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AIが社会全体にもっともっと浸透すればいいのに

作者: 埴輪庭
掲載日:2026/09/21

 ◆


 創作界隈からAIを眺めると、まあ余り印象は良くない。生成AIイラスト、生成AIテキスト、諸権利問題──どうにも悪に見えてしまう事もかなりある。


 ただ、とある千葉で起きた事件のニュースを見てふと思った事があった。


【重度の障害がある29歳娘を殺害した58歳母親に拘禁刑3年、執行猶予5年の判決】


 こういう事件なのだが、本当に福祉の力不足だったのだろうか? と思ってしまった。


 というのも、日本には様々な福祉制度があり、それらは自治体ごとに異なるものだったりして、はっきり言って「一個人が自分の状況を正確に把握して、これこれこういう制度を受けられる」と了解する事は中々難しい気がするからだ。


 重い障害のある家族を毎日介護しながら、自治体のホームページを隅から隅まで読み込み、制度の名前と対象要件を突き合わせる。そんな余裕のある人がどれだけいるのか。記事によれば事件の直前、娘さんは絶叫するようになっていて、母親は入院先を探し回っていたという。探して、見つからなかった。そこで心が折れてしまった。


 役所に聞けばいいじゃないか、と言う人もいるだろう。けれど窓口が開いているのは平日の昼間で、限界が来るのはたいてい夜中だ。叫び続ける娘の横で朝を待つ時間のしんどさたるや、と言った所だ。それに役所の人だって完璧ではない。今その瞬間、その人を救うためにもっとも効率の良い手立てを常に提案できるか?私は出来ないとおもう。前例だの規則だの法律だの、色々検討した上でないと「解」を提示できないだろう。


 そこにAIが強く噛めたりはしないのだろうか?──と思った。


 で、ここからが本題なのだが、調べてみて少し驚いた。千葉県はすでに生成AIを使った福祉相談のチャットボットを導入していたのだ。「いつでも福祉相談サポット」という名前で、令和七年の二月から動いている。24時間365日いつでも困りごとを打ち込めて、障害福祉も対象に含まれている。


 つまり事件の一年ほど前から、同じ県の中に「夜中でも相談できるAI」は存在していた事になる。


 それでも届かなかった。


 理由は色々考えられる。そもそも存在を知らなかったのかもしれないし、知っていても触る気力が残っていなかったのかもしれない。それにこのチャットボットがやってくれるのは、あくまで「どこの窓口に相談すればいいか」の案内までだ。あの母親が欲しかったのは窓口の電話番号ではなく、今夜娘を預けられる場所だったはずで、そこには手が届かない。短期入所の空きがどこにあるのか、レスパイト入院を受けてくれる病院はどこか──そういう情報は現状、AIどころか人間同士ですらリアルタイムには共有されていない。


 だから思うのだ。AIの出番は、まだ始まってすらいないんじゃないかと。


 創作界隈にいると、AIは基本的に「奪う側」として語られる。絵や文章を勝手に食われる、仕事を持っていかれる。それはそれで真剣に議論されるべき話だし、自分も書き手の端くれとして他人事ではない。


 でも一歩外に出ると景色はまるで違う。福祉も医療も行政も、AIはきっと大きな一助になるだろう。


 目の見えない人がスマホをかざせば書類を読み上げてもらえる。声を失いかけた人が、自分の声を学習させた合成音声で話し続けられる。そういう使われ方は、創作界隈のタイムラインにはまず流れてこない。


 もし生成AIが電気や水道みたいに、あって当たり前のものになったらどうなるか。


 無知な人が救われるだろう。


 ああ、別に無知である事を馬鹿にしているわけではない。


 自分は確かに困っているけれど、その理由は何で、何をどうすれば救われるのか──そういうのが全く分からない人というのは沢山いるのだ。ただ、困ってる、辛い、苦しい、そういう事しか分からない人は沢山いるのだ。人間追いつめられると、誰に対して何を相談していいのかも分からなくなる。


 そんな時、「こういう事で困っている」と打ち込めば、使える制度と、今空いている施設と、明日の朝いちばんに電話すべき先が返ってくる。「相談に対する寄り添い」ではなくて、「解」が返ってくる。それで救われる人もかなりいるのでは?


 引っ込み思案な人、きづかい屋な人とかは相談そのものを「迷惑がかかるから」といって忌避することもある。でもAIならそんな気遣いは不要だ。


 そういう未来は技術的にはもうそれほど遠くない気がする。


 足りないのはたぶん技術よりも、制度の情報が自治体ごとにばらばらで、施設の空き状況がどこにも集まっていない、という地味な部分の方なのだろう。


 判決の中で裁判長は、母親が長女と一体になり、その幸せを第一に考える生活を続けてきたと認めたそうだ。そ(・)う(・)い(・)う(・)人(・)まだまだたくさんいるんだろうね。


 雨が降れば傘をつかう。


 水が飲みたければ蛇口を捻る。


 こういう感覚で、「困ったらAIに聞く」みたいな未来が来てほしい。まあそのためにはより強力な計算機能や計算資源が必要になるだろうし、それに伴って諸問題も出てくるのだろう。明るい事ばかりではない。


 ただ、社会全体で見れば救える人を確実に増やせる道具ではあるなと強く思った。



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