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素晴らしき人間たちよ7

「マルベリー、わたしと一緒に来い、一度は女王に反旗を翻そうとしたお前だ、今の体制に不服も多かろう」

「貴様、本気で言っているのか、あれだけの事をしておいて、本気でそんな事を言っているのか!!」

「何だそれは? ワーシリカの事か? 下らん、そんな事は忘れてしまえ、そして我と共に妖魔郷と人間界を掌握しようぞ」

「下らないだと! 貴様はここで殺す!!」

 マルベリーの剣が閃く、余りに速い切り払いに裂かれた空気が悲鳴をあげる。だがそれだけで、マルベリーは手ごたえを感じなかった。

「愚かなり、マルベリー・スコーピオン」

 上に逃げていたヴォルフロードは、急降下して凶器と化している右手を振り上げ、マルベリーの脳天に向かって斬り下ろす。マルベリーは剣を頭上に橋渡して、それに対抗した。剣と剣がぶつかった瞬間、マルベリーは落下する隕石のような急速度で、地上に向かって弾け飛んだ。彼女は地上にぶつかる寸前に、翼を開いて何とか体制を立て直し、足から着地した。その時の衝撃で、足下の地面が陥没していた。

「どぅおりゃーーーっ!」

 ヴォルフロードの声が上から迫り、マルベリーは反射的に後ろに飛ぶ、それにほんの少し遅れて、今まで彼女がいた場所に巨大な拳がめり込み、地面が爆裂し、地表が捲れ上がって土が津波を起こした。マルベリーは土の礫と衝撃波を受けながら翼をはばたかせて急上昇した。

 マルベリーは上空から敵の姿を見降ろすと、大きく両翼を開いた。そして剣を地上のヴォルフロードに向けると、剣先を中心に真紅の六芒星が広がった。それはほとんど瞬間にマルベリーの体を覆う程に大きくなり、輝きを放つ。

「喰らえ!!」

 真紅の魔法陣から赤い光線が次々と放たれ、それらがヴォルフロードに降り注いだ。次々と起こる轟音と共に、爆炎と土煙が高く昇った。

「ぐおおおっ!?」

 ヴォルフロードはマントで自分の体を隠して凌いでいた。止めどなく放たれる赤い閃光は、闇を破って容赦なく巨躯の吸血鬼を撃つ。軌道を外れた何発かの光弾が、林に落ちては焔を上げ、池に落ちては水飛沫と蒸気をあげた。辺りは一瞬にして、絨毯爆撃に晒されたような有様になった。

 完膚なきまでに破壊された地上を見下ろすマルベリーの視界に、炎と煙を引きながら漆黒の巨体が急激に迫る。マルベリーは更に魔方陣から光弾を放った。それらはヴォルフロードに直撃して爆発したが、次の瞬間に彼はマルベリーの目前に現れていた。

「でぃやあーーーっ!」

 辺りを震撼させる気合いと共に剛拳が放たれる。マルベリーはそれを辛くも避けたが、余りにも速い拳が生み出した風圧をまともに受けて、体勢を崩した。ヴォルフロードはマルベリーとすれ違い様に、空振りした右腕を引き戻して、剛烈なひじ打ちを少女の背中に叩きこんだ。

 あげた悲鳴が消し飛ぶ程の豪速で、マルベリーは地上に墜落した。土煙が上がり、彼女はクレーターのような窪みに落ち込んで呻いていた。

「くあぁぁっ……」

 背骨を砕かれた痛みは強烈で、背から胸まで漆喰で貫かれたようだった。その怪我の再生がまだ終わらないうちに、マルベリーの背後に地上を揺るがしながらヴォルフロードが降りてくる。マルベリーは振り向き様に右の剣で斬りつけた。

「おおっと」

 ヴォルフロードは相手の手首を素早く掴んで動きを封じた。マルベリーは残った左の剣でも斬りつけようとしたが、これも捉えられた。ヴォルフロードはマルベリーの両方の手首を一まとめにして掴み、二本の剣を取り上げた後に持ち上げて宙吊りにした。

「どうした、これで終わりか?」

「ぐっ、くそ……」

 マルベリーは可能な限りの力を込めて、ヴォルフロードの脇腹を蹴りつけた。だが、巨人の吸血鬼はびくともしなかった。

「無駄な事を! もはやお前とわたしの実力差は絶望的だ!!」

 ヴォルフロードがそう言うのと同時に、巨大な拳がマルベリーの腹部にめり込んだ。

「くあぁっ!!」

「絶望! 絶望! 絶望!」

 ヴォルフロードは絶望の一言ごとに、少女の腹に拳を叩きこんだ。悲痛な苦悶が闇夜に放たれる。

「圧倒的な絶望だ!!」

 最後に今までで最も強烈な拳が、マルベリーの腹に食い込んで体が跳ね上がった。

「がはあっ!!!」

 マルベリーが大量の血反吐を吐いて、それがヴォルフロードの顔に降り注いだ。ヴォルフロードは少女の鮮血を舌で舐めとると、笑みを浮べた。マルベリーは息絶え絶えとしていて、体には力が入らなかった。

「でいあーっ!」

 ヴォルフロードはまるでボールでもあるかのように、マルベリーを無造作に投げ飛ばした。マルベリーは地面に激突すると、数十メートルも細い体で地を穿ちながら、転がり引きずられていった。次々とあがる土煙が蛇状になり、その終点でマルベリーは傷だらけになってうつ伏せに倒れていた。

 吸血鬼の少女は血を吐きながら、何かを求めるように腕を伸ばし、土をかいて、前に進んだ。ヴォルフロードは上空からマルベリーの側に降り立ち、獲物の姿を見下ろした。マルベリーがそんな状態でも、ヴォルフロードは容赦はしなかった。彼は足を上げると、マルベリーが伸ばした手を踏みつけて粉砕した。闇を突き破るような哀れな少女の悲鳴が辺りに響き渡った。

「こ、殺せ…………」

 マルベリーが消え入りそうな声で言うと、ヴォルフロードはいかにも愉快そうに笑ってから言った。

「いいや、殺さん、情けをかけてやるから、ありがたく思え」

「貴様…………」

「四貴族であるお前にとって、恐ろしいのは死よりも屈辱だ、己の不甲斐なさを噛みしめ、せいぜい苦しむがいい」

 ヴォルフロードはそう言い捨て、マントを大きく開いて上空に舞い上がった。マルベリーは肉体の損傷が激しく、しばらくはその場から動けなかった。


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