恋愛禁止の家
初投稿です。
シェアハウスで始まる大学ラブコメを書いてみました。
軽い気持ちで読んでいただけると嬉しいです。
春の匂いが、少しだけ冷たい。
俺は古びた一軒家の前に立っていた。
表札には、かすれた文字でこう書かれている。
たちばなハウス
築三十年。大学から徒歩三十分。
駅からも微妙に遠い。外壁はところどころ色が剥げ、窓枠も年季が入っている。
正直、綺麗とは言えない。
でも——家賃は破格だった。
その代わりに、募集の張り紙にはこう書かれていた。
※恋愛禁止!
……意味が分からない。
シェアハウスで恋愛禁止?
そんなルールあるか?
少し不思議に思いながらも、俺は安さに負けた。
今年の春から大学の寮を出て、ここで暮らすことになった。
親元を離れ、初めての一人暮らし——いや、正確には共同生活だ。
少し緊張している。
でも、堂々としていた方がいい気がした。
俺は深呼吸して、ドアを開ける。
「すみませーん! 今日からお世話になるタクヤです! 誰かいませんかー!」
声がやけに響く。
……返事はない。
静かすぎる。
人の気配はある気がするのに、反応だけがない。
(やばいとこ契約したか……?)
少しだけ不安になりつつ、事前に聞いていた自分の部屋へ向かう。
六畳の部屋。シンプルなベッドと机。
「よし……だいたいこんなもんか」
荷物を置き終えると、どっと疲れが出た。
引っ越しで汗もかいている。
とりあえず風呂に入ろう。
古いけど、掃除はちゃんとされているみたいだ。
ドアに手をかける。
ガラッ。
開けた瞬間——
目が合った。
下着姿の、女の子と。
時間が止まる。
白い肌。長い髪。大きな瞳。
俺の脳が理解するより早く、
「きゃああああああ!!」
鼓膜が震える。
次の瞬間、頭に強烈な衝撃。
何か硬いものが直撃した。
視界がぐらりと揺れ、天井が遠ざかる。
(……え?)
俺の意識は、そこで途切れた。
⸻
目を覚ましたとき、最初に感じたのは——
動けない、という違和感だった。
手も足も、縛られている。
「コイツ急に現れたのよ! 早く通報しましょ!」
聞き覚えのある声。
さっきの女の子だ。
「まぁまぁ凛。今日新しい子が来るって大家さん言ってたよ?」
もう一人の声。
少し柔らかくて、どこか余裕がある。
視線を動かす。
そこには、さっきの美少女と——もう一人。
中性的な顔立ち。綺麗というより、整いすぎている。
性別が一瞬わからないタイプ。
「凛」は俺を睨みつけている。
完全に敵を見る目だ。
「あれ? 気づいた〜?」
中性的な方が、俺を覗き込む。
距離が、近い。
「……とりあえずコレ解いてもらっていいですか」
手首に食い込むロープを見せる。
きつい。普通にきつい。
「ダメ。まだ信用できない」
鋭い声。
どうやら下着姿の子が“凛”らしい。
近くで見ると、とても綺麗な顔をしている。
でも今は完全に臨戦態勢だ。
「俺、今日から入居するタクヤです。大家さんから聞いてないですか?」
「男の言葉なんて信用できないわ」
偏見が強い。
隣の中性的な子が、くすっと笑う。
「凛、落ち着いて。たしかに今日来るって聞いたよ?」
「でも急に風呂開ける!?」
「それは凛が鍵かけ忘れただけじゃない?」
一瞬、空気が止まる。
凛の顔がみるみる赤くなる。
「……は?」
「鍵、かけてなかったの?」
「うるさいっ!」
クッションが飛んできた。俺の顔面に直撃。
縛られてるから避けられない。
「とりあえず解いてあげよ? このままだと本当に通報案件になるよ〜?」
中性的な子がしゃがみ込み、俺の手首に触れる。
距離が近い。
やばい。普通に可愛い。
というか、綺麗。
「……ドキドキしてる?」
「え?」
「顔赤いよ?」
からかうように目を細める。
凛がそれを見て舌打ちした。
「そういうのやめなさいよ」
「何が?」
空気が、ほんの少しだけ変わる。
やがてロープがほどけた。
「ありがとうございます……」
体を起こすと、凛はまだ腕を組んでいる。
「一応言っとくけど、この家“恋愛禁止”だから」
「え?」
「張り紙見たでしょ?」
たしかに書いてあった。
※恋愛禁止!
冗談かと思ってた。
「ここで変なことしたら、即追い出すから」
「するわけないだろ!」
即答した。
凛が一瞬だけ驚いた顔をする。
なんなんだこの家。
風呂に入ろうとしただけなのに、なぜ縛られて尋問されている。
凛は腕を組んだまま言った。
「私は凛。近くの大学、二年」
え、同級生?
「で、こっちは——」
「奏。よろしく、タクヤくん」
また距離が近い。
目が合う。
妖しいくらい整った顔。
でもその奥には、ほんの少しだけ警戒の色があった。
この家、絶対普通じゃない。
——俺の大学生活、大丈夫か?
読んでいただきありがとうございます!
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