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101.努力チート

「失敗? そんな報告は聞きたくないわ!」


 襲撃のあった宿近くにある裏路地。

 重装備の護衛達に囲まれた黒ずくめの女が、暗殺者のひとりから報告を聞いて苛立たしげに毒づいた。


「他の3体はともかく、4号だけは絶対に回収しなくてはならないのよ! でなければ、私達の世界に夜明けは来ない……!」

「へぇ……その話、是非とも詳しく聞いてみたいねぇ」


 すぐさま護衛が女を守るように盾を構えた。

 暗殺者も翻るような身のこなしで立ち上がり、声のした方へ短剣を投げる。

 だが、闇夜の中に消えた短剣は暗殺者自身の喉元に突き立った。


「なっ、何者!」


 どさりと倒れる暗殺者に驚愕しつつも、黒ずくめの女が闇に向かって誰何する。


「通りすがりの異世界トリッパーだ。覚えておけ」


 姿を現しながら、俺は殺戮の喜悦に鮫のような笑みを浮かべるのだった。




 4人の尾行を切り上げ、事前にマークしていた暗殺者のひとりを追跡したところ結社幹部を捕獲するチャンスに巡り会えた。

 護衛どもを鏖殺おうさつして幹部の女を――こちらを誘惑してくるいい感じの美女だったので、ベッドの上でたっぷりと――尋問し、情報を聞き出してみたところ、ようやく全体像が見えてきた。


 あの4人の少女は全員、結社の出身だったらしい。


 女幹部は4人の少女たちが結社でどういう役割を果たすのかまでは知らなかったが、世界の夜明けをもたらすとかいうよくわからん大願を達成するのに必要なピースであり、回収するよう命令されていたとのこと。

 4人とも結社からは逃亡中の身であったが、この世界で大賢者として名高い男に保護されたという。今は大賢者の親友が校長をやっている冒険者養成学校に所属して冒険者見習いとして公的な身分を得ている。大賢者からの要請と校長からの情報提供を受けている4人は課外授業と称して結社の各部門を潰して回っているらしい。

 で、ここからは余談。

 召喚したモンスターや邪神の眷属などを他部門に提供するのが役割だった下部組織が先日、全滅を確認された。これも当初は4人の仕業と目されていたが彼女たちは街でアリバイが確認され、結社は召喚事故として処理したという。


「つまり、私達を召喚したのは何一つ真相を知らない下部組織だったと」

「ああ。そういうこった」


 尋問に使った安宿の一室。

 シアンヌが腕組みしながら「むぅ」と唸った。


「結社にとって重要な存在だと知らずに、あの4人の討伐を我々に願ったわけか……だったら、奴らを全滅させた時点で代理誓約が通るのではないか?」

「通るかもしれないし、通らないかもしれない。やってみなきゃわからないな」


 女幹部と話してみてわかったのは、連中は結社の教えに心酔しているってことだった。

 奴らの言う世界の夜明けとやらが何なのかはいまいちわからなかったが、俺たちを召喚した下部組織も結社への帰属意識が強いなら、代理誓約を立てるにはやっぱり結社を全滅させる必要があるかもしれない。

 女幹部と接触できたおかげで無事に仕込みも開始できたので……まあ、結社については放っておいてもなるようになるだろう。


「だけど正直、今回は誓約なんかよりあの4人……というより、4号って呼ばれてた銀髪の子の正体が何なのか知っておきたいんだよ。今後の俺にとってなんか重要な気がするからな……」

「それは勘か?」

「ああ。でもって、俺の勘はだいたい当たる」


 代理誓約を立てて達成できてしまったら、銀髪少女ちゃんの正体を知るチャンスは二度とやってこない。

 もしも、俺の予想どおり……銀髪少女ちゃんが人為的に造られた規格外の例外則オーバーフロー・ワンなのだとしたら。

 はたしてモデルとなったオリジナルは一体、誰なのか?


「いや、まさか……そんなはずない。キャメロットも、マーリンも、俺が潰したんだ。それに誰であれ今のアルトのことを利用できるはずが――」

「……サカハギ?」


 っと、考えてることが口に出てたか。

 シアンヌが不審そうに俺の顔を覗き込んでいる。


「ああ、すまん。なんでもない。で、どうする? 今日もやるか?」

「もちろんだ」


 お互い頷き合ってから、次元転移で先日の平野に移動する。


「それとこれは提案なんだが……サカハギ。4人同時はイツナとステラの力も借りたい。私一人では、どう足掻いても無理だ」

「ああ、いいぜ」


 むしろ、そういう提案を待ってた。

 シアンヌ……今のお前は一人で戦わなきゃいけないわけじゃない。


 拘りは捨てて、解決法を模索するんだ。




 事情を聞いたイツナとステラちゃんは喜んで協力してくれた。

 イツナに至っては自分もタイマンをやりたいと言い出して、シアンヌと火花バチバチの戦績対決へ。

 もっとも、イツナもちびっこ神官ちゃんと銀髪少女ちゃんを攻略できず……引き分けとなった。

 だというのにステラちゃんが界魚を使役してちびっこ神官ちゃんをやっつけてしまったので、一位はなんとステラちゃんに決定。

 なんとも言えない空気が漂う中、ついにチーム戦である。


「どうせだから、一度だけサカハギさんを入れて4対4でやってみない?」


 そんなイツナの提案に当然シアンヌは反対したが「にーちゃもやって!」と暫定一位幼女の鶴の一声により、俺を含めたチーム戦が開催された。

 流れとしては俺が銀髪少女ちゃんを抑え、ステラちゃんの界魚が防御障壁ごとちびっこ神官ちゃんを打倒し、残りのふたりをイツナとシアンヌがスピードに物を言わせて攻略した。

 その後は、予定通りに俺が抜けた3対4になったが……案の定、銀髪少女ちゃんひとりがフリーになるだけで俺の嫁たちは手も足も出なくなった。


「直撃してるのに雷が効かない……あんなの絶対おかしいよ!」

「まあ、あの子は全属性への完全耐性があるからなー」

「やはり、まともな方法では太刀打ちできんな」

「さんにんでやっつけるのー」


 というわけで、今度は俺の嫁が3人がかりで銀髪少女ちゃんひとりに襲いかかる。

 ステラちゃんが界魚でふたりを援護したため、かなりいい勝負になった。

 銀髪少女ちゃんに物理無効化系のチートはないのでイツナも雷霆による攻撃をやめてスタンバトンで撹乱し、シアンヌが次元転移から隙を突いて初めて黒爪撃を直撃させることに成功した。ちびっこ神官ちゃんの防御障壁さえなければ銀髪少女ちゃんの防御を突破できるようだ。シアンヌの黒爪撃は俺も油断してるときは直撃を食らったから、意外ってほどでもない。

 とはいえ、実力差を覆すには至らなかった。決定打になるかと思われた界魚の魂壊牙もコピーに魂がそもそもないために通用せず、シアンヌが倒された段階でイツナが降伏を宣言したのである。


「ふはー、ほんとに強いね。サカハギさんみたい」


 イツナが地面に大の字に倒れ込みながら、失礼な感想を漏らす。


「残念ながら、俺はもっと強い」

「にーちゃ強いの。ぎゅー!」


 足元に抱きついてくるステラちゃんをなでなでしつつ、シアンヌに向き直る。


「どうだ?」

「ああ……もう少しで、何かを掴める気がする」


 シアンヌが自分の手を見つめながら、開いたり閉じたりしていた。 

 そういえば、ここに来たときにもそんな仕草を見せていたな。


「よーし、イツナ! もう一度やるぞ!」

「えーっ! シアンヌさん、まだやるのー!?」

「ステラもほんき出すのー!」


 こうして、俺達の夜は更けていく。

 嫁たちが切磋琢磨する様子を、俺は夜空の星々をバックにのんびりと眺めていた。

 誓約への焦燥感もなく、異世界に対する憎しみもなく。

 今はただただ、嫁たちの成長を見守る。


「シアンヌ。お前は変わらないって言ってたけど……俺も多分、変わったよ」


 きっと俺だけだったら、ティナとシンジを諦めていただろう。

 ふたりを取り戻すことができたのは、嫁たちの頑張りのおかげだ。

 シアンヌがもっと強くなりたいというなら、なんとか報いてやりたい。


 それに、この異世界で……いや、クソ神の宇宙でとんでもない何かが起きようとしている気がする。

 エヴァも言ってたけど、リリィちゃんや銀髪少女ちゃんにクソ神が気づかないっていうのは不自然過ぎる。

 自然じゃないってことは、何者かの意図が介在してるかもしれないってことだ。

 それもクソ神のような超存在を知る者が、かの至高神の目を欺きながら計画を進めているって話になる。

 信仰を誤魔化してガフのエネルギーをちょろまかしてるとかじゃないなら、通報だって機能しない。

 あるいは、クソ神自身が知った上で放置しているか……あの愉快犯のことだから、有り得そうで嫌だ。

 

「どっちみち、そろそろあいつらにも教えてやらねぇとな……」


 いずれ来るかもしれない災厄を戦い抜く力を。

 ただの観客で終わらないだけの参戦資格を。

 それが何なのか。何が必要なのかを。


「お前ら!」


 銀髪少女ちゃんにまたまた敗北し、それでも立ち上がろうとする嫁たちが何事かと振り返る。


「今夜は大事なことをやるから、余力を残しとけ!」


 俺の宣言に、シアンヌはしばし目を丸くしていたが……やがてその表情が羞恥に染まった。


「わ、わかった……」


 もじもじしながら、内股をこすり合わせるシアンヌ。


「えっ、ひょっとしてルール5かな? かな?」

「なにするのー?」


 イツナとステラちゃんが何やらヒソヒソ声で話している。

 ま、楽しみにしてるといい。




「よーし、お前ら。今から大事なことを教えてやる」


 宿の大部屋。

 ベッドの上に勢揃いした嫁たちを前にして、俺は……「絶対合格」と赤字で書かれた鉢巻を額に巻き、アイテムボックスから取り出したホワイトボードをマジックペンで叩いていた。


「うわーっ、ルール5ってお勉強のことだったんだ……」

「お勉強やだー!」


 見事にルール5を誤解したイツナとステラちゃんが嫌そうな顔で不満を口にする。

 シアンヌに至っては目が死んでいた。


「まず聞いておこう……お前ら、強くなりたいか?」

「うん!」

「当然だ」

「よくわかんないー」


 まあ、イツナとシアンヌはともかくステラちゃんは既に星の守護者がチートだから問題ないとして。


「だったら、これだけは最初に言っておく。クソ神の宇宙における強さ。それは愛でも勇気でも、ましてや希望でもない。0.99%のたゆまぬ努力と0.01%のあふれる才能。そして、99%のチートだ」


 イツナとステラちゃんがきょとんとしている。

 シアンヌは何というか……難しそうな顔をしていた。


「それは、チートホルダーに努力では届かないという意味か?」

「ああ。ただ努力するだけじゃ駄目だ。そこに至る前に肉体か精神が先に死ぬからな。俺が剣星流なんてアンチチート流派を打ち立てて完成できたのも不死身だったからだし、数千年単位で努力を継続できるなんて精神力もチート以外の何者でもない。逆に言うと、土台さえあれば努力はチートに届き得る」


 俺たち異世界トリッパーの界隈で努力チートと呼ばれる概念がある。

 数十年ほど山奥で素振りを続けたら剣聖級になっていたとか、数百年ゴブリンを殺し続けていたらレベルがカンストしたとか、数千年穴を彫り続けていたら波動砲が撃てるようになっていたとか、そういうやつだ。無限ループ世界に閉じ込められていたら、いつの間にか歩くだけで世界を滅ぼせるようになっていたとかも……あ、俺のことね。

 こういった努力チートには急成長系のチート能力とか、そういう物語で信仰を集めたい神によって加護を与えられていたとか、いろんなケースが考えられる。

 

 しかし、もっとも努力チートと相性がいいのは不老能力……すなわち、寿命の超越なのだ。


 不老自体は俺のような不老不死チート以外にも、取得方法はいくらでもある。

 最も多いのは種族特性だろう。ハイエルフ、アンデッド、神、御遣い、邪神、邪神の眷属……不死者イモータルには事欠かない。寿命のない種族に転生したチートホルダーはそれだけで世界最強への切符を手にできる。

 仙人の例を挙げるまでもなく、人間であっても鍛錬の内容によっては老化しなくなり、さらには若返ることだってあるだろう。

 ……ああ、聖剣を抜いて不老不死になった奴もいる。そういえば、あいつも典型的な努力チートだったな……。


 そういうわけで厳密にはチート能力ではない努力チートには、とにかく長年に渡る努力を支える土台……滅ばない肉体が必須となる。

 そういった授業内容をホワイトボードに記述していくと、イツナが必死になってメモし、ステラちゃんがこっくりこっくり船を漕ぎ、シアンヌは無言のままじっと聞いていた。


「お前らがこのまま努力だけでチートホルダーに勝ちたいと思うんだったら……最低でも寿命を克服した老化しない肉体があったほうがいい。もちろん、俺から一足飛びに強くなれる能力をくれてやってもいいけどな。そっちでも多分、あの銀髪の子にだって勝てるようになるだろう」


 それで出来上がるのは『最強の弱者』なわけだが……今、そのことは言わない。


「さあ、お前らはどっちがいい?」

「わたしはむしろサカハギさんと一緒に歳を取りたいけど、それが無理なら不老能力が欲しいなぁ。あ、でももうちょっと背が伸びたらね!」

「んー、にーちゃの言ってることよくわかんないー」


 イツナとステラちゃんは、特に考えることなく即答した。


「私は……」


 シアンヌだけが熟考する。

 少し前ならチート能力を迷わず選んでいたであろうが、今の彼女は悩んでいた。


「少し考えさせてくれ」

「……わかった。よし、今夜の授業はここまでだ」


 こうして努力チート談義は一旦、お開きとなった。




 眠りについたイツナとステラちゃんを封印珠に回収し、シアンヌと二人っきりになる。


「サカハギ」


 すると早速、シアンヌの方から質問を投げかけられた。 


「定命のままでは、チートホルダーには勝てないのか?」

「お前らがやってるような『修行パート』であの子に勝てるぐらい強くなるつもりなら、そうだ。どう考えても寿命より先に老いに追いつかれるからな」


 異世界人には必ずしもあてはまらないが、地球人なら二十代後半から肉体が衰えていく。どれだけトレーニングをしても現状維持すら難しくなっていくのだ。

 銀髪少女級のチートホルダーに努力だけで勝つつもりなら、最低でも朽ちない肉体ぐらいは欲しい。


「私は不老不死ではないが、魔族だ。人間よりは長生きする。それでは足りぬと?」

「どうだろうな」


 こればかりは、目指すところによる。

 シアンヌの場合、目標は俺だ。その才能は間違いなく俺より上だけど、シアンヌが今の俺に届く強さを手に入れている頃には俺は更に強くなってしまっているだろう。

 何故なら俺は老化しない。体力も筋力も魔力も決して衰えることなく、ひたすら強くなるだけなので、俺がよっぽどサボらない限り追いつかれることもない。


「かつての私は……たくさんのチート能力さえ手に入れれば、お前に届くと思っていた」


 シアンヌが頭痛でもするのか額を抑え、首を振る。


「だけどもう、わかるんだ。お前は所持している能力の1割すら使っていない」

「あー、それな。別に舐めプしてるってわけじゃないんだぜ? 俺が個人的に気に入ってる戦い方っていうか、得意だと思ってるやり方を通すのに都合のいい能力と魔法を使ってるってだけなんだ。そういう意味じゃ全力さ」

「そうだろうな。でも、だからこそ思うんだ。能力の多彩さは引き出しの多さでこそあれ、お前の強さの本質ではない……」


 シアンヌが窓から星空を見上げた。


「かつてお前に言われた……本気で強くなりたいならもっとがむしゃらになれ、と。もし自分を殺すつもりなら、自分の持つ能力だけでイツナに勝てるようにならないと駄目だと。今なら頭の中だけじゃなくて、実感としてわかるんだ。あのときの言葉が意味するところが」


 あー、それっぽいこと確かに言ったなぁ。

 そういえばアレ以来、シアンヌは自分からチート能力をせがんでくることは殆どなくなった。

 イツナと互角になった今でもだ。


「安易に力を手に入れる方法があるとして……果たして私は、それを選んでいいものか」


 気持ちはわかる。

 相手が卑怯な手チートを使っているからといって、自分も安易な手段チートに頼っていいのか。

 かつては俺も、同じような悩みを胸に懐いていた。


 もちろん、その考え方自体は間違ってない。

 だけど。 


「なあ、シアンヌ。何としても勝たなきゃいけない戦いがあるとして、相手が自分より強かったなら……お前はどうする?」


 意地の悪い問いかけに、シアンヌが不機嫌そうに眉根を寄せる。


「なんだそれは……戦うしかないではないか」

「ふーん。どういう風に戦う?」


 シアンヌが「何をわかりきったことを」といいたげに、ため息を吐く。


「とどのつまり、どんな手を使っても勝てというのだろう?」

「そうだ。けど、もちろん現実はそこまで甘くないぜ? そもそも相手が自分より強いって情報を戦う前に得られてなかった時点でアウトだし。だからこそ事前に強くなっておかなきゃいけないわけだ。そういう意味じゃ、お前は充分に強くなってる。だけどそれでも、俺達の仮想敵チートホルダーを相手にしたら足りないんだ。とりわけチート転生者を相手にしたら、な」

「チート転生者……」


 シアンヌが噛みしめるように呟く。


「人間として死ぬほど悔しい一生を終えた奴が、魔族に転生したらどうなるか。今のお前なら想像できるだろ? 俺たちの敵に成り得る相手ってのは、そういう連中なんだ」

「ああ、そうか。そういうことか……」


 そう、それこそがチート転生の本質。

 ゼロから誕生した生命には有り得ざる基礎認識を携えているからこそ、普通なら誰もしようとしないことを最初からトライできる。


 その結果として出来上がるのが、人生の過ちを前もって回避しようとする赤ん坊。選民思想に染まらない貴族や王族、寿命に縛られない努力愛好家だ。


 努力の大切さを身に沁みた状態で生まれるから、努力する。

 努力できるように育つし、努力が日常になる。

 いつの間にか本人が努力と思わないようなことが、他人からしたら血の滲むような努力になる。

 そんな奴が自分が努力と思うことを継続するのだから、そりゃ傑物にもなるって話だ。


 尚、転生者以外の不死者は魂のエネルギーの問題で努力をそこまで継続できない。長い寿命に対応した精神の維持にエネルギーを振り分けるためだ。

 転生者は前世があるからなのか知らんけど、その括りを無視できる。亡霊の執念に等しい努力を不死者の肉体で継続できる。


 さっきの転生魔族の例で言うなら……人間を甘く見ることなく、魔族という上位種であることに思考停止せず、かつての記憶をバネに高みを目指せるってわけだ。

 そんな連中がチート能力まで持っていたら?

 そりゃもう、ごく普通のありふれた努力だけで勝てるわけがない。


 ルールのある試合とかならドーピング不正を問えるかもしれないが、勝たなければ大事な何かを失う戦いで奴らが敵対していたら……手段を選んでなどいられない。

 それこそ、よっぽど舐めプだ。


「俺なら奴らが転生したり異世界召喚されないと手に入れることのできない力……源理チートをくれてやれる。別にこれだって反則チートなんかじゃないさ。奴らが人生の舞台に最初から持ち込んでる武器や防具を、お前らも装備するってだけの話だ」


 次に出てきたセリフは、俺が意図していた以上に優しい響きを持っていた。


「だから、どちらが正解ってことはない。お前が選べ」


 俺の言葉を聞いたシアンヌは意を決したように顔を上げた。


「両方だ」


 そう答えるシアンヌの瞳の底に光と闇の両方を見出し、ゾクッとしてしまった。


 ああ、いいぞシアンヌ……。

 そういうとこだぞ……。


「私は永遠に強くなり続けることができるなら、不老に限らず不老不死がいい。そして、さらに強くなれるというのなら……貴様から力を『もらう』ことに躊躇ためらいもない」


 そうか。

 もう、俺から『奪う』んじゃないんだな。


「いざというとき死ねなくなるのは、辛いぞ?」

「お前なら問題なく殺せるだろう?」

「俺に嫁を殺させようとすんじゃねぇよ、ターコ」

「フフッ……貴様への復讐に新たなバリエーションが加わるな」


 互いに笑い合い、なんとなく拳を突き合わせた。


「でも、悪いな……死に乞いする嫁を殺すのは、もううんざりなんだ。お前にくれてやれるのは不老の方だけで勘弁してくれ」

「仕方ないやつだ。なら、これは貸しにしておく」


 言いやがる。

 まあ、すぐに返させてもらう。

 意趣返しだけどな。


「『種』としてはその方がいい。古くなると何だって腐る。魂だって処置しなければ腐敗するからな。本来なら俺達も不死者になるんじゃなくて、力や教えを子孫に引き継いでいくのが健全さ。だからシアンヌ」


 シアンヌの両肩を掴み、ニヤリと笑った。




「俺と子供ガキ作ろう」

「えっ…………ええぇえぇえぇええぇぇぇぇッ!!!」




 絶叫するシアンヌを、俺は構わず押し倒した。

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