者、つまりアンナちゃんを派遣して賢者の暗殺を決行。

 ルアフォイスの言動を信じて賢者と誤解した結果、殺害してしまったと。


「もっともあの子が賢者暗殺を目論んでいたんだったら、あんな悲鳴あげないで、とっとと退散すると思うけどね」

「むむむ……っ」


 さすがにおかしいと思い始めたのか、悔しそうに唸るロリババア。


「まあ、あの子が相当怪しいってことは、俺も否定はしないよ」


 どんな異世界であろうと、魔術師が秘密を持つのは普通のことだ。

 すべてバカ正直に話していると考えるほうが、よっぽど阿呆だろう。


「ううむ。だとしたら、今後はどうしたものか」


 情けないことを言い出したロリババアを、俺はさらに言いくるめる。


「どうもこうもないだろ。賢者の遺産を欲しいと思うんだったら、手がかりを探すしかない」

「手がかりといってもだな。未だにどのようにすれば賢者の称号と遺産が譲られるのか説明すらないのだぞ?」


 どうしろというのだと不満に口をすぼめるロリババアに肩をすくめてみせた。


「何言ってるんだよ。あるじゃんか。これから探すべきものと、見つかってない手がかり」

「む、なんだそれは?」

「デブの従者と、アイツに届いた案内状だよ。あの死体は一人分。切り飛ばされた服の生地からしてデブだと特定できたんだから、従者はあの部屋じゃ死んでいないってことだろ。それに切り刻まれた紙片もなかった。せっかく候補者ごとで案内状の内容が違うって情報が手に入ったんだし、探すべきじゃないか? 賢者の遺産を探していて殺されたっていうことなら、アイツが一番遺産に近いところまで来てたって可能性が高いんだからな。そもそも、どうしてあのデブがアンタの使うはずだった客室を調べていたんだ? 他の誰も知らない事前情報がなにかしらあったと考えなきゃ不自然だろ?」

「なるほど、そうか!」


 ロリババアは納得しているが、今のは割とその場の思いつきを羅列しただけである。

 本当に賢者が死んでいるのかすら怪しくなってきた以上、賢者の遺産なんてものがそもそも存在しない可能性は高い。

 そうなると、俺の誓約を達成するにはロリババアが『これが賢者の遺産だったのか!』と納得する必要がある。あるいは、賢者の遺産はなかったということを完膚なきまでに証明してみせて誓約を破棄させるか。

 何にせよ、このロリババアに能動的に動いてもらわんことには、どうしようもない。


「まあまあ。とにかく動こうぜ。もう夕方になるし、談話室にでも行けば夕食にありつけるだろ。他の候補者も来てるかもしれないぞ」

「そ、そうだろうか。この状況なら自室の護りを固めて、料理は毒を警戒して持ち込んだものだけでなんとかするのが定石では……」

「あのな。この手のシチュエーションに遭遇する異世界では籠城したやつから順に死ぬって相場が決まってるんだ。俺が側にいる間は安全だって! ほら、動いた動いた」

「意味のわからんことを言いおってからに! ああ、わかったわかった、お前に任せる!」




 ロリババアを急かして談話室と向かう。

 案の定、先客が何人かいた。


「あら、奇遇ね」

「ほう。なかなかの度胸だ。てっきり自室に籠もると思っていたが……」


 魔女とイケメン魔術師のふたりだ。他の連中は来ていないらしい。皮肉を言われて、さっきまで籠城を主張していたロリババアがばつの悪そうな顔をする。


「そういうアンタたちはどうなんだ?」

「フッ、心配をしていただくには及ばない」

「くすくす……」


 俺の挑発にふたりとも乗っては来なかった。


「坊やたちこそ、どうなのかしらね?」


 俺を坊や呼ばわりした魔女が蠱惑的な笑みを浮かべてくる。

 召喚されるならこっちの方がよかったなぁ。ちょい年増だけども。


「そりゃもちろん、アンタたちと同じ目的で此処に来てるよ」

「ほう? 何のことかな」

「わざわざ危険を冒してでも部屋の外に出てるってことは、そういうことなんだろう?」


 ある程度の予測はしつつも、かなり適当にカマをかけながら反応を伺う。

 なんのチートも使わずにこの手の魔術師相手にやりとりするのは骨が折れる。

 だけど、たまにはこうして勘を鍛えておかないと本当に困ったときに大苦戦するからな。異世界を渡り歩くには場数を踏むことが大事だ。

 どうでもいいけど、後ろのロリババアが一番オロオロしてるのってどうなのよ。


「まあ、いいんじゃないかしら?」

「ふむ、そうだな。2つを比べるよりも3つのほうが良かろう」


 魔女とイケメン魔術師が示し合わせたように頷き合う。


「なんだ、いったい何の話だ?」

「お前、本当に魔術師なのか? 案内状だよ、案内状」

「おお、そういえばさっき話していたのだったな!」


 本当に大丈夫なのかな。

 他人事ながら心配になってくる。


「じゃあ、さっきと同じようにテーブルの上で一斉に表にするってことでいいかしら?」

「構わんよ」

「いいぜ」


 案の定、このふたりは既に互いの情報を交換し合ったらしい。

 ロリババアのはとっくに拝借しているので、合図と同時にテーブルの上で表にする。


 それぞれの案内状には、このように書いてあった。


『候補者のすべてに告げる。賢者の遺産ほしくば、我が森へ来たるべし。集いし者たちの中から、もっとも相応しき者に譲る』

『候補者にすべてに告げる。賢者の称号ほしくば、我が森へ来たるべし。汝が受け継ぐに相応しいと真に思うのであれば』

『候補者のすべてに告げる。賢者の遺産ほしくば、我が森へ来たるべし。もっとも相応しき者に賢者の称号とともに遺産を譲る』


 ふーん、やっぱりな。


「あら、あなた達のはだいぶ言葉が継ぎ足されてるのね」


 魔女があっけらかんと笑う。


「むむむ、確かに違うが……つまり、どういうことなのだ?」

「単純な話だ」


 唸るロリババアに嘆息しながらイケメン魔術師が解説する。


「彼女の案内状には遺産の話は出ているが、称号の継承について記載はない。私の場合は逆だ。称号についてはあるが、遺産についてはない。だが……キミ達に届いたものには両方の記載があるようだ。おそらくは、候補者が最も興味を抱く項目について強調する内容となっている」


 そのとおり。

 まあ、このあたりは概ね予想した通りだったので特に驚きはないのだが。


「むぅ、それは当然の話なのではないか? 賢者の称号にしても遺産にしても、相応しき者を集めるための手紙なのだから!」


 候補者に選ばれたことへの誇らしさを思い出したのか、ない胸を張るロリババア。


「あらあら……」

「ふむ、キミはこれらの文面をすべて見た上でも、そう捉えられるわけか。ある意味で稀有だな」


 そんな様子を魔女が微笑ましそうに。一方、イケメン魔術師の方は忌まわしそうに見ていた。


「何? どういう意味だ」

「まあまあ。あんまり気にする必要はないさ」


 この時点で気づかれても話がややこしくなるだけだと判断した俺は、咄嗟に話題を逸らした。


「アンタたちも心当たりはないか?」

「残念ながらないわ」

「悪いが、私もあまり興味がないのでね」

「そうか。ありがとな……さ、俺たちもいったんメシ食おうぜ」

「お、おい! もういいのか?」

「ああ、これでいい」


 期待していた情報は充分に揃った。

 ぶっちゃけデブの案内状の内容は伺い知れるし、従者もおそらくはそのうち死体となって発見されることだろう。

 できればそれを調べて発見していくのが俺……というより、ロリババアになるのが望ましい展開か。

 うまく思考を誘導しておいてやらないと、次に死ぬのはロリババアになる。

 そのあたりのトリックに察しがついたからこそ、魔女とイケメン魔術師は情報交換を終えた後も、こうしてのんびりと寛いでいるのだろうしな。


 正直言ってまだ犯人の動機はわからない。

 そもそも、犯人と呼べるものが存在するのかすら。

 だけど、たまにはこういうチート控えめなのもマンネリ解消にはいいだろう。

 ミステリ系の雰囲気は、俺の旅する異世界では滅多に味わえないからな。 

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