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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

星のカケラ

作者: 壱弐

雲ひとつない夜空を見上げて。

すると、沢山の数え切れないほどの星々が見えるでしょう?







―――…ここは暗闇。


上も下も、右も左も真っ暗だ。

周りには様々な大きさで様々な色に煌めく星達の姿。

だけど、私からはどれも遠い星達。

それは他の星から見た私も同じだ。


私も煌めく星の一つなのだ。


そう、私は『星』。

詳しく言えば、『星』の化身だ。


白い肌に白い髪、すみれ色の瞳に白色のワンピース。髪は肩に着くほどの長さだ。

人ひとりが座れるほどの白く輝く球体に、私は身体を抱え、座り込んでいた。

その瞳はある一点を見つめている。

私は待っている(・・・・・)のだ。







私は最初から此処にいた。

なぜ、どうなって私がここにいるのか。

そんなこと、考える必要もわかる必要もない。


なにがどうなったわけでもなく、私は最初から此処にいたのだ。

此処にいることが当たり前で、それが真実なのだ。


そう、私は長い長い時間を、ずっとこの場所で過ごしてきた。


寂しさや退屈が押し寄せることはなかった。

この状況が私にとって至極当たり前のことだったからだ。

そもそも何が寂しいと思うのか、何を退屈と感じるのか。

何かと比較するものがなかった私には縁のないものだったのだ。


だけど、「彼」が現れてからは寂しさも、退屈も感じるようになった気がする…。







私の見つめる先、そこは一層、星の集まりが濃くなっている場所。

星の景色はいつも同じではなく、微妙に移り変わる。

消えたり、増えたり、流れたり、移動したり。


「彼」は、そんな星の光が幾重にも重なり、その光が濃く輝いて見えるころにいつもやってくるのだ。


ふと、その光の中、こちらに近づいてくる星が見えた。

青白い星―――。

私ははっとした。

「来てくれた…!」

思わずこぼれた言葉。

その言葉には嬉しさが混じっている。

光の集合体をぼんやりと見つめていた瞳も、今は彼の光だけを見つめ、その到着を今か今かと待ちわびていた。







彼もまた星の化身だ。

彼の星は私の星とは少し違い、楕円形で大きさも私の星の数倍くらいにある。


数年前、彼は突然私の前に現れた。

「やあ」

彼はクレトスと名乗った。

星から星へ旅をしている、いわば流れ星なんだと。


彼は私が他の星について何もしらないことを知ると、自身の旅の話を聞かせてくれた。

心躍る歌の星。

知識溢るる本の星。

水の星や金の星。

見たことも聞いたこともない話ばかりで私の心はワクワクした。

なにより彼の話す姿がとても楽しそうで、話を聞いてるだけで幸せな気持ちになる。

そうして私が彼の話に目を輝かせていると、彼はいつもこの時期に私の所を訪れ、それまでの旅の話をしてくれるようになった。







今回はどんな話が聞けるんだろう。

そうこうしているうちに彼の姿が認識できる位置まで近づいてきていた。

「クレトスー!」

彼の姿を見て嬉しくなり、思わず立ち上がる。

口元に手を当て彼の名前を呼ぶ。

「アナスタシア!!」

クレトスが私の声に片手をあげて応えた。


クレトスは橙色の短い髪に翡翠色の瞳、そして黒いコートを羽織っている。


「やあ、元気だった?」

近くまで来たところでクレトスが笑顔で言う。

「早く旅の話が聞きたくて退屈してたわ」

私もつられて笑顔で応える。

「フフ…。それはすまなかったね。そのお詫びに、今日はプレゼントがあるんだ」

「プレゼント…?」

クレトスは少しはにかむと、後ろ手に隠していた左手を見せてきた。

手に握られていたのは真っ赤な花。

「薔薇って言うんだ。今日はこの薔薇が咲いていた星の話しをしようと思って。……受け取ってくれるかい?」


クレトスは花の星の話をしてくれた。

赤や黄色、青など、多彩な花たち。

大きさも様々で極小さいものから人の頭ほどの大きなものまで。

そこには星の化身だけではなく、私達と同じ姿形をしたものが何人もいること。

育てた花は好意を持つ相手にプレゼントし、皆笑顔で過ごしていると。


好意――――――。


私は思わず嬉しくなって、赤い薔薇にそっと顔をうずめた。

「……いいな。私も行ってみたいな」

「行こうよ」

クレトスの顔を見上げる。

彼はやんわりとした優しい笑顔をしていた。

「一緒に、行こうよ」


行きたい。

凄く行きたいよ。

でも……―――――。


切なくなる胸を抑える。

「無理だよ…」







私たちが星の化身であるのは、その星に対して使命(・・)があるからだ。

それはクレトスも一緒だ。

彼の使命については私は何も知らないけれど、彼も星の化身なのだから何かの使命を持っているはず。


私の使命は「再生」。

傷を癒したり、破壊の修復をしたり、本来あるべき姿に戻すこと。


その力は私がこの星にいることで、この星に私がいることで発揮する。

私と星が少しでも離れると、私の身体とこの星は崩壊を始める。

またそうなると、この世のありとあらゆる再生が成り立たなくなる。

例えば、軽いけがをして血が出たとする。

その血は永遠と流れ続け、止まることがなくなるのだ。

そうしていずれ、死を迎えるだろう―――――。


といっても試したことがないので憶測だ。

でも本当にそうなってしまえばこの世界は均衡を保てなくなる。


だから私はこの星から離れることはできない。


それに星には2種類あって、クレトスの星のように移動できる星、流れ星と、そうでない静止星が存在する。

私の星は静止星。

一つも動けないのだ。







星から離れることはできず、星自体を動かすこともできない。

だから一緒に旅に出ることは不可能なのだ。


「ごめんね、クレトス。…ありがとう」

悲しく微笑むしかなかった。

そんな私の頭をそっとなでるクレトス。

「大丈夫だよ」

そう言ってコートのポケットから何か取り出した。

「プレゼント、第2段」

現れたのは皮紐に小さな赤い石が付いたネックレス。

と、ナイフ―――――。


ナイフ…?なんで?


クレトスが私の手をとる。

ナイフに恐れを感じていた身体が強張る。


…いや、死にたくない!


「僕を信じて?」

クレトスの翡翠色の瞳がまっすぐに私を見る。

その表情は真剣だ。

瞳から目を離せないでいると、クレトスは握っていた私の手の小指をナイフで切り落とした。

と同時に強く引き寄せられ、抱きしめられた。


急な出来事に混乱と激痛が入り混じる。

切り口から溢れた血が宙を漂う。

それをなんとか確認できた時だった。


私、今どこにいるの?


クレトスに引き寄せられた。

その時に私は自分の星を離れてしまっていた。


星が、消えちゃう……!!

急いで、……とにかく戻らないと!!


引き寄せられた腕の中で必死にもがき、戻ろうとする。

だけどクレトスの力が強く、そこから全く抜けだせない。

「落ち着いて」

クレトスの優しく落ち着いた声。

「クレトス、放して!早く戻らないと…星が……私も消えちゃう!!」

「大丈夫だから」

「そんな…無理…だよ……放して…!お願い……!!」

「大丈夫だから。泣かないで、アナスタシア」


泣く…?


気がつけばクレトスの腕の中で泣いていた。

「怖がらせてゴメン。でもほら、成功だ」

クレトスはそう言い、腕の力を弱め、私を開放してくれた。

小指を切り落とされた手を見る。

「血が止まってる…?」


私、星を離れてるのに消滅しないの?

ううん、でも「再生」の力は働いてない。傷が修復しないもの。

でも、血は止まってる。どうして…?


「それに、ほら!」

驚き、困惑していると、クレトスがある方向を指さした。

見た先にあったもの、それは私の星だった。

いつのまにかクレトスの星は移動していて、私の星からどんどん遠ざかっていく。

「私がいないのに…星が崩壊しないなんて…。どうして…?」

茫然と眺めていると、星に何かがみえた。


白い…―――――腕?


腕に見えたそれは肩や胴体、そのほかの肢体と人の形を次々と構成し続けている。

あれはさっきクレトスが切り離した小指から再生している「私」なんだ。


「アナスタシアは再生の女神だ。だからアナスタシアの一部があの星にあれば、アナスタシア自身を再生、修復する。そしてそれはアナスタシア本人に変わりないのだから星の崩壊も起こらない」

「だけど私は?星からも離れて、再生の加護もないのにどうして消滅しないの?」

「それはコレ――――――」

私たちは向かい合い、クレトスは私の首元をつく。

そこにはいつのまにか首からさげている、小さな赤い石の付いたネックレス。

第2のプレゼントと先程クレトスが見せてくれたものだ。


「僕の使命は停止。この赤い石には僕の『止める力』の一部を封じ込めてある。とある星にそういうことができる技術があって特別に作ってもらったんだ。だから君が消滅する前に僕の力でその存在を留めさせてもらった。切り落とした指も元には戻せないんだけど…ごめんね」

申し訳なさそうなクレトスの表情。

「ううん、そんなこと!…確かにちょっと怖かったけど」


私のためにそこまでしてくれてたなんて…。


「ありがとう、クレトス」

クレトスの胸に身を寄せ、そっと呟く。

彼が私の身体をそっと抱きしめた。

「行こう、アナスタシア。今度は一緒に」

「うん」







今まで想像でしかなかったことが現実となった。

私は旅にでたのだ。

それも一人ではなく、クレトスと二人で。


流れ星となって見た世界は星の移り変わりが目まぐるしく、それだけで新鮮だった。

「クレトス、私のいた世界ってこんなにも綺麗だったのね!ううん、遠くからでも十分綺麗だったわ。でも近くで見るともっと綺麗!今まで見えてもいなかった星まで見えるし…本当に素敵!!」

「まだまだこれからだよ。もっと綺麗な物を見せてあげる、アナスタシア」

そう言ってクレトスは様々な星へ移動し、その世界を見せてくれた。

初めて見る景色に私はその都度、驚きと興奮でいっぱいだった。


こんなにも楽しいことがあるだなんて!

こんなにも嬉しい出来事があるだなんて!


だけどクレトスはその都度言う。

「アナスタシアに一番見せたい星があるんだ。でもまだ内緒!」


一番見せたい星って?


興味があるけれど、興奮して少し疲れてしまった私は次の星へ行く途中に眠ってしまった。


次に目が覚めると、そこにはとても大きな虹色の星があった。

ただの虹色じゃない。星全体に細かくキラキラ光るものが見える。

クレトスが私の手を取り、虹色の星の中へ飛んでいく。

様々な光が目を刺激して、思わずグッと目を瞑る。

少しして目が慣れてきたところで瞼をゆっくり開けると、そこには沢山の煌めく山が存在していた。

その山は宝石だった。

山自体が宝石なのだ。

宝石の山は己の奥より光を放ち、自身を発している。

そして自らより発した光が他の山を照らし、さらに反射した光が他の山に…。

この世には影がないのだと言わんばかりに眩しい光景が広がっていた。


「凄い………」

「僕もこの星に初めて来たときは驚いたよ。今まで訪れた星の中で一番綺麗だと思う」

赤や白、黄色、緑、青、紫。

ゆっくりと移り行く景色を背に、私とクレトスは手を繋いで降りていく。

「絶対、アナスタシアを連れてきたかったんだ」

見つめ合うクレトスと、このままずっと時間が止まれば良いと思った。

楽しくて、嬉しくて、この手をいつまでも繋いでいたかった。

「だけど、………ごめんね」

彼の口元が微かに動いたが、その言葉は聞こえなかった。


落下の先には地上があって、私たちはふわりと着地した。

そこには一人の男の人。人年齢にして30代半ばの紳士といった風体だ。

近くに降り立った私たちに男は会釈した。

クレトスに手をひかれ、男の方へ一歩歩み出ると同時に、私も会釈を返す。

「紹介するよ。この星は『錬金術の星』。そして彼はこの星の化身だ」

「初めまして、お嬢さん。私の名前はクリセスと申します」

男はクリセスと名乗った。

背筋を伸ばし、手を胸に添え、反対の手は腰の後ろに。

なるほど、見た目もしぐさもそうだったが、声も紳士のイメージにぴったりだった。

「あ、アナスタシアと申します。はじめまして」

「実はアナスタシアにあげた赤い石はここで作ったんだ」

「なるほど、あのときの石はアナスタシアさんへのプレゼントだったのですね」

クリセスが何か納得したように頷く。

「ああ、…そして成功した」

「それはなによりでございます。………では」

「ああ、そうだな」

和やかに会話をしていたかと思うと、二人は真面目な顔で目配せをした。


クリセスが笑顔でアナスタシアに近づき、手を差し出す。

その手には真っ白な手袋がされていた。

「アナスタシアさん、少しお手をよろしいですか?」

「あ、はい。……あ、あの!あの石、クリセスさんが作ってくれたんですか?その、ありがとうございます!その、私、そのおかげでこうして星から離れることができて、クレトスと楽しい旅もでき…て……え?」

そう言いながらクリセスの手に自分の手を重ねると、次の瞬間には黒光りする手枷がアナスタシアの手首にはまっていた。

「いえいえ、そんなお礼など必要ありませんよ」

優しい笑顔のままのクリセスがアナスタシアのもう片方の手にも枷をする。

両の手は手首のところでひっついた状態となり、そこから延びる鎖はクリセスの手の中へと続いる。

アナスタシアは手の自由を奪われ、顔からは笑顔が消えた。


何?なんで?なんなの?


手首に収まる黒い枷を見つめ、なぜ、なぜ?と頭の中が巡る。


「あなたはこれから、私の研究のために、その身を差し出していただくのですから」


「どういう…こと?」

「言葉の通りだ。人体実験…といえばわかるかね?君には不死の研究の材料となってもらう」

困惑したままクリセスをみると、クリセスの優しい笑顔と紳士な話し方は跡形もなく、口角がつりあがり、他は何の感情も見てとれない表情をし、話し方も粗暴になっていた。

「しかし、君の小指はどういうことだ?君は『再生の力』を持っていたと話にきいていたのだが…?」

「ああ、それは………」


クレトスとクリセスが話し込んでいる。

これはどういうことだろう?

さっきの口ぶり、クレトスは最初からわかっていた?

最初からこのつもりで私をこの星に連れてきたの?

私…私………―――――。


「―――――売られたの?」


ただただ、クレトスを見ていた。

そしてクレトスは言った。

私の大好きな優しい笑顔で。


「そうだよ」







僕はね、君が思ってるよりずっとずっと悪い生きものなんだ。

僕は死ぬのが怖い。

もっといろんな世界を見ていたい。

ずっと楽しく生きていたい。

星に寿命なんていらない。


そんな時に君と出会った。

君は『再生の女神』。

死なんてもの、君には関係ない。

君が自ら命を断とうとしない限り、死はやってこないのだから。


なんて羨ましいんだ!

なんて崇高な存在なんだ!


僕は君になりたい。

でも無理だ。

それは産まれ持った性質でしか得られない。


だけど君は死にたがっていた。

君は死ななきゃ見えない世界に憧れたんだ。


だから僕は考えた。

そして決めた。

君にとっても僕にとっても最良の(すべ)


君は外の世界を見れる。

僕は命を長らえられる。


そう、錬金術を介して!


その代償に君はその身をささげ、僕は罪悪感に苛まされるけど…。


「…なーんてね」

虹色にキラキラ輝く大きな星から、楕円形の青白い小さな星が飛び立つ。

そこには一人の青年の姿。

悪戯な笑顔を浮かべ、星たちの煌めく暗闇を進んでいく。


「僕はこれからも君のために僕の力を分け与えるよ。だから君も僕のためにその力を使ってくれるよね。…あと、僕に罪悪感はないよ、ごめんね、アナスタシア。愛してるよ」

その手にはいくつもの小さな赤い石が握られている。

それはこれからも(・・・・・)たった一人の為に使われるのだ。







遠くの空に無数の星が煌く。

その中に一筋の流れ星。

それはとても早く、一瞬煌めいたかと思うと、すぐに見えなくなった。

ご愛読ありがとうございました。

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