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そして魔術は芸術に敗れた  作者: 詠十計
アカデミー入学編
12/12

11.孤立するアンリ

(7.31)今後の展開を考慮して、この章の内容を大幅に変更しています(それもまだ未完成です…)。

修正前にこの章を読んで下さった方には非常に申し訳ありませんが、どうかご了承ください。

 鐘の音が講義の終わりを告げると、学生達は次々とギャラリーを出て行く。

 フィモネも講義室に移動しようと思い、自然とアンリの方を見る。講義の時間では足りなかったのか、アンリは瞳を大きく開いて同級生達の作品を見て回っていた。

 アンリが満足するまでには時間がかかりそうだ。フィモネは1人で講義室に移動しようかと思ったけれど、このままだとアンリは次の鐘が鳴るまでギャラリーに残っていそうで、それはそれで心配だ。

 どうしようか迷っていると、ふいに近くから声が響いた。

「プティさん、まだ残っているの?」

 振り返ると、1人の女子がフィモネを見ていた。

 今まで話した事は無かったけれど、顔はよく覚えている。朝にフィモネがギャラリーに入った時に、特に強い視線を感じたからだ。

 緊張が込み上げてきて、石のように固まってしまう。そんなフィモネを見て、彼女は少し吊り上がった目を細める。

「あ、私の名前を言っていなかったわね。私はカレット・ジュベルニー。よろしくね」

「よ、よろしく…お願いします」

声高にあいさつをしたカレットに、フィモネは気後れしながら応じる。

 朝にカレットの視線を強く感じたのは、彼女の外見も影響していたのかも知れない。近くで向かい合って、フィモネはそんな事を思う。

 まぶしいくらいの金色の髪は片方が肩にかかるまで下ろされ、もう片方が複雑な形に編み込まれている。服装もドレスを動きやすい形状にアレンジした独特なもので、胸の辺りには金細工にはめ込まれた小さな宝石が縫いつけられていた。もしもアンリが芸術科に入学していなければ、彼女が同級生の視線を集めていた事だろう。

 その外見だけでも身分の高い家柄である事は明らかだった。そういえばカレットが展示に選んだ絵は、威厳をみなぎらせた貴族の肖像画だったと思い出す。あの絵のモデルは彼女の家族だったのかも知れない。

 しかしフィモネが気になる点は、それだけではなかった。朝や講義の時間には多くの友人に囲まれていたように見えたが、今のカレットは1人きりだ。

 フィモネは勇気を出して、恐る恐る声をかける。

「あの…お友達は、先に行ったのですか?」

「ええ。プティさんとお話がしたくて、私だけ残ったの」

 思いがけない言葉が返ってきて、フィモネはまた黙り込んでしまう。それを見たカレットも、再び笑みを浮かべた。

「あら。私に話しかけられるのが、そんなに意外だったかしら?」

「い、いえっ!そういうわけじゃないですけど…」

「良かった。不満があるのかと思ってしまったわ」

 カレットはそう言って、再び笑みを浮かべる。しかしその笑顔は、さっきとは何かが違うような感じがした。

「プティさんって、ずいぶんと人気がおありのようだから。さっきは留学生の男の子達に話しかけられていたし、あのアンリ・デューディーさんにも気に入られているみたいだしね」

 フィモネを持ち上げているような言い方だが、その声は棘を含んでいるかのように鋭い。フィモネの胸の鼓動が早くなり、警告を告げる。

「じゃあ、行きましょうか」

 アンリを見たが、彼女はまだ同級生の絵に夢中になっている。近くで鋭い視線を感じて、フィモネは仕方なくアンリから目をそらした。

 ギャラリーを一歩出ると、胸をぎゅっと締め付けられるような息苦しさを感じた。

「プティさんはどう思う?アンリさんの絵」

 廊下を歩き始めて早々に、カレットが質問を投げかける。一段と重く、感情を抑えているかのような声で。

「え…今まで見た事がない、不思議な絵だと思いましたけれど」

「それだけ?」

 いら立ちをのぞかせた口調に、フィモネは思わず体を震わせる。

 カレットは黙り込み、静かに歩き続ける。天井の高い廊下に、不揃いの靴音が鳴り続けた。

「…なら、プティさんはあの絵が芸術だって言える?」

 靴音に混ざって、ぼそりとした声が届く。

「ど、どうでしょう…確かに、私が思っていた芸術とは違うと思いましたけど」

「そうよね!良かったわ、プティさんとはお話が合いそうで」

 フィモネの返事に満足したのか、カレットの声が上向きに跳ねる。

 フィモネはそんなカレットの表情をうかがいながら「でも」と上ずった声を出す。

「先生方は、アンリさんの絵に興味を持たれていたようですけど」

「ああ、そうでしたわね」

 カレットは興味無さそうに応える。そんな事は前から分かりきっていたとでも言うかのように。

「当然でしょう。だって、あの人は特別だもの」

 特別。ふいに鼓膜を揺らした言葉に、フィモネは異様に動揺してしまう。

「きっと、丁重に扱うようにってお話が学園長か誰かから降りているのよ。芸術科はアカデミーの中でも立場が弱いから、きっと逆らえないのだわ」

 まるでその証拠でも握っているかのように、カレットはきっぱりとした口調で言った。

「そもそも…あんな子供みたいな絵を描く人が、実力で芸術科に入学できたかどうかも怪しいものだわ。最初から魔術科へ転学させるのが狙いで、無理矢理にでも王立アカデミーに入学させたのではないかしら?」

「そんな…立派な大人の人たちが、そこまでやるでしょうか?」

「それくらいやるでしょう。あの人が噂通りの魔術師なら」

 今朝のバチックを思い出して、フィモネは黙り込む。

「それに…デューディーさんは自分で言っていたわよね。絵を描く時にも魔法を使っているって」

「でも、あれは絵の具を乾かすだけでしたよね?」

「それだけだとは言っていなかったでしょう」

 反論を抑え込むかのように、カレットの声が鋭さを増した。フィモネに向けた眼差しは一段と険しい。

「他にも特別な魔法を使って描いているに違いないわ。そんなやり方…私は芸術家のする事ではないと思うのだけど。フィモネさんはどう思う?」

「ええと、私は…」

 急に聞かれて、フィモネは言葉を詰まらせた。

 その一瞬のうちに、魔術を使って絵を描くアンリの姿がよぎる。

 皮の容器の中の絵の具が雫となって浮かび上がり、それぞれが意思を持っているかのように部屋の中を飛び回る。ある色はまっすぐに、またある色は他の色と混ざり合い、バラバラな軌道を描いてカンヴァスへ飛び込んでいく。そして無表情にカンヴァスを見つめるアンリの前で、あっという間に一つの風景が結ばれていく。

 その光景はとても幻想的だ…しかし、フィモネの思う「描く」という行為とはかけ離れている。想像の中のアンリは芸術家ではなく、紛れもない魔術師だった。

 フィモネはやっと、重々しく口を開いた。

「私も、カレットさんの言う通りだと思います」

 その返事に、カレットは満足そうに目を細めた。しかし次の瞬間には、彼女は表情を凍り付かせる。

「でも…アンリさんはそんな事はしていないはずです」

 フィモネはカレットの目をまっすぐ見つめて、迷わずに言ったのだ。

(8.13)内容の修正が全体的に必要だと思ったため、しばらく作品の更新をストップさせていただきます。ここまで読んで下さった方には本当に申し訳ありませんが、時期を置いて改めて公開したいと考えていますので、何卒ご理解いただきますようお願いいたします。

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