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偽りの王  作者: ゆなり
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九十四

 堅如(けんじょ)は現状を私に語った。

 村を見た様子からある程度予測もしていたので、驚きなどはなかった。

「先程も言ったが、参事官より使者が来た。双葉(ふたば)が示唆していたように、都督と兵の身柄を要求してきたわけだ。当然の事だが拒否した。交渉なら使者を使わず、自分で来いと追い返したところだ。まだどうなるか流動的だが、参事官とやらを引きずり出して交渉の机に付かせることは出来るだろう。その交渉の席に双葉にも出席してもらいたい」

「私は部外者だぞ?」

「もちろん理解している。今村の中にいる者で、一番深く状況を把握しているのが双葉だということもだ。お前はこの件で政府側の思惑など、ある程度以上見えているんじゃないか?」

「さて、どうかな」

「答えたくないのなら答えなくていい。この村の人間は皆、事情を抱えたわけありだ。どんな事情かなんて訊ねるようなまねはしないし、双葉に交渉役を任せようとも考えてはいない。基本的にはその場にいてくれるだけで構わないんだ」

「それに何の意味がある?」

「ある程度事情が見えているのなら、こちらがあまりに不利な交渉となりそうだったら気付く事も出来るだろう? そういった場合に、それとなくでも耳打ちしてくれないかと期待している。いわば保険だな」

「期待とは、随分と心の内を晒したものだな。もしかしたら私は政府側の人間で、あえて悪い方へ誘導するかもしれないぞ」

「そんな人間が、女達を逃がして一人命を賭けたりする訳がない。双葉が女達を見捨てて一人で逃げていれば、俺もこれほど信用はしなかっただろうな。だがお前はそうしなかった。見ず知らずの女達のために命をかけられる奴が、不利となる交渉を黙ってみていられるはずがないと思っている。お前の善意の上に胡坐をかいているんだ。断ってくれても構わないぞ」

 あまりに明け透けな言葉に、私は苦笑してしまった。

 私の考えをある程度読んでいることからも、腹芸が全く出来ないわけではないのだろうが、あえてそれを選択せず真っ直ぐ対応する。

 ありのままを見せる事で私に対する誠意に代え、説得をしてくるなんて……。

 これでは彼の信頼を裏切りにくい。

 元々裏切る気はないが、かかわる事もしないつもりであった。

 その私に出来る事はしなければと思わせるなんて、なかなか侮れない奴だ。

 だから二若(ふたわか)も手を貸していたのだろうか。

 人を利用する事しか考えていない相手に同じ事をすれば、喜んで群がってきそうだ。

 相手によって対応を変えているのだろうが、私にこういった対応をする方が良いと判断されたということではないだろうか。

 私は決して善人などではないが、面映く感じた。

 しばし悩んだ末に、居るだけだと念を押して、堅如の申し出を受ける事にした。

 ―――――

 夕方近くになり、参事官を名乗る者が村へ来た。

 数人の護衛と文官を連れた参事官は、細身で腕が立つようには見えない。

 柔和な笑みを湛えていて、独特の話し方をする者であった。

 訛が強いというのではなく、つい彼の話に耳を傾けてしまう、人の意識を引き付ける話しぶりなのだ。

 詐欺師など交渉ごとに向いているだろう。

 意識しての物か、元々そうなのかは知らないが、面白い技術だ。

 参事官等を迎え入れたのは、村はずれにある堂だ。

 先日まで私が療養していた場所だが、そこが会談場所とされた。

 だだっ広いその場所に、敷物だけ敷いて床に腰掛ける。

 上座に当たる奥は使用せず、左右に村の者と参事官等とに分かれて向かい合った。

 私も村人達の後ろに並んでいる。

「場を設けていただき感謝します。え~、ところで、そちらに顔を隠しておられる人がいるのですが、こういった場において素性を隠すというのは、不適切な事ではないでしょうか」

 私のほうに目を向けて参事官は言った。

 そう、私は包帯で顔の大部分を隠している。

 女であるという事と、同じ顔が二つも並んでいては目立つという事、今後のことを考えて参事官等に顔は覚えられない方が何かと都合が良いといった理由だ。

 ちなみに二若も出席しているが、奴は自力で変装してかなり雰囲気が変わっている。

 私にもしてくれれば良いのだが、変装は演技力も要るから無理だと言い切られてしまったのだ。

「お見苦しい点はお目溢し願いたい。先日の騒ぎで顔に火傷を負っていて包帯を外せない」

「見せていただけますか」

「醜い傷跡を晒せと?」

「怪我をしていると納得できれば構いません」

 それならと、私は左腕の包帯を解いた。

 顔のみならず手足など全身包帯だらけなのだから、怪我をしている部位を見せればそれで誤魔化せるはずだ。

「これで納得いただけるか? 包帯の下は全て傷だらけだが」

 左腕だけでも十分負傷の度合いはわかるはずである。

 腕の傷を見てもごねるようなら、火傷を空気に触れないようにしているのに、悪化させる気なのかと返してやるつもりだ。

 参事官はすんなりと納得した。

「よく判りました。疑い失礼しました」

 解いた包帯を腕に巻きつけながら私は頷いた。

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