双子、襲来
「紹介するわ。双子の葵と紬よ」
「葵だよ!」
元気よく手を挙げた葵は、すぐに鍋へ一直線だ。
「今日カレー!? やった!」
その腕を、そっと掴む手があった。
「熱いから。やけどするよ」
紬だ。
声は静かだが、指先はしっかりと葵の袖を握っている。
「大丈夫だって〜」
「だめ。葵はすぐ雑になるから」
そう言いながら、さりげなく椅子を引き、葵を先に座らせる。
あまりにも自然で、一瞬気づかないほどだった。
「……紬」
小さく名乗る。
視線は俺に向いているのに、体はわずかに葵の方へ傾いたままだ。
「で、その人は?」
葵がスプーンを持ったまま聞く。
凛が説明する。
「今日から入居する人よ」
「料理できる人!?」
葵の目がきらきらと輝く。
「まぁ、一応」
「最高! 凛のご飯、失敗ばっかだったもんね〜」
「ちょ、し、仕方ないでしょ! まだ慣れてないのよ!」
ニコッと笑う葵の顔を微笑ましく見ていると、紬がじっとこちらを見ていることに気づく。
「葵に変なことしたら、許さないから」
唐突だった。
空気がわずかに固まる。
葵は気づいていないのか、もうカレーに夢中だ。
「紬、こわ」
奏がくすっと笑う。
紬は葵の袖を軽く握ったまま続ける。
「葵はすぐ懐くから。だから私が見てる」
でもその目は怒りではなく、ひどく真剣だった。
「……別に、何もしないよ」
「約束」
「約束」
数秒、視線が絡む。
やがて紬は満足したのか、そっと手を離した——と思ったが、指先はまだ葵の服の端に触れている。
「いただきます!」
葵が元気よく言う。
その横で、紬が小さく微笑む。
「葵が笑ってるなら、それでいい」
本当に小さな声だった。
たぶん、葵には届いていない。




