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作者: とりとり
掲載日:2025/10/04

いつもの帰り道。夕方、雨で薄暗い道。


たまに車が通るけど、人はいない。


パタ…パタ…。

木の葉から伝う雨水が、たまに傘を打つ。


なんだろう。今日はいつもと違う。

空も道も灰色。人も建物も、靄がかかったように見える。


「ねえ。そっちじゃないでしょ?」


不意に耳元で誰かに注意された。

周りを見ても誰もいない。サアサアと雨が降る。

優しい女の人の声だった。


真っ直ぐ前を見る。

この道を曲がらず歩くか、右の信号を渡って先に進むか。どちらでも行ける道。

信号は、もうすぐ青になる。


「……」


立ち止まりそうになった。


でも、止めた。やっぱりこのまま進もう。


パシャ。


水溜りに足が入る。ゆらりと水がたゆたう。

パタ…パタ。傘に雨音が落ちる音。

横を車が通り過ぎて行った。


静かな道を歩いて帰る。

グレーの世界。

早く、色のある家の中に入りたい。


マンションに帰ってきても、カラフルな色は見えなかった。

「誰も帰ってないのか…」

明かりのついてない家の中は、さっきよりも暗い墨色の世界。


玄関の電気をつけようとスイッチに手をやる。

パッと明るくなった。


「おかえり」


「? お母さん?」


挨拶が聞こえた気がした。

でも、誰もいなかったーー廊下で誰か話してたのかな。


自分の部屋へ行き、濡れた服を着替えて、疲れた身体を休ませようとベッドに横になる。


明かりがついてるのに、なんだか部屋が灰色がかってるように感じる。……気が滅入る。


「雨のせいかな…」

少し寝ようと目を瞑る。静かな部屋。

外から車が走る音が聞こえる。




「な に 寝 て ん だ よ」




「!?」

耳元で、低く憎く怒りを滲ませた男の声。

飛び起きて、周りを見る。

心臓はバクバクと鳴っていて汗だくになっていた。

聞いたことがない声。あんな低い声、知らない。


部屋は明かりがついてるのに薄暗い。

窓の外は灰色。


誰もいない。静かな部屋。雨の音が聞こえる。


ーーー開けてよ


「お母さん?」

外から女の人の声がした気がした。

慌てて部屋を出て、玄関のドアを開けようとして止まる。


自分の部屋から廊下の声なんて、聞こえるはずがない。


「開けてよ」

耳元で、優しい女の人の声が聞こえた。


身体が勝手にドアノブに手を伸ばす。

「ほら、早く、開けてよ」

ブルブルと震えが止まらない。何で。嫌だ。


開けたくない。


カチャリ。


扉の隙間から見えるのは、灰色の世界。


それからーーーーーーーー




「ただいまー!もう、鍵開けっぱなし!危ないじゃない」

トタトタと廊下を通って電気の付いているリビングに入る。


「あれ……いないの?」


家の中には誰もいない。

「鍵もかけずに出るなんて。不用心ねえ」

買い物袋を置いてガサガサと中身を取り出す。


いつもと変わらない景色。

雨は止み、外はもうすっかり暗くなっていた。






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