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偽りの王  作者: ゆなり
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九十三

 怪我の手当てが終わり身支度を整えると、二若(ふたわか)に背負われて村へ戻った。

 絶妙な揺られ具合に、眠気を誘われて目蓋が自然と落ちていく。

 身体にしこりの様に残る疲労が更に増幅させた。

 まだ用は残っている。眠るわけにはいかない。うつらうつらとしながらも、必死に意識を保たせていた。

 二若に背負われ戻った救護所では、男が一人待ち構えていた。

 私を助けてくれた者の一人だ。

 村人達を率いていた者で、確か堅如(けんじょ)と言ったか。

「怪我は大丈夫か?」

 気楽な様子で問いかけてきた。

 私は気負いなくそれに答えた。

「見た目は酷いが、問題はない」

「問題大有りだろうが」

 私を背負ったままの二若は、すかさず切り替えしてきた。

「酷いのか?」

 堅如は私ではなく、二若へ問うた。

「当面は自力じゃ動けないだろう。……いっておくが、少しくらい大丈夫なんていって動き回られたら、周りが迷惑だ。自重しろよ」

 後半の言葉は私に向けられたものだ。

 思わず肩をすくめた。

 私とて必要がなければ無理などしないというのに、どれくらい信用がないのやら。

「都督は殺さず捕らえておいたが、どうするつもりだったんだ?」

 私と二若のやり取りは無視して、堅如は本題を切り出してきた。

「奴の身柄を交渉材料とするんだ。一つでも手札は多い方がよい。もちろん兵の命も交渉材料に含まれる」

「だから出来るだけ殺さず捕えろって言ったわけか。手当てする薬が勿体無いと反対する者もいたが、そういった理由があるのなら理解はできる。もし村を襲撃された報復に兵を……というのは心情としてあるが、相手からの報復を招くだけで無意味だ。とはいえ、村に残っていた女子供が犠牲になっていたら、村の今後のためと言っても皆が納得はしなかっただろう。そうならずに済んで双葉(ふたば)には感謝している。よく女子供等を逃がしてくれた」

「礼を言われるようなことは何もしていない。人として当たり前の行動だろう?」

「そうかもしれない。それでも、村の代表として礼を言いたいと考えている」

 村の代表として、力を貸した部外者へ礼を述べる。

 よい姿勢だ。

 その方が私としても気楽である。

「参事官を名乗るものより、都督と兵の身柄を引き渡すよう使者が来ている。これも双葉は予想済みか?」

「ここまで行動が早いとは考えていなかったよ」

 堅如の問いに、正直に答えた。

「使者が来ることは予想済みか」

 断定的に堅如は言った。

 確かにそうだ。

 都督がどういう考えで村へきたのか、全てお膳立てしたであろう参事官の思惑がどこにあるのだとしても、この状況ならば兵が押し寄せてはこずに、取引を持ちかけてくる使者がくるだろうと考えていた。

 兵が押し寄せてくる可能性がなぜないのか。

 それはこの村を襲撃したその理由が深く関わっている。

 今ならある程度は都督の考えは想像がついていた。

 仮定などとまどろっこしい事を言う必要がないほどの確信を持っているくらいだ。

 おおかた村が欲しかったといったところだろう。地方政治に組み込みたいといった意味ではなく、この村の財そのものが狙いだったのだ。

 まず現状を把握するには、帝国には開墾法というものがある事を理解しなければならない。

 開墾法の大まかな内容は、新たに田畑を開墾した者へ、一定の期間税を減免するというものだ。他に開墾した土地は開墾者の物になるなど、各種の優遇策があるのだ。

 開墾した広さなどによって減免される税の種類や額は違うし、細かい条件などはあるのだが、その法律を悪用するつもりだろう。

 そして役人は開墾を奨励するよう通達されてもいる。開墾させたという実績が評価点ともなるのだ。

 都督は公に認められていないこの村を手に入れて、開墾者の権利を取り上げ、そして開墾を推進したという手柄を得ようという、一挙両得作戦といったところだろう。

 村人から開墾者の権利を取り上げて、ついでに田畑も取り上げて別の農民に減免権つきで売りつける。これだけしっかりした村を開拓させたと言う手腕も評価されて、非常に美味しい話である。

 私も最初は思惑がわからなかったのだが、村の設備に対して損害を与えようとしていなかった点や、女子供を殺さず捕えようとしていた点から、おそらくそうだろうと見当をつけたのだ。

 荒れ果てた村だけを手に入れても仕方がない。

 開墾した村という評価を得るには、設備類を損傷してはならないし、田畑を耕す人手も要る。

 小作農として、そして人をかき集めてくる間のつなぎとして、村人をある程度以上確保しておかねばならない。

 だから男衆を別の場所にひきつけておいて、その間に女子供を捕え人質にする。脅して村の権利その他を取り上げる、命令を聞かせる、命令を聞かない者はこの村から追い出す。そんなところだ。

 ある程度確保できれば良いのだから、この件で村人の命が幾ら失われようと構わない。何割か、最悪村の人間がいなくなろうと、都督としては村の形が残っていれば、捕えられた軽犯罪者や貧しくて食うに困っている者を強制的に連れてこれば、それで事足りる問題だ。都督はそう考えているに違いない。

 本当はもっと別の目的(この村にいる特定人物を捕えたり、私には判らない何らかの価値がある)なども疑った。裏側にある狙いの浅はかさに比べて策の練り方が巧妙で、深い考えがあるだろうと思ってしまっていた。だが、そんな様子はない。

 都督の狙いとは別に、もう一つ別の思惑があるのではないだろうか。全ては思い違いで、私に判らない何らかの狙いがある可能性も十分あるのだが、今のところ他の可能性が思いつかない。

 現状で最も懸念のあることは、今回の件をお膳立てした者の考えだ。もう一つの思惑があるとしたら、お膳立てした者の手によるはずである。

 幾つかの仮説は立てられるが、どの仮説が正しく、どこまで正確か判然としない。

 仮説一、都督の腰巾着で、都督の考えに賛同している。

 仮説二、都督とは一定の距離をとっていて、都督の作戦に職務の一環として入れ知恵をしていた。

 仮説三、都督をはめるためにこの作戦を主導し、そしてあえて見捨てた。

 仮説が正しいのか、それとも正しくないのか。

 実際がどうであれ、問題には違いあるまい。

 まだ私が元の地位にいたら……そこまで考え、せん無いことと脳裏から追い出した。

 元の地位にいたら、この件にかかわる事などなかった。意味のないことだ。

 そもそも深い入りしないと決めたばかりではないか。

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