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偽りの王  作者: ゆなり
77/122

七十六

 顔に光が差し、閉じた目蓋の上からも眩しさを覚え、意識が揺り動かされた。

 眩しさに煩わしさを感じ、半ば無意識で腕を上げそれを遮る。

 常ならなんとも思わないその行動に、思わぬ痛みが走りまどろみの中にあった意識が急激に覚醒した。

 身じろぐと、体の節々が痛む。

 痛みはあっても動けなくは無いが、無視できるほど小さな痛みでもなかった。

 閉ざされていた目を開き、眩しさに目を細めた。

 ハッキリとしない視界の中、目の前にかざした腕が目に入った。

 腕には真っ白な包帯が巻かれており、これが最初に感じた痛みの原因かと思い至った。

 明るさに目が慣れてくると、周りの様子がわかるようになった。

 街や村にあるような集会所のような場所で、雨風は凌げるがそれだけといった板間の部屋に私は寝かされていた。

 家具らしい家具は無く、床の上にじかに寝具が敷かれ、そこに横たわっているようだ。

 側面すべてが開放可能な引き戸のような造りとなっていて、その内の一箇所だけ僅かに開いて、そこから光が差し込んでいた。

 差し込んでいる光がちょうど私の顔に掛かるようになっていて、それが原因で眩しさを覚えたらしい。

 室内はもとより、部屋の外にも人の気配は無かった。

 さわさわとした木々のせせらぎや、鳥の高い鳴き声が時折聞こえてくるくらいで静まり返っている。

 建物がある事を思えば無人とは思えないから、建物から離れれば人は居るのだろうが、建物すぐ側には人は居そうにない。

 寝具の上で体を起こすと、体の節々が痛みという悲鳴を上げたが、他は何の問題もなく動いた。

 特に背中が痛んだが、これは薄い寝具と固い床のせいで体が強張っているためだろう。

 他はどうなっているのかと全身を検分した。怪我は多かったが、その全てが適切な治療を施されているようだった。

 しかも怪我といっても軽い打ち身擦り傷といった程度で、数は多くて全身に酷い痛みがあるような錯覚を起こさせるが、怪我の規模としては全く大したことはない。

 倦怠感が残っているくらいで毒の影響もほぼ消えている。

 私は自分の状態と周りの様子をそう見て取った。

 一通りの確認が終わり、二若(ふたわか)はどこに居るのかと考えた。

 この場所に運び入れて手当てを施したのは奴であろう。私には見覚えのない場所ではあるが、こうして休んでいられるという事は危険の無い、もしくは危険の少ない所であるという事だ。

 だから姿が見えずとも心配はしていなかったが、アレから一体何があったのか話を聞きたかった。

 このままここで二若(ふたわか)が戻ってくるのを待つか、ここから出て誰かを捕まえて聞くか、どうするべきだろうか。

 私の置かれた状況が分からない上に、外に居る者達に私の存在を知らされていない可能性も考えれば、大人しく待つ方が無難であると理解していたが、外に出てみたいという誘惑は強かった。

 大人しく待つか、外に出て探すか結論が出る前に、思考が中断させられた。

 キシ、ミシという微かに床の軋む音がかなり近い場所から聞こえてきたのだ。

 密やかなその物音は確実にすぐ側まで近づいてきている。問題はその足音がかなり近くで発生するまで、その人物の気配に気付けなかったという事にある。

 どこぞの暗殺者や密偵張りの隠密ぶりに、不審を覚え身構えたのだ。

 隙間が開いている引き戸までやってくると、足音は止まった。

 引き戸の立て付けは良いようにも見えないが、隙間の開いていたその戸は音も無く引きあけられた。

 緊張して見つめる先に、ヒョイと二若(ふたわか)が姿を見せた。

「なんだ、起きていたのか」

 ノホホンとしたその言いように、私は瞬間的にとても腹がたった。

「何だとはなんだ。くたばっていて欲しかったか?」

「何でいきなり不機嫌なんだ? 一人でほったらかしにしておいたのを怒っているのか?」

「私は子供ではない。不愉快な物言いを止めよ」

「はいはい。気分はどうだ?」

「多少だるさは残っているが、吐き気も無く問題はない。……世話をかけたな」

 二若(ふたわか)は私の言葉に肩をすくめた。

「気にするな」

「腹は減っていないか? 体力がかなり落ちているはずだから、食べられそうなら少しでも口にしたほうがいいんだが」

「そんな事よりも、ここがどこで、あれから何があったか、それを聞きたい」

「ここか? ここはまだ帝国領だ。お前が気絶してから、あのまま森の中をうろつき回ってたらやばいと思って、比較的近いこの村に運んだんだ」

「まだ、と言う事は国境近くか。……となると、檜西か聞笥あたりの村か」

 大よその地理などを思い出して尋ねた。

 祖国の町や村の位置関係は全て把握している。自国ではなくとも関係の深い国境近辺ならば、大よそ把握していた。

 どこを歩いていたのか判らないが、方向や進んだ距離なんかや、帝国領内の国境付近という条件もつければ、答えは限られてくる。

 どうだ? と見やれば、二若(ふたわか)は困ったように口を閉ざした。

 なんだと言うのか?

「どっちだ。それともどちらでもないのか。ハッキリしないか」

「まあ、その辺だ」

「その辺? 嫌に濁すんだな。私には言いにくい事情でも……ああ、そういう事か」

 言いかけて気が付いた。

 隣国の”王”には言いにくい事情がある。

 つまり、公には伏せられている村である、と。

 確かに口には出来ないだろう。

 本来ならここによる予定も無かったのではなかろうか。だが、川で私が溺れかけて、治療だとか療養だとか、濡れた衣服を変える必要もあっただろう。どうしようもなくなってこの村に助けを求めた。

 ならば私は聞くべきではない。

「判った。これ以上、私は聞かぬ」

 言えば二若(ふたわか)はホッとしたように笑顔を浮かべた。

「すまん。それよりも腹は減ってないか? 体調がいいなら食事にしようぜ」

 その時クルルルと私の腹が鳴った。

 二若(ふたわか)と顔を見合わせて、苦笑してしまった。

「……そうしよう」

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