表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/161

10.魔王城の地下でとんでもないものを見つけました①

イツナ日記は彼女の視点です!

「よくぞここまで来たと誉めてやろう、異世界の勇者よ。余が魔王アダバァー!?」


 名乗りを上げようとした魔王さん。

 だけど、サカハギさんがなんかすっごい攻撃をしたみたいです。

 魔王さんが死んじゃいました。


「あ、なんだって? よく聞き取れなかった。もう一回言ってくれ」

「首がなくなったんじゃ喋れないよ、サカハギさん」


 とっても強いサカハギさんですが、人の話をあんまり聞きません。


「まあいいさ。一目見て小物だってわかったし」

「うーん、わたしほとんど何もしてない」


 わたしには異世界に召喚されたときに、特殊な力が授けられています。

 電気を操るとても便利で強い力。サカハギさんによるとチート能力というものの一種らしいです。

 どうもわたしはカタカナとか横文字が苦手なので、初めて聞いたときはまったく意味がわかりませんでした。

 実を言うと、今でもよくわかっていません。

 とにかくそのチート能力でできるだけ頑張って戦ったのですが、ほとんどサカハギさんがやっつけてしまいます。


「いやいや、雑魚掃除だけでもだいぶ助かったぜ。ありがとな」

「えへへへへー」


 サカハギさんがやさしく撫でてくれました。

 これがとても好きで、また頑張らなきゃって思っちゃうのです。

 電気の力はまだちゃんとコントロールしきれてないので、もっとがんばらないといけません。


「そういや普通にスルーしてたけど、モンスター殺して平気なのか?」

「うん、ゲームとかでいっぱい狩ってたし、平気だよ」


 そう答えると、サカハギさんが神妙に頷きます。

 殺す覚悟(笑)というそうです。

 なんで(笑)なのかは教えてもらえませんでした。


「人間は殺せるのか?」


 サカハギさんが痛いところを突いてきます。


「うん……でも、悪い人がいるときは頑張る」


 わたしを召喚した人達は、とっても悪い人たちで、戦わなければいけませんでした。

 あのときもできるだけ殺さないように頑張りましたが、あの時は今よりも電気のコントロールが下手だったので何人か殺してしまっています。

 ショックでわたしは泣いてしまって、みんなが慰めてくれました。


「別に無理に手を汚すことはねぇよ」


 サカハギさんが突き放すように言います。

 わたしが人を殺さないように気遣って、こんな言い方をしてるんだと思いました。

 一見するとサカハギさんは冷たいですし、世界を滅ぼすとか平気で言う人ですが、本当は優しい人なのです。

 人殺しなんてまだできないけど、サカハギさんのためならきっと覚えます。


「ん? 次の召喚陣が出ないな。なんかやり残してたっけか?」

「え、忘れたの? 財宝の地図を持って帰るんでしょ」


 サカハギさんを召喚したトレジャーハンターさんのお願いは、魔王が所持する財宝の地図でした。


「あー、そうだった。いつもの癖で魔王倒して終わりな気分になってたぜ」


 こうやってフォローしないと大事な誓約ですら、サカハギさんはうろ覚えです。

 わたしがお嫁さんになる前は、いったいどうしていたんでしょう。

 他のお嫁さんに助けてもらっていたんでしょうか。

 きっとそうに違いありません。


 そういえば、まだ他のお嫁さんと会わせてもらったことがありません。

 ルール3……じゃなかった、4にお嫁さん同士で仲良くするルールがあるので、いつか会わせてもらえると思います。

 どんな人がいるのか、ひそかに楽しみです。


「まあ、モンスターもあらかた倒したし。のんびり探そうぜ」


 そうして魔王の部屋を探したのですが、地図は見つかりませんでした。

 残るは地下だけです。


 地下には結界が張ってありました。


「ふぅん……こいつは魔法じゃないぞ。チート能力だな」

「魔法とチート能力ってどう違うの?」

「あー……そうだな」


 わたしの何気ない疑問に、サカハギさんが少し悩んだように見えます。


「魔法は世界ごとによって成り立ちこそ違うけど、もともとの『源理』は同じで各世界の法則に基づいてる。逆にチート能力は世界の外側の力、それぞれ異なる『源理』を使ってて、各世界の法則に縛られない。内の力が魔法、外の力がチートだ。まあ、例外もあるけどな」


 サカハギさんなりに噛み砕いてくれたようですが、よくわかりませんでした。


「わかりにくかったか? 悪ィな」


 またサカハギさんが撫でてくれますが、複雑な気分です。

 褒めてもらったわけでもないのに撫でられるのは、子供扱いされている気がします。


「要するに、この先には異世界のモンスターじゃなくて……俺みたいに外から召喚されたヤツがいるってことだ」

「あ、じゃあ仲間なんだ」

「そうとは限らないけどな。むしろ、ロクでもないヤツがチートを持ったりすると魔王より酷いぜ」


 わたしの油断を真剣にたしなめると、サカハギさんが鑑定眼を起動します。

 なんでも調べられるみたいで、すごいです。


「結界自体はモンスター避けで、人間は通れるみたいだ。わざわざ壊さなくても大丈夫そうだぜ」


 安全確認をした後、結界を越えてわたしたちは地下へと進みました。


「……おい、気づいたか」

「えっ?」


 なになに。

 サカハギさんが耳元でいきなりかっこいい囁き声を出しました。

 とてもドキドキします。


「イツナ、電気出してみろ」

「う、うん……あれ?」


 電気が出せませんでした。

 どうしちゃったのでしょう。


「チートだけじゃない、魔法もだ。結界とは違うな……解除じゃない、抑止領域か?」


 サカハギさんがブツブツ言いながら、いろいろなことを試しています。

 わたしには何をしているのかわかりませんが、きっと大事なことをしているんだと思いました。


「たぶん無差別……これだと、中にいるヤツも力は使えなくなるはず」

「……サカハギさん?」


 わたしの声にサカハギさんがハッとして顔を上げ、笑顔を向けてくれました。


「なぁに、大丈夫だ。チート電気はここを出れば元に戻るから」


 わたしが電気を出せなくなったことについて心当たりがあるようです。

 ですが、わたしが不安だったのはそのことではありませんでした。

 また修道院のときのようにサカハギさんが無茶をするのではないのかと、とても心配になったのです。


「任せておけ」


 ですが、サカハギさんが自信満々にこう言う以上、わたしは信じるしかありません。

 ルール3のことがなくても、です。


「なんだろうと、俺の歩みを止めることなんてできないし、させない」


 力強い宣言でした。

 いったいサカハギさんの自信はどこから来るのでしょう。

 このときのわたしは、とても頼もしい人だなって思いました。


 ですが、このあとにとんでもないことが起こるのです。

 まさかあのサカハギさんの歩みを止める存在が現れるだなんて。

 わたしはもちろん、サカハギさんも想像だにしていませんでした。




 魔王城の地下はとても広くて、探索にはとても時間がかかりました。

 なかなか地図は見つかりません。


 足手まといになってしまっているわたしは、少しでも邪魔にならないようにサカハギさんの背に隠れていました。

 珍しく無言のサカハギさん。緊張が伝わってきます。


 どれほど歩いたでしょうか。

 わたしは視界の隅っこに建物があるのを見つけました。

 魔王城の地下はさっきも言ったようにとても広かったのですが、その建物はすっぽりと部屋のひとつに入り込んでいます。 


 その建物を見て、わたしはとても懐かしい気分になりました。

 わたしが異世界に来る前に利用していた、あるものによく似ていたのです。

 サカハギさんと異世界を旅するようになってからは、初めて見かけました。


「……コンビニ?」


 直方体の構造、ガラス張りの窓、電飾の看板。

 どう見てもコンビニエンスストアでした。

 

「サカハギさん、あれってひょっとしてコンビニじゃ」


 隣に立って、サカハギさんの袖を引っ張ります。

 サカハギさんが呆然と呟きました。


「……フェアリーマートだ」

「え?」

「間違いない、アレはフェアマだ!」

「あっ、サカハギさん!」


 突然サカハギさんがコンビニに向かって走り出しました。

 いつもみたいに光になったりはしませんでしたが、止める間もありません。

 サカハギさんがコンビニの近くで立ち止まり、改めて電飾の看板を見上げます。

 

「ああ、そんな。嘘だろう。どうして異世界に……ああ、なんで」


 こんなにオロオロするサカハギさんは見たことがありません。

 わたしも追いついて看板を見上げます。

 そこには、こう書いてありました。


「FaeryMart?」


 聞いたことがないコンビニ名でした。

 わたしの住んでいた世界には「FuryMart」でフューリーマートというのはありましたが。

 系列店なのでしょうか。

 中は明るいですし、見る限り営業しているように見えます。


 一方サカハギさんは、ぼーっと突っ立っていました。

 うん、ここはお嫁さんとして気を利かせる場面です。


「入ってみる?」

「あ、ああ……」


 サカハギさんが入りやすいように、わたしは気軽に入店を試みます。

 見慣れた自動ドアが開きますが、異世界暮らしもそこそこなので、やっぱり懐かしい感覚です。


「いらっしゃいませ」


 気の良さそうな中年店員さんが笑顔で挨拶してくれます。

 テレテレテレーン♪ と特徴的な入店メロディが流れました。

 フューリーマートとはちょっと違いましたが、よく似ています。


 振り返ると、サカハギさんも無事に入店していました。

 そして店内を見回し、一言。

 

「ああ、ここだ」


 サカハギさんがまるで天を仰ぐように天井の蛍光灯を見上げ、両手を大きく広げました。


「俺はついに帰って来たんだ」


 そのとき、わたしは信じがたい光景を目撃したのです!

 あのサカハギさんが、泣いていました!

 殴られて大怪我をしたときにもまったく涙を見せなかったサカハギさんが、大粒の涙を流していたのです!


「大丈夫ですか? 具合でも……」


 店員のおじさんがサカハギさんを心配して声をかけます。


 ああ、いけません!

 そんな不用意に男の人が触れたら、サカハギさんは怒り狂います。

 この異世界でも情報を集めるときに、サカハギさんに絡んだチンピラさんが見るも無残な姿にされてしまっているのです。

 店員さんの末路を想像し、わたしは思わず目を覆ってしまいます。


「すいません……握手……握手してください」


 サカハギさんが!

 あのサカハギさんが!!


 なんということでしょう!

 信じられません。

 わたしは夢でも見ているのでしょうか。


「……やあ、お客様もいろいろと、つらかったんですね」


 店員のおじさんが何かを察するように微笑み、サカハギさんに応えてがっちり握手を交わします。


「フェアリーマート異世界支店へようこそ」


 店員のおじさんがにこやかに告げました。


 う~ん、異世界ってファンタジーなんだなーって思ってましたが。

 コンビニまであるものなんですね。

 異世界ってすごいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ